第10話『貧しいリンクス君を学校にいかせる為には、村人一人当たり3.6万円の寄付が必要です』

 リンクス君の家にはお金が無く、満足に学校に行かせることができません。リンクス君の家には、10歳のルクアちゃん、無職のお父さん、専業主婦のお母さんが住んでいます。お父さんは毎月村長から配られる支給金を頼りに働こうとしません。


 そしてルクアちゃんという女の子は、重度の栄養不良によって苦しんでいます。隣家に住む、ゲゲイン君は綺麗な水を飲むことが出来ず、毎日不衛生な泥水を飲むことしかできません。


 例えば一日100円、一月当たり3000円のご支援で、彼らを高額費用の魔術学校に通わせることができます。そしてなんと村人千人分の寄付があれば、一年間通学する事が出来ます。

   

 二人の子供と一匹のゴブリンが、貴族も通う魔術学校に通えるように!

 

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 ……無理か。

結局、パパに強く言ってみたら、普通にお金がないと言われて一人当たりの一年間の通学費用、三千六百万円が必要になると説明された。(この世界の通貨すらも日本語に翻訳されるので円になる)ママは買い物に出かけていたから、後で言うつもりだ。



 なので俺はルクアに一人で考えたいことがあると言って、自分の部屋の中、独りで逡巡していた。こればっかりはパパを責められなかった。


 最悪ルクアに関しては、特待生的な扱いで無償で入れるかも知れない。ステータスを見ただけで才能と力の塊なのは明らかだ。学校側も大手を振って迎え入れるだろう。


 問題は俺、ステータスもレベルも最底辺である。能力も『時間操作』というチートがあるけれど、魔術に一切関係ない時点で意味無し。

称号に勇者という二文字がありさえすれば良かったのだが、このままでは自称勇者の方が先に付いてしまう。



 働かずにお金を稼ぐ……働かずにお金を稼ぐ方法はもう募金しかないと思ったのだが流石に無理がありそうだ。村人の総人口が凡そ千人しかいない時点で、一人辺りの負担額がでかくなる。そもそも子供達からも金を奪わなければならない。それだけしても一年間しか通えない。


 宣伝方法も、今一秒に一人のリンクスが苦しんでいます。の謳い文句ぐらいしか思いつかず手打ちの状態である。


 ちらりと、俺は『攻略本』をみた。

相変わらず白くて綺麗な本だ。まさに今開けと言わんばかりに、机の上で日光に照らされていた。


「…………」


 仮に、今ここで『攻略本』を開いて、数多の求人誌、求人広告が出てきたなら多分俺はもう立ち直れない。俺は例の黄色い本に恐怖症があるのだ。何度も面接で落とされたトラウマが蘇る。


 開くか、開かないか。まあもう、攻略本を今目にとめた時点で見ないという選択肢はないよな。


 俺は本を手に取って、開けた。


 『はたらけ』

 攻略本にはそれだけしか書かれていなかった。



   * 

 


 それから俺は『旅に出かけます。大金を手に入れたら村へ帰ります』と置き手紙を家に残し、村を飛び出した。


 途中でルクアとゲゲイン君が俺の後を追いかけてきてくれた。


 この世界は広かった。あの村はおかしかった。あの村は謎に平和だった。この世界は結構シビアで危険だったのだ。平原を歩けば、魔獣が襲ってくる。山を歩けば山賊が襲ってくる。その度にルクアが命がけで、俺とゲゲイン君を護ってくれた。


 ゲゲイン君は集落で身につけた野宿と狩りに対しての知識で、俺たちの旅を豊かにしてくれた。



 やっとの思いで一つ目の街に辿り着いた。

俺が町の人にこの世界のことを問えば、『魔獣と闇の一族』に世界の八割を支配されていると言われた。


 きっとルクアのような生物に対して無情な性格であれば、そんな世界でも楽に生きられるのであろう。ルクアからモンスター的なものを倒して金を稼ごうという案を出されたが当然俺は却下した。まだ小学生程の女の子の手を獣の血でよごすわけにはいかない。



 ある時俺は、諦めてギャンブルで一発当てようか迷っていた時期があった。だがルクアの目の前で灰になった俺を見せるわけにはいかない。その一心で俺は奔走した。


 またあるときは、俺は冒険者になって、清掃業、行方不明のペット探し、土木作業、探偵、街の中でやれる仕事なら何でもやった。街の外へでると危険だからだ。ゲゲイン君は途中で何故か姿を暗ました。



 その結果、二年で490万が貯まった。


 だが、俺はなぜここまでしてるのだろう……。二年間、ルクアを養いながら泥水をすすって死ぬおもいでがんばってきて、貯まったのは490万……。


 違う、俺は青春を取り戻しにこの世界に来たのだ。美少女達に囲まれながら、魔法を使って、みんな楽しく過ごす夢の学校生活に返り咲くのだ。


 *


「…………ぁ」


 ふと気付けば俺の前には、大きなパチンコ台。通称 《蟻地獄》。

滝のように流れ落ちては消えていく、一玉4000円のパチンコ玉……。


 目の前のパチンコ台のガラスが曇りそうになる程の熱気、騒音、後ろから聞こえてくる声援、罵倒……。


 俺は無意識的に、ハンドルを回し続けていた。打つ。打つ。打つ。

ああ……残りは後100万しかない。俺は絶望の果てに意識が飛んでいたのか。

ずるずると消えて行く。希望が無くなっていく。


 そうだ、俺は今日賭けにでてきたんだ。全財産を片手に……。いつも泊まってる宿にルクアを置いて、単身、街の裏カジノまでやってきた。


 店長、二ジョーは最初は俺が十二歳のただのガキだと思って相手にしなかったが、手にする500万の大金を目にして、特別な台へと案内した。


 この台は、これまでの挑戦者が負けた分がそのまま蓄積されていく方式で、一度でも当たりさえすればなんと総額五億の金が手に入る。


 俺はこの世界へ二度と来まいと思っていたが、パチカスの血が騒いで勝負することを選んだ。



 しかし、……気付けば残り、ゼロ。あれほどあった軍資金が泡のように消えてしまった。



 負ければ俺は文無し。また俺たちはあの村へと戻らなければならない。

 

「やめろッ!!!俺はまだ戦える!俺はあの村で一生を過ごしたくナいぃぃぃ……!!!ああああああああああああああああああああああ!!」

 俺は半狂乱になりながらパチンコ台を叩き、揺すろうとした。


「消えろクソガキッ……!」


 後ろで待ち構えていた二人の黒服に両肩を捕まえられ、俺が座る椅子から引き離そうとする。

俺はわめき号泣しながら、必死に抵抗するが力で全く叶わずすぐに引き剥がされた。子供がだだをこねるように床にしがみつこうとするが、引きずられていく。


 終った……。終ったのだ。

絶望、俺は自分の髪や背景が段々白くなっていく気がした。

俺は意識を失いかけて、ギャラリーの怒声や失望、嘆きの声が段々聞こえなくなっていく。遠くなっていく。


 そのとき、救いの神現る。



「ガガグギグガゴゲググウ?ガガギゴギギギグブブバブグゲガ。ブブブグゲ(リンクスはん、諦めるのはまだはやいんとちゃうか? これはワイがこれまでの旅、今までためにためた全財産や。好きにつかいんさい)」


 これまで姿を消していたゲゲイン君は、金貨十六枚が入った袋を地面に投げた。


 袋からあふれ出した金貨が床に散らばった。

彼は160万という大金を俺のために投資してくれたのだ。



「な、何ぃ!!??」

 完全に俺に勝ったと思った二ジョーは汗を垂らして、驚愕した。


「ゲゲイン君ッ……!」

 俺に色と闘志が戻り、乞食のように床に散らばった金を拾い集める。



 ――――――――まあ色々ストーリーはあったが、俺は五億という大金を手にして村へと帰還した。


 一枚一億もする、白金貨が五枚。

 これだけあれば、俺もゲゲイン君も一年だけじゃなく何年も魔術学校に通える。ルクアは特待生制度で入学できる!


 そう、俺たちの冒険はまだ始まったばかりなのだ!

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