第69話 英雄達が消えた理由

 ディオの墓前で手を合わせたレンは、NPCのディオとのやり取りを思い出していた。

 そこそこ賢いAIが、設定と状況から適切な言動を選択していると分かる、言ってしまえば見え見えな会話が多く、会話それ自体を楽しめるレベルにはなかったが、それでもディオはライカと比べると真面目な性格のNPCだった。

 レンとライカが素材を集めてくる間、店はディオが切り盛りしていたし、何なら錬金術師中級の腕でポーションを作ったりもしていた。

 と、そこまで思い出したところでレンは首を傾げた。


「あれ? なんでライカが番頭だったんだろう? やってたこと考えると、ディオの方が番頭っぽくないか?」

「どちらかを番頭にしようって話があったときにディオが言い出したんですよ。いつも留守番の自分より、そばでレンご主人様のお話を聞いている私が番頭になるべきだと。当時の私はいつもレンご主人様のおそばにいましたから……でも、ディオが色々覚えていてくれたおかげで、レンご主人様がご不在の間もスクロールに必要な素材やその他の稀少素材を集めることができたのですから、本当にディオには感謝してますわ」

「なあ、ライカ……ディオは、幸せだったのかな?」

「ええ……レンご主人様をはじめ、多くの英雄達が姿を消した後の混乱期、しばらくは必死に黄昏商会を守り、その後はレンご主人様に教えて貰った色々なことを書き残していました……そう聞くとつまらないとお感じになるかも知れませんけど、とても楽しそうに色々と書き留めていましたわ。いつもレンご主人様と一緒にいた私が忘れていたようなこともディオが覚えていたから、黄昏商会にはたくさんのレンご主人様の言葉が残っているのです。それは、私とディオにとって、こう言ってはレイラに怒られそうですけど、子供と同じくらいに大切な成果ですのよ」


 そうか、とレンは頷き、墓誌に書かれたディオの名前を撫でる。


「何にしても、待たせて済まなかったな。お前のおかげで色々助かってるよ。ディオ、ありがとな。それと、ただいま」

「きっと、レンご主人様のお戻りまで待てなかったことを嘆きながらも、喜んでいると思いますわ」

「ヒトとエルフだからな」


 ラノベや漫画などでは使い古されたネタではある。

 しかし、種族の違い、寿命の違いによる悲劇は、その渦中にあると中々に辛い、とレンは嘆息した。

 そしてふと思いついた。

 レンが消えた後、『碧の迷宮』というゲーム内にそれを解消する要素が加わった可能性がないか、と。


「ライカ、俺が消えた後、寿命を延ばせるポーションとかって作られたりしてないか?」

「私の知る限りでは、そうしたものはありませんわ。黄昏商会にはポーション関連の話は信憑性の低い物も集まってましたので、私が知らないのなら、ないのだと思いますわ」

「そうか……職業の上限は上級のままってことだよな?」

「……ええと……はい、多分」


 言い淀むライカに、レンは墓誌からライカに視線を移した。


「曖昧な情報でも構わないぞ?」

「正直、これは私達が集めた情報の中でも極めつきの眉唾ものですわ……その、魔王が倒れた後、英雄達が姿を消す少し前に流れた流説の類いとしてお聞きください……当時のエルシアの街の酒場の店員が聞いた話です。魔王が倒れ、リュンヌ様が神の座に戻られたことによってこの大地には平和が訪れ、英雄達は新たな冒険に旅立っていくことが定まり、神々はリュンヌ様帰還の褒賞として英雄達に幾つかの奇蹟を授けたそうです。ひとつが『れべるきゃっぷ』の解放。ひとつが、新たな大地で生きるための新しい種族と外見を得るポーション……後は明確な記録がありませんが……この地での不動産や財産がどうとかと魔王の城への門をどうとか……」

「ああ、なるほど。そうか……そういうことだったのか」


 レンはライカの言葉を聞き、理解できた、と頷いた。


(なぜ英雄プレイヤー達が消えたのかが謎だったんだよな……ゲームで言えば1面クリアだ。折角のユーザーを捨ててゲームエンドにするには早過ぎる。それなのに英雄達は姿を消した。なるほど、新しいマップが解放されて、プレイヤーたちは2面に引っ越したのか。これだけ作り込んだ世界を放棄するのは勿体ないから、手を入れて後で使うつもりだったのかもしれないな)

「今のことで何かお分かりになったのですか?」

「ああ、うん。英雄達が消えた理由が漠然とね……俺が戻ってきたのは、それこそリュンヌに召喚されたからって以外に説明付かなくなったけどさ……ところでレベルキャップが開放されたという情報について、何か関連する話はないか?」


『碧の迷宮』はキャラクターレベルが存在しないゲームだ。

 だから、通常のゲームにあるような上限レベルは300までだけど、ここからは敵も強くなるから『レベルキャップ』を開放してレベル600まで育てられるようにする、ということにはならない。

 この世界でレベルと言えば職業レベルのことで、だから『レベルキャップ』が解放されたと言うことは。


「『レベルキャップの解放』は、職業レベル上限が上がることを意味する筈だ。上級以上の職業の誕生と、新たな技能の追加みたいな噂話とか、或いは未知の素材の流通とか、その手の情報は伝わってないか?」

「上級以上があると? ……いえ、噂の類いはちょっと思い出せませんわ。アイテムなら未知のアイテムなら幾つか……ひとつは先ほどお伝えした新たな大地で生きるための新しい種族と外見を得るポーションです。実物を見た者はおりませんので、そういう物が存在するという伝承のみですが。あと素材としては……群青炎石、黄昏炎石、赤月炎石などの、炎石というものが流通しましたわ。これは黄昏商会でも幾つか確保していますが、ちょっと綺麗な石、以上の価値はないと言われています。他、幾つかの新しい武具があったそうですが、残念ながら実物は……」

「なるほど……ポーションは気になるな……それがあれば、例えば俺がヒトになることも出来るのかな?」

レンご主人様はヒトになりたいのですか?」

「ん? いや、別にそういうわけじゃない。エルフ以外になるって考えたとき、一番付き合いがあるのがヒトだから、最初にヒトって選択肢が出てきただけだ。今のところ獣人にもドワーフにもなるつもりはないな」


 現状、レンがヒトになるメリットはほとんどない。

 生まれてこの方ヒトだったから、という点を除けば、なってもよいと思える要素がほとんどないのだ。

 レンが理解している違いは、見た目、寿命、性欲の有無程度。加えて、エルフならではの精霊闘術の有無。

 長い寿命が苦痛かもしれないと思いはしても、だからと言って寿命を短くするというのは自殺と変わらないとレンは考えていた。

 また、それを置いても、ヒトになるメリットが非常に薄い。

 これが健司だった頃なら、性欲が弱いことに不満を抱いたかも知れないが、それに慣れてしまうと特に不都合はなく、むしろない方が楽とさえ思えているのだから尚更である。性欲がないのが常態化し、もはや、取り戻したいとも思うための性欲もなくなっているのだ。

 だから、精霊闘術を失って得るものが性欲では割が合わない、というのがエルフとしてのレンの偽らざる本心だった。


(その辺はエルフって生き物に変化した影響なのかも知れないけど、記憶と人格は継続してるっぽいし……それはさておき)

「ライカ、新しい職業レベル関連の話は後で詳しく聞きたい。頼めるか?」

「ええ、はい。後で情報を整理しておきますわ。それではそろそろ黄昏商会に向かいましょう。レイラが待っていますわ」




 少し歩いたところから、レイラが手配した黄昏商会の馬車に乗る。

 馬車は街の中を走るための小型のもので、外を走るためのものとは違ってそこそこ大きな窓も付いている。

 そこから王都の町並みを眺め、レンは溜息をついた。


「……はぁ……北門から墓地辺りはそうでもなかったけど、結構変わってるな」

「そうですわね。まだ王都がエルシアだった頃、この街は竜人の急襲を受けて、かなり広範囲の建物を再建していますので」


 結界杭は魔物を防ぐが、対象が獣人に属する竜人では何の効果も及ぼさない。

 そして竜人はネームドでなくてもそれなりに強い。


「それって、街並みがそれなりにでも残ってるのが奇跡じゃないか?」

「当時は英雄たちがいましたので、初撃こそ許しましたが、すぐに反撃が始まったそうですわ。私は留守にしていましたが、ディオたちがポーションを配って回ったと聞いています」

「そうか……それにしてもなんでここが王都になったんだ?」

「……魔王が倒れ、世界が平和になったことの象徴とするため、当時最前線に近かったエルシアに遷都し、それをもって新しい時代の幕開けとする。という話を聞きましたわ」

「まあ、昔から城はあったから王都にするのも……あれ? 当時は誰が治めていたんだっけ?」


 レンは首を傾げた。

 ここの城に入るイベントもあったことから、誰かが治めていたのは確かだが、レンの記憶には全く残っていなかった。


「当時はエルシア公が治めていましたわね……王弟にあたる方でしたわ……こう言っては何ですが、無口な方でしたから、印象が薄いのも仕方ないかと」


 NPCで無口では、確かに印象に残らないか、とレンが頷くと、馬車がゆっくり停車した。


「着いたか……へぇ、建物は当時の設計のままなんだ。お隣とかは……って、あれ、ライカ?」

「何でしょうか?」

「なんで、お隣にも黄昏商会の看板が掛かってるんだ?」

「英雄が消えた混乱期に、店を畳んで実家に帰るから、良ければ買い取ってくれないかと頼まれて買い取りましたの。うちもそこまで余裕はありませんでしたけど……ディオが「レンご主人様が『隣の土地は借金しても買え』と仰っていたことがある」と言っていたのですが……違うのですか?」


 それは日本の不動産に関する話としては良く聞く言葉だった。だとすれば、何かの機会にそれをディオに伝えてたのかもしれない、とレンは黄昏商会の看板を見上げ、溜息をついた。


「……覚えてないけど言ったかも知れない。その言葉は知ってる……だけど、良く王都の物件を買えたな?」

「英雄が消えて、手に入らなくなるだろう品物が高騰しましたの。中級のポーションなどは高く売れましたわね……当時はディオがいましたから、中級までなら放出しても問題はありませんし……ああ、勿論、上級はレンご主人様の貴重品入れアイテムボックスに保存しましたわ」

「なるほど……じゃ、レイラが待ってるみたいだから、そろそろ中に入ろう」


 レンが店内に入ると、レイラが頭を下げた姿勢で待っていた。

 その後ろにはずらりと店員が並んでいる。


「お帰りなさいませ、レンご主人様」

「うん、ただいま。まあ、外でそれをやらなかったのは褒めてやろう。王侯貴族とかならともかく、商人がこういうので目立っても意味がないどころか害悪だ」

「心得ております。さあ、会議室を準備しております。こちらへ」

「ああ、ところでレイラ、今日の目的は理解しているか?」

「はい……ただその前にその……ルシウス殿が是非お話をさせて頂けないかと……あいたっ!」


 レイラのその言葉に、ライカがレイラの頭に拳骨を落とす。


「なぜ、レンご主人様が今日ここに来られることをルシウス殿が知っているのですか」

「わ、私ではない! かあ様からの連絡を受けたルシウス殿がやってきて、レンご主人様が来るなら話をさせて欲しいと」

「……私からの連絡?」

「ふむ、ライカ。そういえば、レイラは早馬で移動だったな。それに追いつく連絡手段というのは?」

「鳩ですわ。レイラが用意した鳩舎の鳩を使うように指示をしましたのに」


 間違い電話のようなものか、とレンは納得した。


「ライカ、オラクルの村の件でサンテール領は王宮に連絡をするための鳩も預かっていたはずだ。どこかのタイミングでそちらの鳩と入れ替わったのだろう。ミスは発生する物だ。次から同じ失敗がないように徹底すればいい……で、レイラ」

「はい」

「ルシウスさんは会議室か?」

「いえ。レンご主人様がお会いしたくないと言われる可能性を考慮し、別室に」

「分かった。折角来てくれたんだ。話をしよう……レイラも一緒に話を聞いといてくれ。ああ、会議室の方はキャンセルな」

「畏まりました」




 レイラに案内されたのは、比較的小さな応接室だった。

 レン達が入ると、ルシウスが立ち上がってレン達を迎え入れた。


「いや、忙しいところ、わざわざ済まぬ」

「いえ、こちらこそ済みませんね、おかしな手紙送ってしまって」

「構わんよ。事実なら早く手を打たねばならないしな。しかし、私は物造りには疎いのでご教示賜りたいのだが、学舎を1から作るよりもそこに建物を追加する方が大変なものなのか?」

「ああ、それは条件や物にもよりますね……今回のは、村を知らない生活習慣が異なる者が書いた設計図というのが問題なんです。設計図には目を通しました。でも敷地の広さも形も傾斜も日当たりも、既存の建物の配置すら知らない人が書いた設計図ですから、そのまま全部を作ったら、既存の宿舎を取り壊す必要があります。そういう設計図なんですよ」


 渡された設計図が、実態に即していないのだ、とレンは主張した。

 再設計については敢えて触れない。再設計の大変さを伝えるよりも、設計に不備があって作れないのだ、という方が物造りの素人相手なら通じると踏んでのことである。


「なるほど……つまり、既存の建物を作り直すような設計図だったと」

「設計図通りに作ろうとすればそうなりますね」

「敷地を広げれば済むのではないか? 設計図の見直しは多少必要でも、ある程度期間を短縮できるのでは?」


 そこに思い至るルシウスの思考の柔軟性にレンは瞠目した。

 建物の設計について論じているのに、敷地を見直す方向に舵を切るのは、簡単そうでいて中々難しい。

 その柔軟さに、これなら正直に話しても理解されるだろう、とレンは方針を変えた。


「ヒトの家であればその通りです。一番の問題は、俺たちが彼らの家屋設計の禁忌を知らないということです」

「禁忌かね? それはどのような?」

「まず、それがあるかどうかも知りません。ないのかも知れません。ただ、ないだろう、と断じるだけの情報もありません……そうですね。これは俺が生まれたあたりの禁忌……というほどではありませんが、家を建てる時の留意点です。北東と南西に、水回りと玄関を作るべきではない、とされています」

「なぜかね?」

「昔は特に理由なく、そういう家に住む者が短命であるとか経験則として言われていたことだと思います。後付けでそちらの方角から悪いモノが出入りするからだ等と言われたりもしましたが、要は日当たりの悪い北東に水回りを置けば湿気が溜まりやすくなって、木造なら家が腐るし、家が冷えて病人も出やすくなる。日当たりのよい南西に水回り……特に台所を置けば水瓶の水や食料が傷みやすくなる、ということだと思います。まあ、俺がそう思ってるだけで根拠はないんですけどね」


 レンの話を聞いていたルシウスは感心したように頷いた。


「……なるほどなぁ。言われてみれば納得できる理由だ。経験則が口伝で伝承される内に歪んで伝わってしまうのもありそうな話だ。で、他の種族にそうした禁忌があった場合、配慮が必要ということか」

「ええ。でも、俺の生まれたあたりの家の設計図を見ても、単に、北東と南西に水場がないだけです。1000枚くらいの設計図を見れば流石に偏ってると気付くでしょうけど」

「設計図1枚からそれを知ることは出来ないか。当たり前だと思っていることについて、なぜこういう設計になっているのか、などいちいち書き込まぬだろうしな。そうなると必要なのは……」

「専門家、または俺たちが勉強するための時間ですね。ただ、現状を考えると勉強してる時間はありません。かと言って、専門家を呼んで1から設計してもらうのも時間が勿体ないです」


 レンの説明に頷きながらルシウスは、それではどうするのか、と目で尋ねた。


「これは外務そとつかさの仕事になりますが……各種族の入学希望者は、必要なら大工や細工師を連れてくるように連絡をしてもらいます。で、俺はヒト向けの宿舎の外枠……床、壁、天井だけ作って、後は素材を渡します。後は好きに改造でもなんでもしてください。ということですね。勿論、大工の手配が出来ないなら、ヒト向けの大工を用意しますので、その場でほしい物を発注して貰えば、内装に必要な部材は作れるようにもしておきます」

「……つまりあれか。設計図が使えないからこちらで作れる最善を用意する。弄りたいなら好きにして構わない。弄る余裕がないならヒト準拠の品を提供しよう、と?」

「そうです。自分たちの知ってる建物に似ていれば、北東に水場があるとかが気になるでしょうけど、最初から別物なら細かな違いなど気にならないでしょうし」


 レンの後ろでレイラがレンの言葉を外務そとつかさに伝えるためのメモを取るのを眺めながら、ルシウスは溜息をついた。


「あー……これは自分の勝手な想像で、外務そとつかさにも流していないのだが……今回の件、オラクルに人材を送り込む布石という可能性もある」

「最初から使えない設計図を渡して、苦情を言われたので設計できる人材を派遣しました。と? それはありがたい、是非来て貰いましょう」

「いいのかそれで?」

「ええ、校舎と宿舎は間に合わせますけど、その他に微妙な部分があるんです。それをやって貰いましょう。何なら、その大工の職業を育てましょう。うん、諸々作るのが学費代わりってことで」

「それならヒトも頼みたいのだが……さすがにこれ以上詰め込むのは無理だよな?」


 ルシウスが探るようにそう尋ねると、それまで黙って聞いていたライカが溜息を漏らしつつ答えた。


「ルシウス殿。既にサンテールから来た職人はレンご主人様が育てましたわ」


 しかも過去形である。

 これは無理か、とルシウスが鉾を引こうとしたところにレンが口を挟んだ。


「ヒトの家でも文句言わない大工なら、サンテールの街に戻ってる職人たちに育てて貰えばいいからオラクルでの受け入れの面倒もないし、卒業した冒険者に頼めばすぐに中級の条件の面倒な部分を満たせるし、その大工達が学費を体で払ってくれれば村の整備も一段と進むから、受けるのは吝かじゃ内です。でも、送り込むのはいいけど、暫くは返さないですよ?」

「暫くとは?」

「まあ学ぶ期間込みで一月半かな。育てるための素材も必要になるから、短縮は難しいですね」

「ふむ……順次、でも問題はないだろうか?」


 ルシウスの言葉にレンは顔を顰めた。


「サンテールとオラクルの人材の負荷が上がるので、何回もだとちょっと……あ、卒業した大工、冒険者、魔法使い、錬金術師がいれば、別の場所でも育成はできますから、そちらの方法を検討して貰えませんか? 冒険者と錬金術師は最低でも2名ずつは用意して下さいね?」

「本当に、学ぶための技術や知識を囲い込むつもりがないのだな」

「それやってヒトが滅びたら、この先、俺が生きて行く世界から彩りがなくなりますからね」

「分かった。それでは、卒業生を紹介して貰えるだろうか?」

「後でライカから連絡させます。で、ルシウスさん。その代わりと言っては何ですが、レイラの、というか、外務そとつかさの援護、お願いできませんか?」


 ルシウスは目を瞬かせ、肩をすくめた。


「既に援護はしているつもりだが?」

「あー、今回の話、ライカはレイラがいた頃の外務そとつかさなら、断っていただろうと読んでいるんですよ。それが出来なかったのは今残ってる連中の問題ですけど、国内貴族から圧力のひとつもあれば、それを理由に断れたかもと」

「そこまでは無理……あー、無理ではないがやるべきではない。外と内との線引きを崩すのは悪しき前例になる。ただまあ、誰かではなく皆が、という世論誘導程度なら協力しよう。それで手を打って貰えないか?」

「いや、期待以上の返事です。助かります」


 レンがそう答えながら手を差し出すと、ルシウスはその手を握るのだった。

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