第二章【魔術学園編】
第1話『王都襲来、謎の三人衆』
村まで帰るまで更に一年近くの時が過ぎた。俺はもう十三歳である。
凡そ一年前、街の裏カジノの
「村人の皆、俺は………帰ってきたぞッ!!!!!!!!」
村のボロい門をくぐり抜けて、俺は叫んだ。
久しぶりにみる村の姿に俺の目は涙でいっぱいになり、ようやくスタートラインに立てた事に感激した。ゲゲイン君も喜んでいるようで、彼は真っ先に旧ルクア亭へと駆けていった。
「じゃあ僕達も帰ろうか!」
俺はルクアに言った。
「そうだねっ」
ルクアも俺の顔を見て、天使のように小さく微笑んだ。
ルクアは俺と同じく十三歳になり、時の経過によって色々と成長した。
髪は豊かに伸びて、村をでた時には殆どなかった胸も徐々に膨らみ、この齢で二つの大きな実りをつけた。可憐な少女の身体に更に磨きがかかったのだ。
そのせいで旅の途中、俺は色々と夜に気をもんだのだが、今では良い思い出だ。
俺は花咲かじいさんのように、金貨をあちこちにばらまきながら家に帰った。農作業に励む婆さんは、腰が痛いはずなのに、宙に舞う金貨を大きく飛び跳ねてつかみ取り、農作業をほったらかして家に帰っていった。パン屋の店主は狂ったかのように金貨を拾い集め、店のドアに本日閉店の紙をつけた。走り寄ってきた少年はオモチャだと勘違いして金貨で遊び始めた。
金貨を握りしめてそこら中に放り投げる度に、俺の視界にはキラキラと
したものがいっぱい輝いて、……雑草伸びる田舎のあぜ道にも、黄金の印を点々とつけた。
「ただいまぁーーーーーーー」
家のドアを開いて叫ぶ。
俺はつかみ取った大金を見せびらかしたくて、早く夢のために使いたい気持ちで破裂しそうだった。
*
「あら、リンクス学校に行きたかったの?なつかしいわねぇー、ロンネフェルト学園。行きたかったのなら、早くいってくれればよかったのに。あんな所ママのコネがあればいつでも入れるわよ~」
「え」
エプロン姿のママの身体から、鮮やかな蝶の鱗粉が舞うように、おぼろげな感じの青色のオーラが浮き出た。何かを眼前で創り出そうとするかのように、青紫の幻惑的な何かが集中していく。
バッと両手を前に突き出した。
「【乙位】禁罪高層魔術 空間超越 《転移門》」
そうママが言ったかと思えば、魔界のゲートのようなものが出てきた。
人間の骸骨のようなものが周りを彩っていて、頂点にはサタンの顔のようなものがくっついていた。
なんだこれは。
「ちょっとそこで待ってなさい」
ママは、鏡色の銀白色が歪んで、湖の水面のように揺れているゲートの中へと入っていった。
俺は、自分だけ時間が止まったように感じた。まだ時間を停止させることはできないのに……。
それからほどなくして、ママが帰ってきた。
「学園長に話をつけてきたわぁ~。ルクアちゃんとゲゲインくんも入るんでしょ?
それじゃあ気を付けて行ってらっしゃ~い。この転移門は消えないから毎日家に帰ってこれるわよー」
手に、握り締めていた白金貨が地面に落ちた音と共に、俺は灰になった。
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フォートナムメイソン王国 王立ロンネフェルト学園。王都のほぼ中枢に位置した、今年で創立678年の由緒正しき魔術学園である。
そして貴族による貴族の為の学校である。
九割強が特権階級生まれの少年少女が、六歳の頃から一切メンバーが替わることなくそこへ通っている。
しかし、三つのイレギュラーがどこからともなく、突如としてやってきたので学園中は大騒動になった。出自不明の三人衆が現われただけでなく、その存在自体が極めて異質だったからである。
他の生徒教師を超越したステータスを持つ、絶世の美少女【ルクア】
まるで赤子のようなステータスを持つ少年【リンクス】
ゴブリン族の【ゲゲイン】なる者が、彗星の如く転校してきたからである。
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俺は昨日、ママのコネで入学することが叶ってから、クラスの情報やらを聞くために、一度学園長に挨拶をしにいった。
「ほぉ~、君が例の……君の親父さんのことはよく知ってるよ。昔担任をしていたのでね、あいつには本当に困らせられた。勉強もせず、問題ばかり起こすからストレスではげそうになった日もあったんだよ、わかるかね。だから逆に君には期待しているのだよ。もう一度言うけど、どうか問題だけは起こさないように…………あと、……君のお母さんには二度とこの学校にこないで欲しいと伝えておいてくれ。怖いから」
「ははっ、安心してください。一体僕をだれだとおもってるんですか」
確か学園長にそんなことをいわれたことは覚えているのだが、殆ど適当に聞き流してしまった。俺が配置されるクラスが【特別教室Ⅰ】なのだという情報以外、どうでも良かったからである。
そして今日ッ!!!初の学校登校日で、転校日ということになっている。
魔術師を養成する場に相応しい、厳格な空気漂う廊下の中。
俺は夢見心地の気分でルクアとゲゲイン君と共に闊歩していた。
自分の教室へと向かっている途中である。美少女とゴブリンを連れ歩き、俺の気分はまさに勇者であった。
制服も魔術師っぽい黒のローブとかを支給されて、俺のテンションはマックスである。
「もしかしてあの人――――――」
「ちょっとやめなよ―――――」
「でも――――――――――」
ふふ、廊下の隅で女子が俺のことを噂している。
どこかで情報が漏れていたのだろう。
まあ興奮するのも当たり前か、俺のようなイケメン勇者が転校してきたんだからな。
「アイツら………殺」
「ははは、余りそんな顔はしたらだめだよ。ルクアちゃん」
俺に視線が集中するのが嫌だったのか、ルクアは不機嫌になり、殺気を垂れ流し始めた。でも大丈夫。俺が近くにいる限りはいきなり暴れたりすることはないはずだ。
「グゴゴブべべビッ!!ブブグゲゲガググ(テーマパークに来たみたいだぜ!テンション上がるなぁ~~)」
いいよ、ゲゲイン君。いきなり叫びたくなったのだろう?……いいよ。もっと叫んでも、何を言っても許そう。君も今日から愉快な魔術師の仲間入りだ。
俺は今本当に気分が良い。何をされても何があっても許せる自信がある。
ついに。……ついに、俺に我が世の春が訪れたのだ。
見るが良いぞッ、少年少女よ、まだ見ぬ新たな美少女達よ。俺こそが異世界転生ファンタジーイケメン勇者なのだ!
俺の身体にドンと、正面から衝撃が入った。
自分の世界に浸っている間に、誰かとぶつかってしまったのだ。
「あっ、すいません」
俺はぶつかってしまった相手に反射的に謝った。
「…………」
ぶつかった相手は銀髪ツインテール美少女だった。
黒を基調としたゴスロリ服を着ている。
頭には白いフリルがついたヘッドドレス、胸元にはリボン、服の至るところに十字架の模様がされていた。
なによりも特徴的だったのが、左手に人形を持っていたことである。妙にリアルな人形だった。
良いのだろうか。この学校、結構厳しそうなのに……服装も色々とおかしいし、あんなオモチャを持ち歩いていて。年齢も俺と同じぐらいだろうか?
厨二病らしき彼女は、俺を一瞥すると何も文句を言わずそのまま去って行った。
できるものなら時間を緩めてもっと顔を観察したかったが仕方ない。
「リンクス君、はやく行こう」
ルクアの今にも誰かを殺しそうな程の無機質な声を聞いて、びびった俺は足を急がせた。
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田中祐介 年齢13歳
【レベル】1
【体力】1
【筋力】1
【知能】16
【精神】20
【コミュニケーション力】289
能力 《時間操作》
スキル 《ゴブリン語》
称号 《虚言癖》《大嘘つき》《ゴブリンの親友》《伝説の
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ルクア 年齢13歳
【レベル】37
【体力】3560
【筋力】4100
【知能】3000
【精神】8600
【コミュニケーション力】10
能力 《最果ての鼓動》《
スキル 《自動回復Ⅳ》《状態異常回復Ⅲ》《能力値向上Ⅴ》《波動》
称号 《選ばれし者》《異常な執着心》
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