第92話 石畳の道のある村

 コンラードとの面会で、オラクルの村に関する比較的正しい情報を入手したラウロ達は、相手があまり礼儀作法にうるさくはないと聞いて、その日の午後にはオラクルの村まで足を運んだ。


 村を前にしたラウロとファビオ、それに護衛に選抜されたジェラルディーナ騎士爵こと『神速の剛槍』は、城壁を模したような塀を見上げて、これが村の壁なのか、と首を傾げつつも、馬に乗ったまま村に入る。


「壁を見た時は驚いたが……中は規模の小さな村だな……でかい建物はあるようが」


 ラウロの呟きにファビオが頷く。


「ええ。学園のための村と言うことで、やや偏りはあるようですが……しかしラウロ様。足元を見てください」

「ん? うむ。作られて間もない石畳か?」

「ええ。ラウロ様は大きな街にいらっしゃることが多いのであまり目にする機会はなかったかと存じますが、村に石畳の道など普通は作れません。暗渠の蓋部分は木の板。それ以外の泥濘がひどいところに砂利や砂を撒く程度です。しかし、見れば道の脇には側溝らしきものまでありますな」


 石畳に使えるような石材は貴重だ。

 なんであれ、石材は貴重、と言うべきだろうか。

 まず、畑では滅多に取れない。元から埋まっていた石がたまに出土するので、ゼロではないが、石畳の道を作れるほどは出土しない。街や村の外に目を向ければ、石切場などという便利な場所がなくはないが魔物がいて危険であるし、輸送の問題もある。アイテムボックス機能の付いた鞄類は食料輸送が第一優先で、建材の輸送などに回す余裕はあまりない。それに石を運ぶなら鉱石の方が優先度が高い。

 だから石畳の道というのは、英雄の時代の不思議な石材で作られた古いものか、他から剥がしてきた石材を並べ直して作ったものというのが一般的なのだ。

 作られたばかりの小さな村の道が石畳に覆われているというのは、その辺りを考えると異常なことと言える。


「なるほど……言われてみればそうだな。そうなると、外の壁も異常ということか」

「土魔法を極めると巨大な石を出すことが出来ると聞きますし、古いエルフは特殊な魔法を操るとも聞きますので、何か我らの知らぬ技なりがあるのやもしれませんが」

「神託の巫女様がエルフを同行したいと望み、それに王家が許可を出すほどなのだ、何かはあるのだろうよ」

「ラウロ様、失礼ですが間違っておられます。王家は神託の巫女様に許可を出せません。神託の巫女様はただ神の声を伝えるのみではなく、自由にあり、世界の姿を神に伝えることを望まれた存在です。その在り方には誰であっても口を挟んではなりません」

「王家に従わぬなら、俺は神託の巫女様を斬るべきなのだろうか?」


 真剣な表情でそんなことを口走るラウロに、ファビオは冷静にそれを言ってはならない理由を告げた。


「なりません。王家より、神託の巫女様とエルフのレン殿の護衛を任じられたこと、お忘れなく。王家も、神託の巫女様が王家に従わないことを許容しています。王家が許容していることについて、臣下が異を唱えることになりますぞ」

「む……ならばこの件は忘れることとしよう」


 ジェラルディーナ騎士爵こと『神速の剛槍』――最近では『剛槍の聖女』などと呼ぶ者もいるが、彼女は平民からたたき上げの兵士である。

 騎士には男性が多いが、女性の騎士も少数ではあるが存在している。

 サンテールの街にもタチアナのような女性騎士がいるが、一般的に女性騎士の役目は、貴族の女性の警護である。

 もちろん、それだけということはなく、必要であれば魔物との戦いにも駆り出されることもある。

 魔物と戦う力があるのならば、そこに男女の別を言っていられるほど、人間がいないのだから仕方ない。


 だからラウロが戦いに赴く際にジェラルディーナはそれに同行し、皆が倒れ伏していく中、最後まで槍から手を離さず、皆の命を守りきった。

 もとより、その突きの鋭さから『神速の剛槍』などと呼ばれていたが、倒れた仲間を庇って自ら敵の攻撃を引きつけつつ敵を確実に仕留めていく姿から、『剛槍の聖女』『剛槍の舞姫』などと呼ぶ者も増えつつある。

 さて、そんな彼女ではあるが、極めて常識的な平民思考を身につけている。

 故に


(えええっ! ラウロ様、神託の巫女様斬ったらダメですよ! ファビオ様、止めて差し上げてぇーっ!)


 などと、外見の平静を保ちつつも内心は大変なことになっている。

 ジェラルディーナの精神の均衡が崩れきる前に学園に到着したのは、誰にとっても僥倖であった。


「ほう……これもまた見事な石造りだ。この村で使われる資材があれば、王都の補修も捗るのではないか?」

「ラウロ様。民も土地も王家のものであり、我々は王家から様々なものをお借りしています。そして、何を与えるのかを決めるのは王家の専権事項です。その王家が、ここに手を出さぬと判断されている以上、その判断が誤りだと取られかねないご主張はどうかと」

「……うむ……そうか、不敬であったな」


 学園の形ばかりの校門――学校には正門があるべきだよね、と、レンが適当に作った代物――を通り抜け、騎乗したまま校内に入る。

 校庭にいるのは、主に戦闘系の職業を育てている生徒達で、しばらくそれを見てあと、ラウロはあれがそうか、と呟く。


「どうかされましたかな?」

「いや、あそこで訓練を行っている者たちだが、余力を残さずに素振りをしておろう? 職業を育てる方法について、コンラードが言っておったのは事実だったのだな、と思ってな」


 ふらふらになるまで技能を使った素振りを行い、力尽きかけたらポーションで回復させ、訓練を再開する。

 ラウロの知る常識からは大きく外れた行動なのだが、実際にここではそれで結果を出しているのだから、間違っているとは言えない。


「しかし、あのようにフラフラになってしまっては、万が一のときの対応が遅れそうですね」


 這うように、ポーションを詰めた箱に近付く冒険者風の生徒を見て、ジェラルディーナは感想を漏らす。


「……しかし、その疲労すらポーションで回復可能であるなら、極限まで鍛えるやり方も間違いとは言えぬ。なるほど、ここまで無理ができるものなのだな」


 この世界の訓練は、まず、新兵であれば大量の荷を持たせて限界まで走らせる。

 倒れるまで走らせ、倒れても走らせ、とことん走らせる。腕立て、腹筋なども同様のレベルで行なわせる。

 そうやって、体作りが一定に達した後は、技能の間合いを体に叩き込むための訓練を行う。だが、その段階に達した者であれば、最低でもあと一回戦える余力を残させるのが常識だ。

 もちろん、時には全力を出し切る訓練も行うが、それを行うには軍人であれば上司の許可を取り、他部署との調整が必要となる。

 地球に於ける実弾訓練でも、訓練で実弾すべて使い切ったりはしない。それと同じ話である。

 この世界では、軍の即時対応能力が、人間の体力という可視化しにくいものに頼る分、常に一定の余力を持って運用されるのが常であった。


 だから習熟度が一定以上になるとただでさえ技能レベルがあがりにくくなるのに、そこに輪を掛けるように訓練量が不足することになりがちなのだ。


公爵領うちもこのやり方を取り入れるべきだろうか? ジェラルディーナ、忌憚のない意見を述べよ」

「あ、はい……訓練時間が圧縮されそうですが、これを長く続けると、体はともかく、心がキツそうかなと思いました」

「心? 普通の仕事でも朝から晩まで忙しいのは同じだろうに。体の疲れをポーションで癒やせるのなら問題はないのではないか?」

「ジェラルディーナ。もう少し思ったことを順序立ててラウロ様に説明せよ」


 ファビオにそう言われ、ジェラルディーナは焦りつつも言葉を探して並べた。


「ええとですね? 普通、何をするにしても疲れたら休みます。農作業でも、書類仕事でも、疲れたら休憩です。でも、あの訓練は……」


 ジェラルディーナは校庭で行われている訓練に視線を向けた。


「疲れたら無理矢理回復させて訓練を続けています。たとえばラウロ様が書類仕事をしていて、書き物のしすぎで指と目と首と肩が痛くなって、そろそろ休憩、と思っていた所、ポーションを与えられて、まだまだ仕事は出来るんだと言われて、それが延々と続いたらどう思われますか?」

「……本当に急ぎの時は助かるが、常にそれでは辛いな……なるほど、それが心がキツいということか」

「ええ。ですので、ここの生徒のように、学園にいる間に一定の成果を出したいなど、時間制限があるときにはよいと思いますが、常時それを行うのは長期的には兵の疲弊に繋がりそうです……もちろん、有効な訓練であることは否定のしようもありませんので、時々であれば積極的に取り入れるべきと思います。そうですね……一ヶ月に一回、『全力で技能を使いまくっても良い日』として、ポーションを使うのが義務ではなく、ラウロ様のご温情であるとして皆に伝えれば、むしろ皆もその日を心待ちにするようになるのではないかと」


 ジェラルディーナの言葉を聞き、ラウロはなるほど、と頷いた。

 と同時に、その横で、ファビオも、いつまで経っても平民気分の抜けないジェラルディーナにしてはまともな事を言う、と、感心したような表情を浮かべた。

 それを見て、ジェラルディーナは、取りあえずの危機は脱したか、と胸をなで下ろすのであった。




 学園の玄関前で馬から下り、横木に馬の手綱をかけて、三人は校内に入る。


「……狭くはあるが、随分としっかりとした建物だな。生徒の大半は平民なのだろう?」

「そうですね。ですが、王立です。時には貴族の子弟を受入れる事もあるそうですし」

「なるほど。そうであれば、この程度は当然か……だが、それにしても平民が多い場所に、常時魔道具が置かれているというのは大丈夫なのか?」


 あちこちにある魔道具のランタンを見て、ラウロがそう尋ねると、後ろから返事があった。


「問題ないですわ。うちの生徒達も、協力すればあの程度は簡単に作れますもの」


 その返事を聞いた途端、ジェラルディーナは弾かれたように、声とラウロの間に入り、斜めに背負った短槍を引き抜いて相手に対して構えた。

 ファビオは動かず、他に誰かいないかと周囲に目を配る。


「あら、早いですわね。でも、折角の速度も、槍では相性が悪いでしょうに」


 突きつけられた槍の穂先に焦る様子もなく、ライカはその穂先を指先で摘まんで、そっと逸らした。


「突然声を掛けさせて頂いた事、大変失礼しました。私、王立オラクル職業育成学園の校長を務めているライカと申しますわ」


 穂先を摘ままれたジェラルディーナは何が起きたのか理解出来ずにダラダラと冷や汗を流した。

 見えてはいた。

 ライカの動きは普通に見えてはいたのだが、穂先を摘ままれるその時まで、何をされるのかが理解出来なかったのだ。

 そして、そっと穂先を逸らされ、初めて相手がそうしたと気付いた。それはつまり、ライカが同じようにそっとナイフでも突き出していたら、ジェラルディーナは既に死んでいただろうことを意味する。


「き、危険です。ラウロ様、ここはお引きください」


 しかし、ジェラルディーナの恐怖はラウロには正しく伝わらなかった。

 そう、彼らからもライカの行動は見えていた。

 ただ、目の前の鬱陶しい穂先を逸らしたその姿に、違和感も何も覚えなかったのだ。


「何を慌てているのだ? まあ待て」

「し、しかしっ!」


 そこで、周囲に誰もいないと判断したファビオが一歩前に出てライカと対峙した。


「……ジェラルディーナ、控えよ……ライカ殿ですな? あ、いや、コンラード殿から、ここなら我々が突然訪問しても問題はないと伺っていたのだが、それにしても先触れもなく足を踏み入れてしまって申し訳ない。こちらにおられるのはラウロ・バルバート公爵。近く予定される視察にて護衛の任を王家より賜った者である」

「ええ、話は聞いておりましたわ。ですが、それならまず神託の巫女様のところでは? なぜこちらにいらしたのでしょうか? それとも、既に神託の巫女様にはお会いした後でしょうか?」

「……いえ、たしかにこちらが先ですが……なぜ、そうお思いに?」

「あなた方が先に神殿に行ったのであれば、神殿から、学園に連絡があったでしょうから」


 王立オラクル職業育成学園と神殿の関係は極めて良好であるのだ、と暗に伝えるライカに、ファビオはなるほど、と感心したように大きく頷いた。

 そして、ようやくにして思い至る。

 明確にこれを守れと言われているのは神託の巫女とレンだけだが、そこに数名の同行者がいるという事実に。


「この言い方が失礼になったら申し訳ありません。今回の視察に同行されるのはあなたですか?」

「ええ、その予定ですわ。学園運営に必要なことですのよ。具体的には護衛の皆さんについて伺ってから調整という話でしたので、まだ確定ではございませんが、今回視察に向かうのは、私、ライカ・ラピスと、元黄昏商会会頭にして、現暁商会会頭のレン様。同行者として神託の巫女様ことクロエさんと、護衛兼付き人のエミリアとフランチェスカ。合計5名の心づもりですの。あなた方の人数と装備などをお聞きしてもよろしくて?」

「ええ、もちろんです。と言っても事前の通達の通りです。変更はありませんよ」

「ラウロ様とその部下3名という連絡は頂いていますわ。ただ、その部下3名の内訳が分かりませんので、せめて性別を教えて頂かないと、馬車や天幕の準備に差し支えがあると、エミリアさんたちと話していたのですけれど……あら申し訳ありません。こんな廊下で話し込んでしまうだなんて。応接室へご案内いたしますわね」


 ライカは一行を学園の校長室そばの応接室に通し、サンテール家から派遣されてきているメイドにお茶の用意をするように指示を出す。


 応接室までの廊下でラウロ達が見たものは、学園では一般的だが、学園外ではまだあまり普及していない魔道具の数々で、ラウロ、ファビオはその価値に顔色をなくしかけていた。

 ちなみに、唯一平静を保っているジェラルディーナは、単にそれらの価値を理解していないだけであり、もしも学園ができる前の魔道具の値段を聞けば、青くなり、魔道具には必要以上に接近しないようになっていたものと思われる。


「それではこちらをどうぞ」


 ファビオはライカに一枚の羊皮紙を手渡す。

 封もされていないそれを受け取り、ライカは首を傾げる。


「あら、私が頂いてしまっても良いものなのですか?」

「一応、同じ物を複数部作って参りましたので……まずは目を通し、何かご意見などがあればお願いします。あと、可能であれば、レンというエルフにもそれを見せておいて頂けると助かるのですが」

「……ええ、まずは私の方で内容を確認させていただき、問題がないようでしたら、勿論そう致しますわ」


 ファビオから受け取った羊皮紙を専用の台の上で開き、両端を固定して検分を開始するライカ。

 だが、検分も何もなかった。


 まず、最初に目に入る位置のタイトルは『護衛構想書』。

 計画書ではなく、構想だと述べている。

 たしかに、レンはまだ出発の日付すら決めていないので、現状で計画とするのは不都合があったのだろう。


 護衛計画書には、視察責任者が定めた旅程に従って旅程を進める。

 国から派遣される護衛は4名。

 まずはライカの目の前で柔らかいソファに腰掛けてそわそわと辺りに視線を向けているラウロが隊長となる。

 武器は何でも使えるが、強いて言うならやや短めの、柄の長い剣を好む。


 そして部下が3名。

 ひとりはラウロの副官たるファビオ・ガスト。

 子爵だが、貴族であるよりもラウロの部下であることを優先するような男である。

 武器よりも知恵で戦うことを好むが、戦いとなれば周囲全てのあらゆる物を武器とする。


 次がジェラルディーナ・ベルティ。

 平民から騎士爵になった女性。戦闘に関してはかなりの巧者である。

 かつての魔物との戦いでも、彼女が戦線を維持し続けたからこそ皆が生き残れたのだと評価されている。

 戦いの場で目端が利き、動きが速い。加えて動く際には迷いがない。言ってしまえばそれまでだが、戦いにおいて、それは得がたい資質なのだ。

 好みの武器は槍。今は短槍を持ってきているが、長いものも使えるし、技能的には突撃槍ランスも使える。


 そして最後がここにはいないレベッカ。

 家名はない。先の戦いの折、倒れた先輩の下敷きになって気を失っていたため、比較的軽症で済み、以降も軍人としての経歴を重ねた実力派。

 背が低く、見た目で侮られやすいのが玉に瑕。

 武器は短剣と弓を好むが、鍛えに鍛えた弓の腕前は、軍に並ぶ者がいない。


 弓の腕に並ぶ者なしという記述を見たライカのこめかみの辺りがピクピクしているが、幸いにしてか不幸にしてか、そこにはライカの表情を読み取れる者はいなかった。


「半数が女性なのは、クロエさんへの配慮ですわね? あら? でも、肝心の情報がありませんわ」

「何か不足がありましたか?」

「ええ、日程はこちらに合わせて頂きますので、期間がないのは良いのですが、それでも食料や宿を使うのなら相応の予算が必要になります。その予算の記述がありませんわ。それともうひとつ、移動手段が明記されておりませんわね。それと、これは念のための確認ですが、従卒を連れて行くとは仰いませんよね?」

「まず移動手段ですが、軍人が馬車の護衛に付く場合は騎馬で行います。それと、これは極めて秘匿性の高い任務ですので、従卒は連れて行きません。予算は、貴族が海までゆっくり進む場合の金額程度を考えています。最終的には国から出る金額内に収める必要がありますが」

「国から報酬と経費が出るのですね? それにしても騎馬ですか? 馬車の利用は想定していないと? 期間が不明なのに?」


 馬に乗るというのは存外に疲れるものである。

 乗馬のために馴致して鞍を付けた馬でも、人間は両足を使ってしっかりと馬にしがみつく必要がある。

 そして、時に馬は自分の都合で動くため、乗り手は常に馬の挙動に合わせてバランスを取らねばならない。

 人馬一体という言葉があるが、そういう言葉が生まれる程度に、それは希有なケースなのだ。


 ともあれ。


「数日ならともかく、半月以上を馬に乗って過ごせるのですか? 一応、街や村に着いたら二泊するつもりですから、連日ではありませんが……」

「そのための我々だ。お前達は守られていればそれで良い」


 ライカが懸念を口にすると、それまで黙って部屋の中を見ていたラウロが口を開いた。

 やや尊大そうな姿勢に見えるのはその長身ゆえだが、態度にそれが滲み出ているのはいただけない、とライカは溜息をついた。


「では、守られる立場としてお願いがございますが、聞いて頂けますか?」

「もちろんだ。これでも俺は領民に優しいと評判なのだぞ?」

「お噂は色々と耳にしておりますわ。ではお願いですが」


 ライカはそう言うと、ポーチから木箱を取り出し、テーブルの上に置いた。


「皆さんの職業レベルを上げた後での出発といたしましょう。このポーションは連続服用が可能ですので、技能を伸ばし切れていない方は、まずこれを使って訓練をしてくださいませ。十分に技能が育っているようなら、本校の生徒達と共に、職業レベルをあげるための試験を受けて頂きたいのです」

「……なるほど。これが、生徒達が使う訓練用ポーションか……だが、職業レベルをあげる?」

「皆さんの得意な武器に関する職業レベルを中級にしますの。私たちとしましても、護衛は強い方が安心できますもの……今日のご予定は?」

「可能ならレンというエルフに旅程を確認し、神託の巫女様へのご挨拶。その後はサンテールの街に戻って部下達に情報共有だな」

レンご主人様は、今日は『秘密基地』でお休みですわ。神殿側も日程を決めかねている部分がありますので、詳しいお話は明日以降でしょうか」

「ひみつきち? それはどのようなものでしょうか?」


 聞き慣れない単語にファビオは首を傾げる。


「森の中の洞窟ですが、場所は秘密なのだとか。周囲の目から逃れられる場所だとも聞いております。将来に向けた訓練と仰っていましたわ」


 リオが見付けた洞窟に間借りして、スローライフの一端を楽しむレンだったが、ライカはそれを、人目を避けて行われる何かの訓練だと考えていた。

 ただ、ノンビリだらだらスローライフする練習をしているのだ、と理解しているのは、洞窟の主であるリオだけだった。


「訓練か。さすがに責任者だな」

「さて、それではレンご主人様にはお話を通しておきますので、明日、もう一人のレベッカさんも連れてきて頂けますでしょうか? 王立オラクル職業育成学園流の教導を体験して頂きますわ」

「他にも部下を連れてきているのだが、そいつらも育てて貰うわけにはいかんか?」


 ラウロの言葉に、ライカは首を横に振った。


「いえ、育成にはポーションが必要で、ポーションは有限ですわ。ですから本来なら生徒を増やすには事前の準備が必要になりますのよ」

「ラウロ様含め、合計4名の育成なら行って頂けるのですな?」

「ええ。前提としてその4名の職業と技能が十分に育っていれば、ですので、そこは予めご了承いただきたいですけれども」

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