第8話『復活のG』
そのとき、空気がざわついた。
ルクアの綺麗な髪が、日光と反射し、混じり合ってアメジストのように輝いた。影がかかっていた白い頬がほんのりと紅くなったような気がした。
「ほんとうの……」
だが、まだためらいの感情が見えた。
「良いよ。その願い」
だから俺は最後の一押しをした。
今まであった両眼の濁りが取れて、黄金の瞳に輝きを取り戻した。
「……ッ…! 本当のママとパパが欲しい!!リンクスと一緒になりたい!」
ルクアは涙を流しながらそう叫んだ。
それでいいのか。
本当はルクアにそう言いたかった。どれだけあのババアがゴミだとしても、一応血の繋がった親なのだから。
しかし、もはや俺があの親に渇をいれた所でどうにかなる問題では無いことは周知の事実。あの親は普通に児童虐待という犯罪を犯して、育児放棄する始末なのだ。更正の余地なしである。そんな親の下でこれ以上ルクアを置いておくわけには行かない。
俺は精神カウンセラーでもないから、ルクアが今一番かなえたい願いを叶えてやることしかできない。どう足掻いても負の記憶という不純物を取り除くことが出来ないのなら、それが0.0000001%まで希釈できるぐらいの正の思い出を作ってあげるしかない。俺はそれが例え結婚したいと言われても、ルクアの母親と更正させて仲良く暮らしたいという願いでも、攻略本を駆使して叶えてあげるつもりだった。仮に、一緒に死にたいという願いだったとしても。
「よし、俺にまかせろ!」
だから俺は、ルクアにそう言った、その願いを当然かなえることにした。
そして、俺はルクアに感謝していた。そんな、あくびをしながらでも出来る、簡単な願いを言ってくれてありがとうと。
*
俺たちが家へ入ろうとした瞬間、変な金切り声がドアの向こうからした。
まさかと思ったおれは、ドアに耳を当てて中の様子をうかがった。
「あなたがたのお子さんは一体どうなっているの!!!!!?私、今日で三回もあいつに殴られたのよ!」
家の中にはすでになんかいた。
「しかも、家の中で暴れまわって、絨毯は汚すわ、花瓶を割るわ、
挙げ句の果てには一つの部屋をめちゃくちゃにしたのよ!修理費を払って!!金をよこしなさい!!!!!」
意地でも監禁部屋だとは言わないらしい。
「はぁ……それはどうもすいませんでした。今日きちんと叱っておきます」
「マアマア、それは申し訳ないことを……しかしうちにはお金がないもので、ここはどうか一つ穏便に」
と、ママとパパが謝る声がした。
俺はルクアにストップをかけて、ルクアの母親がドアから出てくるまでまった。
「全く、あのクソガキ今度あったら……」
とババアが悪態をつきながら、ようやく家のドアがひらかれた。
「あっ、こんばんわー!くそばばあ!そして、さようならぁあ」
「は?」
俺はその隙を見逃さずに、ババアを外に引きずり出してルクアを家の中へ押し込み「ただいま~~~~~。あ、これからこの家の家族になるルクアちゃんだよ。さ、入って入って」
と言いながら、更にルクアの背中を押して家の中へいれてあげた。
「おー、おかりなさいリンクス。まあそれはいいんだけど、なんか、親友を名乗るゴブリンが『オデ、リンクス ノ シンユウ』とか言って、リンクスの部屋を占領してるんだけど本当に大丈夫なのかい?」
パパがいつものように居間から出てきて、笑顔で言った。
左手には『攻略本』を持っていた。
「三人とも、ごはんできてるわよー」
そしてママが奥から、優しい声で俺達を呼んだ。
俺は、外から目を丸くしてこちらをみるババアに中指を立てながら、笑顔で家へと帰還を果たした。
全てガキのすることだから、教育のなっていないクソババアをしばき倒して暴れて来て、その娘を誘拐してきても無罪。名付けて『クソガキ無罪』実にいいものである。
~fin
ルクアは俺の帰宅後、すぐにパパとママに挨拶をして、晴れて家族の一因となった。
そして、夜。
ルクアの部屋は無いので、俺の部屋を半分にわけて使うことになった。その時のはしゃぎようはとてもかわいらしいものであった。部屋に入るときまではとてもルクアは喜んでいた。
「…………」
ルクアは俺の部屋の中に入ったとたん、無言になった。
ゴブリンが床で片耳をほじりながら寝転がっていたからだ。
「ブィ~~~グ、ググギゲゴガギギギブ!ゴゴギググゲグガギ(ぅぃ~~す、りんくすひさしぶりィ!今日から俺ここで泊まることにしたわ(笑))」
そういえば、パパがゲゲイン君が俺の部屋にいるって言ってたんだった。
ゲゲイン君に話を聞いてみると、集落で成人し、戦士になれたみたいで旅に出てきたらしい。旅に出たのはいいものの、泊まる場所がなかったから俺の家に来たと言っている。確かに、前に別れたときより少し身長が伸びているような気がする。それでも俺と同じぐらいなのだが。
ていうかゴブリンのかぶり物してなくても俺の事をわかってたことも驚いたが、性格が180度別人になっていたことが一番びっくりした。前は凄い内気でおとなしかったのに……これを理解しやすいように説明すると、昔クラスで一番地味だった男の子が、何年か経って再会したときに金髪になっていて、パーマを髪にかけてグルグルになり、それをワックスとスプレーでガチガチに固めてセットし、片手に女を抱きながらハーレーを乗り回していた時のような感覚だ。
「何?このゴブリン」
ルクアがそういった。一瞬ヒヤッとしたが、流石に前のことを覚えていないみたいで安心である。
「うーん。態々この村に来てくれて嬉しいんだけどちょっと、ゲゲイン君まではこの家に入らないなぁ~……おれの狭い狭い部屋にはルクアが入る予定だし」
それと俺とゲゲインとルクアでこの部屋を使うことになったら、多分ルクアの機嫌が悪くなるだろう。今も少し機嫌を崩していると思う。
あっ、そうだ。面白いことを考えたぞ。
「ゲゲインググゲ、ギブブグ。グググブグゲゲゴグ……(ゲゲイン君、ちょうど空いている所があるよ。ちょっと開放的ですでに一人おかしな住人がいるんだけど)」
「グブ!?(マジぃ!?)」
「ゲグゲゲガギギギ、ブグブゲ。グブブグゲゲゲ!(でもその人自分の娘が欲しがっていたから、娘という体で行ってね。殴られたらやり返しても良いよ!)」
「ビビ~ググゲゲギグ(ぅぃ~俺今日からそこで住むわ(笑)」
ゲゲイン君は、かなりやんちゃになってるからあそこにすんでも大丈夫だろう。
リンクス~お風呂わいたわよ~。一階からママが俺にそう言った。
「あ、じゃあルクアちゃん、どこからでも良いから、ちょっと大きな袋を持ってきてくれないかな。ゲゲイン君が入るくらいの。僕は今からお風呂に入るから、結構申し訳ないんだけどその袋を持ってきてくれたら僕の部屋で待っといてね」
さあ、これはゲゲイン君の引越祝いだ。少々曰く付きだが彼に新居をプレゼントしよう。しかもなんとすぐ隣にその家はあるからいつでも会える。
そして俺が風呂を上がり終えた後、ルクアは大きな袋を探すのに苦労したらしく少し遅れてやってきた。その中に、紫色のカツラを被せて女装させたゲゲイン君を入れて旧ルクア亭へと返品しにいった。最後にあの家にいかせるのは、俺からルクアに与える試練のつもりであった。
これで、ルクアも健常的な女の子になったしめでたしめでたし……ではなかった。何故かもっとこじらせるようになってしまい、俺はこの先も悲鳴を上げるのである。
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