第19話『【悲報】リリィさん、深夜にうっかり火遊びをしてしまう……w』



 それは一瞬の出来事であった。

乱入してきたリリィは一瞬でカストロの肩に触れて硬直状態にさせて無力化した。


 数秒間棒立ちになっていたカストロは地面に倒れ伏した。

アルストロメリアはそれを見ても平然としていた。


 リリィは寝間着姿ではなく、学校でみたときと同じで黒を基調としたゴスロリ服を着ていた。


 こうなるだろうと予想は出来ていたが。かなり展開が早い。

そしてやはり自らの手で触れることで、人形を硬直状態に戻すことができるようだった。

この図書室から一歩でも出ていれば俺もカストロのようになっていただろう。



「ルーカス。そいつの首を斬り落としてこっちに渡して。時間をかけたくないの。あなたみたいな雑魚でもそれくらいはできるでしょ? 大人しく言うことを聞けば、あなただけは人間に戻して助けてあげるわ」

 とリリィはルーカスを脅すようにいった。


 ルーカスは怯えた表情をしながらこっちを向いた。両拳を力いっぱい握りしめている。

 そして魔力を解放した。

 

 「リンクス、許してくれ……俺は……」

 と彼は言った。

そのとき彼の少し口角は上に上がり、ニヤけた顔になっていた。

ルーカスはバッとリリィの方に振り返った。


「【原位】朱・天道壱黒点」 


 振り向きざまに突き出した人差し指から、黒いレーザーが疾風の如く一直線に放たれた。


「なッ!?」

リリィはその速さに防御反応すらできず、光線はリリィの顔に直撃すると瞬時に大きな音と共に爆発した。


 顔面が黒い炎に包まれている中、リリィは微動だにしていなかった。


「どうやら貴方も殺されたいようね……」

 と顔を右手で抑えながら言った。

その指と指の隙間から見えた青と赤の瞳が烈火のようにギラついている。

異常な威圧感がこの空間を支配していた。


「抜かせ蛆虫。キサマ如きに殺されるわけないだろう。俺様をだれだと思っている……? ダマンフレール家長男、ルーカス様だ」


 ルーカスはリリィに負けないぐらいの迫力でそう言った。

もはや別人のようだった。

 


「それで正解だ。ルーカス、今のかっこいい技。

あのカスにもう一発食らわしてやれ。そっから逃げるぞ」


 ルーカスがもう一度黒き光線を放ち、それが開戦の合図となった。




 *

 ルーカスはすぐに俺を背に担ぐと、魔力を煌めかせながらもの凄い勢いで図書室から抜け出した。


 今、俺とルーカスは廊下を疾走していた。


「現在地は二階。俺たちが今向かうべき場所は、図書室とはかなり距離がある大広間へと繋がる螺旋階段。そこから一階へ駆け下りて、玄関へと行き脱出する。この廊下を右左右左で進んでいけば、螺旋階段だ!」


「言いたいことがある!お前の推理力すごいな」


「えぇ?いやあんなのただの当てずっぽうだよ。数うちゃ当たる戦法で話してただけで、五割六割合ってたら良いところだ。

もはや最後なんか俺とルクアの能力を奪おうとしてるとか適当抜かしてただけだし、あいつが自分の発言を忘れてなかったらそのまま論破されてたからね。人を騙すという点において俺が一枚上手だっただけで……まあようはそれっぽく話すというのが重要なんだよ。名推理というよりは名演技に近い。現に疑問点が4つ5つ以上ありそうだと錯覚させたからね」


「ということは3つで終わりだったというのか!?」

 

 正確に言えば、後1つはあった。


「うん。あっうそだろ。やばいきた!!後ろから鳳凰みたいな奴がきた!!しかも早ぇ!」


 俺は後ろを確認していると、とんでもない生物が追跡してきているのをみてそう叫んだ。



 ッギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!


 実に喧しく甲高い鳥の声が廊下内にうざいぐらい轟いた。



 なんと鳳凰が、虹色に輝く美麗な翼を大きく羽ばたかせて廊下を波状飛行していたのだ。


 そして俺が気付いたのと同時に、灼熱の焔が正に鱗粉の如く弾幕状に飛ばされ、それが俺のすぐ後ろまで飛来してきた。


 それはチリチリと髪の毛が焦げていると思うぐらいギリギリの近さまで飛んできている。



 てか今、俺の顔面の真横をちょっとかすって行ったような……。


 

「あっちぃ!!とけるとけるとける!!! ちょっ、追いつかれる!」


「黙れ黙れ!!頼む黙ってくれ!耳元で叫ぶんじゃない!」


 ヒュンヒュン飛んでくる黄金の羽根に俺が悲鳴を上げると、ルーカスも半ば泣きながら叫んだ。



 ルーカスには背中に俺を背負いながら、廊下を必至に走り抜けるという高度なことをして貰っているが仕方ない。怖いのだ。


 彼は魔力を駆使して結構なスピードで走ってくれている。

だが鳳凰が射出してくる炎の羽根が異常に速いのだ。

それを躱す度に減速してしまっている。


 やべえな、徐々に距離を詰められて来た!


 二、三十メートルぐらいは離れていたのに、もう十メートル以上差を縮められた。同時に、ここからでも鳳凰の色彩鮮やかな図体がよく見えるようになった。


 鶏のような顔面、黄金のクチバシに、蒼い眼光。


 あの糞鳥は依然として光輝きながら通路を滑空していて、飛んで向かってくるだけで大変なストレスになるのだが……中でも一際激しく存在感を放つのは、九本もある翡翠色の尾羽だった。


 特徴的な尾羽は大蛇のように長く、孔雀の扇に広げられ、一本一本が生命力というものに満ちていた。


 翡翠の尾羽が、黄金の光を強めていくから多分攻撃してくる前の動作だということを予期した。


 そして、その剣の先のような尾羽の先を飛ばしてきた。



 「ッ!? なんかヤバいのが来たぞ!」



 俺たちの進行方向の先に、突き刺さった黄金の尾羽が勢いよく燃えだして、それが燃ゆる金の壁になった。

一本しかない退路を塞がれた。


「もう駄目だ。おしまいだぁ」

とルーカスが呟いた。


「前の障害は俺がどうにかするから、何も考えず走れ!!!!」



 あの炎の壁を全て消し飛ばす程の『時間加速』は今出すと後の困難に響く。

 


「はぁッッ!」


 時間加速によって強化された掌底で押し出された空気の大砲が、炎の壁を僅かに俺たちが通れるぐらいにまで押し広げて穴をあけた。


 だが、そんな穴は通り抜ける時間も無くすぐに閉じてしまうだろう。



『時間減速』


 だからすかさず、開いた炎の空洞が閉じてしまわないように数秒間だけ固定した。



「あちぃ!!!!!」


 なんだかんだ言いながら、サーカスで炎の輪をくぐり抜けるライオンのように、なんとかその炎の壁は突破することができた。


 そしてかなりのスピードで廊下を駆け抜けていたから、目的地が見えてきた。


「あった!あそこが、屋敷の大広間まで通じる螺旋階段だ!!!」


 そして螺旋階段まで到着したが俺は絶望的なことに気付いた。

下からざわざわとした人間の声と足音が近付いてきていたのだ。


「だめだ!!騒ぎに気付いたメイド達が下の階から上がってこようとしてる! 三階へいくんだ!!」

 

 と俺はルーカスの耳元で叫んだ。


「うるさい黙れ!!!!」 



 そのまま素早くルーカスは階段をぐるぐると駆け上がって、中間の踊り場を右に回った。

少し下の方で、やはり鳳凰は炎を花火のように撒きちらしながらしつこく追いかけてきている音がした。


「上がっていって大丈夫なのか!?」

 ルーカスは叫んだ。


「大丈夫だ!三階には災害時の非常出口があると言っていた」


 アルストロメリアから屋敷の内部構造を詳しく聞いておいてよかった。



 ―――――そして、鳳凰に追われながら三階の廊下も駆けていった。


 だが、なぜかある程度まで進んだ所で、鳳凰の追跡がなくなったことに違和感を覚えた。



 そして何事もなく非常出口がある場所へと、辿りついて俺たちは言葉を失った。


 リリィが扉の前で待ち伏せしていたからだ。

奴は余裕しゃくしゃくといったような態度で、ただただ俺たちをみていた。



「くそ!!リンクス!引き返すぞ!!またルートを教えてくれ!」


「あ、あぁ!」


 そう返事をした時だった。



「あら、またどこかに逃げるの? 次この屋敷に来たときにはルクアちゃんは能力を取られて二度と起きなくなっちゃうかもしれないけどね」


 リリィは俺を煽るように言った。

俺は一瞬、心臓が跳ねたような気がした。

 


「………ルーカス、わるいが俺を下ろしてくれ」

 ルーカスに言った。

自分でも良く分からないような歪な感情がひしめき合っていた。


 俺の心情の些細な変化に気付いたルーカスは、すぐに下ろしてくれた。



 リリィが言った言葉の真偽は、今、確認している暇はない。

俺に向けてその言葉を発したという事実だけが重要なのだ。



 俺は自分の錆びた両膝と腰だけに1000倍速の時間加速をかけた。

そして立ちあがった。錆びた金属骨格は異常なほどの金属音を響かせている。恐らく、この歩けるという状況は1分も持たないだろう。時間が経てば間接部分は粉々になる。


「てめぇ………冗談でも俺を怒らせたらどうなるか。今教えてやるよ。……一発だけだ」


 昔、兄貴に自分のことを馬鹿にした奴は一発ぶん殴ってから、友達になれと言われた。そして、自分の家族を馬鹿にしたり危険にさらすようなことをした奴は……。


「おいやめろリンクス!罠だ!ただの煽りだ!」



 無いはずの心臓がドクドクと脈打って、静かな怒りと共に精神が高揚しているような感覚がした。


 


 俺はそのまま歩いて、リリィとの距離を詰めた。


「まさか、リリィに勝てるとでも思ってるの?」



 少女の挑発の言葉には最早何も言わなかった。

そのまま互いの距離が縮まって、一触即発になった。


 この距離まで接近したのは、前に敗北してから二度目だ。



 瞬間、俺の身体はとてつもない衝撃と共に宙に舞った。


 俺のいた地面から鳳凰が飛び出してきたのだ。

二階から三階まで床を破壊してきた衝撃で俺は宙に吹き飛ばされたのだ。真下にはリリィがみえた。

だがそんなものは関係ない。


「ルーカス!!この鳥の処理は任せた!」



「はぁ?!」



 そして鳳凰が下から突き上げてきたのを、身体を捻らせてかわした。熱風が通っていったように感じた。



「何をしても無駄よ。あなたが私に触れた瞬間、すぐに意識の無いただの人形にして粉々にしてあげるから!!!」


 俺の落下に合わせるようにリリィは、青龍刀を虚空から出して構えた。

串刺しにでもするつもりだろう。

 

 俺は落下しつづけて距離が縮まり、ついにリリィが青龍刀を俺に向けて薙ぎ払った。

銀色の刃が視界にちらついた。


 今ならあの技が使えそうだ。

 

 

「……射程距離内だ」


 ――――『時間停止』。


 俺を中心にリリィを巻き込んで半径約2メートルの空間が時間停止した。

この停止時間は人間が瞬きをするような、儚い一瞬のものであると理解していた。だがそれでいい。

 

「墜ちろ!!!!!!!」

 

 俺は落下速度を利用して奴の無防備な右肩に、全力のかかと落としを喰らわせた。静止時間は凡そ0.5秒だった。

 

 時が動き出す。

 

 リリィはドガンと大きな音と衝撃波と共に床を突き破り、隕石のような速さで二階一階まで落ちて行った。ズズン……という衝突音が下の階から轟いた。


 

 ――――ッギィイイイイイイイイイイイイ!!

 上をみると、鳳凰が俺を食い殺そうとして長いクチバシを開けながら突っ込んできていた。



「【遊位】朱・天道修羅太陽柱


 そう聞こえたのと同時に、鳳凰は白い極大な光線に飲込まれて、実にやかましい鳴き声と、炎や羽をまき散らして消滅していった。


 *


 俺は床に落ちる前にルーカスに受け止められた。


「今の魔術すげえな。

奴の肩は確実に砕いた。だが浅い。……すぐにここまでくる。

そしていい感じに非常出口の前はガラ空きになったし出よう」

 と俺は床に空いた大きな穴を見ながらそういった。


「こっちも今のでほとんど魔力を使い切った。なんてことしてくれたんだと思ったが、妙に良い気分だ」



 ――――そして、俺達は扉をぶちやぶって外へ出た。

まだ外は暗く、不気味な庭園が広がっていた。


 ルーカスはまだ残っている魔力をつかいながら、非常階段を無視して飛び降りて、庭園の中を猛スピードで走った。


 この屋敷の敷地外へと繋がる門がみえた。


 これでようやく抜け出すことができると俺たちは思った。


 あともうすぐで門に辿りつくというときにルーカスが足をつまづかせて転んだ。

二人とも固い地面を転がった。



 どうしたルーカス!!俺はそう言おうとした。

だが、言えなかった。口が動かないのだ。

 

 なんで俺の身体もうごかない!!声もだせない!

まさか!!!!



「なんだぁ~この人形は、こんなところにゴミなんか落ちてたか?」


 門番がいたのだ。人間にみられると、動けなくなってしまう!!!


 やばい!!!まじでやばい!!!!!!!

あともう一歩だったのにこんなところで終ってしまう!!!!!!


 そして門番が俺たちを拾い上げようとしたときだった。


「ゴゴギガグウウウウウ!!!!ゲゲガギゴグゴオオオオ!!

(りんくすううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!助けに来たぞぞおおおおおおおおおおおおお)」


 ゴブリンの声が俺たちの所へ段々近付いてきたのだ。


 この声は!!ゲゲイン君!!!!!


「ひぃっ!ゴブリンだぁ!」


 そう言って門番は逃げていった。



「うっ動けるぞ! なぜここにゴブリンがいる! ゴブリンに見られても硬直しないのか!?」

 ルーカス君は状況が読み込めていないようで困惑している。


「グググガベビボグガギギ!!!

(やっぱりちっさくなって変な服着てるけどお前リンクスだな!!)」


「ゲゲイン君!!!!どうしてここに!」


「ググガベビボグガギギギグゴガ~~~~~

(お前とルクアがいなくなってから臭いを辿ってたらここに辿りついたんんだ。事が起きるまでは、ここの庭園内で身を潜めていた。それで物騒な物音と火事が起きたから突入しようとしてたらお前等が飛び出しきたのをみた)」


 有能過ぎるだろ。


 そして俺は細かい説明を省いて、ゲゲイン君にとりあえず二人を担いで逃げてくれとだけ言った。




 俺たち三人は庭園を抜けて、ついにリリィがいる土地から離れることに成功した。朝日が昇り、光が差し込みつつある街へと駆けていった。


 この日、街では、一匹のゴブリンが人形二人を抱えて走り回っていたという噂が流れたらしい。



【後書き】



お気づきになった方がいるかもしれないのですが、ルーカスくんの魔術は血統魔術なので少し特殊です!

出が早く質が高い魔術です! 

ついでに魔術を出すときに「〜〜魔術〜〜〜」という必要がありません!m(_ _)m

この設定をいつ出すかどうかは決まっていないので今のうちに出しておこうと思います!

!!!!

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