第11話 運命が動く、次章へ

 深夜、扉を叩く音がして起きる。

 外に雨が降っていないなら、やはり誰か来たのだろうか?


 まだ、叩く音が続いている。


『こんな夜中に誰だ?』

 

 知り合いには、こんな夜中に来るような非常識人はいない……2人いたな。


 用心して。愛剣を持っていく。


『どちら様で?』


 扉は開けずに問いかける。


『マルダン。儂じゃ』


『先生!?』


『うぉっ!?』


 マルダンは恩師の突然の来訪に驚いて扉を開く。

 外では、急に扉が開いて咄嗟に避けたのだろう、持っていた杖を落とした老齢の男の姿があった。


『マルダン…。

 もう少し落ち着いて開かないか』


『すんません』


………………

…………

……


『たまたま、近くに寄ってのぅ。

 そういえば、教え子がこの近くに引っ越していたことを思い出してな』


『も~、

 先生、昼に来てくださいよぉ~』


 マルダンは普段、息子には見せない緩んだ顔で喋る。久しぶりに恩師に会えて嬉しいのだろう。


 マルダンは、元々厳しい師匠の元で修行をしていたが、師匠の娘と恋に落ちてしまった。

 親バカの師匠のことだ、見つかったら殺されると思い、意を決して駆け落ちしたのだった。


 その時に学園で生徒として匿ってくれたのが、この学園長ビーゼル=ロナーク。

 目の前の老人だった。


『今日は、どういった用件で?』


 とりあえず家に上がってもらい、2人は椅子に向かいあって話す形になった。


『ちょっと顔を見ようと思っただけじゃよ。もう、教え子の顔も薄れてきてのぅ』


『300歳を越えてますからね』


 彼はハイエルフだ。

 エルフ族は200歳まで若さを保つが、そこからは人間と同じように老けていく。なので、300歳を越えているこの老人は長生きを通り越しているのだった。


『まだまだ元気なのしゃが。記憶だけは曖昧になってきてのぅ』


 この人は、あと100年生きそうだな。マルダンはそう思った。


ーーー怪しい。


 この人の行動の8割は思いつき、2割が計算ずくだ。

 これは直感だが、今回は計画性を感じる。

 この時期ならまさか…。


『息子のマナに用が?』


『……。さすがじゃの』

『お主が、息子が回復したと手紙を送ってきたから見に来たわけじゃ』


『……それだけですか?』


『ふっ、さすがさすが』


 ビーゼルは笑った。そして、真顔で、


『お主の息子をうちで預けてみないか?』


と言ったのだった。


『なっ!?

 それは、無理だ!』


 やっとマナが元気になったのに!何、言ってやがる爺!!


『慌てるな』


 怒気を向けられているビーゼルは涼しげな顔で言う。


『【今】じゃない。…2年後じゃ』

『2年後に、うちの高等部で入学試験がある。その試験に受けさせてみんか?』


『俺だけじゃ決められん』


『即答か。やはり、マルダンは賢いの』

『普通なら聞きもせずに追い出すのに』


『先生を追い出すなんてとても出来ませんよ』


『考えてくれるだけ嬉しいよ』


 少しぴりついた空間が朗らかになる。



ーーーその時、2人は同時に殺気を感じた。


『なんじゃ!?』『なんだ!?』


 2人は今までに強い殺気や敵意を向けられたことは多々あった。

 だが、ここまでいろんな感情を含んだ殺気、しかも、自分たちには向けられたものではないのは初めてであった。


『森じゃっ!』


 ビーゼルは叫んで外に出る。マルダンは、いち早く息子と妻セリーナの部屋に向かった。


『マナの姿がない!!』


『マルダン!どういうこと!?』


 マルダンとセリーナの声が2階から聞こえる。


『マルダン!

 儂は殺気の元へ向かうぞ!』


『ーーー俺も行く!』


 マルダンが2階から飛び降りたのを確認して並列して走る。

 放たれた殺気で、大元の場所は分かったが、今は殺気が届いていない。

 だが、ハイエルフの超感覚は、まだ元凶の威圧感=オーラを捉えていた。


『なんつぅー。オーラじゃ』

『これは、金級もしくは金剛級かもしれん』


『クソッ、マナはまさかあそこにいるのか!?』


『分からぬ。だが、人と思われる気配は1つ……。周りには小さな反応がいくつもある』


『俺だけでも……』


『お主じゃ、オーラで場所を把握することができんじゃろ!』

『それに金剛級じゃと、儂ら2人でやっと戦えるんじゃぞ!』


『分かってるっ!』


 走っていると、

ーーー標的が動いた。


『…な!?速すぎるっ!?』


『どうしたんだ先生!!』


『殺気を放った者が、この森の中で儂らより速く走っている!』


『何だと!?』


『二手に分かれるぞ!』『ああ!!』


 ビーゼルが殺気を放った者の元へ、マルダンはその者がさっきまでいたとされる場所へ向かう。即決であった。



ーーー20分後。


 ビーゼルはやっと元凶に追い付く。

 だが、ビーゼルの目の前には、全身血まみれで倒れている少年と大量の狼の死体。そして、銀級の魔物、スターベアーの死体だった。


 このオーラの波長は間違えない、この少年がこの現状を…?

 狼は血に濡れているが傷などはない。それより、子供が銀級の魔物を倒していること自体が異常じゃっ!


『ーーーマナ!』


 呆然としているとマルダンが森から走ってきた。マルダンにはお互いの位置を知らせる魔道具を持たせていた。


『…ハッ!回復させないと!』


 マルダンが追いつく。


『マナ…!

 ーーーッ!?先生!!』


『黙っとれい!今、回復させている!』




ーーーマナの運命が動き出し始めた。

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