第9話『白濁の戦士』


 旧世界の両親のお二人方、色々合って家族が一人増えました。俺はとても元気です。…………下半身も。



 この部屋はとても狭い。情けでゴブリン一人加えることが出来ないくらい凄く狭い。昔沖縄旅行で泊まったビジネスホテルよりも狭い。それをルクアと半分に分けて生活である。

 

 この部屋には小さなベッドが一つしか無い。 

昨日、俺はルクアにベッドを譲って、床で寝ようとした。そうしたら、ルクアも床で寝ようとした。ここまでは俺も予想できていた。



 ルクアは俺の事が好きだ。それも異常なまでに。だから、同じ部屋で過ごすことになれば、必然的に俺のそばで寝ようとするだろう。そんなことは火を見るより明らかだ。俺はそれを断ることはできない。願いの事もあるが、ルクアの過去を鑑みたら仕方の無いことだからだ。


 結局昨日は、二人とも床で寝るわけにはいかないので、俺のベッドの上で寝ることになった。一人用のベッドと言えど、ルクアにスペースを三分の二を与え、俺は横向きで寝れば少ないスペースでも二人で寝ることが出来る。


 だが、流石に二人で同時に寝ると個人的に恥ずかしいから

「僕はトイレに行ってくるから、ルクアは先にベッドに入ってても良いよ」と伝えて、寝た隙を見計らってからベッドに潜り込んで就寝した。

疲れていたのか、ルクアも俺も眠りにつくのがかなり早かった。

 


 朝、少しの違和感と、小鳥のさえずりと瞼をなでる日差しで俺は起きた。



 俺の目の前には、絶世の美少女の顔があった。


 一瞬一瞬がときめいて華やいで見える、少女特有の穢れけがれのないやわらかな頬。すっと通った鼻筋。今にも溶けそうな赤い唇から静かに漏れる吐息。黒艶があり淡い光沢を生む睫毛まつげ幾星霜いくせいそう、千年をも越えて誰かを焦がれ眠り続けているような、儚げな表情。ただそれでもそこに大人的美しさを見いだせていないのは、額に垂れた極めて繊細且つ、水が滴ったしたたった後のように潤いうるおいがある前髪が、官能さを秘める額を隠しているからだ。

 

 神によって造られたと言っても信じよう。一切のほころびのない美がそこにはあった。凡そ齢が十に与えていけない犯罪的なものが。



 俺はこれまでルクアの顔をこんなに近くでマジマジと見たこと無かった。


 しかも、俺はルクアによって真正面から抱きつかれていた。

それはベッドから落ちないように。俺に絡みつくように……。

少女の肢体が、俺が身を少しでも動かすと強く抱きしめてくる。


 生地が薄い寝間着を着ているせいか、お互いの肌がかなり密着していた。

服が簡単にはだけて、今にでも中身がみえそうだ。


「…………」  



 なんだ夢か。


 そうだな、まあいいか。例えそれが現実で、美少女に朝から抱きつかれての起床でも。男として本望ではないか。もうこれで明日死んでも大丈夫。俺が昨日いっぱいがんばったご褒美だと思って、この至福の一時を味わい尽くそう。


 もしかすると、これは死ぬときに見る夢なのかも知れない。そうか、勇者リンクスとしての俺の旅はここで終わりなのだ。良かった。死ぬ前に見る夢がただのお花畑じゃなくて。美少女で本当に良かった。



 俺はそう思って気持ちよく、目を閉じて二度寝の体勢に入った。次起きた時、また違う世界に転生しているのだろうと思って。

 

 刹那。突如として俺の脳内に濁流が発生し、雷が落ちた。


 ルクアが常にこの部屋にいる。そしてこれからも何歳になっても、ルクアが成長し、俺が成長しても…………ぁ。


 目をカッと見開いた。



 俺は気付いてしまった。俺が男の子の日を迎えても、夜、上下に動かす運動ができないんじゃないのか??


 ガクガクと顎が震えた。血の気が引いていく。



 まずい。ひょっとすると、ルクアがやばくなったときと同じぐらい今焦っているかもしれない。これ大丈夫なのか俺は。この調子で14歳を迎えたら風船が破裂して死んでしまうんじゃ無いか。


 前の中学二年の頃は、本当にヤバかったんだぞ。あの当時は二四時間、夢の中でも色々想像して毎日が地獄だった。末期頃には俺、目を充血させてギラギラになって苦悶の表情を浮かべながら生活してるんじゃないか。仮にルクアの目を盗んで行為に及んでも臭いでばれる。


 今、俺の息子はまだ大きくなる技しかもってない。だが、後一年、二年後はどうだ。その刻はいずれ来る。


 今、ルっ、ルクアるくあああああああああああああああああああああ。となってもアレは出ない。出ても困る、出なくても困る。俺は何かの修行でもしているのか。


 答えが出ない問題を永遠に考え続けなくていけない、朝からそんな地獄の中に俺は落とされた。


 


「もっ、もしもしぃ?、ルクアちゃ~~ん朝ですよぉ」


 と俺が冷や汗を垂らして言ったら、ルクアは金色の目を光らせてすぐに起きた。今までずっと起きていたかのように。


「リンクス君、おはよう」

 ルクアは俺の耳がとろけるような囁き声で言った。俺はたじろいだ。


「あの、その、……ちょっと聞きたいことあるんだけどね。この部屋君にはちと狭くないかなぁ~って。部屋の広さは心の広さっていうし…………。しかもこの部屋で昨日ゲゲイン君が寝てたでしょ?ちょっと何か臭ってるかも知れないよ?…………君ももう10歳だし、流石に君も男の子と一緒に寝るっていうのは嫌じゃないかなぁって。あっ、ホラホラ、僕寝相がかなり悪いし、実は夢遊病なんだ。途中で歯ぎしりも酷くなるかもしれないね。そうだ。もしあれだったら、僕のパパに相談を……」


「リンクス君、ルクアとずっと一緒にいてくれるっていったよね?」


「そうだよね。僕と一緒にいたいよね。じゃあもう仕方ないな、ハハッ」


 あっさり撃沈された。これを言われたら俺にはもう何もできない。



  *


「リンクス……この村にはね、実はある言い伝えがあるんだ」

 皆と食卓を囲んで朝ご飯をたべていると、パパが珍しくそんなことを言い出した。なんだろう、勇者降誕の言い伝えかね?


「枯れたこの地に古き王が蘇る刻、人の怠惰に終焉をもたらすだろう…………。

つまり、この村にベーシックインガム制度が導入されて以来、村の働き手の人口が減少してしまってね。いつかその制度を廃止してしまおうと企む反逆者が現われるという言い伝えだ。本当に困ったものだよね。そこでパパはある名案を画策したんだ」


「…………」

 そんな製造日が昨日のような、鮮度が高い伝承があるわけない。


「ルクアちゃん、僕いまから散歩に行ってくるよ。三十分ぐらい歩いたら、すぐに帰るから」

 まだ横でパンとスープを食べていたルクアにそう言った。


 そして俺は残念な気持ちになって、目の前でやたらと言い伝えについて熱く話し始めたパパを放置して家を出た。



 外に出ると天気も良く、空を見上げると青海がみえた。

今日の散歩コースはどこにしようかと思っていると、畑で農作業している婆さんと目があった。まずい。


「おやおや、リンクス君。朝からお散歩かい?良いご身分だねぇ。ハァア、私の畑を誰か手伝ってくれると有り難いんだけど。腰が痛い、腰が痛い」


「…………」 


 俺は何も言わず早歩きをして、婆さんの視界から逃れた。

パン屋の前まで来て通り過ぎようとした。

しかし、……。


「おーいリンクス!一緒にパンを作ってみないか?お前も幼いときから俺の店に来ててずっと作ってみたかっただろう!」

 いきなりパン屋のドアが勢いよく開かれて、叫ばれた。


 無視した。


「リンクスくーん!一緒にあそぼ~~」


 前から村の男の子が走ってきた。

俺を遊びに誘いに来たのだ。

「うんそうだね。今日は――――――」


「ジャガイモ掘ったり、苗を植えたりしようよ!!!」



 ずっと、思っていたことがある。

ちょっとこの村おかしくないか。このまま進んだらパパのようなガチの無職か、農民コースが確実なんだが。そろそろ都会の魔法を教えてくれそうな学校に行きたい。まじで今日強めにパパとママに言ってみよう。


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