第148話 野営キャンプ




 パラス・アテネ王国へ向けて行軍していたが、俺とピピ、エミリエルお嬢様とカスミさん達のマゼランの私兵達、ザンジバル王国軍のフレデリック王子と騎士バンガード殿達は、今は昼休みを取っている。皆は俺の所に集まり、今後の事を話し合っている。


「それでは、サリー王女から連絡があった訳ですか?」


「ええ、そうなのです、王子」


「でも、サリー王女様から、おっさんにパラス・アテネに来るなって言われたってのが、どういう事かしら?」


「わかりません、何でしょうね、お嬢様」


「そもそも、その伝意の石とかいうマジックアイテムは、ファンナが持っていたのよね」


「そうなのです、お嬢様、それがサリー王女様からの言葉を伝えられたのですが・・・」


「ファンナはどうしたの?」


「それもよくわからないのです、伝意の石を使うには一日一回の制限がありますからね」


「ファンナさんにその伝意の石の使い方を教えてもらったって事なんでしょうか?」


「そうですね、カスミさんの仰る通りだと思います。サリー殿下からは特にファンナの事は言われていない様子でしたので、心配ではありますが、大事には至っていないと思いたいですね」


ファンナの事は心配だが、サリー王女から俺にパラス・アテネに来るな、という伝言があった。何故なんだろうか?


「ここで考えていても埒が明かないわ、おっさん、パラス・アテネ王国に行ってみましょうよ」


「うーん、そうなんですけど、他でもないサリー様からの言葉というのが、どうにも引っかかって」


「しかしジロー殿、我々は先を急がねばなりません、ジロー殿やファンナさんの事は心配ですが、ここはパラス・アテネへ向けて行ってみるというのも一つの選択肢ではありませんか」


「そうですね、王子の言う通りだと思います。このまま予定通りパラス・アテネ王国へ行きましょう」


「何かあったら、私達を頼りなさいよ、おっさん」


「はい、その時になったら頼らせて頂きます、エミリエルお嬢様」


よし、方針も決まった、ここはやはりパラス・アテネへ行ってみるべきだな、一体何があったっていうのか?とにかく行ってみよう。


昼休憩も終わり、俺達は移動を再開した。行軍速度はゆっくりだ、周りの風景は長閑な草原が広がっている、いまのところモンスターとの遭遇も無い。静かなものだ。


馬車に揺られながら、旅は順調に進んでいる。自分で歩かなくてもいいというのは楽チンである。


日もだいぶ落ちてきて、辺りが薄暗くなってきたので、今日の行軍はここまでと言う事になり、みんな野営の準備を始めた。ザンジバル軍もマゼランの私兵達もみなテキパキと野営の準備をこなしている。手馴れた物のようだ。


ザンジバル王国軍は150名ぐらいの兵士達なのだが、騎馬隊は100騎程度だ、実際に戦闘に加わるのがこの騎馬隊で、残りの約50名は荷物持ちだったり荷馬車を運用する人だったり、雑用をこなす人達だ。


マゼランの都からエミリエルお嬢様に付いて来た私兵は、みんな冒険者みたいな様子で、一人一人がそれぞれ荷物を持っていて、戦闘要員と言うよりは寧ろ、後方支援の為の人員みたいな感じだ。実際に戦うのはもしかしてカスミさんだけだったりするのかな。


あちらこちらで、イイ匂いがしてきた、みんなそれぞれ夕食の準備に取り掛かっている、なんだかキャンプみたいだな。テントも設営して、みんなそれぞれ夜を過ごしている。兵士の人数が沢山いるので夜の見張りは兵士達が交代でこなす様だ。こりゃあ楽できるな。夜の見張りは兵士達に任せて俺は晩飯を食って早めに寝るとするか。ピピにさくらんぼを渡して、俺はパンとチーズを食べる、うん、うまい。


そこへ、カスミさんがやって来た。


「ジローさん、こんなところで食べていたんですか、こっちに来て一緒に食べませんか」


「これはカスミさん、よろしいのですか」


「はい、野菜スープにソーセージも焼いてありますよ、どうですか」


「勿論行きますよ、ご相伴に預からせてもらいます」


俺とピピはエミリエルお嬢様達が暖を取っているテントまで来た。う~ん、イイ匂いだ。美味そうな料理がある。


「あら、おっさん、こっちに来たの、匂いに釣られてやって来たって訳ね」


「はい、お邪魔します、お嬢様」


「さあ、温かい内にお召し上がりください、ジローさん」


「はい、いただきます」


こいつは美味そうだ、まずは野菜スープを一口、うん、あったかくておいしい。冬はやっぱり根菜だよね。体が暖まる、お次はソーセージを一齧り、うーむ、粗引きの肉がいい感じでうまい。塩だけの味付けだが、温かい料理というのはいいものだな。体があったまる。ピピにも食べやすい大きさに切り分けて、ソーセージをピピに食べさせる。


「どうだピピ、うまいよな」


「・・・うん、おいしい」


「よかったらまだ沢山ありますから、おかわりどうぞ」


「これはすいません、カスミさん」


お言葉に甘えておかわりをする、寒い冬はやっぱり野菜スープだよな。うむ、うまい。


「これは誰が作ったのですか? とてもおいしい料理だと思いますけど」


「うふふ、ありがとうございますジローさん、私が作ったんですよ」


「へ~、カスミさんって、料理も得意だったんですね、この野菜スープなんて最高ですよ」


「それはどうもジローさん、調味料が乏しいですけど、なんとか出来上がってよかったと思います」


「うん、うまいですよ、きっといい奥さんになりますよ」


「まあ、ジローさんってば、おだてても何も出ませんよ」


「・・・・・・」


「どうかしましたか、お嬢様?」


「・・・やっぱり、男の人って、料理が出来る女の人がいいのかしら・・・」


おや? お嬢様が殊勝な事を言い始めたぞ。やっぱり王子にいい所を見せたいのかもしれないな。


「エミリエルお嬢様、料理を教わりたいならカスミさんに教えて貰えばよいではありませんか」


「う~ん、でも私に出来るかしら」


「お嬢様、料理なんてものは慣れですよ、食材を切っては煮込んだり炒めたり、湯煎したりしながら少しずつ上達していけばよいのですよ」


「・・・ふ~ん、そうなんだ、・・・カスミ、マゼランに帰ったら料理を教えて頂戴、私に出来そうな物からでいいから」


「はい、わかりました、お嬢様」


お、お嬢様の手料理か、王子の胃袋を掴めば今の関係もより磐石なものになるだろう。頑張ってくださいね、お嬢様。


「だけど、料理なんて使用人がいればいいような気もするけどね」


「そ、それはそうなんですけど、ここはやっぱり手料理ですよ、お嬢様」


「ふ~ん、手料理ねえ・・・」


「おや? さっきまでの気持ちはどこへ、こいつは先が思いやられますな、カスミさん」


「おっさんには関係無いでしょ、いいから早く食べなさいよ」


「はいはい、」


こうして暖かな時間が過ぎ、夜も更けてきたのでみんなで睡眠を取る事になった。見張りの兵士には本当に感謝だな。さあ、ゆっくり寝よう。


疲れが溜まっていたのか、横になった途端に睡魔が襲ってきた、俺はそれに身を委ねてぐっすりと眠った。




おじさんはゆっくり寝るよ















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