第103話 海への道のり――師弟

 ストーンブロックのレンガを使った建造物は極めて堅固であり、滅多なことでは破損しない。

 そして、英雄の時代の石造りの建物は、基本、ストーンブロック製である。


 だから、街中の主要な建物は、英雄の時代に作られたものであることが多い。

 そんな中、クロエが目的地として選んだのは、やはり英雄の足跡が感じられる場所だった。


 石垣風の模様を付けたストーンブロックを積み、その上には白い漆喰が塗られたストーンブロックの壁が空高く続き、天辺にはストーンブロックと魔法金属を用いた柵に覆われた物見台。その屋根は黒い瓦。


「……多分、日本の城をイメージしたんだろうけど、塔にすると妙な感じだな」

「この塔は、魔王との戦いに備えて、英雄に頼んで作って貰った監視塔らしい」


 街の中央に聳える塔の高さは30メートルほど。この世界にある一般的な建物の高さから考えると、常識外れなほどに高いが、言い方を変えれば法隆寺の五重塔とだいたい同じ高さである。

 そしてその天辺からは、街を覆う壁の向こう、街道や森が見渡せる。

 結界杭があるから心配がないとは言え、魔物が近付いてきていることを先んじて知ることができるようにと作られた監視のための塔で、現在でも最上階には常時2名の人員が詰めている。


 それを見上げてレンは溜息をついた。


「へぇ、まあ遠目に見たときから、見慣れない物があるとは思ってたけどさ。それで、これは何て言う英雄が作ったの?」

「ハヅキノって英雄……知ってる?」

「ああ、うん……面識はないけど、有名な人だからね。城のハヅキノさんかぁ……姫路城とかを作ったのは聞いたけど……へぇ、街の中でもこういうの作ってたんだ」

「この塔には伝説があって、土地を与えられてからわずか四日で完成したと言われている……しかも、一日目にして、形はほぼ完成して残りの三日は表面を白く塗ったりとかだったと」

「まあ、土魔法と大工の職業持ちって話だからね。手際もいいさ。多分、ストーンブロックを積み上げて固定して、それと平行して内側に、他で作ってきたハシゴなり階段なりを入れていったんじゃないかな」


 自分ならそう作るけど、それだと準備ができていたとしても一日ではとても終わらない、と苦笑するレンに、ライカは


レンご主人様も負けてはおりませんわ。オラクルの村の塀などは短期間で仕上がったではありませんか」


 と声を掛けるが、レンはそれは違う、と答える。


「俺のは砂利やなんかを元に塀を作っただけだから。ストーンブロック工法と比べると長持ちしないし、全然別物だよ。あの程度、素材が十分にあって、ポーションの補充にも心配がないなら難しいことじゃないし」


 近所の屋台で買った、ミカンに似た果物を摘まみながらクロエは不思議そうに首を傾げた。


「そういえばレン、聖域ではなぜ家を作らなかったの?」

「普通の石の壁だと壊したりする魔物もいるからね。分厚くしたり、ストーンブロックを使う手もあるけど、あの時点では魔力回復ポーションが作れるか分かってなかったから、そのやり方じゃ下手すると魔力が尽きる。それなら手持ちの炸薬ポーションを使うのが最適だと思ったんだ。それに、一目であの川原は水没するって分かったから、川原に建物は作りたくなかったというのもあるね、かと言って森の中には入りたくない。だから行き先は岩山の中しかなかったんだ。そういえば、あそこって、あの後どうなった?」

「綺麗に清めて、入り口も作り替えてる。マリーから硬化ポーションが欲しいと言われて、少し置いてきた」


 聖域の状況と、レンが穴を開けるのをソレイルは知った上でやらせていたことなどを神殿に伝えた結果、そういう方向で話が進んでいるのだ、とクロエは答えた。


「なるほど。あのまま放置というのも申し訳ないかな、と思っていたんだ」

「なら、帰りにまた寄ろう。ストーンブロックのレンガとか石材があると、きっとマリーが喜ぶ……レン、塔の天辺にあるのって何?」

「天辺? 瓦かな?」


 瓦自体はこの辺りでも普通に使われているが、形状はやや異なる。

 そんなに珍しいのかとレンは塔の屋根の部分に目をこらすが、下から見上げるので、見える範囲は限られる。


「違う、あっちから見えるやつ。金色の」

「金色っていうと……まあ、シャチホコだろうね……ああ、やっぱり」


 クロエの言う位置から見上げると、金色のシャチホコの尻尾だけが見えていた。

「シャチホコ?」

「確か、体は魚で顔は……虎……タイガー系の魔物? そんな感じの空想上の生き物で、火事になると口から水を吹き出して消してくれるっていう言い伝えがある、建物のお守りかな? 効果はないんだけどね」

「魔物っていうのが気になるけど、火事にならないなら神殿にも付けたい」

「火事よけの効果は迷信だよ? 俺たちの世界には金のシャチホコで有名なお城があったんだけど、焼け落ちたことがあるからね。それにそもそも神殿の建物って大半が石造りだから、そこまで火事を気にする必要はないと思うけど」

「そう……残念」




 幾つかの建物を眺め、レンが名前を知らないプレイヤーたちの話を聞く。

 さすがに600年となると、ストーンブロックの建物以外は殆ど残っていない。

 それでも600年前のプレイヤーの足跡が残っていることにレンは驚かされた。

 そうやって一通りの観光が終わると、クロエは神殿に足を向けた。


「すぐにバレるんじゃないのか?」


 レンがそう尋ねると、クロエは首を横に振り、エミリアには外で待つように告げる。


 フードを被ったままクロエが神殿に入る。が、神官の目にも止っているはずだが、誰もフードを下ろすようにと注意もしない。


 神への接し方、感覚が地球とは色々違うのだ。

 この世界の神様はとても分かりやすく現世利益と天罰を与える。だから、祈りの方向も感謝の方向も職業それに関することが多くなる。


 仕事上のトラブルがあると知られると不味い立場の者などは顔を隠して祈ることもある。

 だから、フードを深く被ったまま祈りを捧げていても、誰も気に留めない。


 加えてクロエは護衛を引き連れている。

 どう見ても良いところのお嬢さんであるクロエに不躾な視線を向ける者はいない。

 いたとしても、即座にラウロ麾下の護衛がその視線を遮り、視線を合わせて殺気を飛ばせば慌てて目を逸らす。


 だから、神の像の前で静かに祈りを捧げるクロエの邪魔をする者はひとりもいなかった。




 翌朝、まだ暗い内に一行はバローネ、ベルテ、アレンギの村に立ち寄って、結界の様子を確認しつつキエザの街を目指した。

 なお、途中のベルテの村で一泊するのが一般的な馬車のペースである。


 キエザの街に入ったところで、ラウロが提案がある、とクロエに話しかけた。


「キエザの街の宿が未定であるなら、当家の別宅……まあ兵士達の訓練施設を兼ねた物だが……がある。人数的には問題なく宿泊できるがどうだろうか? 守るならその方が易いのだが」


 クロエはラウロの提案に対して、全員が泊まれるのであれば、と頷く。

 宿には特に拘りはないらしい。


 この一帯はバルバート公爵の管理区域になっており、キエザの街は公爵の配下の貴族が治めている。

 村にはそこまでの設備はないが、街であれば、宿や領主邸に泊まらなくても済むように別宅が用意されているのだ。




 別邸に到着すると、ラウロはレベッカとジェラルディーナを呼び出した。


「レベッカとジェラルディーナはキエザの出だったな。この街でなら交代要員も確保出来る。交代で半日時間をやるから家族に会いに行くと良い」

「いーんですか? マジ感謝っす」

「ありがとうございます」


 折角の機会だからとラウロが一時帰宅を勧めると、ふたりは嬉しそうにそう言った。


 街道を移動するのは貴族と行商人、冒険者くらいのもので、基本的に普通の平民が離れた街や村に足を運ぶことはない。

 護衛がいてもそれは危険な行為であり、また、護衛を雇うには相応の費用も掛かる。コネがあれば行商人の馬車に便乗できなくもないが、危険となれば冒険者も逃げ出してしまうため、いざという時の覚悟が必要となる。

 だから、街や村から離れてしまうと、こういう機会でもなければ、家族の顔を見ることもできないのだ。


 そして、食堂でお茶を飲んでいたライカに、レベッカとジェラルディーナのシフトの変更の話が届くと、ライカはレベッカを呼び寄せた。


「あなたのお師匠様はこの街にいるのでしょう? 会わせていただけますかしら? ああ、あなたは立ち会わなくても構いませんわよ? ただ、ライカがこの屋敷に滞在していて、会いたいと言っている、と伝えて貰えればそれで」

「え? でも師匠は狩りに出てるかもしれませんよ? あーしと違って仕事熱心ですから」


 いや、待て、とレベッカは自分に言い聞かせた。

 何かがおかしい、と。


「校長先生? あの、あーし、師匠のこと、お話ししましたっけ?」

「いいえ? でも分かりますわ。あなたにはトリスターノと同じ癖が幾つもあったもの」

「師匠のこと、ご存じだったんですね?」

「言わなかったかしら? 確信したのはあなたの腕を見た時ですけど、まあ、あの子がお師匠様になってるとは驚きましたわ……それにしても、10年経っても癖が直っていないのは頂けませんわ。少し注意してあげないと」

「……待って、待ってください。え? あーしの癖から師匠に気付いたというのは良いです。確かにあーしの弓は師匠の真似ですから癖から何から真似してます。でもですよ? なんで師匠がこの街にいるって分かったんですか?」

「ああ、それは別にあなたを見て気付いたわけじゃありませんわ。単にトリスターノが十年前にここに住んでた事を知っていただけです」

「ええと? つまり校長先生は師匠と昔なじみ?」

「そう言ってます。初めて会ったのは40年前になりますが、10年ほど前にたまたま立ち寄ったこの街で再会しましたの」

「10年前っていうと、あーしとジェラルディーナが弟子入りのお願いをしてた頃っすね」

「あら、ジェラルディーナさんもあの子の弟子なの? でもそういえば、あの頃はまだ弟子を取ってなかったわね。弟子を育てることで成長できることもある、と教えたのを覚えてますわ」


 ライカの言葉に、レベッカは、腕組みをしてなるほどと頷いた。


「あの頃、何回お願いしてもダメだったのが突然弟子入りを認めるって言われたんすけど、校長先生のおかげだったんすね」

「そうとは限りませんわ。それにしてもあの子、弓はともかく、槍まで教えてましたの? ジェラルディーナさんは槍使いでしょうに」

「ジェラルディーナも最初は弓を習ってましたけど、判断の早さ、周囲の状況把握のうまさから、接近戦の方が向いているだろうと師匠に勧められまして」

「あの子、槍はそんなにうまくなかったと思うんだけど?」

「あはは、槍の腕と考えるとそうっすね。だから師匠が教えてくれたのは無拍子と間合いの取り方で、ジェラルディーナの槍は別の人から基本を習ってましたね」

「そう。適材適所ができるようになったのね。そこは褒めてあげないといけませんわね」

「あの……ところで校長先生と師匠はどういうご関係で? あの子、とか、普通言いませんよね、あんなオッサンに」


 レベッカの質問に、ライカは慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、レベッカは思わずそれに見惚れた。


「あの子、トリスターノは私が教えた弟子……生徒かしらね。40年前に基本と訓練方法だけ教えたんですけど、10年前に会ったときは一端の弓使いになってましたわ」

「師匠の……師匠?」

「ええ、だからあなたは私の孫弟子になるのかしらね?」

「おばあさまと呼ぶっすか?」

「蹴るわよ?」

「ごめんなさいっす」


 低い声で蹴ると言われて即座に謝罪するレベッカは、空気の読める弓使いだった。


 そしてそんなやり取りはラウロ邸の食堂で行われていた。

 使用人は見聞きしたことをよそで話したりはしない。

 だが、よそではなく、ラウロやファビオに問われれば素直に答える。

 だから、すぐにライカとレベッカの会話の内容はラウロ達の知るところとなった。


「ライカ殿はトリスターノと知己がおありなのか」

「そのようですな。レベッカ達も知らなかったそうですが」

「……偶然なのか?」


 護衛対象とも、護衛する側とも共通の知人がいると知り、ラウロは何か裏があるのではないのかと考えた。

 普通の感覚であればそのように考えるのはむしろ当然である。が、今回に限れば的外れである。


「40年前からの知己ともなれば、偶然以外のなにものもございますまい。此度の視察についてその頃から知っていたとすれば、それこそ神託が必要になりましょう」

「しかし、トリスターノは平民とは言え、弓の使い手としては国で有数の腕前。ヤツが昇爵を拒んでいたことも考えるとそこに何らかの……」

「お役目柄、全てに疑問を持つ姿勢は正しいと存じますが……良いですか? ……あの真面目一徹のトリスターノですぞ?」

「…………そうだったな……しかし、会談をするというのなら、その場に誰かを同席させたいな」

「使用人でも十分とは思いますが、そこまで仰るならレベッカとジェラルディーナのどちらかを同席させることに致しましょう。知っている相手なら違和感にも気付きやすいでしょう」


 弓の名手、トリスターノ。家名はない。

 それもそのはずで、彼は単なる狩人なのだ。

 その名が知られるようになったのは、彼が35歳の頃の出来事に起因する。

 狩人仲間の挑発に乗って、鳥の群れの半数ほどを射落としたのが切っ掛けだった。

 狩人同士のくだらない出来る出来ないの言い合い――飛ぶ鳥の群れの半数をひとりで射落とせるか――から、ならばやってみせると言うだけなら単なる愚か者だが、トリスターノは群れの半数(全数は不明だが、見ていた皆が、半分以上は間違いなく落とした、と証言した)を射落として見せた。


 群れの数は個体数は30以上。

 鳥の群れは、一羽が狩られても残りは群れの状態を維持して飛ぶ。

 魚も鳥も弱い生き物が群れを作るのは、そうやって捕食者が他の誰かを食べている間に残りが逃げるための生存戦略である。

 狩人が端から順に落として、落とした獲物を拾うのを後回しにすればかなりの数を落とせそうなものだが、相手は仲間が落とされてもそのまま飛び続ける生き物である。むしろ、仲間が落ちれば群れを崩さない程度に速度を上げたりもする。


 獲物は鴨の一種だった。

 時速50キロほどで巡航している群れの端から順に落とされれば、群れは可能な範囲で速度を上げる。

 結果、ついていけない個体は淘汰されるが、時速70キロ以上まで速度があがれば、群れ本体はすぐに飛び去ってしまうため狩りはそこで終わり、半数など落とせるはずもない。


 というのが皆の予想だったが、彼は『目にも止らぬ早業』を披露して見せた。


 妙な音が響き渡り、直後、群れを見ていた者の目には、射られた矢が空に模様を描くのが映った。次いで、落下する鳥たちが空を彩る。


 狙う時間などなかった筈だ、一体どうやったのか、と大勢が騒ぐ中、トリスターノは


「素早く狙って射っただけだ。だが2割は外した。まだまだだ」


 と答え、実際に残った矢と落ちた獲物の数から、それがはったりではないと分かると、それは彼の評価を押し上げることに繋がった。

 結果、彼の評判が領主の耳に届いて召し抱えるという話にもなったのだが、トリスターノは、誰かに命令されて射るのでは腕が鈍る、と頑として首を縦には振らなかった。


 良くも悪くも、そんな真面目で不器用な彼の性格を聞き知っていたファビオは、だからトリスターノをジェラルディーナやレベッカの師匠として遇するように使用人達に指示をした。




 ライカが会いたがっていると聞いたトリスターノは、予定されていた狩りを知合いに任せ、いつもの狩人の姿でライカの前に立った。


「ライカ師匠。お久し振りです。私の弟子が何か不調法をしでかしましたでしょうか?」


 弓使いとして師匠に会いに来た以上、話をするのは訓練場で、というトリスターノの希望で、ライカ、レン、クロエ、フランチェスカ、レベッカは訓練場でトリスターノと対面していた。

 トリスターノの問いに、レベッカは慌てて首を横に振り、ライカもそうではないと否定する。


「いえ。レベッカの腕前は、ヒトとしては及第点ですわ。ジェラルディーナの腕は見ていませんから分かりませんけど」

「なるほど……それで、今回は私にまた弓の極意を見せて頂けるのでしょうか?」

「見たいなら見せますわ。でもその前に……レベッカの腕を見た時、一目であなたの弟子と分かりましたわ。あなたの癖まで丸ごと真似ていましたもの」

「自分にあったやり方を模索するようには言っておるのですが……」

「そういう事ではありませんわ。10年前にあなたに指摘した癖がそのまま受け継がれてることについて問うているのです」


 得心がいった、とトリスターノは首肯した。


「幾つかはご指摘を入れて直しましたが、一部はそのままとしています。ヒトとエルフの違いでしょうか、ライカ師匠は弓を射るときの視野が考えられないほどに広いのです。ヒトの身ではその再現は難しいと判断した結果です」

「あら、ちゃんと答えを用意しているのね。でもひとつ訂正するわ。あなたが視野の広さと言っているのは、視野ではなく感覚の広さ。それも技能に寄るものなの。だから、癖を矯正して訓練を行う方がお勧めですのよ? ただし、レベッカの腕を見た限り、あなたの工夫は別の結果を齎しているから、完全に無駄だったというわけでもないみたいね……さて、それでは射って、あなたの今の腕を見せてご覧なさい」

「条件は?」

「あなたの好きになさいな」

「承知……では」


 トリスターノは箙から矢を5本抜き、二本を左手に、二本を右手に、一本を口に咥えて的に向かって立つ。


「あら、そのやり方はレベッカから聞いたのかしら?」

「ええ。これは私の知らないやり方ですから、師匠の前で試してみたかったんです」


 トリスターノは可能な限り最大限の素早さで、かつ丁寧に矢を射る。

 レベッカは、己が師匠の腕前を目の当たりにして、さすがと感心するが、それはレベッカの目で追える速度であり、ライカのそれとは比較にならなかった。


(昔は師匠の域に達するのは無理だと思ってましたけど、今ならあーしが5年続ければ、届くと感じるっす)

「……如何でしたでしょうか?」

「あなたの努力を認めましょう。ヒトの短い時を使い、よくここまで鍛えました」

「ありがとう……ございます」


 トリスターノは俯きがちに絞り出すようにそう答えた。


「では、たゆまぬ努力を続けたあなたにふたつ差し上げましょう」

「はい? 一体何を?」

「ひとつは技を。あなたが目指すべき高みを、再びその目に焼き付けなさいな」


 ポーチから瞬時に弓と箙を取り出したライカは、ろくに構えもしないままに弓を引いた。


 それは、かつてレベッカの前で見せた再現だった。

 レベッカは声もなくそれを見つめ、トリスターノは感極まったように声を出す。


「……おお……まさに……これは40年前に見せて頂いた神速を越えております……いや、素晴らしい物を見せて頂きました」

「その目に焼き付けましたね? では、こちらも差し上げます」


 ライカはレンとクロエに作って貰った訓練用のポーション一式が入った箱をトリスターノに手渡す。


「こ、これはもしや」

「知っているようですね。そうです。これがあれば力尽きた後も訓練を行えます。あなたが使うも良し、新しい弟子に使わせるも良し。好きになさいな」

「感謝します。次にライカ師匠とお会いするまで精進を尽くします」

「次も10年後くらいかしらね? 少しマシになったら見てあげますから、黄昏商会か暁商会経由で連絡なさい」

「はい。必ず」


 こうして、10年ぶりの師弟の再会は無事に終わり、レベッカから話を聞いたファビオは、トリスターノに二心なし、とラウロに報告するのだった。

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