『ルクアちゃん』②
リンクスくんのことをもっと知りたいって思ったのはいつだったっけ。
いつから、優しさだけじゃ我慢できなくなって、匂いも、味も、服の内側までも知りたくなったのだろう……。
リンクスくんの声を聞く度、匂いを嗅ぐ度、もっと色んな事が知りたくなって、どうでも良くなって、全部を私のモノにしたくなって。
気付いたらある夜、勝手に家を飛び出していた。
リンクス君の家の庭に立ってた。この時、夜は冷たくなかった。
リンクスくんの家の中はよく知ってる。なんどもなんどもなんどもなんども行って分かってた。どこにリンクスくんの匂いが付いた下着とか服が置かれてあって、どれがリンクス君の歯ブラシで、リンクス君の髪の毛がいっぱい落ちていそうな場所も、お風呂の場所も、全部。
リンクスくんがいつお風呂に入るのかもしってた。いつ寝るのかもしってた。
だから、私はリンクスくんの家の壁のそばに大きな台を置いて、そこに登ってから気付かれないようにそっと小さな穴をあけた。悪いことをしているのではないかと思って、心が苦しかったけど、でも大丈夫。リンクスくんは全てゆるしてくれるから。
私はそのとき初めてリンクスくんの裸を見た。
白い蒸気の中にある、リンクス君のすべてをみて、ただただ嬉しかった。
体のあちこちが熱くなって、充血した片目をその中に押し込んでしまうんじゃないかと思うくらい近くでみていた。リンクス君がお風呂からあがっていっても、しばらくぼわぼわして動くことが出来なかった。
実はリンクスくんが私のために見せてくれてるのかもしれないと思った。
きっとそうかもしれない。私がリンクス君のことを知ってるように、リンクス君も私のことを全てしっているのだ。通じ合えた気がした。通じ合えた。
何もかもが繋がり合って、そのとき何もかもがゆるされたのだ。
なんでかわからないけど、いつの日からか私は物とか壁とかを通り抜けられるようになってた。リンクスくんがよく「すてーたす」って言ってたからキットそれかもしれない。
その力に気付いてからは、リンクスくんと別れたあとも、リンクスくんの家にいくようになった。リンクスくんがお風呂をあがった後、すぐにルクアも壁を通り抜けて、あたたかい蒸気の中に隠れたリンクス君の匂いを嗅いだ。
抜けた毛を集めるようになった。リンクス君が洗おうとしていた服をもらうようになった。
違う、私は服を助けたのだ。なぜ折角リンクスくんの匂いが付いているのに洗おうとしているのか分からなかった。そんな無駄にするようなことは許せなかった。私の好きなものをわざわざ無くそうとリンクスくんがするわけない。だから私にくれたのだ。リンクスくんは全部わかってくれている。
私だけを見てくれている。
全てが用意されたストーリーのように、積み上がっていく、完成していく。満たされていく、ルクアが段々幸せになっていく!
でもそのたびに、心に空いた大きな穴の喪失感を感じた。
まだ、何かが足りない。何が足りないのだろう。もっと欲しい。
リンクス君がルクアと遊んでくれなかった時、他の女が遊びと言って、リンクスくんの体を触っていた。他の男もリンクスくんの体に触れていた。匂いを嗅いでいるのを見た。
絶対、あいつらには奪わせない。
あぁ……リンクスくんの全てを知ったとき、リンクスくんの全てを私のモノにできたとき、リンクスくんに私の全てを捧げたとき、その喪失感はキット無くなるのだろう。
いつか、全ての障害がなくなったら本当の意味で繫がり合おう。
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