第4話 やっぱり女神の仕業

ーーー時は1週間前に遡る。



 教会と思わしき建物の中に2人の大人の男女と、目に生気を感じられない子供が、2人の間で椅子の底に車輪が付いたものに乗せられていた。

 2人の顔には不安と心配の言葉が浮かんでいた。今からする行為は2人にとって大きな賭けなのだから……


『本当によろしいのですか?』


 神父が問う。


『もうこれしかないんです…』


 女が哀しげに答える。


 この2年間寝たきりの息子、マナを助けるために何でもしてきたつもりだが、どれも効果はなかった。

 今も、目は開けているが言葉を発しない、まるで精巧な人形のような姿をした息子がいる。

 女、セリーナ=フィルドーは泣きながら息子を見ていた。男、マルダン=フィルドーは息子に母親の泣いている姿を見せてはいけないと笑顔で息子に声をかける。

 

『お前が憧れていた【成人の儀】だぞ~!』


 あきらかに空元気だったが笑顔を絶やさない。笑顔が消えると悲しみの波が彼を襲うからだ。


『これで、マナも立派な大人だな!』


 息子にそう言った後に神父に向きを変える。


『よろしくお願いいたします』


『……わかりました』


 神父は、これ以上は無粋と【成人の儀】を進める。


 【成人の儀】とは、産まれた頃に魔力が暴走しないように闇魔法によってかけられた呪いを、安定期に入る11~12歳の時に光魔法によって解くといった儀式だ。


 魔力は暴走すると、体内から溢れだし時に爆発や健康に悪影響を及ぼす。そのため、息子のマナにも呪いをかけていた。


 マナは、あの日に何者かに魔法によって傷つけられ、心を閉ざすようになっていたが、【成人の儀】によって体内からの魔力が干渉すれば、この状態に変化が訪れるのでは?…と両親は考えていた。


『マナ、この者に神のご加護を』


 神父が放つ魔法の光が、マナを包み込む。







ーーーここは?

 ーーーは、目の前に広がる一面の水面を見渡す。足下には水が広がっているが、水面には空が映っているわけではなく、どこかの星を真上から見たという感じだった。…地球ではない。

 さっきから、チラチラと視界に見えている空を飛んでいる人といい、自分は気が狂っているのか?

  

『はい、ちゅーもーく!』


 とりあえず無視する。

 この絶景を見ているのだ。忙しい。


『ちゅ~も~~く~!』


ーーーうるさいな。


 どうせ女神なんだろ?羽根映えてるし、頭に光の輪、浮かべてるし。

 ピンクの髪で、目が青色の人間なんてそういないしな。


『君…、驚かないの?』


 一瞬にして目の前まで来ていた。

 しゃがんで上目遣いで見ている。速いとかの次元じゃない。瞬間移動かな?

 

『この状況を説明してくださいませんか?』


『おっ、律儀な感じね!

 プラス1ポイント!』


『で?』

 

 で?


『スルースキル半端ないな~』


『どうせ、間違って殺してしまいましたってオチでしょ?』


『違う違う、女神間違って殺さない』


『なら、なぜ?』

 

 なんでこんなところに?

 まさか、勇者に選ばれて異世界召喚か?


『ーーーそんなことは起こらないよ』


『……』


 読んでいる。絶対、心読んでいる。

 

『読んでないよ!安心して!』


『……』


 ポンコツ感あるな。


『さて、では状況説明をはじめまーす!』


『そこは、スルーなんですね』


『君は転生して第2の人生を過ごす予定だったんだけど手違いで死んだ人に魂が宿ってしまって直ぐに死んでしまったの!』


『ダ女神ですね』


『私は、悪くないわよ。

 ちょっと眠いから転生装置を自動で設定して仮眠していたら熟睡してしまって…想定されていた許容量以上の魂が転生されていたみたい☆』


『あ~、

 やけに転生ものの話が多いと思ったらそれが原因で』


『そうなの!

 気ずいたらエラーで止まっていて、見てみたらあなたが棺の中で生きかえっているじゃない!

 やばっ、これ怒られる?ってかんじ☆』

『でも、あのままならアンデット扱いで殺されていたはずだし、良いかな~って思っていたら上司に見つかって激オコ!』


『そりゃあ…』


 そうだろう。


『上司が第3の人生を歩ませてやりなさいだってさ!よかったね♪』


 やばい、この女神。チェンジできないかな?できる?あ、チェンジで。


『できません♪』


 俺は、ーーーとして人生をやり直したいんだけど、ダメですか?…あれ?


『ダメだね~。

 前世は銃弾で蜂の巣だよ?生きてるわけないじゃ~ん』


 ーーー。ーーー。名前が思い出せない。それどころか銃弾?記憶にない。

 ……いや、記憶がない。


『前世の記憶があると、来世と混濁してしまって心が壊れる可能性があるので記憶は徐々に消えます!』


『なっ!?』


『今も、消えています、です!』


ーーー冗談じゃない!

 今の記憶がなければ、来世では全く違う人格になってしまう。それは、【俺】じゃない!


『普通はそうなんだけどな~。

 君の見てきたラノベ?では夢があるね~。

 それに転生は抽選で決められているから、今回は特別措置なんだよ?』


 女神は首を傾げる。

 てめぇの失敗なんだろ!っと言いたいが我慢する。

 せめて、次の人生を謳歌するためにギフトやスキルが欲しい。

 

『しょうがないな~。じゃあ、はいっ!』


ーーーダーツ?まさか、投げて決めると?


『ルーレットがよかった?それとも、棒くじ?』


 ダーツで…。


 ダーツを女神から貰うと女神が4メートルくらい離れた。女神が何も無い空間から的を取り出す。 

 普通の的より凄く細かく点数が割り振られ、ランダムに1~100まである。細かっ!?


『OK♪投げていいよ!』


 ……よし!狙いは1つ!


ーーー女神の顔めがけて、シュート!!!



 そして俺は、この異世界に転生した。

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