第4話『ケセラセラ』
教員室から解放されて、俺はやっと教室に戻った。
魔術教師達が俺を見る目が結構きつかった。
二限【魔術応用論】は騒動のせいで潰れて、三限目の休み時間だ。
教室の端で取り巻きとたむろしていたルーカスが俺の入室に気付くや否や、俺を睨み付けた。
どうしてそんな目で睨むんだい?もう友達じゃないか。
「リンクス君、何してたの?」
すると、ルクアが真っ先に俺に飛びついてきた。
ルクアを見た瞬間ルーカス君は青ざめて顔を背けた。
おいおいおいおい。普通に教室入ってきただけで美少女が駆け寄ってくるとか、俺はこの後戦場に行って死ぬのか。
「先生とちょっと階段の事でお話をしただけで、何でも無かったよ」
「良かった。……私ね、リンクス君にあんな傷をつけた学校が許せなくて、校舎を建築した人間も、それを見て見ぬふりをしてきた学園関係者も全員殺そうかなって思ってたの」
相変わらず怖いこと言ってくれるなぁ。入院レベルの大怪我したなら分かるけど、ただちょっとした打ち身が出来ただけなのに。
「うーーん。気持ちは嬉しいけどそれはちょっとやりすぎじゃないかなルクアちゃん。アレは僕が考え事をしていて、ちょいと足を踏み外してしまっただけだよ」
「そうなんだ……。でもリンクス君まだ痛そう……私がすぐに治してあげるね」
「ん?」
治す?治すって言ったか今。
ルクアは治療系のスキルとか能力も無かった筈だが。
ルクアの
キキョウのような鮮やかな紫色の髪が黒に染められそうな程の勢いだ。
そのまま十秒間ぐらいかなり集中していた。
「【乙位】天元身体修復魔術 天上世界 《
と言うと、宙に、天使の羽から作られたかのような白の
人の手では作り出せないであろう、実にきめ細かで緻密な文様が浮き出て、この世に存在していること自体が幻に見えた。
それをルクアは天女のように、さも当然かのように手に取って、一口口に含んだ。
そして両腕で俺を引き寄せると、優しく
数秒、その状態が続いた。味は甘かった。
「え、……ぇえ?」
ルクアの唇が離れて解放されたとき、衝撃的すぎて俺から変な声が出た。
液体が喉を通り過ぎた時、癒やしの波動のようなものが身体の中を駆け巡ったのだ。
所々にあった痛みも消えて、ついでに両眼も潤って眠気が吹っ飛び、体の調子も凄く良くなった気がする。
見ていた周りの生徒が「最上級魔術……!?」とか言って、ワンピースのモブキャラ並に驚いている。
ごめん、俺魔術に関して全然詳しくないからその驚きは二割ぐらいしか伝わらないわ。
そんな事よりここで俺のファーストキスが奪われるとは思ってなかった。
「……ルクアちゃん何これ。僕に何したの」
俺は余韻を振り払って、
「何って、魔術だよ」
未だに夢から覚めないような火照りを残して、乙女らしからぬ
ちょっと待って、尊い……。
じゃなくて反応に困る。一体どうしたらいいんだ俺は。
そして自然に俺は、アレが大きくなってしまったのを隠すために、若干前屈みにならなくてはいけなくなった。童貞にはこの一発は大きすぎる。
「うん……。うん、それはわかるけど………まあ、ありがとうルクアちゃん」
色々と……。
「いつのまにかなんか凄い魔術が使えるようになったんだね。僕は一つも使えないよ。ていうかまだ魔術使う練習すらさせて貰ってないのに」
「読んでたら魔術は大体分かったけど……」
…ルクアには全てお見通しか。敵わないよ、お前には…。
そういや、ルクアは一限目の先生の授業中、授業を全く聞かずに魔術書だけを熱心に見ていたな。本を読むだけで分かるなら、もう学校来る意味なくないか。まあ学校に来た目的の一つに、ルクアに集団生活をしてほしかったという理由があるが……。
「そんなことよりルクアちゃんもうすぐ三限目が始まるよ。そろそろ席に座って用意した方がいいんじゃない」
五分ぐらい前だが、とりあえず座りたくてそう言ってみた。
「そうだねっ」
ルクアは凄い機嫌が良さそうに返事をして、今にも鼻歌を歌いそうな感じで自分の席に戻っていった。
俺も次の時間からは頑張ろうと思って、早めに席に着いておくことにした。ふとゲゲインくんがいる席をみた。
ゲゲインくんはもう、席に座っていて、机には聖書を開いてやるき満々のようだ。偉い。
………彼も頑張ればさっきの魔術を使えるようになるのだろうか?
出来ればあの魔術は男には覚えて欲しくないものだ。
*
後一分ほどで次の授業【国教】が始まろうとしていた。
「なんかお前が階段ぶっこわしたとかですげえ話題になってんな」
用意をしていると、前に座っていたフランクと名乗る男の子がいきなり振り向いて話しかけてきた。
……俺じゃない。でも実際そう思われても仕方ない。
見物人は俺と、ルーカス君とその取り巻き三人しかいない。彼らはもう完全にルクアに萎縮してしまってるから、誰がやったのかと聞かれたら俺というしかなくなる。だが俺と言ってしまえばルクアに殺されるのをきちんと理解している。
彼らは先生に何を聞かれても沈黙を選んだのだ。
そして俺もルクアが退学くらうのはごめんだから、ルクアがあの場にいたこと自体無かったことにした。
極めつけには俺が先生に挑発的な受け答えをしたので、周囲に黒は俺だと思われている。
「いや、あれはいきなり消えちゃったんだよ。怖いよね」
「かくさなくてもいいんだって。なっ!俺にだけ教えてくれよ~どうやってぶっこわしたんだ?魔術が使われた痕跡も無かったらしいぜ」
「まじで違うからね」
「ふーん、じゃあリンクスってルクアって女の子と付き合ってんの?めっちゃ仲良くね」
「ルクアは家族だよ」
一緒に住んでるし、嘘は言っていない。
「嘘だろ!あんな可愛い子と一緒に住んでるとか良いなぁ。たしか村から来たって言ってたけどどこからきたんだ?」
「ん?あぁ、村の名前はね――――――――――」
キーンコーンカーンコーン。
三限目【国教】 おじいさんの先生。
宗教っぽい服を着た老人の先生が何やら色々話し始めた。
……なんかやっぱり良く分からないし寝るか。
歳いってる先生だし、多分大丈夫だろう。
「おい。君だ君。寝ているということは、そんなにこの授業が退屈ということかね。スゥルターヌ教は我が国が古来から信仰してきた宗教であるぞ。
いますぐに立ちなさい」
大声を上げて俺に説教をしようとしてきた。
ちっ、寝てるのがばれたか。
「いやぁ、僕は宗教とかには興味はありません。神の奇跡やら試練やら、なんか胡散臭いですよね。百年に一度、異世界から神の使いが来るってところが特におかしいです。そんな創作話を聞いてると眠くなるのは必然の理」
「なんだと貴様ッ!!」
四限目 『世界史』 女教師
「ではリンクス君。隣国のトワイニング帝国の88代皇帝の名前を言ってみなさい」
「そんな人分からないし。この世界の歴史にも隣国にも興味ないです」
「消えなさい」
五限目 『魔術訓練』 モーガン先生。
「リンクス君。初級魔術、【原】の火炎魔術を行使してくれ」
「授業聞いてもよくわからなかったんで、魔術とか使えません。あ、魔力の解放ならできますよ」
「は?」
六限目『現代文』 ババア
「そこの列の一番後ろに座ってる人。ジェイクスビアは、傑作ガムレットを書いたが、時代背景と意義を答えよ」
「お腹痛いんで保健室いってもいいですか?頭痛と吐き気もするし、多分熱も37度越えてる気がします」
「病気ですか?」
ようやく一日の全ての授業が終った。今日結構疲れたな。
6限目が終ったらやりきったという感じがして実に気持ちが良い。
さあて今日の晩ご飯は何かな。
「リンクスお前試験の時とかどうすんの。このままだとやばいんじゃね」
「ハハッ、だいじょうぶだいじょうぶ」
まあ、なんとかなるだろう。
結局死んだけど。
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