第6話『ひらめけアイデア!』
『攻略本』に映し出された奇怪な動画は、俺がルクアに誘拐されたところで終わった。
次のページを開いてみたのだが、なにもなく白紙だった。俺はため息をついてから、本をぱたりと閉じた。とりあえず、床に座ってあぐらをかいて、天井を向いた。
次のページが白紙なのは別に意外ではなかった。
ゴブリンの時とかは、かなり詳細なことを文字で教えてくれたが、肝心のどうすればいいかは全く出てこなかった。つまりこの本の性質は本当にそのとき必要な情報だけを教えてくれるということだけだ。情報を得て、その先をどうするかは結局俺自身が考えなくてはいけない。だから今回は未来だけをみせた。本の内容が未来、しかも動画になったから、情報が詳細ではなくなった。
だから次のページが白紙なのだ。
「お持ち帰りバッドエンドはまずい、な」
お持ち帰りされたあとに、ものすごいエロい展開がまっているのなら喜んでその刻を待つ……が、俺が逃げ出さないようにと両足を切られたり、その他痛いことをされるのは嫌だ。しかも死ぬまで監禁ルートだと魔法学校に行けなくなる。さすがにそんな痛いことは俺にしないと信じているけど……。
今は夕方だ。俺が飛び出していったシーンは昼頃だったから、今日問題は起きない筈。そうなると、明日に何かワンアクションあって、ルクアの心情に変化が起き、明後日になって犯行を実行した。それとも、明日の朝に何かあって、夜に実行……。
どちらにせよ悠長にしていられない。
お持ちかえりをされたら負けなのではない。ルクアが何かしらの決心をした瞬間が、俺の負けだ。あがいても勝てず、逃げてもすぐに追いつかれる。
誘拐の場所がA地点からB地点に変わるだけ。
いきなりルクアが強硬的な手段をとるに至った理由。
悩み事か、俺が怒らせたか、それとも日々のストレスか、勇者抹殺を狙う悪役にそそのかされたか……。
はたして何なのかはわからないが、誘拐までするのだから少なくとも俺のことが嫌いなわけではないのが救いだ。……まさか殺してないよな?俺をころしたから、死体を隠すためにあの大きな袋にいれていた可能性がでてきた。
俺の額から一粒の汗が落ちた。
「……時間がない」
実は、ルクアの精神を変えるキッカケになった存在は、俺以外にもう一人いることは予想がついている。仮に俺がバッドエンドを迎えるにしても、個人的にそいつには少し思うところがあるから、嫌な目に合わせてからではないと気が済まない。まず、やり残したことを終わらさなければならないのだ。
そして未来を変えるため、これから俺はありとあらゆる小細工をするつもりだ。余りなめるなよ。勇者を。
*
俺はやけに軽い瞼を開けて、時計を確認する。針は8を指していた。
今は朝の午前8時。
運命の日が訪れた。
昨日、俺は長考に長考を重ねて、この危機を突破するための作戦を練ってきていた。
そのためには、最も自然且つルクアにストレスを与えない方法で、ルクアに会わなくてはいけない。
人は、これを簡単だと、そう思うだろう。だが違う。
自然な形でルクアに会うとなれば、「遊びをするからルクアもおいで」というしかない。だがそうしてしまうと、基本的にこの村の子供たちは、男女かかわらず仲が良いから、必然的にほかの女の子も遊びにやってくる。その瞬間ルクアはブチぎれて終了である。女の子を抜いた状況でやれば、それはそれでまずい。
男が複数人、そしてルクアという超絶美少女が一人。男女比が明らかにおかしいオタサーの姫の誕生である。ついでにルクアの同性との交友関係が崩れ、「なによあいつ、ちょっとかわいいからって生意気」という爆弾セリフが村の女の子から吐かれた瞬間、俺だけじゃなく全員OUTである。
ならある人はこう思うだろう、二人だけであえばいいのでは?と。
そんなリスクの高いこと、できるはずがない。未来では深夜に誘拐されることになっているが、どこかでやらかせばもっと早くなるかもしれない。
未来は変えられる。そう、未来は変えられるからこそ、さらに最悪な未来に変えてしまうことだってあり得るのだ。二人だけであうのは、俺が勝負を決めに行くとき。
だがルクアは俺と二人だけで遊ぶことを望んでいる。ここで俺が妥協してしまえば、さらにルクアの精神が歪むことになるのだ。この先の学校生活が云々とか言ってられる状況ではなくなる。
だから、俺は……。
パパとママに「今日色々やらかしてクレームくるかもしれないけど許してね」と言ってから、何も持たずに家を飛び出した。
「ル~~~ク~~~ア~~~ちゃあああああああああああん!!!!あそびにきたよーーーーーーーーーー!!!!」
午前8時30分。
俺はルクアが住んでいる一軒家の前に立ち、朝から100デシベル以上の大声をあげると、そう宣戦布告した。その後、電光石火のごとくルクア一家内部に突入した。
先手必勝である。
ちなみに、もともと今日は原っぱで遊ぶつもりだったのを急遽変更した。
そして……。
―――――――今から、俺は史上最低、史上最高のクソガキになる。
そこから、実に長い一日が始まった。
俺は、ルクア家の敷地内に侵入すると、家のドアを勢いよく殴りつけるようにたたき始めた。途中、拳で殴っていると痛かったので足で蹴ったりもした。気分は借金の取り立てに来たヤクザである。
ほどなくして「なっ、なにこの子供!」という悲鳴をあげた女がでてきた。
そら出てきたぞ、ルクアの母親が。
俺は内心ほくそ笑んだ。
「ルクアちゃんと、家で遊ぼうっていわれたので来ました!中へ入れてください!!!!」
「ルクアが……?全く、……」
小さくした舌打ちを俺は聞き逃さなかった。
「おじゃましまーーーーー!!!!」
ドアが半分あいていたので。おれは無理やり家の中へ上がり込む。
土足で居間の中へ駈け込んで、椅子にどっしりと座った。
「おばさんじゅーすないの?ぼく、おいしいじゅーすがほしい」
そう俺が言うと、一瞬眉間にしわをよせて嫌な顔をされたがすぐに、台所へといってオレンジジュースが注がれたコップを持ってきた。
「あの子を起こしてくるから、これでも飲んで待っておいてください」
と、ジュースを俺の前のテーブルに置いて、二階へと上がっていった。
「ぁ~い!!!」
俺はそう叫んで返事をし、三分の一ほど飲んで、待つことにした。
「リンクス君?」
二回の自室からおりてきた寝起きのルクアが、そう言って、なぜここに俺がいるのかわからないと言った感じで困惑している。
ごめんなルクア。そしてそこで見てろ。
俺はルクアの目を一瞬みてから、自分が持っているコップを目を移して叫ぶ。
「ジュースおかわり!!!!!!!!」
そしてルクアの母親が、オレンジジュースのお代わりをもって居間の中へ入ってくるのを確認した。
「ああっ!」
俺はルクアの母親の目の前で自分のもっていたコップを落とし、絨毯にオレンジジュースをぶちまけた。
「アハハ!すいませんすいません」
と、俺は、半笑いで右手を頭の後ろに当てながら、軽く謝った。
俺は自分の服で、そのオレンジの染みがついた、絨毯をふき取った。ゴシゴシと、そこに汚れがしみつくように……。
「もういいから!あんたはあっちいってッ」
五秒程度呆けていた、ルクアの母親が切れ気味にそういうと、絨毯の汚れを落とすために奮闘し始めた。
良いのか?そんな隙だらけの尻を俺に向けて。
「ルクアのおばさんケツでかいねぇ!」
俺はそういいながら、必死に絨毯の汚れを落とそうとしているババアのケツをひっぱたいた。ケツの肉が震えて実にいい音がなった。
一瞬何が起こったのか、分かっていなかったようなので、もう一発たたいてやった。そしたらようやくヒステリックに発狂し始めた。
「キィイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」
「うわぁ!」
俺は発狂するルクアの母親にびっくりする振りをして、横の台座に飾られてあった花瓶をはたいて床に落とした。花々に彩られた高そうな陶器が、発狂する声に負けないぐらいの甲高い音を立てて、三つに割れた。
「どわわっ」
俺はすぅっと、深く息を吸いこんだ。
「ぼくはリンクス!しょーらい、ゆーしゃになるからっ、許してね!」
鬼の形相で俺をにらみつけるルクアの母親の頭をしばいて、屈託のない俺の白い歯を輝かせながらそう言った。
「ルクア!!!!コイツをあの部屋に連れて行きなさい!!!!!!」
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