第12話 チーム対抗戦 4
まず伊瀬司が動く。
部分装甲化による篭手と脚鎧を顕現。
背負っていたボックスから刀を取り出し、踏み込みと同時に抜刀一閃。
同時に上杉が突っ込み、一閃を躱したフォール二体との間に入る。丁度司と背中合わせの状態。
分断は成功。
分断されたと見るやフォールは距離を取り始める。相手も初めからそのつもりか。その動きは中級フォールにしては妙だった。
作為的なものを感じるが、好都合。
司は距離をとるフォールを追う。
伊瀬司に追撃をさせる。それがどんなに愚かなことか。このフォールたちは身を以てしることになる。
「
鞘内で刃がおぞましき紫の瘴気を帯びる。
「……ロックオン、抜刀」
抜刀一閃。
その瞬間、彼女の過去は力を発揮する。金属高音の鞘なりと共に、走る片一方のフォールの足が両断される。
『GRAAAAAAA!?』
何が起きたのかフォールには理解できない。飛ぶ斬撃というものではない。それならば中級フォールならば躱せるだろう。
なんの工夫もないものなど、フォールに当たるはずがない。しかし、結果は見ての通り、足を綺麗さっぱり両断されている。
ただ斬撃が脚に発生した。そうとしか考えられない現象。
これこそが伊瀬司の第一の過去。忠義を追う侍。その斬撃は対象を
一度ロックオンすれば例えどれほどの距離があろうともその斬撃は当たるのである。
回避不能。必中の斬撃だ。鏡花の未来視すら当たるという未来一色に染まる確定事象を作り上げる過去だった。
さらに異常はまだ続く。フォールの全身に激痛が走る。
呼吸はしているのかはわからないが、陸に打ち上げられた魚のように口をぱくぱくとさせ、本能から首を押さえ、のたうち回る。
フォールの足から紫の侵食が奔っていた。
これが彼女のもう一つの過去、毒煙の軍人。その能力は毒の生成。
つまり彼女が振る刃は毒を帯びている。それも猛毒だ。それが必中の斬撃にセットで襲ってくる。
足元でののたうち回るフォールに司が追いつく。
「……フォールは殺す。皆殺し」
そして、絶対に殺すという意思のままにその首を刎ね飛ばす。
それでもフォールはただでは死なぬとばかりに能力を行使しようとする。五の瞳が輝きをあげ、その予兆を示す。
フォールはその滅びの未来に即した異能を持つ。例えば隕石による滅びの未来のフォールであれば、空から流星を降らせてくるだろう。
無論、高ランクのフォールという注釈が付くだろうが、このフォールはどうやら水害の未来であるらしい。
五の瞳を中心として水が逆巻くように集まる。
「遅い」
反撃など許す暇などない高速抜刀。
錚々と鳴り響く刃の鳴り。おぞましい瘴気が軌跡を残す。
『GAAAAAAA!?』
その腕が斬り飛ばされ、されなる毒が体内を侵食する。
その痛みは怪物の名をほしいがままにするフォールであろうとも痛みに喚くほどだった。
「……喚かないで」
鋭すぎる斬撃がその首を斬首する。フォールの肉体が黒い砂となって消滅する。
それと同時に、もう一体のフォールが司の方を見ていた。
六の瞳が輝く。
放たれる破滅の未来。その未来。フォールたちの異能は、己が担う人類滅亡の未来そのものだ。
巻き起こる
司の足元から超高温のマグマが噴き上がった。
灼熱の発生に訓練場の観客席が燃え堕ち、炭化する。その中心にいる司など消滅して骨も残らないだろう。
『GRAAAAAAAAA』
勝利の咆哮。
そんな人間味すら感じるフォールの行動を嘲笑うように――。
「……随分と人を殺したのね」
――
「フォールは死ぬべきよ」
フォールがさらに能力を行使しようとする。
だが、遅い。
司は刀を振るう。二度三度、その場で何もない空間を切り裂く。
同時にフォールが切り刻まれる。
必中の斬撃は怖気が走るほどの鋭さで容易くレベル六フォールの硬い外皮を引き裂き、内部骨格を破砕し、肉を侵食する。
毒がフォールの全身を侵すのに時間はいらない。
だが、それでも生存本能が勝ったか。一瞬の判断で切り裂かれた右足と左腕、斬られた部位の肉を削ぎ落す。
『GAAAAAAA!!』
伊達に此処まで生き残ってはいないのか。力量差をフォールは即座に感じとった。己が勝てる確率がないことを把握。
そして、とる選択肢は単純明快。
残った右腕と左足で跳躍。異能による溶断を駆使し、封鎖された訓練場の天井をぶち破る。
このまま逃走し傷を癒す。時間がかかるが、フォールはしばらくじっとしていれば傷は再生する。
全身を苛む毒も一度分解してしまえば耐性が付く。
フォールは殺し損ねるのが一番厄介だ。学習し、同じ殺し方はできないし、奇襲を仕掛けて逃がしたら、その奇襲は真似してくる。
再びレベル七にあがってまた人類を殺しつくさんと活動をするだろう。
だから逃がしてはならない。
そもそも、司に逃がす気はない。
「既に、あなたはロックオン済み」
例えどこに逃げようとも一度ロックオンしてしまえば、有効範囲内から逃げない限りは斬撃は届く。
一閃を振り下ろす。
それだけでロックオンされたフォールの視界が離れていく。真っ二つになった。何が起きたのかすら理解していないだろう。
心臓部の核を正確に切り裂かれ、フォールは砂となって消滅した。
「戦闘終了」
刀を鞘に納める。
怪我はない。まだまだ戦闘行動可能。
ならば次に行うべきは味方の支援。
上杉の方は心配ない。そちらは司よりも経験豊富な過去使いだ。早々とやられることはない。
現在、救援が必要なのは、現在訓練場で戦っているであろう草薙チームと赤城チーム。
敵の襲撃と同時にモニターが切れたのでどうなっているかはわからないが、見捨てるわけにはいかない。
フィールドに向けて観客席から跳躍する。
その瞬間。
ゴリラのように筋骨隆々のフォールが空中の司の隣に現れる。
目があった瞬間、拳が振るわれる。
空中で避けることができずその一撃を喰らい、再び観客席まで戻される。
そして、ゴリラ型のフォールはまるで通せんぼをするように司の前に立ちふさがった。
どうやら司にフィールドに行ってほしくないようだ。
「…………」
いよいよもっておかしい。中級フォールがまるで意思があるかのように行動している。
何かが起きている。この状況を引き起こした何者かの意思がある。
だが、それを考える暇はない。
咆哮と同時にゴリラ型のフォールがその剛腕を振るう。
頭を下げてそれを躱し、下がる。
腰の刀の柄に手を添える。
「増援がくるなら。なくなるまで倒せばいいだけ」
刃に猛毒を滾らせ、司は再び戦闘行動に入った。
●
「装甲起動」
過去時計の竜頭を押し込み、上杉は己の過去を身に纏う。
普段着と同じ、漆黒に染まった過去装甲には歴戦の戦士を思わせる傷が幾筋も刻まれている。
余分な部分を削ぎ落し、先鋭化したかのような抜身の刀を思わせる装甲は、さりとてどこかローブを身に纏った賢者のような風格を持っているようにも思えた。
「さて、手早く済ませよう。生徒が助けを待っている」
上杉はただ一歩踏み込む。
そして、打つ。
蹴る。
敵の攻撃がくれば弾く。
受ける。
流す。
上杉が二体のフォールを相手にやっていることはこれだけであった。派手な異能の行使はない。
ただ身技のみにて、二体の中級フォールを相手取っていた。
中級フォールの中でも上位と中位。レベル六と五が相手であったが、上杉は無手。
まるで必要ないとでも言わんばかりに悠々と冷静沈着に相手のやってきたことに対して対処する。
襲い来る異能を拳で打ち砕き、時には蹴りで弾く。
中級のフォールの異能は弱いが、それでも大砲と同義の威力を誇っている。それが攻撃性であればかなりの痛手になる。
しかし、上杉は何ら痛痒もなくそれらを捌いて見せていた。
「ふむ徒党を組むか。まだいるな」
二体の攻撃を捌きながら上空に感じる気配を上杉は感じとっていた。それと戦闘を終えて援軍に襲われている司の姿も見ている。
おそらくはこちらの二体を倒しても同じようになるだろう。どれくらい数がいるのかは不明であるが、襲ってくるフォールの等級は減っているように思える。
いつかは途切れるだろうが、いつかはわからない。
(目的は足止めか。生徒を狙いにいくでもなく、私たちをここに釘付けにしたい動きだ。そして、あわよくば倒せれば御の字ということか)
追加がなくなるまで倒すのが正解だろう。現に司はそうするつもりだ。目の前にいるフォールを全滅させる。それが彼女の目的なのだから。
「ふむ、ここらでストックを増やしておくのも良いか」
上杉は残念ながら司ほど派手に立ち回ることはできない。能力的にも派手とは言い難い上に、必要なものが手に入りにくい。
それだけに今の状況は好都合だ。
『GRAAAAAA!』
無論、そんなことなどフォールにはわからない。上級になれば人語を介すフォールすら存在して言う伝説が残っているが、真偽のほどはわからない。
彼らにとっては人間は殺すものだ。現状、この地球という惑星の支配者。霊長を殺す。レベル十二へと至り、大絶滅を引き起こすこと。
それこそがフォールの存在理由であり、目的だ。本能のままに殺戮を繰り返す怪物が上杉を殺さんと猛る。
二足両椀を振う。レベル五、レベル六のこのフォールは人間に近しい容姿を持っている。
だが、全体として太く、特に頭が巨大化している。まるでパラボラアンテナのようですらある。まさしく異形だ。
彼らが持っている未来は新人類による現人類の駆逐シナリオ。ポストヒューマンが怪物の形を持って顕現している。
それゆえに彼らの攻撃は人間に順ずる。強靭な脚力、腕力と全てのステータスが人間を凌駕している。
その存在そのものが能力となっている。それこそは人類への超越権。彼らはそこにいるだけで人類を超越する。
故にそれに敵う存在はいない。
「無論それは、育てばの話だ」
現時点では力が少しだけ上になるだとか、スピードが少しだけ上になるだとかその程度でしかない。
レベル五であろうと六であろうとも、人類にとって脅威となる能力ほど成長が難しい。
つまるところ強い能力を持つフォールほど、その能力が本領を発揮するのは上級や特級になってから。
そこに至っていない中級であれば。
「問題にはなりはしない」
『GRA?!』
相手の認識を技で以て振り切る。
上杉の姿はフォールの眼前から消え失せた。どこへ行ったのかきょろきょろと周囲を探るが、どこにもいない。
「いいや貴様らの目の前にいる」
打撃。
フォールの胴へ上杉の掌底が叩き込まれる。
『GAAAA!?』
レベル五フォールが威力のままに上空へと打ち上げられる。その隙を掴んとレベル六が剛腕を振るう。
上杉は背後から迫る圧力をそのままに腕一本で受け流し、組み付き、投げへと技を接続する。
地面に叩きつけられた六の瞳に上杉は蹴りを叩き込んだ。
『GEAAAAAAA!?』
同時にそこから落ちてきたレベル五を再度、膝を叩き込んで上空に打ち上げておく。
上杉の足を抵抗とばかりに掴んできたレベル六の手首を踏みつける。丈夫さはあちらの方が上であるが、装甲で強化された身体能力があれば、その弱い部分を破壊することは容易い。
フォールが悲鳴を上げる。
『GrAAAAAAAA――』
「フォールとて実体がある。破滅の未来が具現化した存在。未来そのものであればよいものをなまじ肉体など持っているからそうなる」
破滅の未来として問答無用で人類を滅びに向かわせればよかったのだ。それをフォールなどという怪物として現出させたからこうなる。
痛みを感じる。フェイントにも引っかかる。
「そして、使役もされる」
フォールにとって過去使いは天敵だ。過去使いだけがフォールを倒せる。
その中でも、この上杉という男は天敵中の天敵だった。
彼が手を掲げるだけで、目の前にいる二体のフォールの動きが止まる。微動だにせず、ただ静止する。
抵抗しようとしているが、無意味。故にフォールが感じることはただ一つだ。
――何故――
「疑問には応えよう。私はこれでも教師だ。諸君らは生徒ではないが、特別だ。私の能力は簡単に言えば未来操作だ。自らの未来を好きに操作できるだけの能力だと思っていたのだが、諸君らもまた未来だ」
だからこそ上杉はフォールの支配、操作を可能とする。
もちろん無条件でできるわけではない。ある程度、自分の力で弱らせなければならない。
そうしなければ支配できないし、支配者と奴隷の力関係が逆転されれば支配から抜け出される。
難しいのはフォールは味方の共食いでも力を増していくのだ。
それは上杉がフォールを支配している中でわかった事実の一つだった。
新たに配下に加えた二体を従え、さらに降りてくるフォールへと向き直る。
「さて、それほど多くはないだろうが、放置するわけにもいかんか」
二体を新たに湧いたフォールに向かわせながら、上杉はフィールドへと向かう。
●
さて、中級フォールを難なく倒しているように見えるが、これはあくまでも上位陣の話。
伊瀬司と上杉という歴戦の兵であるからこその戦果だ。
では、普通ならばどうなるか。
簡単だ。
絶望のみである。
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