第10話 学園編になる前に

 森で、全身から黒い魔力を纏とった少年が熊の頭を掴んでいる。


ーーーはっきり言って、異常な光景だった。


 マナは自分の靴に届きそうな黄色の液体から離れるため、熊の頭から手を離した。


『失敗したね…』


 予想なら、心に直接【愛情】をそそぎ込んだら、こいつを【友達2号】に出来るんじゃないか?という打算があった。


 マナは自分の感情に、この熊の心がもたなかったのだろうと考えた。


『ま、いいや』

『元々、あいつら(狼)を殺すことしか考えてなかったし』

『それより、この状態をどうにかしないと』


 【僕】の心は今、落ち着いている。

 多分、熊に興味が向いていたが、こいつが死んだことで意気消沈したんだろ。


ーーー今なら、自分の心に集中できる。


………………

…………

……


 そこは、マナの精神空間。


『ーーーよし、入れた』


 真っ暗な霧を閉じこめたような空間にマナの身体は浮かんでいた。

 マナは空間の中心にある球体を見る。それが自分の心だと分かった。

 マナは自分の心は、相当、歪になっていると思っていたが、予想外の光景がそこにある。


ーーー心がまるでパズルの様にひび割れている。


 真っ白な心に黒いピースが埋まっている。よく見ると黒いピースの繋ぎ目から、まっ黒な霧が漏れているようだ。

 それは現実のマナの身体から、漏れでいた黒い魔力に似ていた。


『で、ここからなんだけど……。触ってみるか』


 近付こうと身体に意識を向ける。 


 すると、一瞬にして俺は球体の前にいた。


『おぉ…、』


 少し、感動する。


 マナは球体に触ると身体が吸い込まれるような感覚がした。


『やっときたか』


 あ、【俺】がいるな。


『ほんと、勝手放題、動きやがって』


『あ~なんかごめん』


 そういえば、俺の本能?記憶の塊?みたいな存在がサポートしてくれてたんだっけ?


『ーーーいや、あれになるんだったら言ってくれよ』


『俺はお前なんだから分からねぇよ』


 なら、しょうがないじゃん。


『これ、どうすれば元に戻るんだ?』


『俺的には、記憶や心に向き合ってこうなったなら、向き合わなければいいんじゃね?知らんけど』


『はぁ!?向き合わなくてもいいのか!?』


『一回、向き合ったならそれは向き合ったことでいいんじゃねぇの?』

『それに今、お前の身体、血が流れているぞ』


!?


 自分の身体を精神空間の中から見てみる。


 やばい、傷が開いてる。

 目からの血の量もやばい!


『お前が動いている間、やばかったんだぞ。黒い霧は溢れるし、時折、悲鳴みたいな音が鳴るし』


『どうしよう!?どうすればっ!!』


『だ、か、ら』

『記憶と向き合うな。今はな』


『受け入れたものを、どうすれば拒否できるんだよ!』


『なんとかするんだよ!』


『ーーーどうやって!』


『ーーーなんとなく!』


『俺は、感覚派じゃないんだよ!』


 とりあえずやってみる。

 この霧を内側に吸い込むようにイメージ…イメージ……できちゃった。


………………

…………

……


 そして、現実に意識が戻された。



ーーーマナは感覚派であった。

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