第16話 学園長VS受験生 マナ
マーシャルさんを観察する。
息切れ、汗だく、身体が小刻みに震えている。……やりすぎたかな?
『これで終わりでいいですか?』
『……いや、まだ審査が足りていないな』
マーシャルさんは、なんでもなかったように爽やかな笑顔で僕に答える。
いや、あんた。心、ぶれぶれじゃん!その金髪だって、汗でキラキラしてるじゃん!
『なら、今度は本気で行きますよ!』
『本気?今のが本気じゃ……ない?』
正直まだ引き出しはあるし、【写し身】も、あと1段階あげられる。
俺の【写し身】は、精神を不安定にすることで疑似的にあの日の覚醒を再現している。
ま、あれに比べれば弱すぎるけど、これ以上は精神の崩壊を招く可能性があるため、母さんから禁止されている。
今だって自分の心が【分かる】能力をフルに使って形を保っているにすぎないのだ。
さらに、弱点としては、
①無理な動きをすると、解除後に筋肉痛がやばい。
②精神が不安定なため、発動中の性格や趣向に難あり。
『いや、無理じゃろ』
!?
後ろから急に声がした!?
ーーー《身体強化》を使って無理やりその場から離れる!
いない。誰もいない!
『親に似てるのぅ。焦るところが』
今度は、真横から聞こえた。
…!違う!
最初の声の位置から動いていない!!
俺は真っ正面の壁を睨む!
『ほ~、見つかってしもうたか』
多分、闇魔法ではない…はず。
【写し身】状態なら、害意で魔法を向けられたら情報を読み取れるからだ。
だが、【幻影】を使わずにとなると……
『蜃気楼?』
『さすがさすが!分かったか!』
『水を地面に吸わせて火の魔力で温めればこ水蒸気が出来る。さらに、土魔法で生成した極上の半透明な砂を、風を操って舞わせればできるぞ!』
『それなら闇魔法の【幻影】を使います』
『俺は光と闇しか適正なさそうだし…』
それで、誰だこの爺さん。
『適正はあくまで適正であり、【努力】さえすれば逆に身体のほうが適正に合わせてくれるぞ!』
この親切にアドバイスしてくれる爺さん。略して【アドバイスじじい】はどちら様?
『今、失礼なことを考えんかったかぁ?』
『いやいや!そんなことは『クッ…』』
あ、再戦すると言ったら意気消沈したマーシャルさんじゃないですか。
お久しぶりです。元気ですか?
『マーシャル。
一旦この試合、儂に預けてくれんかの?』
『いや、しかし……分かりました』
『うむ。命令しなくて済んだわい♪』
あー、マーシャルさん、とぼとぼと歩いて部屋から出ちゃった。
最後に俺に敵意が向けられたが、関係なくね?
『さて、やるかのぅ?』
……分かっちゃいたけど、この人と戦うの!?
『マナ=フィルドーです。よろしくお願いします』
ここは、自己紹介することで相手を知る作戦に出る!
『これは、ご丁寧に。
儂はビー……マスターBじゃ』
マスターB!?…いや、マスター=ビーか?
変わった名前だなーーーって、人の名前にケチつけるとは何様だ俺!
『マスターさんと俺が戦うんですか?』
『…戦闘開始!!』
マスタ…爺さんだ!爺さんが急に叫んで消えた。卑怯な!
ーーー精神魔法 《精神感知》!
ゾーン状態の感知空間を部屋全体に広げるイメージで!
これにより、俺に刺さった視線や俺に向いている意識を1本の線として拾う。
『(いた…)そこだっ!』
拳が爺さんの顔にめり込んだと思ったら爺さんの顔が雲散する。
『チッ!避けたか!避けんな!』
爺さんが少し離れた場所に立っていた。
『儂以上の感知系か……。厄介だのぅ』
『降参するなら、今の内だぜ!爺さん!』
言ってて、これは悪役の負けフラグ回収だと思った。
『ーーーフラグ回収ってなんだぁぁぁぁ!!』
分からんがそのままの勢いで殴りかかる。
『超級木魔法【魔女の森】』
『ぐえっ!?』
爺さんが種を落とした瞬間、種が発芽し、巨大な蔦となって、俺だけを絡めとり持ち上げていく。
動こうと抵抗している俺を見て、爺さんは笑う。
『つまらんのぅ』
『期待はずれじゃ』
『あー、つまらん』
散々言うじゃねぇか、じじい…。
最初っから、今だって期待と好奇心MAXのくせに!
……しょうがない、使うか。
『【写し身・濁】』
俺から黒い魔力が溢れる。
魔法での疑似状態 + 自身の感情を受け入れる。……かなり危険な状態だが、このまま何も出来なくちゃ男が廃るぜぇ!!
魔力が、触れた部分の蔦が枯れていく。
『これが…』
『隙ありだ!』
枯れていない場所を踏み台にして跳ぶ。
爺さん目掛けてかかと落としをしたが障壁に阻まれた。
『危ない危ない』
ーーーこれは…、強いのぅ。
荒削りだが、上級光魔法【ヘクト・プロテクション】にひびをつけるなんて……ッ!?
『チッ、ばれたか』
……儂の超感覚が何かの干渉を警告した?
ーーー少しでも情報を得るために、マナは相手の心を覗こうとしていた。
格闘術② 情報戦を制した者が勝つ!
『なら、これだ!
精神魔法 《伝染:【焦燥】》!』
少年から魔力が向かってくる。
全身を囲む【対魔結界】を張る。
結界の中にいる儂に直感が警告を告げーーーなんらからの干渉を受けたじゃと?
『闇属性には耐性があるのにのぅ?』
久しぶりに心拍数が上がったような気がするのぅ。
『いや爺さん、すげぇよ』
精神が、まるで大木のように太く根づいてやがる。
これじゃあ《伝染》のような技じゃ心を揺らせない。
『中級闇魔法【黒霧】!!!』
本来、相手の視覚を妨害するか自分の周りに集めて、相手に次の手を読ませないようにする魔法だが、感情を爆発させて部屋全体を覆うようにする。
ーーー【魔力とは精神力で制御されている】と魔法専門書に書かれていた。
本来、魔法使いは魔力を複雑な形に構築し、魔法にして放つ。
これにより、戦いには潜在魔力の消費を考えなくてはいけないのは常識だ。
ーーーだが、マナは考えていなかった。
何故なら、歪な精神制御により、放った魔力でさえもコントロールしていた。支配下の魔力は雲散しないため、消費もなかった。
『これこれ、そんなに魔力を使うと倒れるぞ』
ビーゼルは自分に向けられた敵意のある方向に話かける。周りは黒い霧が漂っているのでマナの姿は見えていないはずだが、エルフの超感覚がマナの敵意を捉えていた。
『この霧、ピリピリするのぅ…』
隙があれば魔法に《伝染》を使っている。《伝染》は最初以外、爺の精神まで届いていない。
『これで、決める!』
『甘いのぅ。
上級氷魔法【アイシクル・バラージ】』
ビーゼルはマナの場所は分かるが、念のため、全体に放つ魔法=全体魔法で応戦した。
その判断は間違っていなかったが、甘かった。
『もらった!』
霧が氷の礫により雲散して、視界が晴れるが把握していた場所にマナの姿はない!
ーーー後ろからじゃと!?
確かに全体魔法を使っていたが、配分がマナだと捉えていた場所に傾いていたのだった。
見れば、避け切れなかった何本かが刺さっている。
マナは、ビーゼルの真似をしたのにすぎなかった。
黒霧で視界を奪い、感情を乗せた魔力を操り、自身は感情を極限まで押し殺すことで、ビーゼルの登場シーンを再現して見せたのだった。
精神魔法 《分心》と《気配遮断》であった。
『精神魔法 《魂心の一撃》!!』
今度こそ、ビーゼルの障壁を割って本体に拳を届かせた。
ーーーよっしゃぁあっ!!!
『【ドラゴンブレス】』
ビーゼルは、マナの手が触れる直前で風魔法を使い、マナを壁に強制的にぶつけた。
……壁に人型の穴が出来る。
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