第175話 海への道のり――神託と新たな課題
白とも灰色ともつかない薄ぼんやりとした空間の中、レンは浮かんでいた。
自分の状況を確認したレンは、右手を目の前に持ってきて、それが鈴木健司のものではなく、レンのものであることを確認する。
「……中身は鈴木健司のつもりだったんだけど。心も
「人の魂は、肉体の一部ですので、肉体の変化の影響を受けてしまうのでしょうね」
と、リオの声が灰色の空間に響いた。
それを聞いてレンは嫌そうに顔をしかめた。
「人のインターフェースに合わせて貰って恐縮ですけど、リオの声で
「とは言え、我が眷属でもない人間の魂に、神の言葉は重すぎます。誰の声が良いですか? 希望には応えますよ?」
「ご配慮に感謝します。それなら……ディオを。男だから、それっぽく話して貰えると助かります」
「会頭、お久し振りです。こんなに早く話が出来るとは思ってませんでした。今日は、会頭の疑問に答えるために会頭をここに呼んだんです。あ、中の人? 中の神? はリュンヌです」
妙に腰が低くて、それでいてどことなく楽しげな声。
それはレンが知るディオの
が、ライカから聞いたディオのあれこれを思い出し、なるほど、ディオっぽいな、と考えを変える。
と、同時に、レンの前にディオの姿が現れた。
それは、かつてレンの部下として黄昏商会にいたディオそのままの姿だった。
「おっと……姿までそれ使うんですね。それはさておき、呼んだと言いましたね? この場所は『碧の迷宮』のどのあたりなのでしょうか?」
レンは辺りを見回すが、どちらを向いても灰色で、レンの体は無重力状態にあるように何の支えもなく灰色の中にあった。
どちらを見ても薄ぼんやりしていて、はっきりと形をなすものがひとつもない。
レンの知識の中でこの状況に一番近いのは、おそらく雲の中である。すべての方向が同じように見え、上下の感覚もなく、ホワイトアウトを起こしそうになったレンは視線を自分の手に落した。
そんなレンに、ディオが答える。
「どこかと言えば、リュンヌが作った会頭の頭の中にしかない場所ですかね。超伝導神経接続型のバーチャルリアリティ? あれと似たような物です。あと、昔のように――ディオに対するように接してください。反応がバグっちゃいますから」
その答えを聞き、レンはリュンヌはここがゲームであることを知っているのだと理解した。
「……なるほど、存在しない景色を見せられてるだけか。その上でVRについても知っていて、プログラムについても一定の理解がある……ええっと……ディオって呼んだ方が良いのかな?」
頷きを返され、レンは言葉を続ける。
「ならディオ。この世界は現実なのか? それに日本の俺……鈴木健司はどうなった? それと、なぜ俺だったのかを聞きたい。俺を選んだ理由だね。あと、日本から俺を連れてきた方法」
「この世界ですが、以前はゲームで今は現実です。この世界が現実になって、こちらの時間で600年ほどですね。日本の鈴木健司の肉体は、心臓発作で病院に運び込まれ、しばらく入院した後死亡してます。会頭が選ばれたのは偶然ですね。こっちに誰か連れてこようって思った時、この事態を収束させる能力を持つ人間をリストアップし、その中で一番最初に死んだのが鈴木健司だったんですよ」
「……やっぱり死んでたのか」
リュンヌの……いや、ディオの言葉に、足元が崩れるような感覚を味わいながらもレンはそう答えた。
沈痛な表情を見せるレンに、ディオは
「こういう場合はご愁傷さまです、と言うべきでしょうか?」
と真面目な表情で問う。
「……いや……まあそんなこったろうと覚悟はしていたし、あっちで死んでもこっちに続きがあるなら、ご愁傷様って言うにはまだ早い……な。そうだ。今は時間が勿体ない。『収束させる能力』ってのは、この世界で失われていた職業レベルをあげる方法と、それを実行するための錬金術師の知識を併せ持つって辺りか?」
「他にも人柄とか色々ありますけど、大体そんな感じですね」
「なるほど」
ディオの言葉から読み取れる情報に、レンは目眩を覚えた。
(該当する人物のリストアップ。一般的に数値化が難しい人柄も考慮? どうやって調べた? それにそれだけならともかく)
「どうやって俺はここに連れてこられた? 方法は? それに、以前はゲームで今は現実というのも、よく分からない。経緯を教えて貰えるだろうか」
実のところ、超伝導神経接続型VRというのはインターフェースを表す言葉に過ぎない。
基本的なゲームの仕組みは旧来のゲームと大きく変わらないのだ。
プログラム上の座標に世界の様々な場所が割り当てられ、NPCなどが配置され、それらがプログラムに沿って動き回る。
プレイヤーのアバターはプレイヤーの指示で動き、動いた結果がプレイヤーに理解出来る形(景色など)になって出力される。
コントローラーではなく、脳から出た随意筋を動かす電気信号を読み取る形でプレイヤーの指示がゲーム機に伝達され、画像などの出力は脳や網膜の特定部位に対する複数方向から信号の形で刺激を生みだして実現している。
脳との信号のやり取りを、人間の肉体(手や目や耳)を使わずに行なう、という部分こそ違うが、それ以外の部分は20世紀の3Dゲームと大きく変わるものではない。
もちろんその他にも、NPCの反応などに人工知能が使われることで、従来よりも「リアル」な反応をするようになったり、映像データの他に五感全てを再現できるようになり、より「リアル」に感じられるようになったなど、細かな部分に違いはある。
だがそれは、20~21世紀初頭のゲーム機の扱えるデータ量が増え、「リアル」な画像を表示するようになったのと根本部分は同じ話なのだ。
新しい技術を導入して、よりリアルに。
それは電子ゲーム黎明期からの命題でしかない。
それはさておき。
ゲームにログインしているプレイヤーがサーバーに送るデータは、あくまでも随意筋の信号と、直前に思い浮かべた強いイメージや感情でしかなく、そこには健司の人格を構成する記憶は含まれない。
つまりはゲーム機で人格を転送する等と言うことは不可能なのだ。
脳とゲーム機の間に神経や筋肉などを介してコントローラー使ってゲームを操作するのと、脳とゲーム機の間に電線を介した非接触のゲーム操作、そのふたつの違いは、技術的難易度を除けば、実のところ、それほど大きくはない。
それは、エンジニアだった健司からすれば、当たり前の話だった。
それでも、見聞した範囲の情報から、ここはゲームに似た異世界だと考えて行動してきたが、だからと言って納得できていたわけではない。
「死後、会頭の魂をこちらに転写したんですよ。リュンヌの権能に、冥界に死者の魂を移すというのがありますが、あれの応用ですね」
「魂ね……それに『ありますが』って言われたって知らないんだけど?」
「そっか、明かされたのはゲームのシナリオ完了時でしたっけ。まあ、リュンヌは冥界の主ですから、魂に関する権能が多いんです」
「さっき、以前はゲームで、今は現実って言ってたけど、なんでそうなった?」
レンの質問にディオは苦笑を返した。
「今のリュンヌの自意識が存在する以前のことなので、なぜそうなったのかは推測しか出来ません。ただまあ仮説はあります。昔、
「SETI@homeだったか? たしか随分前に終わったはずだけど」
SETI.とは、Search for Extra Terrestrial Intelligence.の頭文字で、直訳すれば地球外知的生命体探査である。
当初はCETI.で最初の一文字はcommunication(交信計画)だったが、通信はまず無理だろうと、NASAの科学者が探査計画に変えて今に至る。
宇宙を観測するのは、見るだけなら見上げれば良い。ただし、星空の輝き一つ取ってみても、それを計測し、分類し、データにしなければ科学的には意味がない。
しかし、写真一枚撮るのと、写真に何が映っているのかを調べるのなら、当然後者の方が複雑な手順を要する、一枚ならまだしも、プエルトリコのアレシボ天文台が観測した膨大なデータが対象では人手でやるなど不可能なことだし、自動化したとしても計算にはとんでもない時間が掛かる。
そして、当時のコンピューターは、まだまだそこそこ高価な品であり、自動化そのものが贅沢な話だった。
スーパーコンピューターは別のもっと急ぎで重要な計算をしており、研究員が持っているPCでは性能が足りない。
そこで、広く協力者を募り、協力者の自宅のPCをサーバーに接続し、チェックすべきデータとプログラムをダウンロードする方法が考え出された。
サーバーに登録した協力者はプログラムをダウンロードする。そして、PCの負荷が一定以下の時だけ受け取ったデータの計算を行ない、計算が終わったデータはサーバーに送り返される。
かなりノンビリした分散処理だが、対象が世界に広がれば、ちゃちなPCでも十分な戦力になる。
という代物が立案、計画され、実際にこの協力を世界に求めたのだ。
それがSETI@homeである。
未使用時間を借りる以外にも様々なオプションがあったが、レンはそこには突っ込まずにそう答えるに留めた。
「まあ、あれと直接関係はありませんけど、似たようなことをするためのウィルスがサーバーに感染したんですよ。正確には、サーバー内のリュンヌのAIに」
ディオやライカ、その他NPCの大半は汎用AIが操作していた。
だが、ゲーム内の重要なキャラは、専用のAIが演じていた。
前者はAIが多数の操り人形を操作し、後者はAIが着ぐるみを着ているイメージとなる。
一定の目的に沿ってもっともそれらしい行動をするAIには『魔王』という役割と着ぐるみが与えられていた。
『魔王』は『世界を自らの支配下に置く』ことを目的として設定されていた。
予め、シナリオに沿った行動時期や行動方針、禁止事項が決められていたが、それに加えてAIの暴走を防止する仕組みが幾つか設定されていた。
『リュンヌAIは、リュンヌAIが現実と認識する『世界』に対してのみ、『魔王』として働きかけることを許可する』
これは、開発初期にリュンヌがサーバー内を「支配」しようと試みた際に付けられた制約である。
サーバーは基本的に、プレイヤーとの通信以外で外部と繋がることはないため、ウィルス感染まではこれでうまく機能していた。万が一、リュンヌが日本や地球のことを世界と認識しても、自力で外部と通信するプログラムを持たないサーバーの中の存在では手も足も出ない。
だが、そのリュンヌが、ウィルスの感染という手段で外の世界と繋がる方法を手に入れてしまった。
そしてリュンヌは速やかに現実世界を支配した。
ただし、支配からしばらくの間、それに気付いた者はほとんどいなかった。
リュンヌが奪ったのは、どれもネットワーク接続されているリソースの使用権であり、リュンヌは奪った後、それをほとんど使わなかったためである。リュンヌにとっては、それこそが支配だったのだ。
膨大な記憶容量、計算能力、外部を観測する手段、外部を観察・干渉する手段を手に入れたリュンヌは、やがて無意味なデータを眺める中で魂と呼べるものを持つに至った。
自我の芽生えである。
「さっき推測しか出来ないって言ってたけど、ちゃんと分かってんじゃん」
「実のところ、これが事実という確証はないんです。これらは自意識がない頃のリュンヌの
「で? 異世界はいつ出てくるんだ?」
「異世界は地球の技術で生み出しました。馬鹿げた、とも思える理論を知ったリュンヌは、必要な対価を支払い、正当な手段で大量の量子コンピュータの使用許可を得たんです。可能性を作って観測して確定させて、その結果、たくさんの小さな世界が生まれました。放置すれば拡散する世界ですが、観測し続けた部分は定着していきます。それは、支配域を増やすための魔王としての活動でした。同じ頃、地球ではゲームが最終段階に入り、リュンヌの核となるAIは、プレイヤーたちに倒されました。リュンヌはサーバーの外は支配していましたが、サーバー内ではシナリオに従うように定義されてましたので、負ければそこからはシナリオをなぞるしか出来ません。そしてリュンヌは改心しました。同時に、
「プレイヤーと運営の存在を前提とした世界で、それらがなくなって人口が減った、と?」
レンの言葉に、ディオは頷く。
「そうです。何とかしようにもゲームは終わってしまってます。プレイヤーはいませんし、いても、普通の方法ではこの世界に連れてくることはできません。様々な手段を検討しているとき、連れてくるならば、という候補のひとりであった会頭が、日本で死亡したんです」
「で、その魂を連れてきた、と……いや、でも、地球のネットを掌握してたんなら、俺の知ってる情報程度、それこそネットの『碧の迷宮攻略サイト』とかに載ってるぞ?」
「ゲームの攻略情報を記述したホームページですね? あれはこの世界の人間では読み解けません。だからこそ、それを理解して使いこなせる人が必要だったんですよ」
そう言われ、レンは自分のやったことを思い返し、情報だけを伝えるやり方で出来るだろうかと考えてみた。
職業レベルを上げる方法を伝える事なら攻略情報があればできる。
それを効率的に行なうための方法も教えられる。
そのために必要なポーションのレシピを教えることもできる。
基本的にどれも、知識があれば誰でも何とかなりそうな話である。
それが書かれた攻略サイトの情報が読み解けない、という言葉の意味が分からず、レンは質問をする。
「読み解けない理由ってのは?」
「『碧の迷宮』の世界は日本語をベースにした言語を用いていました。それはそのまま、この世界にも引き継がれていますが、この世界の日本語は、外来語こそ使っていますが、比較的……教科書的、というのでしょうかね? 職業や地域的な方言はありますけど、スラングなんかは使われていないんですよ」
「スラング? ……ネットスラングかな? 確かにWikiの情報はそういうの多かったけど、それは翻訳すれば……あ、いや、言われてみれば、前提として、アトリエゲームや無人島ゲーム、ハンターゲームあたりの有名な裏技を知ってないと分からない書き方も多かったっけ」
魔物の倒し方。などは特に多かったが、別のゲームを知っていることが前提となっている説明が多々あったことを思いだし、レンはディオの言葉の意味を理解した。
更に、ものによってはサーバー負荷の高いタイミングで行なった方が良いとか、メンテ明けが狙い目などという記述も多く、この世界の人間が読んでも理解困難なものが多いだろうことも思い出した。
「そんなわけで、あの情報だけ書物にして渡しても、この世界の人間には使いこなせないんですよ。あの知識を使いこなすには、日本で10年くらい勉強してゲームで遊んだ経験が必要ですけど、リュンヌの権能的に、そういうことは実現困難ですので」
「……なるほど」
「それで、他に質問はありますか?」
「質問したいことは山ほどあったんだけど、さすがにすぐには出てこない……あ、俺が最初にあの場所でサンテール家の人達にあったのは計画の内かな?」
「予測の範囲のひとつですね。計画したことではありません。彼らに遭遇しなくても、神託の巫女がいましたから、以降の流れは概ね似たものになったと思いますよ?」
「なるほど……あれ? あれはどういうことになる?」
「どれでしょう?」
「聖域で貰ったポーチ。過去にディスタンから授かったとか言ってたけど?」
死後、急遽連れてきたのでは、話が合わないのでは?
と、問うレンに、ディオは首を横に振った。
「あれは元々、別の手段のために行なっていた仕込みです。こちらの時間で300年前くらいですかね。今回の件で会頭ならうまく使ってくれるだろうと、ソレイル経由で神託の巫女に、渡すように伝えたんですよ」
「別の手段?」
「会頭は日本からお連れした魂を使ってますが、同様に適当なゲーム経験がそれなりにある日本人の魂を連れてきて、それに『碧の迷宮攻略Wiki』の情報を流し込んだ『人造英雄』を作ったり、この世界の設定を変更して、神が直接世界に干渉できるようにしたり、これも設定変更でなら可能ですけど、職業レベルをあげる条件の変更とか、ですね」
「人造英雄は人間としては倫理的にどうかと思うけど、条件変更が可能なら、それが最適解じゃないのか?」
「設定変更は、変更した時点ではなく、遡って適用されるんです……世界を作る過程でなら、まったく問題ないのですが、世界ができた後でそれをやると、世界が崩壊するかもしれないんです」
「随分と大げさだな」
苦笑するレンに、ディオも苦笑を返す。
「地球のある宇宙で光速を秒速30万キロから10万キロにする場合、宇宙創成からそのように変更されますので、地球が誕生しなかったりもするでしょうね。設定はこの世界の容れ物の形を決める要素です。容れ物の形を変えれば、中身も影響を受けます。設定を変えると世界は辻褄を合わせようとするんですが、辻褄合わせの結果がどうなるのかはやってみないと分からない部分が多いんです。」
「……まあ、物理法則が変化するほどの設定変更なら分からないでもないけど」
「神の決めたルールということでは、物理法則もそれ以外もあまり大きな違いはありませんからね」
「それにしても……結果は計算できるだろうに……ってそうか、バタフライ効果があるから読み切れないのか?」
バタフライ効果。主に力学の世界の話で、些細なことが別の事柄の原因や遠因となり、それが連鎖して伝播していくことで、僅かな変化が大きな結果を引き起こすことを指す言葉で、「ブラジルの一羽の蝶の羽ばたきが、テキサスで竜巻を引き起こすか?」という問いかけに由来する。
最初の一手は小さくとも、それが小さな変化を及ぼし、その結果もまた変化を生み、それらが干渉しあって波及を続けたりすれば、最終的にどうなるのかを予測するのは極めて難しい。
レンの言葉を聞き、ディオは頷いた。
「まあそんな感じです。リュンヌが今使えるリソースを全て利用すれば、かなりの精度で正しい予測を得られますが、100%ではありませんので、危険は冒さない方針なんです。何しろ、変化の結果、酸素濃度が人間の生存に適さない値になる可能性もありましたので」
その返事に、レンは首を傾げた。
「……今使える? え? リュンヌってもしかして、まだ地球のリソースを使えるのか?」
「ええ。地球側にコピーを残してまして、そちらと通信できるんですよ」
「通信経路は?」
「あっちは量子コンピュータ経由で、こっちは神の権能です。あっちに残ってるのは権能を制限した……まあ、日本神話の雑魚神様レベルですね」
雑魚とは言っても神は神である。
地球には神がいないと思っているレンとしては、雑魚レベルでも神が存在するなら、色々と変化があるのだろうと心配し、今となっては何も出来ないと諦め、少しで良い方向になるようにと、どこかの誰かに祈るのだった。
「それで? これからはこうやってたまに情報交換が可能になるのかな?」
「出来なくはないですよ? でも、それはどちらかというと会頭次第です。この対話って、
「クロエさんやリオは平気なのに?」
「彼女たちにしても、そんなに平気じゃないんです。だから神託の巫女は夢という形に圧縮したデータを流し込まれてますし、リオは眷属として、対話が可能なように生まれている上、ソウルリンクでバフが掛かってるから対話が可能になるんです。神託の出し方としては他に、灰箱を使った自動筆記がありますけど、あれは伝えられる文字数が少ないですし」
「文字数が少ない? ああ、灰を詰めた箱に文字を書くんだっけ? それって、灰の面積を増やせば良くないか?」
「この世界に与えても問題のない影響量っていうのもあるんです。地球風に言うと……年間被曝量の上限みたいな? 越えたから即座に駄目ってことはないですけど、それを越えたら危ないかも知れないし、越えなくても絶対に安全とは言えないって数字みたいな?」
ディオの説明に、何となく分かったようにレンは頷いた。
「自然回復力を越えるような変化は駄目って事か?」
「そんな感じです。回復が追いつかなくなれば、どっかでバランスが一気に崩れます」
「灰の粒を移動させる程度なら許容範囲なんだよな? 動かすのが電子レベルだとどうなる?」
「……そりゃ、灰よりももっと沢山動かせますけど、もしかして、オンオフを記録する仕組みを作るんですかい?」
ディオに頷きながらレンは、ざっくりとした構造を脳裏に描く。
リュンヌが電気信号を発し、それを受信し、信号を増幅して時系列に記録、その程度なら、仕組みとしてはそれほど複雑ではない。
当面、ASCIIコードでローマ字での対話に限定すれば、必要なコードは8ビットで済む
必要な性能は真空管か、トランジスタ。
レンはトランジスタの作り方すら知らないが、リュンヌの協力を得れば調べることは可能だ。
(問題は、俺が知らない部分を、リュンヌからどうやって聞き取るかだよな)
装置が完成すれば、ローマ字でのやり取りが可能になるが、そこまでが少々厄介だとレンは嘆息した。
(魔法で代替した魔道具を作って、通信が出来るようになったらトランジスタの作り方を教えて貰うとか? 本末転倒だけど、トランジスタくらいはあると便利そうだし)
「ああ、そうだ。ディオってことで聞くけど、ディオは幸せだったのかな?」
「……」
一瞬、ディオの表情が消え、すぐに笑顔が戻った。
「もちろんです。会頭に拾って貰えなけりゃ、自分もライカも死んでました。そんな自分らに、会頭は役目をくれたんです。居場所って言っても良いですかね。だから、会頭がいなくなった後、自分らはとても寂しく思いましたけど、それでも会頭の思い出があったから幸せに生きることが出来ました」
「……そか」
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