第9話 くまさんVSサイコパス

 友達の敵を討つためにここまで来たけど、これ、どうしよう?

 

 【これ】とは狼の死体や、ここまで走ってきた時に邪魔だったので曲げた木々のことである。


『さすがに、隠し通すのは無理かー』


 隠す必要ないじゃん?と思われるかもしれないが、あるんです!

 うちの父親がこの森を仕事場にしているのです!

 

 父マルダンは、自生するキノコや薬草の採取やここから少し離れた村への木材の提供を生業としていた。

 ちなみに母さんは編み物やアクセサリーを村で販売しているそうだ。大人気らしい。


『なんて、説明すれば?』

『あっ、でも知らない顔で家にいればOKじゃん!』


 まっさか、息子を疑わないだろ~。日頃、魔力が少なすぎて稽古でさえあからさまな手加減をされているんだから。



ーーー2ヶ月前から夕食前に父さんと稽古をしている。

 ある日、この世界や魔法について書かれている本を探して父さんの書斎に忍びこんだら、仕事帰りの父さんに見つかった。

 あの時は、やっと見つけた本に夢中になり過ぎていたからな~。


 扉を開いたら本棚の前で真剣に魔法の説明を書かれたページを見ている息子にマルダンは、


『魔法に興味があるのか。マナ?』


と言った。


 父さんは少し複雑な表情を浮かべていたが、僕が『ある!』と答えると決心した顔をして、こう言った。


『マナ、お前。森に行きたがっていただう?』

『でも、あの森は魔物や魔物より強い動物達がわんさかいるんだ』


 急に森の話に移ったからマナは困惑した。

 そんな息子を見てニッと笑うとマルダンは続けて言う。


『ーーー森に行くことを認めてやってもいい』


『えっ?いいの?よっしゃ『ただし!』ぁぁあ?』


 父さんは被せてきた。


『父さんが認める強さまで届いたら、だ』



ーーーそこから1ヵ月間。魔法の種類や扱い方。森の動植物の説明や森での身体の動かし方を徹底的に教わった。今では、戦闘を模した訓練もしている。

 そのかいもなく、僕は狼たちに速攻で襲われていたけどな。


『回想にふけりすぎたな。もう帰らないと』

『でも、この黒い魔力はどうしよう?下の地面とか割れているんだけど』

『やっぱり、抑えるには自分の心を見ないとダメかな?』


 正直、怖い。

 こんなやばい魔力を垂れ流している男の心なんてぐちゃぐちゃに決まってると思う。

 それに心なしか性格さえ自分じゃないような気もするし。


 ……見るか。


 マナが意識を内側に向けようとすると…


『ゴアアアアアッ!』


 大きな叫び声が洞窟の奥から聞こえた。


 マナは、分かっていた。

 ここに来た時から何かの生き物が奥にいる。心の形は狼ではない。

 読み取れる情報からは、敵意はない……てか、寝てね?

 

ーーー放置して忘れていたのだった。


 そして、そいつは洞窟から現れる。


『あれは…ヒグマ?

 違う…、ホシノワグマか!』


 胸が☆の形に色が分かれている熊、ホシノワグマ。正式にはスターベアー。中型の魔物である。


 ホシノワグマは明らかかに敵意を向けている。そして、周りの狼たちを見て驚愕と悲しみの感情を浮かべていた。

 

『まさか、狼と熊が共生していたのか?』


 まさかというか、そうなのだろう。

 熊の敵意には狼への敵討ちの感情が込もっているように感じた。


『だが、お前と戦う理由がないんだ。そっちには、あるかも知れないが知ったことか!!』


 とりあえず、この牙を見せつけている熊から逃げるか。

 

 マナは後ろを振り返り、走り出したーーー瞬間、脇腹に衝撃が走った!


『刺さっているな。これ』


 スターベアーは何も、胸の毛の色が☆になっているだけで名付けられたわけではない。


 敵を見つけると口をあけ、土魔法で作られたひし形の岩の弾丸を打ち出す際に、体内に原料としてため込んだ昌石が共鳴して光を放つからであった。

ーーーその光景からスターベアーは【最後の絶景】と恐れられていた。


『なんで生きてんだ【僕】』


 明らかな重症。

 なのに血がすぐに止まった。痛みは勿論ない。


 痛覚があれば発狂しているかもな…。とマナは思った。


ーーーだが、この状況で笑っているマナを見れば誰でも狂っていると思っただろう。


『いやー。化け物じみてない?【僕】』


『ゴアア?』


『君も不思議だろ?【僕】もさ♪』


 なんか、面白いな♪面白い?なんで面白いんだ。死ぬんだぞ。死ぬの?笑える♪


『死ぬのかな?【僕】』

『さっき、やっと自分に向き合えたのに』

『悲しいなー』


 スターベアーは戦慄していた。

 目の前の人間が饒舌に語り出したからだ。

 なぜ死なない?いや、それよりあの黒い魔力はなんだ?どんどん濃さを増して溢れていないか?


ーーー直感。

 逃げないといけない。速くこの場から脱出しないと。 

 子分たちはもう、どうでもいい。それより、こいつから……


『ーーー何、逃げようとしているの?』


『ッ…!』


 言葉は分からない。だが、これは殺気だ。本能が理解して、こいつに背を向けられない!!


『悲しいなー。こんなにも死にかけてる【僕】を食べないなんて』

『早く食べてよう~。ほら、こっちおいで』

『あれ?なんで食べさせようとしているんだ【僕】?』


 冷静に【僕】。今からやるべきことは、……何だろう?

 あぁ、どうせ死ぬんだったらこの熊も道連れにするとか?


 そうしよう。


『ゴアアアアア!』


 殺気がさらに増えて、耐えられなくなった熊が襲いかかってきた。

 

『遅っ』


 熊が向かってくるがやけにノロい。あぁ、この身体が死にかけているせいかもしれない。死ぬ間際は体感時間が長く感じるんだけ?


 …?

 どこで習った知識だ?


『せっかくだし、父さんに教わった格闘術でも試すか』


 とりあえず、熊に自分から接近する。熊は予想外の行動に目を大きく見開いた。


『も~らい』


 こんなにゆっくりなら大きく開いた目も充分に狙えるな。

 右目に指を突っ込んだ。


格闘術① 目が狙える時は、徹底的に。


グジュッ…


 熟れた木の実を潰したかのような感触がした。


 熊は避けようとしていたみたいだが、【僕】のほうが速かった。 

 熊はバランスを崩して勢いのまま地面にスライディングする。


『汚な♪』


 指に付いた、潰れた眼球の液体を服にのじりつける。


『グッ、ゴアァァ。ゴパァ!』


 熊はまだ起き上がらない。

 血なんか吹いてる。目を潰しただけなのに。


『…そうか、あれだけ近づいたら【僕】の魔力が君に触れたんだね!』

『いやー。ごめんごめん!抑える方法は思いつくんだけど、その後どうなるか分からないからさー』


 熊は【僕】の話は無視して少しでも【僕】から離れようともがいている。


 傷つくな~。これじゃあ、動物虐待みたいじゃないか。

 あ~可哀想、【僕】。死にかけの身体にされたのに。

 あれ?【僕】、まだ死なないなぁ?


『仕事は最後までって言うし、殺すよぉ?』


 熊に近づいていくと。恐怖の感情を駄々漏れにして熊が岩の弾丸を放ってきた。

 焦って、まだ形成されきってない弾丸も放ってくるから避けるのがめんどくさい。


『なら、避けなければいい』


 比較的に小さい弾丸は避けずに近く。

 …さすがに、息子と心臓、頭に来たのは手で受けるけど。


『はい、チェックメイト♪』


 熊の顔を鷲掴みにする。

 思った以上に握力が強かったせいか、力を込めたつもりはないんだけどビキビキ、鳴り始めたので気持ち弱めに掴む。

 

 熊は暴れているが【僕】の腕から逃げれないでいた。まだ、諦めないのか。


 熊が【僕】に攻撃しようとする。

 【僕】は蛇をイメージして黒い魔力を熊の身体に纏わせてみた。

 こう、蛇の巣窟に落ちた感じで!…できた。

 これなら、心に触れてないからすぐには死なないでしょ。


 心を見ると、熊は攻撃したいのに身体が動けないことに驚いていた。


『ただ殺すだけじゃ、つまらないな』


 ……そうだ、別の感情をぶつけてみよう。

 そうだな…【愛情】でも込めてみるか!


ーーー面白い!

 これだけ黒い魔力を纏わせている【僕】が【愛情】なんて込めたらこの熊の心はどうなるのだろうか!

 

『よし、やろう!』


 早速、再び心を見た。そして、魔力で蛇の形を作り心に噛みつかせる。

 そして【僕】の感情を送り込む!


『成功だ!』


 送り込むのに集中していたため【僕】は目を瞑っていた。

 そして、開いた時に映ったのは、


ーーー舌を出して、失禁している熊だった。

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