第2話『ファンタジーが出来そう』
俺たちの教室【特別教室Ⅰ】は一号館三階、階段を上って左の方向へ突き当たりまで進むとあった。道中、俺が謎の美少女にぶつかってから、ルクアはずっと手を握っていた。さあ、教室に入るぞといっても握っていた。
握られた手を離そうとは思わなかった。俺の筋力1の力じゃどうせ離れないだろうから。変に抗うと俺の手が無くなる可能性がある。
俺たちが入ってきたとき、集団の空気にざわめきが起きて、困惑の感情が広がっているのが分かった。
小声であの女の子めちゃくちゃ可愛いだとか、ゴブリンやばいとか聞こえる。
教室の中は至って普通だった。よくある前の世界のような教室の造りである。懐かしい。前は不登校だったけど。
見た感じ、ざっと人数が25人ぐらいのクラスだ。
生徒達は、黒の軍服のような、金色が縁取った制服に、黒のローブ着ている。
女六割男四割といった所か。
あ、さっきぶつかったゴスロリ女の子もいる。
俺は少し嬉しい気持ちがあったので、ルクアの顔を見るのが怖かった。
「おはようございます。私はモーガンだ」
と、教壇に立つ担任らしき男が挨拶をしてきた。
三十代後半、もしくは四十の年齢でベテラン臭が漂っている。
「今日から新しくこのクラスのメンバーの一員になる、リンクス君と、ルクアちゃんと、ゲゲインくんだ。それじゃあ三人とも自己紹介してくれ」
とりあえず俺だけ教壇の前に立って挨拶することにした。
「僕は辺境の村からやってきました。リンクスといいます。13歳です。趣味は……趣味は、………ありません。夢と目標は勇者になることです。これからよろしくお願いします」
「自己紹介?どうして私がこいつらにしなきゃいけないの?」
「オデ ゲゲイン ゴブリン」
と何故か他の2人も同時にしゃべったせいで何かおかしくなった。
ルクアに関しては可愛かったから許すけど、ゲゲイン君はなんで今日に限って拙い言葉を言うんだ。自己紹介から逃げたのか、お前は外国に行った時のお笑い芸人か。もはやゴブリン語で言ってくれたら俺が翻訳したのに。
ホラ、すぐに空気がざわついて「ゆ、勇者って何?」とか、「ゴブリン怖い」だとか、「ルクアって人やばくね」とか色々聞こえてきた。
この感じ、若干自己紹介ミスったっぽいな。まあ、いいか、いいや。なんとかなるだろう。
……しかしやっぱり気になる。一人だけ明らかに服とか色々おかしいゴスロリ女の子。この学校の制服が普通なのかと言われたら、全然普通じゃないのだが。
それによくみたら目が赤と青のオッドアイ。不良か。そんなカラーコンタクト付けてきて本当に大丈夫なのかマジで。
それが許されるのなら俺も写輪眼的なカラコンを目に付けていきたい。サスケポジションになりたいのだ。
「えー……自己紹介は、終ったようなので。早速今日の授業初めて行きたいと思う。三人は空いてる席に座ってくれれば良い」
空いてる席か。俺は教室を見渡した。
全部で席は二十八個あり、五列目まであった。
空いている席は……二列目の一番前に一つ、三列目一番後ろに一つ、一列目の二番目に一つ。
これ三人共ばらばらになるのか。
「ゲゲイン君は一番前の席でも大丈夫だよね」
「ゲベ!」
ごめんな、ゲゲイン君。俺は一番前は嫌なんだ。
そして俺は授業中寝てもばれない一番後ろの席を選ぶぞ。
「じゃあルクアちゃんはあそこの二番目の席でいいかな」
「うん」
とルクアは普通に返事をした。
あれ。良いのかルクア。
てっきり俺と一緒がいいとか言い出して、何か良からぬ事が起きるかなと思ったけど…………よくよく考えたらルクアこういう集団のときは普通だったな。後が怖かったりおかしいだけで。いや、でも自己紹介拒否ってたし、どっちなんだ。分からなくなってきた。
そして、俺は三列目の一番後ろの席に座り、ゲゲイン君は二列目の一番前の席、ルクアは一列目の二番目の席に座った。
かなり周りからの視線を感じる。それでも見られている数で言えば、俺よりは圧倒的にルクアやゲゲイン君のほうが多い。あの二人は様々な意味で注目を浴びやすいからだ。
ゴスロリの子とかルクアの近くの席に行きたかった……。
「君たち魔術未経験者だっけ?」
不意に先生がたずねた。
「あ、はい」
「あぁ、そうなの。じゃあ今から基礎的なことだけ教えようか。この時間他の人は魔導書第四章の210頁開いて自習しといてくれ。
ちょっと、三人は後ろのスペースに来て」
と先生は、教室の奥の余剰スペースに移動して言った。
「すでに知ってると思うけど、ここは小中高一貫の学園だ。つまり他の子はもう六年以上魔術やっててね……だから真剣に真面目に取り組んでくれよ」
そしてモーガン先生は俺の事を強く見た。
そして俺だけに聞こえるように小声で話しかけてきた。
「リンクス君、本当に頼むぞ。君の親父は授業最中もほとんど勉強せず、妙な本を持ち歩いては、問題ばかり起こしていたんだ。あの時のことは良く覚えている、私も若かったから」
まじで親父ここで何やらかしてんだ。妙な本って『攻略本』のことか?
今日もってきてなくてよかった。アレ重いんだわ。
ルクアとゲゲイン君は何を話しているんだろうといった様子で俺を見ていた。
「ふふ、学園長にも同じようなことを言われたような気がしますが、大丈夫ですよ」
「そうか。それならいい。じゃあ今から基礎的なことを教えていくぞ」
とモーガン先生が言うと、身体から紫色の靄のようなものが出始めた。
ママがやってたやつと似ている。同じなのか。
「今私がやっているのは、これは魔力を解放している状態だ。もし知り合いに魔術を習得している者がいたのなら、一度目にしたこともあるだろう。
ステータスにある精神を消費すると魔力として身体の中に蓄えることができる。勿論ソレもステータス上に魔力として数値化されて加算される。消費するとその分だけ数値が減る」
「あれ。魔力なんて僕のステータスにはないですよ。ルクアにも」
そこで俺は疑問に思ったことを聞いた。
「そうだ。今の状態ならば【魔力】という表示はない。だから私がいまから君たちに魔力の継承と解放を行う。それが済んだらステータス上に【魔力】が表示されるはずだ」
そして先生が始めるぞ。と言うと俺の頭の上に手をのせた。
頭から、何か奇妙なものが流し込まれていくような気分がした。
熱いと思えば熱いし、冷たいと思えば冷たい変な水を注入されているようだ。
十秒ほどそれが続いたとき、いきなりブワッと来た。
「おっ、おおぉ!」
なんか弱々しい蒸気みたいなのが、若干染み出てきた。
コレが魔力か!!!
「これでリンクス君の継承と解放は終わりだ。今勝手に出てるそれが君の魔力だ」
俺は追加されてるかどうか気になって早速ステータスをみてみた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
田中祐介 年齢13歳
【レベル】1
【体力】1
【筋力】1
【知能】16
【精神】20
【魔力】60
【コミュニケーション力】289
能力 《時間操作》
スキル 《ゴブリン語》
称号 《虚言癖》《大嘘つき》《ゴブリンの親友》《伝説の
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
60!多いのか少ないのかわからんけどステータスに魔力が追加されて嬉しい気持ちになった。
気付けばルクアとゲゲイン君も先生によって継承と解放の作業が始まっていた。
ゲゲイン君は俺と同じようにはしゃいでいたが、ルクアは頭に触れられるのが嫌だったようで、一切表情を変えないまま突っ立っていた。
「………」
ルクアの身体から、黒に近い色といってもいいほどの濃い魔力があふれ出ていた。床にまでそれが、ドライアイスの霧が地面を伝わっていくように流れでていて怖かった。
先生も若干引いている。
ルクアとゲゲイン君の魔力の数値が気になるが今は無理そうだ。
「魔力の解放とは、魔力を引き出して身体に服を着るように纏うことだ。
そして解放しただけでは魔力は消費されない。魔術を行使することによってようやく消費に至る。そしてもう一つの重要な事がある。魔力を身に纏っている際、その量次第では自身の攻撃力や防御力が格段に増すということだ」
と言うと、モーガン先生は虚空に向かって素振りをし始めた。
普通にシャドウをしているだけのようにみえた。
「見て分かるように、私が放った拳に大した速度はない。
ただし大きな岩石を砕く程のパワーがある。やらないが、今壁を殴れば大きなヒビを入れて破壊できるだろう。突きの速さを上げたいならば、専用の身体強化魔術を使うか、スキルや能力の使用、ステータス上の【筋力】の数値をあげるしかない。解放しているだけだと、魔力は消費されないが、何かを殴ったり、自分の身体で攻撃を受けたりすればその分消費される」
成る程、極論だが仮にほとんどスピードを乗せていなくても、魔力を纏う量が大きければ龍をも殺せる程の力をもつのか。
「ちなみに魔力の為に消費された精神は、仮に0になるまで使ったとすれば、一日程度で元の数値に回復する」
はえ~と思いつつ先生の話を聞いていたら、途中でよくわからなくなってきたから聞き流すことにした。どうせ後でルクアに聞けばいいだろう。
十分位魔術の基礎について語っていた先生がようやく話しおわった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます