Ⅹ 犯人の襲撃
◇
翼くんが事情聴取を行っているのを確認してから、私はファンサイトを読み漁る。
勝負を仕事にしている人間にとって、相手の思考を読むのは一番大事なことで一番慣れている作業だ。だけどここは雀荘じゃないし、相手は雀士ではない。だからなにもかも読みとくのは無理だ。それでもファンサイトに書かれているものを読み漁ると、なんとか、少しずつ、その根底にある思考が分かってきた。
アカウントは大量にあるが、中心となって更新をしている人間は二名だ。
一人は大学にいる誰かだろう。先ほどの食堂での写真をあげているのもそうだが、白翔くんの写真をあげて、『こんなことも私は知っている』『こんなところも知っている』といった白翔くんのこと知っていますアピールが文章の節々から感じられる。あまり文章力は高くないようで、個人的な感情も混じっている。さっきの私のあげた恋人記事に『デマ』『あり得ない』といったコメントが複数ついているが、これをつけているのは恐らくこの人だろう。
……盗聴器もこっちの人だ。そのぐらいのことをしそうな激情を感じる。
――私が一番、彼を知っている。私が一番、彼に近い――
「思ったより早く釣れるかも……」
しかし、むしろ、だからこそ問題だ。
私しか知らなそうな情報を挙げているのはこの人ではないのだ。
この人とは違う、感情が見えない人が別にいる。ただ淡々と情報を乗せている誰か。冷たい文章の持ち主。仕事だからやっている、と言わんばかりの冷たさ。
けれど、その人があのキッチンで起きたことや、白翔くんの車の中身を知っている。
――この人はなんなんだろう。こんな人がわざわざ盗聴などしているのだろうか? 本当に?
それに、『久留木舞』に対しての記事なんて私が書いたものしかない。
白翔くんの言っていた『怪文書』を送ってきた人は、じゃあ、このファンサイトとは別なのか?
――本当に?
「……白翔くんの車の内装を、……知っている人間は何人いるんだろう……」
――白翔くんがスパイスカレーを好きなことを知っている人間は?
――私でないなら、それは、誰だ。
「候補は……いる」
でも、『だとしたら』何故そんなことをする必要があるのだろう。
だって、そんなことをしても『彼』にはなんのメリットもない……。
頭が痛い。眠れていないから体が疲れている。
でも、思考はクリアだ。
シン、と答えが近づいてくる。
『でもそうだとしたら彼はなにを考えているのか』
打っている時みたいに、それだけに思考が進む。余計な音はひとつもない。余計なことは他にない。ただ、それだけ、その答えだけ、シン、と分かった。
――もしそうなら、彼は――
「あなたが久留木舞さんですか?」
「……え?」
ふいにかけられた早口に反応ができなかった。
――その拳にも、反応はできなかった。
「久留木さん!!」
顔を上げた瞬間に『ヤバい』と分かっても、それはあまりにも遅かった。
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