第5話 NPCたちのお仕事

 エドたちのボストンバッグは、重量軽減が50パーセント、時間遅延は付いておらず、収納量も小さい荷馬車ほどの体積という性能だった。

 それでも旅に必要な様々な物が入っており、レンはそれらの中から、道具類を見せて貰っていた。


「これは炭を使うコンロですよね? で、オイルランタンに……結界棒はないんですか?」

「結界棒は貴重品じゃ。迷宮探索でもするのでなければ元が取れぬよ」


 結界棒は4本セットの細い棒で、それを地面に突き立てると、一定時間、魔物が入り込めない結界が生じる。

 魔物忌避剤は魔物の嫌う匂いを発する薬剤で、匂いを嗅いだ魔物が近付いてこなくなる効果があるが、魔物に姿を見られてしまうと魔物の状態によっては接近を防ぐことができない。それと比べてほぼ確実に魔物の接近を食い止めるため、ゲーム内で野営が必要なクエストでは結界棒が多用されていた。

 必要な素材の処理が少々面倒ではあるが、素材さえ手に入れば中級の錬金術師でも作成は可能である。


「……旅をしている時、野営時にはどうやって魔物から身を守るんですか?」

「野営はせんな。街や村は街道沿いに20キロに一つは作られておるから、町で休むのが普通じゃ。馬車が壊れれば別だが、そういう時は馬車を捨てて馬や徒歩で移動するか、馬車に籠城しつつ、馬車を直すかだな。最大10キロ程度歩けば街なのだから、普通なら生きて辿り着ける」


 この世界では、距離や重さ、時間の単位は日本とほぼ同じものが使われている。

 暦についてもグレゴリオ暦が用いられており、月、日、週などは同じ意味となる。

 プレイヤーがクエスト内容を理解しやすいように、敢えて単位を揃えているというのが、ゲームデザイナーの説明だった。

 異世界になったことで、その辺りが変化するかと思っていたレンだったが、エド達の話を聞く限り、大きな違いはなさそうだと判断していた。


「街や村は結界杭で守ってるんですよね?」

「そうじゃな。大量の魔石を消費するが、結界杭がなければ街は守れぬ」


 結界杭は結界棒の強化版ともいうべきもので、結界棒よりも遙かに広い範囲に結界を展開することが出来る。杭は人の背丈よりも高く、その中程に蓋があり、中に入れた魔石の力で動くようになっている。

 ゲームでは街や村、農地などは、この結界杭で魔物から守られていた。

 街道に結界杭で守られた避難場所を作れば安全なのではないか、と質問しようとしていたレンだったが、大量の魔石消費があるという話から、それが行われていない理由を察した。


「おふたりとも、お食事の準備が整いましたよ」

「おお、シルヴィ。すまんな。アレッタお嬢様の様子はどうじゃ?」

「まだ眠ってらっしゃいます。呼吸は安定していますし、熱もありませんので、じきにお目覚めになるかと思いますが」


 シルヴィはエドの部屋に調理器具を広げ、ボストンバッグに入っていた食料を使って、朝食の準備を整えていた。

 シルヴィたちが持っていた食材は長期保存が可能なものに限られており、今回は乾燥豆と干し肉と乾燥野菜と乾燥キノコを煮込んだスープと、カチカチのビスケットがテーブル代わりの丸太の上に並んだ。

 味よりもカロリー摂取が目的という食事で使用人向けにも見えるが、見ればアレッタの分として同じメニューが並んでいる。


「シルヴィさん、ありがとうございます」

「いえ、レン様は命の恩人ですし、この洞窟に置いて頂いてますから。そのお礼が粗末な食事でお恥ずかしいのですが」

「いや、食料は貴重なので助かりますよ。それじゃいただきます」


 レンはスープを一口食べ、その味と香りに驚かされた。


「うん、美味しいよ……キノコと野菜の香りが食欲をそそるね」

「お粗末様です。スープはおかわりがあるので言って下さいね」

「シルヴィ、儂にはスープのおかわりを頼む」

「はい、ただいま」


 エドは食事を素早く流し込む。

 その所作は、貴族の作法としてはアウトだが、平民としてはギリギリ下品にならない程度に洗練されていた。


「エドさん、早いですね」

「食事を手早く摂るのも、戦場いくさばの作法よ」

「エド様はまたそんなことを言って……レン様は真似しないで下さいね」


 賑やかな食事が終わると、レンは食器類に洗浄をかける。

 シルヴィはそれを見て、羨ましそうにため息をついた。


「レン様、それは水魔法ですか? 泡で包まれましたから、洞窟に入った時に私たちの体の汚れを落としてくださった魔法ですよね? 体の汚れを取るだけではなく、食器まで綺麗にできるとなると、使用人にこそ必要な魔法だと思います」

「錬金術の魔法だね。本来は素材や機材を綺麗にするための魔法だから、使える面積はそんなに広くないけど……錬金魔法は錬金術師の初級で覚えられるよ?」

「錬金術師になるには師匠について学ばないとなりませんから、使用人では難しいですね」

「何なら、街に帰るまで教えるよ? ここには神殿がないから、習得は街に帰ってからになるけど」


『碧の迷宮』ではNPCでも職業に就くことができ、制限こそあるが、技能を覚えて使うことができた。

 NPCを仲間にして仲間を育てながら旅をする冒険者も多く、オンラインぼっちシステムなどと揶揄されたりもしたが、ゲームの中でくらい人間関係に煩わされたくない孤高派や、やや痛々しいロールプレイを楽しみたいというエンジョイ勢には人気のシステムだった。

 NPCが死んだ場合、生き返らせるためのハードルがとても高く設定されているという問題もあったが、そこはプレイヤーの配慮でどうとでもなる問題だった。

 レンもゲームの中でNPCに錬金術と弓を教え、育てたNPCを使って『黄昏商会』という名前の商会を作り、最前線に近いエルシアという街を拠点にして、ポーションの販売でそれなりに儲けていた。


「……でも、私、お金はそんなにお支払いできません」

「いや、お金は取らないよ。俺がするのは何を勉強するかという情報を教えることと、必要な本と道具と素材を提供することだけだから」


 錬金術師の職業レベル初級になる訓練を受ける際、神殿で錬金術基本セットというものを貸与される。

 錬金術を学ぶには、その基本セットに含まれる錬金術大系という本の冒頭40ページを読み込み、錬金術基本セットに含まれる道具の使い方、素材の見分け方と収集方法を覚える必要がある。それらを覚えたらアルシミーの神殿というところで神様に錬金術師になりたいと祈りを捧げると、幾つかの技能が使えるようになり、借りていた錬金術基本セットを授かり、晴れて錬金術師と呼ばれるようになるのだ。

 本人にやる気があれば、それほど難しい話ではない。


「シルヴィ、いつまで洞窟にいるかは分からんが、折角なのだからご教示いただいたらどうだ? お前が錬金術師になれば、アレッタお嬢様はお喜びになると思うぞ」

「……そう、ですね。レン様、街に向かう方策が立つまで、ご教示の程、よろしくお願いいたします」

「うん。あと、レン様じゃなく、普通に呼んでもらえると嬉しいんだけど」


 シルヴィは小さく首を傾げて考え込み、合点がいったと頷いた。


「なるほど、立場が変化するのですから当然ですね。それでは……お師匠様?」

「いや、そうじゃなくてもっと普通がいいんだけど。レンさんとかレン君とか、呼び捨てでもいいよ」

「……いえ、錬金術を教えていただくのですから、その間はお師匠様と呼ばせていただきます」

「堅苦しいのは嫌いなんだけど……」

「駄目です。お師匠様か先生か、どちらかです。で、私のことはシルヴィと」


 肩を落とすレン。その肩をバンバンと叩きながら、エドは呵々とばかりに笑った。


「……痛いですよ」

「嘘をつくでない。この程度で痛いものか。レン殿は随分と鍛えておるではないか」


 エドはそう言って、レンの肩を軽く叩くとその二の腕を持ち上げ、目を細めて筋肉の付き方を確認する。

 レンが着ている水竜の革鎧はライダースーツのような作りで、胸や腰、腹部など、要所にプロテクターが付いているが、二の腕の辺りは筋肉の量が見て取れた。


「……ふむ。レン殿は細剣レイピアと弓を使うと言っておったが、それにしては、筋肉がいらん所にも付いとるようじゃの?」

「大抵の武器は使うだけなら使えます。細剣レイピアと弓が中でも得意ってだけです。でも、見ただけで分かる物なんですか?」

「まあ、長いこと色々な奴を見てきたからの。そうじゃな、その背中の筋肉だと、槍もそこそこ使うじゃろ」

「確かに以前、結構使ってました。本当にわかるんですね」

「なに。若手の指導をしておれば、自然と身につく程度の鑑定眼よ」


 エドはそう言ってにやりと笑うと、不意にその視線をアレッタが寝ている方に向けた。

 その仕草に、レンが気配察知の意識を向けると、アレッタのいる辺りに人が動くような気配を感じた。


「お目覚めのようじゃ。シルヴィ、見て参れ」

「かしこまりました」


 シルヴィは静かに立ち上がるとアレッタの部屋に向かう。

 そして、すぐにシルヴィとアレッタの会話が聞こえてくる。


「おはようございます。アレッタお嬢様。お身体に異常はございませんか?」

「……おはよう、シルヴィ……体は……大丈夫……そうですわね……えっと、ここは? 洞窟?」

「馬車が川に流されたのは覚えてらっしゃいますか?」

「……ええ。思い出しましたわ。エドワードと馬車の外にいた護衛や馭者は?」

「……アレッタお嬢様の他は、私とエド様だけです。川を流され、この洞窟の前に流れ着き、洞窟で暮らしていたエルフのレン様に救っていただきました」

「……そう……みんな無事だといいのだけれど」

「レン様はすぐそばにいらっしゃいますが、ご挨拶はいかがいたしますか?」

「……ええと、身だしなみを整えられる?」

「濡らした手ぬぐいと櫛ならご用意できます」

「それなら、お願い。あら? 服は泥水に浸かってたと思うのだけど綺麗ね?」

「はい。レン様は錬金術師でいらっしゃいまして、汚れを除去する魔法をお使いになります」

「へぇ……あ、ありがと。髪を持ってて貰える?」

「かしこまりました……お顔はこちらでお拭き下さい……宜しいようですね。それでは呼んで参ります」


 アレッタ達の声はすべてレンたちに聞こえていた。

 挨拶と聞き、レンは手ぐしで長い銀髪を梳き、椅子代わりの丸太から立ち上がった。


「レン様、主がご挨拶をしたいとのことです。お運びいただけますでしょうか」

「ああ」


 シルヴィの後ろを付いて数歩歩くとアレッタの部屋である。

 アレッタのいる部屋の入り口の向こう側に立ったシルヴィは、レンに向けて頭を下げる。

 普通なら扉を開くところだが、ドアがないためやりにくそうである。


「それではどうぞ」

「ああ、洞窟の中なんだから、そんな堅苦しくしなくても……」

「そういう訳には参りません」


 レンがアレッタの部屋に入ると、ベッドの前にアレッタが立っていた。

 身長はレンの顎の辺り。

 少し跳ねているが金色の髪は綺麗なストレートで背中の中程まで。

 初めて見る瞳は薄い茶色で、レンにはその表情が、少しいたずらっぽい表情に見えた。


「アレッタお嬢様、レン様です」


 シルヴィが声を掛けると、アレッタは頷き、レンの顔をまっすぐに見つめた。


「初めまして、レン様。と仰いますのね。わたくしはアレッタ・サンテール。サンテールの街の領主、コンラード・サンテール伯爵の娘です」

「俺はレン。家名はありません。錬金術師です」

「この度はわたくしたちを助けてくださったと聞きました。感謝いたしますわ」


 す、と流れるように頭を下げるアレッタ。

 優美な仕草に思わず見蕩れたレンは、小さく咳払いをする。


「……助けることができたのは偶然の結果なので、気にしないで下さい。それより体の不調とかありませんか? ポーションなら色々手持ちがありますよ?」

「ありがとう存じます。体の不調はございませんわ……ところで、ここはどの辺りなのでしょうか?」

「いや、俺も迷子なので、現在位置は分からないんです。俺も街に行きたいから、協力できたらと思ってるんだけど」


 現在位置不明と知ったアレッタは困ったような表情をしたが、レンの、協力できたら、という言葉を聞き、その表情が明るくなる。


「こういう言い方は失礼かも知れませんが、サンテールの街に戻れたら、十分な謝礼をお約束いたしますので、ご協力の程、よろしくお願いいたしますわ」

「こちらこそよろしく。それで、アレッタお嬢様」


 レンがそう言うと、アレッタは不満そうな表情を見せる。


「レン様。あなたは父の領民ではありませんし、わたくしたちが作った階級に縛られるヒト種ではありません。しかもわたくしの命の恩人ですわ。アレッタ、とお呼びください」

「それじゃアレッタさん、俺もレンと……」

「アレッタです。敬称は不要ですわ」

「……勘弁してくれ。シルヴィさんやエドさんもさん付けなのに、その主人を呼び捨てにするっておかしいだろ。口調はできるだけ崩すからさ」

「……仕方ありませんわね。それならさん付けで構いませんわ……それで、先ほどは何を言いかけてらっしゃいましたの?」

「えっと……ああ、そうだ。シルヴィさんが食事を作ってたから、冷めちまう前に食べた方がいいんじゃないか?」

「あら、そうなの?」


 アレッタがシルヴィに視線を向けると、シルヴィは小さく頷きを返した。


「はい、あの、すぐに温め直しますので」

「わたくし、少し冷めてるくらいの方が好きですわよ?」

「いけません、体も冷えてらっしゃるのですから。それでは、準備ができたらお呼びしますので、お隣の洞窟にいらして下さい」

「分かりましたわ……ところでレン様、この洞窟やベッドですけど、もしかして土魔法を修めてらっしゃいますの?」


 錬成で整えられた壁やベッドは、一目で天然物ではないと分かる。

 それに気付いたアレッタが不思議そうに尋ねると、レンは頷いた。


「……あー、修めるって程じゃないですけど、まあ、魔法は全系統をそれなりに使えます」

「全系統? 土魔法以外も使えますの?」

「まあ、初歩的なものに限られますけど」


 魔術師という職業の技能は、魔力感知、魔力操作、魔法詠唱、魔法陣作成といった魔法を使うための基本技能と、火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、時空魔法、生命魔法という属性毎の魔法技能が存在し、基本技能は職業に就いたり職業レベルを上げると自然と身につくが、魔法技能に関しては、それぞれ、クエストをクリアすることで覚えなければならない。

 系統毎の魔法技能のクエストは初心者には少々難しい物もあるが、ゲームを中盤まで進めれば、無理なくクリア出来る程度の難易度に調整されていた。


「もしかして、時空魔法も?」

「ええ、ですから、火、水、風、土、時空、生命と一通り。でも簡単なところだけですよ?」


 レンは錬金術師をメインにした職業構成にしており、魔術師の職業レベルは中級までしか育ててない。

 使用頻度の高い火魔法と土魔法の技能レベルは少し上がっているが、レンが細剣レイピアで倒した敵の数と、魔法で倒した敵の数とでは、細剣レイピアに軍配があがる。

 レンにとって魔法とは、物作りをする上で必要だから覚えたものというものなのだ。


「生命魔法……回復魔法のことでしょうか?」

「回復魔法は神官系の職業が使う魔法ですね。生命魔法でも回復はできますけど、回復魔法とは別系統です。錬金術師の錬金魔法のように、回復魔法は神官系独自の魔法体系なんです」

「アレッタお嬢様、少し割り込ませて貰いますぞ。レン殿、レン殿の氏族は魔法に長けているようだが、街でその知識を我々に伝授しては貰えないだろうか?」

「伝授ですか? ええと、魔法を教えるってことかな? たいしたことは教えられないと思うけど」


 職業レベル中級の魔術師では、使える技能も限られるし、それぞれの技能レベルも高いとは言えないという理由で、レンはエドの頼みを断ろうとした。


「儂の知る限り、時空魔法と生命魔法は失われた魔法じゃ。レン殿がどの氏族の出かは分からんが、エルフが伝承していたのなら、可能ならヒトもそれを復活させたいと思うのだ。門外不出と言うことなら無理にとは言わんが、考えて貰えないじゃろうか?」

「失われた? なんでまた?」

「世界創世の後、英雄の時代を経て今の人間の時代となった。英雄の時代に英雄に育てられた者が伝承した知識が、我々に職業と技能を残したのじゃが、その時、英雄の時代に存在した幾つもの技能が失われたのじゃ。そのひとつが生命魔法であり、時空魔法なのじゃよ」


 そう言ったものが存在したという情報は辛うじて残っていたが、そこまでだったのだ、というエド。

 そんなエドの話を聞き、レンは考え込んだ。


(英雄の時代が指すのがプレイヤーがいた時代だとしたら、今はプレイヤーがいない時代ってことか? で、プレイヤーが育てたNPCが、職業を得るための知識を伝承したから、この世界ではプレイヤーがいない今でもNPCが職業を覚え、技能を身に付けられる、と。で、生命魔法と時空魔法を使えるNPCがいなかったから、その習得方法が失われたってことでいいのかな?)


 生命魔法は、生命力の譲渡、奪取、一時的に暴走状態にするなどといった特殊な系統の魔法で、この魔法を好んで使用するプレイヤーは少なかった。

 回復したいのなら回復魔法の方がコストパフォーマンスが高いし、回復魔法の再使用制限時間リキャストタイム対策であれば、魔力消費のないポーションを使用すれば済む。

 生命魔法で敵にダメージを与えることも可能だが、火や水、風の攻撃魔法の方が弱点属性を狙える分だけ強力であるという情報が出回ってからは、生命魔法はクエストクリアに必要だから覚えるという程度の魔法になってしまったのだ。

 そして同様に、時空魔法は魔法技能レベルを上級まで育てない限り使い勝手が悪く、中級までの時空魔法でできることの大半は、錬金術や付与魔法を駆使して作成した魔道具で代替できてしまうため、時空魔法を覚える物好きは少なかった。

 プレイヤーが自分たちが使わない魔法をNPCに覚えさせるはずもなく、そうした経緯を思い出したレンは、そんな魔法をNPCに教える物好きが少なかったのだろう、と納得した。


「生命魔法ははっきり言って、使いにくい魔法なんです。回復魔法の方が高い効果を発揮するし、ポーションがあれば大抵の状態異常は解決する。だから廃れたんでしょうね。発掘する価値はないと思いますよ? それに時空魔法は、付与術士と錬金術士以外には使い勝手の悪い魔法なんですけど」

「それはつまり、広めることに対する制限はないということでよいのじゃな?」

「それは、まあ、はい。制限はないですけど、ちょっと考えさせてください」


 レンの言葉に、エドは満足げに頷いた。

 それを待っていたかのようなタイミングでシルヴィが声を掛けてくる。


「アレッタお嬢様、お食事のご用意が整いました」

「あら、シルヴィ、ありがとう……レン様、わたくし、命を救っていただいたご恩を忘れるようなことはいたしません。ですので、生命魔法と時空魔法のことはレン様が望まないのなら忘れることにいたします。ですので、できれば街に戻る前にどうするかを決めてくださいまし。よろしくて?」

「……ああ。考えておくよ」


 レンの返事を聞き、アレッタは辺りが明るくなったと思わせるような笑顔を見せた。

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