第151話 ルビーの気持ち
俺とカスミさんは、サイクロプス目掛けて戦場を駆け抜けている。進路上に群がっているモンスターを倒しながら、カスミさんはどんどん先へと進んでいく、俺は付いていくのがやっとだ。走るのは苦手なんだよな。
モンスターを倒しながらサイクロプスの近くまで来た、サイクロプスの全体像が見えてきた。デカイ!身長7メートルは優に超えている、人型をした一つ目の巨人族だ、手には丸太の様なデカイ棍棒で武装している。
ん!? サイクロプスのすぐ近くに人がいる、あれはドワーフ傭兵団の人と、それから・・・
「サーシャ!」
サイクロプスの近くにルビーさんとサーシャがいた。だけど何か様子が変だ。サーシャは今にも泣き出しそうな顔をしてその場で座り込んでいる、その近くでルビーさんはその場で横たわっている。まさか! サイクロプスにやられたのか!?
「カスミさん! 俺はあそこにいる仲間の冒険者の下までいきます! 暫くの間サイクロプスの相手をお願い出来ませんか!」
「わかりました! だけど急いで戻ってきて下さいね!」
「はい! よろしくです!」
カスミさんはサイクロプス目掛けて一直線に駆けて行った。俺はルビーさんの所まで急ぎ駆け寄った。
ルビーさんのすぐ近くまで駆け寄ったのだが、ルビーさんは静かに横たわっている。隣にいるサーシャに声を掛ける。
「サーシャ! 無事かい! ルビーさんはどうしたの!」
「ジ、ジローーー! ルビーが、ルビーが・・・」
「しっかりして! 何があったの!」
サーシャは今にも泣きそうな顔をしている、だが状況を説明しようと堪えている。
「サ、サイクロプスの攻撃をまともに喰らっちゃって、ルビーが倒れちゃったの」
「なんだって!?」
こいつはマズイ! 魔法使いの防御力は紙装甲だ、あんな巨人の攻撃をまともに喰らってはひとたまりも無い!
俺は耳をルビーさんの口元に付けて、ルビーさんの呼吸を確かめる。
「よかった、まだ息はある」
おそらくHP0の状態だろう、昏倒しているだけみたいだ。よし! これなら!
迷っている暇はない! 俺はバックパックから上級回復薬を取り出し、瓶の蓋を開け、ルビーさんの口に飲み口をあて、薬を飲ませようとした。
「ルビーさん! これを飲んで!」
だが・・・
「だめだ、薬を飲んでくれない」
ルビーさんの口から薬の液体が零れ落ちるだけだ。
「こうなったら!」
緊急事態だ、俺は上級回復薬を口に含み、ルビーさんの唇に自分の唇をあてがう。口移しで飲ませてみる。
「・・・ンん、・・・」
よし! ルビーさんが薬を飲み込んだ。すると次の瞬間、ルビーさんの体が淡い光に輝いた。
ルビー ----------
参ったねえ、あたいとした事がとんだドジ踏んじまったよ。
全身の至る所が痛いったらありゃしないねえ。
意識が朦朧としている、もうだめなのかねえ・・・あたい。
サーシャが何か言っている、うまく聞き取れないよ。何泣きそうな顔してるんだい。
「ルビーさん! これを飲んで!」
おや? ジローさんの声が聞こえる、いやだねえ、こんな所にジローさんがいる訳ないじゃないか、あたいの中でジローさんの存在ってそんなに大きくなっているのかねえ。
ジローさんの顔があたいに近づいてきた、な、何だい? ジローさん、何するつもりだい?
あたいの唇に湿った柔らかい感触が伝わってきた。
ああ、ジローさん、そんな事されたらあたい・・・とろけちまうよ・・・
するとどうした事か、今まで全身のあちこちが痛かったのに、今ではまるで嘘みたいに痛みが消えていく。
な、なんだい!? ジローさん、あたいに一体何を飲ませたんだい!?
痛みが無くなり、全身に力や活力がみなぎってくるのがわかる。
ああ、ジローさん! こんなにもジローさんの存在が近くに感じるよ!
いつの間にか、あたいの心を占める割合がジローさんで占められているのがわかる。
何時からジローさんを意識し始めたのかねえ、初めて会ったときはあんなに頼り無かったのにねえ。
今じゃ、ジローさんのあたたかくて力強い腕に抱かれて、何と言うか、凄く安心感があるっていうか、勇気が沸いてくるって言うか、いつの間にかジローさんの存在があたいの中で大きくなっていったんだね。
・・・ああ、・・・ジローさん・・・あたい・・・あたい、もう、ジローさんの事が・・・・・・
ジローサイドーーーーーーーーーー
「んん!?」
突然、ルビーさんが舌を絡ませてきた。
ルビーさんの腕が俺の首に回されて、がっちりホールドされた。
俺もつい条件反射で舌を絡ませてしまった。
「んん?! ん、んんん!」
ちゅぽん、と音を出して、お互いの唇を離す。突然の事でびっくりだ。
「あ~~、楽しんだ、」
ルビーさんの頬がほんのりと赤く染まっている気がしないでもない。
「・・・ルビー・・・あんたってヤツは・・・」
サーシャがわなわなと震えている。
「おや? サーシャ、どうしたんだい?」
「おや? サーシャ、どうしたんだい?・・・じゃないわよ! ふざけないでよ! こっちがどんだけの思いをしたかわかってんの! めちゃくちゃ心配したんだからね! それなのにあんたと来たらジローとディープで濃厚なやつをかましてくれちゃって~!」
「いたたたた! サーシャ! ドサクサに紛れて胸をもごうとするんじゃないよ! お放しったら!」
「このチチか! このチチが男をたぶらかすのか! こんなものこうしてやる~~!」
「いだだだだ! 悪かった、心配かけて悪かったから、ちょっと待ってサーシャ、今あたいちょっと敏感になってるから、だから乳首を摘んで引っ張るんじゃないよ! お放しったら!・・・ぁン・・・」
・・・よかった、ルビーさんは元気になったみたいだ。サーシャと二人、いつもの感じになっている。まあ、戦場のど真ん中でいつもの二人ってのもおかしなものだが。
ルビーさんとサーシャはじゃれ合っている、もう大丈夫そうだな。
「あのー、すいません、俺ちょっとサイクロプスを倒しに行かなくちゃならないので、」
「ああ、気をつけて行っておいでジローさん」
「後の事はよろしくねジロー」
「・・・はい・・・」
なんだかなあ、まあいいや。
さてと、何時までもカスミさん一人に戦わせている訳にもいかない。俺も前線に行かなくては。
サイクロプスの方を見ると、カスミさんが大立ち回りしていて、サイクロプスの攻撃をうまくかわしながら、隙を見て顔面にビンタを打ち込んでいる。流石だ、カスミさんの強さは本物だ。ビンタ一発で巨体なサイクロプスの態勢を崩していた。
「よーし、俺もやるか」
こんな巨体のモンスターと戦わなくっちゃならないので、ちょっと怖いが、ここまで来たんだ。一つやってみるか。
俺はミドルアックスを握り締め、気合を入れる。
おじさんはちょっと面食らっちゃったよ
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