第3話『優しい拳』

 それからというもの、一旦自分の席に戻され、魔術に対しての授業やら、この国に対する歴史の授業などが進行し始めた。そして段々俺は、良く分からなくなって、眠くなってきて……。


キーンコーンカーンコーン。


 その音を聞いて、俺はあくびをかいて起きた。

よかった。授業が終った終った。


 日光がいい感じに当たって、気持ちよくなって、窓から吹くそよ風もいい感じだったので寝ていたようだ。よくわからん授業は寝るに限る。なんかやばくなってきたらルクアに教えてもらおう。


 今日は久しぶりに早起きしてきたから、気持ちよく寝ることが出来た。

若干の尿意を感じる。


 ルクアがよってきて休み時間全てを拘束される前に、先にトイレへ行こうと思った。俺は廊下へ出て、トイレがある場所へと向かった。


 *

 目の前の小便器からジャァアアアと水が流れ出て黄色いものが消えて行った。

「ふう……」

 やっぱ寝起きの小便は気持ち良い。一時間授業をやりおえたという気がするのだ。


「さあ、ルクアもゲゲイン君もまってるし戻るかぁ」


 と俺は男子トイレから廊下へ出て、思わず独り言が飛び出た。



「おいお前、止まれ」

 後ろから俺を呼び止める男子の声がした。


「ん、どうしましたか。ちゃんと手は洗いましたよ」


 洗ってない。


 振り返って声の主を確かめると。呼び止めた奴は一人じゃなく、四人組だった。そして声の人物はその四人組グループの中心人物のようで、どこかでみたことがあるような顔だった。ずっと両腕を組んでいて偉そうだった。


 赤色の強そうな髪に茶色い瞳のイケメン……。


 ……だれだろう。


「すいません。多分君とは友達ではないです」

 俺は多分人違いだと思ってそういった。


「やっぱりこいつ転校してきた平民のリンクスとかいうやつだ。同じ目線で話すとは、侯爵の息子であるこのルーカス様に向かって無礼だな。跪け」



 なんだ同じクラスにいた人間か。だからなんか見たことあるなと思ったんだ。つまりルーカス君は俺の顔と名前覚えてくれていたのか。


 俺は嬉しくなって、ため息をついた。



「うるせぇ、友達になろう!」

 俺はそう怒鳴りながらルーカスの右頬を拳でぶちぬいた。


 同い年の人間に跪けといった罪は大きいのだ。


「いたっ……え、え……痛く、ない……?」


 俺の拳は世界で一番優しいのだから当たり前だ。


「友達になろう!」


 俺はにかっと笑って言った。

頬を抑えながら床に膝と片手をつくルーカス君に、手を差し伸べた。


「こっ、こいつを殺せえええええええええええええええ!!!」



 怒っている?まさか……な。そんなはずがない。友達同士がよくいいあうような、一種のじゃれあいのようなものだ。

俺が前に冒険者やってたときに、超陽キャっていうか輩に半分足を突っ込んでる兄貴が教えてくれたんだ。悪口を言うやつには一発ぶんなぐってから、手を差し伸べてダチになれ、と。俺も前に何度も兄貴に殴られたから身にしみている。



「「やるぞ!!!」」


 周りの取り巻き三人が俺に殴りかかろうとしてきた。



「待て」

 俺はドスを効かせた声で制止した。



「俺のレベルは1だ。体力も1。今お前達に殴られたらたちまち死んでしまうだろう」

 俺は彼らの手を止めるために衝撃の告白をした。

 どよめきが起こる。


「ふん。そんなハッタリ通じるわけ無いだろう……この歳でレベルが1の奴なんて、ましてや体力も1の奴なんて存在するわけがない!」



 いるんだよなぁ、それが……。俺は見せつけるようにステータスを見せた。



「な、……なっ、そんな馬鹿な。あり得るはずが無い、細工したな!ステータスの情報をいじったりできる何かのスキルをもってるだろ!」


 ステータスを晒すということは自分の恥部を見せびらかすことと同様。

俺が堂々とステータスオープンと言ってみせたから、ルーカスは驚いたのだ。



「ふっ……さあな、俺を殺す覚悟があるやつだけかかってこい!!!」



 その後、普通にボコボコにされた。流石に貴族の顔面殴るのはまずかったのだと俺は反省した。


「よし。そのへんにしておけ。ほんとうに死んだら叶わんからな」


 ルーカス君は腕を組みながら取り巻きに向かってそう言った。


 俺はと言えば、まじで殴られたら死んでしまうから『時間操作』で自分の身体の時の流れを速くして、ダメージを最小限に抑えていた。

それでも殴られた跡がのこって痛かった。親父にも殴られたこと無かったのに。



「リンクス君!??その傷どうしたのッ!!」


 ルクアが血相を変えて、俺に駆け寄ってきた。

なんでいるんだ。なんでわかった。



「ここの階段で転んで落ちて怪我したんだって、ナア?」

 ルーカス君がちょうどそこにあった四階への上り階段を指で指してそういった。


 あ、それはやべえ。あかんわ。やらかした。

ルーカスはルクアの危険性をわかってない。思考回路を甘く見ている!



「へー……リンクス君、階段で転んだんだ………」


 ルクアのその声を聞いて、俺の顔から波が引いていくように血の気が無くなった。


「ま、まつんだルクアちゃん」


 俺は立ち上がって何とかルクアを言い聞かせようとした。


 馬鹿野郎。この学校から階段が一つ消えるぞ。


 そうルーカス君に説教したかったがもう遅かった。


 ルクアの身体から紫電がビリッとほとばしった瞬間、闇色の波がそこにあった階段に向けて放たれた。洪水のようなナニカが全てを圧縮し、消し潰してしまったかのように虚に消えた。


「リンクス君を傷つける階段なんてもういらないよね」

 ルクアは闇色の花が咲いたかのように笑った。

周りにいた連中は、ルーカスも含めて腰を抜かして子供らしく怯えていた。声も出ないようだ。結果は知っていたが俺も彼らと同じだ。口を開けて見るしかない。



「………あぁ、ありがとうルクアちゃん助かったよ。階段がなくなって僕も嬉しい」


 流石に初手殴打は俺が悪かったし、これでチャラだぞ、ルーカスくん。

俺は腰が抜けて立ち上がれないルーカス君に手を差し伸べて、起き上がらせてあげた。



 その後、消えた登り階段の事で騒動になり、俺だけ教員室の一室によびだされてモーガン先生に問い詰められていた。


「いや、ほんと、なんか突然消えたんですよ。階段が。不思議ですよねぇ。僕もあれ~って思ってたんですけど、本当にいきなり消えちゃって、もう驚くしか無いですよね。びっくり。あの時、他の男の子が四人ぐらいいたけど、みんな唖然としてましたよ。多分学校七不思議とかのアレじゃ無いですかね。この学校であるのかどうか知らないですけど」


「じゃあお前のその打撲痕はなんだ」


「トイレのタイルってなんかすべすべしてて、転ぶじゃ無いですか。

なんか落ちてた石けん踏んだらころんでいっぱい打ったんですよ。ホラ、僕ステータス1しかありませんし。僕が壊したと思ってるならお門違いですよ。筋力1でスキルとか魔術とかも使えないので。こんな身体じゃ毎日生きるのですら精一杯だというのに…………何か証拠あるんですか?」


「………お前もやはりあの男の息子だということか。いいぞ、正面から戦いにのってやろう!この学校で次何か問題起こしてお前がやったという証拠が残っていたのならば。私が絶対に退学させてやる。学園長もその意向だ」

 モーガン先生は机をバンと大きな音を立てて叩き、宣言した。


 あ、やばい。どうせやったのは俺じゃ無いからと調子にのってちょっと煽りすぎた。


 結構熱くなる先生なんだな。目がガチだった。

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