第15話 これが、【精神】魔法だ!
最後の試験。それは、実技。
なんでも、この学園で働いている教師と模擬で魔法戦をするらしい。
ーーー今、魔力量測定が全員終わってS会場にいた皆が1ヶ所に集められていた。
皆から緊張を感じる。
もちろん、俺も緊張している。
『今から、呼ばれる者から順に部屋に入ってもらう』
今までは番号の低い順だったが、今回は違うらしい。
『試験では、始めに審査管からの魔法を防ぐか避けてもらう。
次に、自分の得意な魔法を審査管に見せてもらい、最後に模擬試合をしてもらう』
淡々と説明がされていく。
『ここでは受験生の実力はもちろん、受験生の将来性を評価する』
この、ルースト国立魔法学園の校訓は【才能】・【競争】・【努力】である。
意味としては、
生徒の【才能】を導き、生徒同士で【競争】による向上心を持たせ、生徒自身は、己の才能に溺れないように【努力】するだったな。父さんがスラスラ語っていたなー。
将来性は【才能】のことだろう。
ーーーそして、3時間後。
いや、長いよ。本当。
何で、しかも俺の番が最後なのさ?さっきの赤髪の子がずーと横で睨んでくるし。
俺と2人になるまで呼ばれないで、俺の番の一足前に呼ばれたら、悔やしみの感情をぶつけてきたし、部屋に入る前に試験管に抗議していたし。
最後まで残りたかったのかな?
変な子だな~。
『最後、219番!』
やっと、呼ばれた。
『入る前にボディチェックをさせてもらう』
『部屋に持っていけるのは、盾以外の防具一式と盾を含めた武器が1つだけだ。
しかし、試合に支障が出る場合は報告するように』
律儀に説明してくれる試験管。
待っている間に何回も聞いていたけど。
ちなみに、受験生が女の子の場合は女性の試験管がボディチェックをする決まりになっている。
『確認完了。入ってよし!』
俺は部屋に入る。
部屋の外側からは試験の様子が分からなかったけど、部屋の中は、結構広めで床が土に覆われていて、壁はタイル張り、天井は吹き抜けになっていた。
見渡すと壁と床との縁は堀になっていて扉以外を囲むように水が流れている。
ーーーなるほど、合理的な環境だな。
マナは感心した。
『私が君の審査管を受けています。マーシャルです。よろしく』
『よろしくお願いします』
『それでは、説明にあった通り、始めに私の魔法を 避ける か防いでもらいます』
なんとなく説明とイントネーションが違った。あぁ…防げないと思われているのか。
なんか、癪だな。
『では、行きます!まずは火!』
……まぁ、避けるけど。
中級火魔法【豪炎球】が放たれる。
難なく避ける。
『水!』
中級水魔法【ウォーター・スピア】が放たれる。
避ける。
『良い反応です。なら、風!』
中級風魔法【風刃】が放たれる。
風魔法は火・水に比べて速度が速い!!
これは、当たるな。
……少し本気を出しますか。
ーーーー『【写し身】』ーーーー
マナは、難なく避けられた。
ーーーそれは、マナが夜中に森で血まみれで倒れていた【あの日】から3日目の昼。
『ダメだ。母さん』
『マナは今朝、目覚めたばかりだぞ?』
マナは、あの日から3日間寝たきりだった。
俺はあの夜のことを朧気に覚えていた。
そして、俺が始めに考えたのはあの黒い魔力のコントロールだった。
すぐに父さんに事情を説明した。
父さんには魔力が暴走して、錯乱しながら暴れ散らかしたと説明する。
父さんは、説明を聞いて驚いていたがコントロールするために自主的に暴走状態にする練習方法に賛同してくれなかった。
ーーーだから、母さんに頼った。
さすがの母さんも最初は首を縦に振らなかったが、『『母さん、大好き』と言ったら許可します』と言われた。
そして、今にいたる。
『マルの許可を求めにきたわけじゃありませ~ん。これは、報告です』
『それに、精神系に関しては光と闇に長けた私が良しと言うなら大丈夫でしょ?』
『でもな、『マナ、あの人はほっといて2人で行きましょう?』おいっ!?』
こうして、父さんからも強引に許可を貰った。
母さんの教育は予想を遥かに越えて厳しかった。
座学、自身の魔力感知、闇魔法の取得にいたるまで熱心だった。
息子に頼られるのが嬉しいのもあるが、やはり心配だからこそ自身で制御させた方がいいと決心したのだろう。
ーーーそして、生まれた副産物がこの【写し身】だった。
【写し身】は、わざと上級闇魔法【マインド・クラッシュ】と中級光魔法【トランキライザー】で精神をかき乱す荒技だ。
【写し身】状態では、通常の倍ぐらい感情を感知できる。いわゆる【ゾーン】の状態。
これにより、自分自身の感覚も機敏になり反射速度が飛躍的に上がる。
さらには、対象からの感情を読み、瞬時に解くことで対象が魔法で狙う先や魔法を選んだ意味が分かるようになり、未来視のように次に起こる光景がイメージとして見える。
これは、脳が与えられた情報で、より細かく分析した結果なのだろうことを俺は知っていた。
そして、審査管の魔法を全て避け切る。
『次は、君の得意な魔法を披露してください。オリジナル魔法でもいいですよ?』
強いて言うなら【写し身】がオリジナルなんだけど、外からじゃ違いが分からないしな~。
『なら…、ーーー上級闇魔法【闇の唄】!』
『おぉ、これは凄い!』
【闇の唄】は対象の耳に、この魔法が錯覚させる音が聞こえると発動し、術者の思い通りの光景を対象に魅せる精神系魔法だ。
この魔法に熟練してるほど複雑な光景を魅せれて、凄いものだと街1つを魅せられるらしい。
今は、前世の記憶にあったアンデット集団をこの空間に敷き詰めている。
『分かりました。解除をお願いします』
俺は指を鳴らして解除。
鳴らす意味は特に無し。
『最後に模擬試合をします』
『お互いの距離を10m離して始めます!』
ーーーそして、始まる。
俺は解除していた【写し身】を速攻で発動する。
審査管のマーシャルはさっきの闇魔法対策に初級光魔法【マインド・プロテクト】を何重にもかけていた。
様子を見ながら量を増やす作戦のようだ。
『【闇の唄】!』
っと叫び、【精神】魔法 《身体強化》を発動する。
そして、スピードをぐんっ!と上げて、審査管を殴った。
『近接戦も出来るのですか』
落ちついた表情のマーシャルの顔の手前に半透明の障壁が出ていて、マナの拳を受け止めていた。
マーシャルは即座に中級光魔法の【プロテクション】を発動させたのだった。
ーーーしゃらくせぇっ!!
俺は、拳を捻りながら前に突き出す!
障壁は割れた。だが、拳は咄嗟に避けられた。
『魔法使いが魔力で強化されただけの拳で私の【プロテクション】を破るとは…』
マーシャルは少し勘違いをしている。
マナの【身体強化】は普通の【身体強化】ではなく、【写し身】状態で精神を暴走させることで枷を解き、常人ではあり得ないほどの力と魔力を引き出せている。つまり、好きな時にリミッターを解除できる状態で、魔法の補助なしの純粋な魔力と腕力の技であった。
マーシャルは冷静になろうとするが、マナは瞬時に殴りかかってくる。
躊躇がないのか…!
障壁が作られたそばから壊されていく。
マーシャルは背中に冷たい水滴が滑るような感覚がした。
ーーー戦闘開始から2分が経ったが、戦闘に変化はない。
ひたすらマナが殴り、マーシャルがマナから距離を取ろうと逃げていた。
『よし、そろそろ』
マナは急接近し、殴ると見せかけて手のひらをマーシャルに向ける。
『【精神】魔法 《増幅:【恐怖】》』
俺はマーシャルに向かって非常に、非常に薄めた黒の魔力の波を放ち、マーシャルの心から【恐怖】を引き揚げる。
そう、俺は対象の心を完全に把握し、対象が一定の感情の値=感情値を越えていた場合、その精神の中から感情を選らんで、俺の感情で補強することが出来るようになったのだ。
ーーーこれで、戦意喪失で試合終了かな?
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