薄い粘土のベール 02

「とりあえず、話だけでも聞いてよ」

あれから一週間経ってもまだ学食で前回と同じように履歴書とにらめっこしている俺を見れば、教授のコネクションをもってしてもどうにもならなかったことは一目瞭然であり、本当ならば俺の方から頭を下げて就職先を紹介してくれないかと伺いを立てるべき場面である。

それなのに、彼方のほうからやってきた。

俺は正直感動していた。

話を聞く前からわかる。彼だからバイトから正社員にしてもらえたのだ。

ポッと出の俺が、いくら彼の紹介だからと言って、ましてや彼が入社するような会社に、正社員で入れるわけがない。

それでもこれは幼馴染の彼がせっかくくれるチャンスなんだ。

どだい無理そうであっても、話だけでも聞かなくては。

それが恩に報いるということだ。

「どういう仕事なの?」

「時期によって結構違うんだけど、基本的には事務かな。でもうち従業員が少なくて、事務といっても色んな仕事をしてもらうことになるかもしれないんだけど」

なるほど雑用か。

だが雑用とはいえ新入社員のお友達でしかない俺を正社員として迎え入れてくれる(かも)なんて、なんとも懐の広い会社である。ますます申し訳がない。

「雑用とはいえ、そんな少数精鋭のチームに、やっぱ俺、必要ないんじゃないかな」

彼方には悪いけど、俺じゃなくてもいいはずだ。

むしろ、お祈りされまくっている俺じゃないほうがいいだろう。

彼方に、こんなにいいやつに、迷惑をかけたくない。

「でも美里、絶対この仕事向いてるよ」

「……事務ならもっと優秀な人がいるでしょうよ」

「俺が知る限り、美里に一番適性があると思うんだ。美里にしかできない」

「なんで? 俺に隠された事務員の才能があるとでも?」

「美里って、観察力と分析力に優れてるよ。昔から思ってた。美里の前で嘘はつけない」

彼方が俺のことをそんな風に評価していたとは驚きだ。

自分ではそんなこと、思ったこともない。

「うち、探偵事務所なんだ」

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探偵事務所OJYO★SAMA めとろ @nomemetronome

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