第4話『ルクアちゃん、ちょっとおかしくなる』
また更に月日が経ち、俺は10歳になった。
未来に勇者になるであろう俺に深刻な悩み事がある。
ここ二年ぐらいルクアの様子が明らかにおかしいのだ。何がおかしいと言えば、本当にキリがなくでてくるから説明がすぐにはできないほどに。
今現在判明しているだけでも、俺に対する覗きに監視、私物窃盗、ストーキング行為、抜け毛収集、過度なスキンシップ……だがそれはまだまだ許せる範囲だ。一番怖かったのは俺が他の女の子と話したり遊んだりするとき、ルクアから殺気が間欠泉のように溢れ出す時である。思い出すだけでもチビリそうになるが、あの時は本当に死ぬかと思った。それ以来、一応、それとなく「感情のままに暴力を振るうとろくなことにならない」とか「僕は話し合いで解決出来る人間に憧れるな~」という独り言を所々で、聞こえるように言っているから今のところは大丈夫な筈だ。
ルクアの初犯は覗きだったと思う。
俺の入浴中、どこからか視線を感じるなと思っていた時があった。
しかし風呂の中は、別に窓があるわけでもないから、ただの思い込みだろうと思っていた。
それは風呂の掃除をしていた時だった、黒カビがつかないようにゴシゴシと壁を洗っていると、奇妙な黒い穴が一つ空いていたのだ。その穴が空いている壁の向こうは外である。
つまり、覗き。
この時の俺は、覗きの対象からすぐに自分を外して、代わりにママが狙われているのだと思った。
ママは29歳。
もしかすると、母親の裸をみたい人間がやった仕業ではないか。それはそれで問題だが、俺的にはそうであって欲しかった。もっといえば、どこかのエロガキとかエロ親父が覗きにきているほうが一番よかった。
そう思いながら、穴の向こう側の庭に行ってみると、脚立が置かれたような痕跡と紫色の長い髪の毛が二、三本落ちていた。こんな髪色のやつは一人しかいない。ルクアだ。
俺の洗脳の何が駄目だったのだろうか。
7歳の頃、ルクアに毎日「好きだよ」とか「大人になったら結婚しよう」とかいっていたのがまずかったのだろうか。俺がそれを言い忘れた日には、ルクアの機嫌が凄く悪くなるから、途中からは俺も嫌々言わなければならないようになった。10歳になっても、俺が毎日欠かさず言い続けるのは流石にまずい。ルクアの親に聞かれたときになんて言えばいいかわからないし、もう愛の囁きは恥ずかしいからしたくない。
これら全てがまあ子供だしそういうものなのかなと放置し、徐々にエスカレートしていった結果である。やきもちを焼いているんだな、可愛いで済む問題で放っておいたら、取り返しのつかない事態になっていた。
そして何より、俺はルクアに逆らえない。お前は男だろ!しっかりしろよとかいってられる次元の話では無いのだ。
あいつ、ステータスがやばかった。
ここで今一度俺のステータスを見せよう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
田中祐介 年齢10歳
【レベル】1
【体力】1
【筋力】1
【知能】1
【精神】1
【コミュニケーション力】52
能力 《時間操作》
スキル 《ゴブリン語》
称号 《虚言癖》《大嘘つき》《ゴブリンの親友》
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
まあ、ゴミだ。色々俺なりに進歩した部分もあったが、それも本当に雀の涙ほどである。時間操作は途中からコツを掴んで少しだけできるようになった。ザワールドにこだわっていたから無理だったのだ。
流れる水の時間の速さをいじって、ほんの少しだけ流れを遅くできるようになった。無念。それだけである。そんなことよりも、ゲゲインと会話したおかげでコミュ力が上がったのがでかい。ついでにスキルと余計な称号も増えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ルクア 年齢10歳
【レベル】1
【体力】697
【筋力】890
【知能】500
【精神】2300
【コミュニケーション能力】7
能力 《最果ての鼓動》《
スキル 《自動回復Ⅱ》《状態異常回復Ⅰ》《能力値向上Ⅲ》
称号 《選ばれし者》《異常な執着心》
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔王かな。
とてもレベルが同じだと思えない。最果ての鼓動ってなんすか。
このステータスみると、俺の勇者設定が厳しいという現実がそろそろ見えてきた。格好いいヒーローにはなれないと、男はいつしか気付いてしまうものなのである。
……ということもあって、色々俺はルクアに逆らうことができないのだ。
俺の部屋のドアが急に開いた。
するりと、まさに自分の部屋かのように入ってくる姿。親ですらノックしてから入ってくるのに……。
「リンクスく~ん、お話しよ」
ルクアだ。もう何も言わずに、どうどうと俺の部屋に上がり込んでくるのが通常となっている。
俺は床で寝転がっていて良い感じにうとうとしかけていたのだが、ルクアの姿を視認すると飛び跳ねた。
しかし相変わらず、とても十歳とは思えないほど可愛い。
精巧に作られた人形とは正にこのことを言うのでは無いだろうか。
肌は白磁の陶磁器のように曇りなく、若干カールが掛かっている髪も西洋人形のようだ。
ただ、明るい紫色の髪に影が付き、トパーズのような黄金の目にハイライトが消えてしまったように感じるのは俺だけか。いつも絶やさない笑みの表情もどこか不気味だ。一言で言えば、『洗脳済み』を体現している。
「う、うん……」
完全に油断していたから、情けない返事をした。
…………この際はっきり言おう、ルクアが怖い。
このごろ、遊びと称していきなり抱きついてきたり、過度なスキンシップが以前に増して増えてきたような気もする。可愛い女の子に抱きつかれて、最初は俺も嬉しかった。嬉しすぎて、ずっとこのままでもいいとおもっていた時期もある。実際、ルクアは歳を重ねるごとに、超絶美少女になっているのだ。
しかし、違う。これは確かな違和感。ルクアはガチの者だ。今も気づけばルクアは俺の手を握っている。
「リンクス君、私たちいつになったら結婚できるのかな」
「……いつだろうね」
「十歳だと結婚できないこの世界が憎いね」
「……まあ、それは置いておいて、さあて!今日もみんなで遊ぼう!」
「二人で遊ばない?ずっと、二人きりで」
「…………」
この村には学校なんてものはない。
薄々わかってはいたが、おかしな村である。中世風ファンタジー世界にそこまで期待する俺が馬鹿なのか。
どういう教育をされるのかは結局のところは家族に委ねられるのだが、もっと根源的な人間の情緒とかはよほど家庭環境が悪く無い限り、学校で教えられたり、集団生活の中で育まれるものなのだ。
結局今日はルクアと二人で遊ぶことになった。来世も来来世もこうしていられるといいねという胸熱告白を頂いたけれど、かなり肝を冷やされた。
自分もルクアに似たようなこと言っていたから同罪である。
夜、ママを抜いてパパと二人きりで話をした。
そろそろ学校に行った方が良い時期だろう。俺が学校にいけばルクアも必然的についてくる。
「パパ僕、魔法学校的なものに行きたい。どうせあるんでしょホグワーツ」
俺がパパに学校に行きたいというのはこれで三回目になる。前の世界では、学校潰れろとか、そもそも不登校だったりしてたのが夢のようだ。
「ほんとに?」
いつになくパパは真剣な顔をして俺に聞いた。
「うん」
「前にも言ったと思うけどこの歳から学校行って、友達できるのかとか心配じゃないかい?この家じゃろくに勉強とか教えてこなかったから多分学校の授業のスピードについて行けなくなるよ。ホラ、ママもリンクスと一緒にいたいって言うだろうし、パパもまだリンクスと一緒にいたいなあ~~~。知ってるかい、学校に行くと辛いんだよ。毎日朝早くからおきなくちゃならないし、先生から殴られたりするんだ。もしかしたら虐められちゃうかもね。学校行ってもその後がたいへんだよ~、何か目指している職業とかあるのかな。学校が終ったと思えば、その後は仕事だよ。人生を社会の歯車で終っても良いのかな。その点この村は良い。ベーシックインガムとかいう制度で働かなくても済むから。まあほかの村人は農作業とか牧畜してるけど、働きたいのならパパの知り合いの人のもとで働くというのも有りだね。リンクスも農作業に興味あるでしょ?
あぁ、そうだいつものパン屋さんで働くのもいいと思うなぁ~~~~。でもあそこの給料はちょっと安いんじゃないかなw」
「グギギゴゲゲガ!(うるせえくそおやじ!)」
こんな感じで、俺が学校の話題を振ると全力で阻止してくる。
まあだが、パパもルクアの被害者と言えば被害者なのである。
俺が隙をみせると、下着や服が消える。そうなれば、パパが僕に自分の服とかを貸してくる。俺が着たから当然その服も消える。パパの服も無くなる。
この負の連鎖が起きてからは、俺もパパも、常に自分の服を監視しておかないと気が済まないようになった。
そしてパパは、俺と一緒に居間で寝転がって、半分寝ながらお菓子をむさぼっていたのだが、ルクアの奇襲にあうようになって完全にびびってるのだ。
「ん、ママどうしたんだい。今いい感じに悟り開いてるから起こさないで……って、え?
ル、ルルルルクアちゃ、ちゃん……?え……リンクスを横取りするな?ちょっとおじさん困ったなあ。たはは。こまったこまった……こらこらリンクス、こんなところで寝てないでルクアちゃんと遊んできなさい」
これは、昼寝を邪魔された親父が、息子にルクアを押しつけて逃げようとする図である。
こまっているのはこっちも同じなのだが、ルクアがこうなってしまったのは俺のせいだから結構申し訳ない。
そろそろ俺は行動を起こさなければならない。
後五年……いや三年以内になんとかしなければ、進化したルクアに俺が堕とされてしまうだろうから。
可愛く成長したルクアに俺が洗脳されるのは一種のプレイとしてはありか。
「よし、こんなときだ。こんなときやることは一つしかない『攻略本』をみるのだ!!!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます