薄い粘土のベール 01
ようやく寒さも落ち着き、温かな日差しが大学の校舎を優しく照らす。
それなのに俺、美里晴花、大学四年生は現在就職活動真っただ中。
卒業式は今月なのに、いまだに就職課に通っているおれは本当にやばい。
と、思いつつ、履歴書を食堂のテーブルに広げただけで満足してしまった俺の前に、ラーメンとカツ丼とカレーを手にした同級生が腰かけた。
よくそんなに持てるな~レストランでバイトでもしてるのか?
「俺のバイト先に興味あるの? 一人抜けちゃって現在戦力募集中」
食欲旺盛な彼の名前は彼方征雪。端正な顔立ちで優秀かつ背が高くて性格もいい。
幼稚園に小中高校と、さらには大学が偶然一緒な俺の幼馴染。しかも実家は隣。
ただ俺たちは、同じクラスになることもほぼなかったし、特別仲が良いというわけではない。
「彼方は就活終わったんだっけ? それとも院に進むの?」
「俺はバイト先にそのまま就職するよ。今日は飯食いに来ただけ」
そこでチャイムが鳴った。俺は荷物をまとめて席を立つ。
「どこ行くの。授業なんてもうないでしょ?」
「教授に就職先紹介してもらう」
「うち今戦力募集中だよ」
「それはさっき聞いたけどさ」
それってバイトでしょ?
厚かましくもまだ正社員になる夢は諦めてないんだよね。
そりゃ正社員になることだけが人生じゃないとはわかっているけど、今更就活をパッとやめて別の道に進む決断をする勇気も、それをするだけのやりたいこともない。
俺のテンションが落ちたのを目ざとく察知した彼方は慌ててフォローを入れた。
「違う違う! 俺はバイトから入ったけど、募集中なのは正社員! 正社員募集の話!」
正社員? その言葉を聞いた瞬間パッと目が輝いてしまった俺、それでいいのか。
「……できる限り頑張りたいから……」
俺はそれだけ絞り出した。
彼方はなにか言いたそうにしていたが、うまい言葉が見つからないようだった。
これが二週間前の出来事。
そう、俺はまだ就職先が見つかっていないのです。
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