第149話 道の途中のある会話




 朝、目が覚めて辺りを見渡す。ここは草原だ、ザンジバル王国軍の兵士達やマゼランの私兵達が各々朝食の準備に取り掛かっている。昨日はよく眠れた。やはり夜の見張りを誰かがやってくれるというのは楽である、周りの兵士達に挨拶をする。


「みなさん、おはようございます」


「おはよう」


「おはようさん」


「冒険者殿はよく眠れたようですな」


「ええ、おかげ様で、よく眠れました、見張りの人達には感謝です」


「まあ、俺達も交代で仮眠を取っていた訳だから、そう畏まらなくてもいいですよ」


「なるほど、」


ピピを起こして朝飯にする、さくらんぼを取り出してピピに渡す。


「・・・おいしい」


「そうかい」


俺はどうしようかな、また昨日みたいにエミリエルお嬢様達の所へ行って、朝ご飯を頂戴しに行こうかな。だけど、あまり遠慮がないと嫌がられるかもしれないからな、仕方が無い、自分の持ってきたパンとかにするか。


俺はバックパックからパンと干し肉とチーズを取り出し、水筒の水を飲みながらゆっくりと朝食を食べる。


「うん、うまい、やはりパンとチーズの組み合わせだな」


軽めの食事を取っていると、ザンジバル軍の兵士から声を掛けられた。


「冒険者殿、そんなところで食べてないで、こちらに来て一緒に朝飯を食べましょう、温かいスープもありますよ」


「これは、どうも、ご一緒させていただきます、ピピ、あっちに行こう」


「・・・うん」


俺とピピはザンジバル軍の兵士達と一緒に鍋を囲み、スープを頂く事になった。木で出来たお椀に、適度に盛り付けてもらい、手を合わせる。


「いただきます」


スープを一口、うむ、うまい、肉と野菜を煮込んだ温かいスープだ、こういうのを男料理っていうんだよな。実にうまい。食材もごろごろしていて食べ応えがある、ピピにスプーンで掬ったスープを少しづつ飲ませる。


「どうだピピ、うまいよな」


「・・・ん、おいしい」


「はっはっは、喜んで貰えて何よりですよ」


兵士達と食事を食べながら、ちょっと疑問に思っていた事を聞いてみた。


「ザンジバル王国軍はいつ頃から行動を開始したのですか?」


「確か、冒険者殿がラッセルの偽者を何とかした後の事です、我がザンジバル王国の国内でも、まだ闇の崇拝者絡みでごたごたが続いていた時でした、パラス・アテネ王国の女王、グラドリエル女王陛下から手紙が届いたらしいのです」


「女王からの手紙ですか、」


「ええ、パラス・アテネの危機に兵を出して欲しいという内容だと思うのですが、そう言った事が書かれていたみたいですね、パラス・アテネ王国はこのミニッツ大陸の中心国家ですから、無碍(むげ)にも出来ませんからね、国王陛下とフレデリック様の間で話し合いがありました、騎馬隊を100騎まで出すと言う事になり、こうして出陣した次第なのですよ」


「なるほど、国内もまだ不安定にも関わらず兵を出すとは、中々出来る事ではないように思います」


「仰る通り、王子の率いる兵の数にしては、些か少ない様に思いますが、これだけの数を揃えるのに精一杯だったのです、陛下も思い切った決断をしたと思います」


「なるほど、わかりました、」


色々と大変なようだな、ザンジバルも、そこでふと、兵士が首から提げているペンダントが気になった。


「そのペンダントは?」


兵士はペンダントを手で持ち上げて見せてきた。


「これは、娘から貰ったお守りです」


何か葉っぱと木片で作られた、手作り感溢れる一品だった、素朴な感じでいいなあ、こういうの。


「お互い、無事に帰って来られるとよいですね」


「そうですね、」


朝食も食べ終わり、後片付けをして、しばらく休憩を取り、出発する事になった。俺はまたエミリエルお嬢様達の乗る馬車に便乗させてもらい、パラス・アテネへ向けてゆっくりと進みだした。


行軍は順調、静かな物だ。パラス・アテネまで後もうしばらくだろう。フレデリック王子が馬車の隣に来て、王子とお嬢様は何か「今日もいい天気ね~」みたいな会話をしながら行軍している。長閑な感じだ。


しばらく移動していると、王子の所に伝令の兵士がやって来た。


「フレデリック様、伝令です、前方の進行方向上に粉塵が上がっているとの事です」


「なに?、進路上に粉塵だと?」


「は!、いかが致しますか」


「うーん、そうだな、・・・バンガード!来てくれ!」


騎士バンガード殿が呼ばれて、王子の所までバンガード殿が駆けつけてきた。


「何ですかい、王子殿下」


「数人の騎馬を率いて先行偵察をしてきてくれ」


「わかりました、お任せを」


王子に命令されて、騎士バンガード殿はその場を離れていった。


ふむ、進路上に粉塵か、何事であろうか?パラス・アテネ王国の王都に程近い所だったよな、この辺りって。


暫くして、騎士バンガード殿達が戻って来た、何やら慌てている様だ。何かあったのか。


「王子! 大変でさあ! この先の街道で大規模な戦闘がおっぱじまってまさあ!」


「何!? それで、どこの軍隊が戦っているのだ!」


「はい! モンスターと戦っていたのはパラス・アテネ軍と!、それから冒険者風の連中! あとは傭兵みたいな連中でさあ! とにかくもの凄い数でしたぜ! あと! デカイ大物も一匹いましたぜ!」


「デカイ大物!?」


「はい! 身長7~8メートル位のデカブツでさあ!」


身長7,8メートルだと!? 恐らくだけど、たぶんあのモンスターだ。


「王子、そいつはおそらくサイクロプスっていうデカイ巨人族のモンスターですよ」


「え!? サイクロプス! そんなものがこの辺りにはいるのですか!」


「はい、おそらくですけど」


「王子! いかが致しますか!」


「うーむ、そのサイクロプス以外には何が居たのだ!」


「はい! 確か、ゴブリンにオーク、あとオーガもいましたぜ!」


「ふむ、ゴブリンにオーク、それとオーガか、おまけにサイクロプスまでいるとなると・・・」


「王子! 私達も行きましょう! 少しでも戦力は多い方がいいはずだわ!」


エミリエルお嬢様はやる気のようだ、カスミさんも頷いている。そうだよな、この国の救援に来たんだよな、みんなは。さて、王子の判断に委ねておいて、俺は先行でもして様子見でもしてこようかな。


サイクロプスとの戦い方は知っている。ゲーム「ラングサーガ」と同じとはいかないかもしれないけど、もし同じなら弱点は頭と一つ目のところだったはずだ。


サイクロプスは巨人族のモンスターで、身長約8メートルで水色の体色をしている。棍棒などで武装したデカイ一つ目のモンスターだ。力が強く、また巨人の為、サイクロプスの体に取り付くのも一苦労な厄介なやつだ。


ここは俺が先行して様子を見た方がいいかもしれない。


「バンガード殿、俺を馬に乗せて下さい、俺がサイクロプスの様子を見てきます」


「え!? ジロー殿! 危険ではありませんか!」


「けど、やるしかないですよ、俺は行きます、騎士バンガード殿、お願いします」


「・・・王子、どうします」


「・・・・・・よし! ジロー殿に任せます! ジロー殿、ご武運を!」


「はい!」


「よおおおーし! 乗れ! ジロー!」


王子も騎馬隊に号令を飛ばす。


「よーし! 皆の者聞け! 騎馬隊、出撃準備!」


俺は騎士バンガード殿の馬の背後のところに座り、しっかりとバンガード殿の背に摑まる。そして勢いよく馬が走り出した。目指すは戦場、正直に言って怖いのだが、今の俺のステータスだと意外といけるんじゃないかなと思うのだが、気を引き締めないと。足元を掬われるわけにはいかない。慎重に行動しなくては。


俺と騎士バンガード殿はひたすら前進する、馬の速度はやはり速い、あっという間に皆から離れて、草原をひた走る。しばらく馬に跨っていると、見えた! 確かに粉塵が上がっている。ここからでも良く見える、モンスターの数は沢山いる。数えるのも面倒だ、そのモンスター共と戦っているのはおよそ200人ぐらいの兵士達だ。中には冒険者風の人もいて、傭兵みたいな人達も大勢いる。みんな必死になって戦っているみたいだ。


「ジロー! 突っ込むぞ!」


「はい!」


さて、いっちょうおっぱじめますか。




おじさん、ちょっと怖いけどなんとかやってみるよ
















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