第147話 出発の朝
セレニア公国での、フレデリック王子とエミリエルお嬢様の痴話喧嘩がなんとかなり、二人は元の鞘に納まった。これで二人の問題も無事解決したということで、ジョアンナ公女が不意に俺に話し掛けてきた。
「そう言えばジロー、お兄様がジローに渡したい物があると言っていましたわ、」
「渡したい物ですか?何でしょうね」
「まずは朝食にしませんこと、わたくし先に行っておりますわ、それでは皆さん、失礼」
ジョアンナ公女は部屋を出て、すたすたと歩いて行ってしまった、まるで何事も無かったかの様に。ジョアンナ公女がそもそも王子の部屋に来なければ、こんな問題も起きなかったのではなかろうか。まあ、俺には関係無いが。
2階にある貴族用の食堂に行き、朝食をいただく。うむ、今日の朝ご飯も実にうまい、パンに野菜スープ、ベーコンエッグにサラダ、食後の紅茶まで出てきた。紅茶を啜り、ほっ、としているとジョナサンさんから声を掛けられた。何やら小瓶のような物がテーブルの上に置かれている。
「ジロー殿、あなたに渡したい物があります、せめてもの餞別として、宝物庫に保管してあった物をご用意致しました、どうぞお受け取り下さい」
「これは、どうもありがとうございます、一体何でありましょうか」
ジョナサンさんが渡してきた物は小瓶が2つ、何かな、これは?
「これは上級回復薬と万能薬です、宝物庫にあるよりジロー殿に使って頂いた方が良いと思いまして」
「上級回復薬! それに万能薬! その様な高価で貴重な物を、よろしいのですか」
「ええ、構いません、寧ろジロー殿に使ってもらった方が為になると思い、持って来ました、どうぞ収めて下さい」
「ありがとうございます、大切に使わせて頂きます、ジョナサン様」
こいつは凄いぞ、上級回復薬はHPを全快する魔法薬だし、万能薬はあらゆる状態異常を回復する魔法薬だ、いずれも金貨1枚以上する高価な品物だ、こんな物貰っちゃっていいのか。有り難く使わせて貰おう。
「ジロー殿には我が公爵家の者がお世話になりましたからね、これ位の事は致しますよ、フレデリック王子、エミリエル嬢、カスミ殿、この国をお救い下さり本当に感謝致します」
「気にしないで下さい、ジョナサン公子、我々はただ通り過ぎただけで御座います、これからパラス・アテネへ向けて移動する事になりますから、寧ろこの様に歓待されて心苦しく思っております」
「ジョナサン様、私達を歓待して下さり、感謝しておりますわ」
「お嬢様の言う通りです、ここまで良くしていただき、なんだかそわそわ致します」
「兎も角、この国の平和が保たれたのは皆さんのお陰なのは事実です、ジョアンナやマリアンデール共々感謝しておりますよ、これからのパラス・アテネでのご活躍も応援させて頂きますよ」
「はい、恐縮です、公子」
「我等セレニアの軍も、いずれはパラス・アテネに向かいますから、その時には共に戦おうではありませんか」
「はい、その時を楽しみにしております、ジョナサン様」
こうして、朝食も済み、紅茶も嗜み、話も和やかになり、いよいよパラス・アテネ王国へと出発する時が来た。ザンジバル軍は騎馬隊をメインに編成された軍隊で、セレニア公国の公都内にある広場でテントを張っていて、皆、片付け作業をしていた、エミリエルお嬢様が率いるマゼランの勇士達は、宿屋で過ごしていたみたいだった、今はお嬢様と合流している。
片付け作業も終わり、準備の方も出来たみたいだ、フレデリック王子が号令を飛ばす。
「よし! 皆の者、準備はよいか! それではパラス・アテネ王国へ向けて出発する!」
「「「「「「 は! 」」」」」」
王子も馬に乗り、騎士バンガードと共に行軍を開始した。エミリエルお嬢様の私兵軍もその後に続き、移動を開始した、俺とピピはお嬢様達が乗っている馬車に便乗させて貰い、馬車の旅になるようだ。私兵軍は徒歩で向かうので、騎馬隊や馬車のスピードはゆっくりとしたペースだ。のんびりとした行軍になりそうだな。
セレニア公国の東門を潜ろうとした時だった、ふと、女性の声が聞こえた、誰だろう。
「ジローさん、王子様、お嬢様、カスミさん、道中お気をつけて」
なんと、そこにいたのはシスターマリーだった、シスターマリーがお見送りに来てくれていた。
「これはシスターマリー、お見送り感謝致します」
「ジローさんには大変お世話になりました、これからの皆様のご武運をお祈り致します、どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「わざわざ有難う、シスター、ジョナサン公子やジョアンナ公女に宜しく」
「それじゃあ、行ってくるわね、シスター」
「マリアンデール様もお元気で」
「それでは、行って参ります」
しばらく手を振っていたシスターマリーだったが、騎士ヨムンさんと共にお城へと帰っていった、シスターマリーのお見送りに感謝だな。
しかし、ファンナの事が気になる。俺としては気持ちが急いてしまうのだが、焦っても始まらない、ファンナの事を信じよう。
「そう言えばおっさんは、今のシスターマリーって人を探しにセレニアにやって来た訳よね」
「ええ、そうです、そう言えばお嬢様達は何故パラス・アテネへ?」
「私のお母様がパラス・アテネ王国の王妃様と旧知の仲なのよ、それで本当はお母様が行きたかったみたいだけど、私がミレーヌ伯爵の名代として私兵を率いて向かったって訳なのよ、専属護衛のカスミもいる事だし」
「へ~、そうだったんですね、王子はどうしてですか?」
馬車の隣に寄ってきた馬に跨った王子と、騎士バンガード殿が、俺の質問に答える。
「我等ザンジバルは、パラス・アテネ王国の女王グラドリエル様の救援依頼を受けて、行動に及んだ次第なのですよ、僕は父上の名代として来ている訳なのです、ザンジバル王国も今はまだ闇の崇拝者の与えた傷が癒えてはいませんので、150人の騎馬隊を編成するのに精一杯でしたがね」
「そうだったのですか、ザンジバル王国もまだまだ大変みたいですね」
騎士バンガードが続いて答える。
「ま、この俺に任せておけばいいさ、ジロー、どーんと任しておけって」
「はい、頼りにさせて頂きます、騎士バンガード殿」
「髭のおっさんはお酒をほどほどにしておくといいのにね」
「おっと、お嬢様に一本取られましたな、わっはっはっは」
なにはともあれ、これでパラス・アテネへ向けて移動する事になった訳だ。パラス・アテネ王国までは大体2日ぐらいの距離だろうか。街道を道なりに進み、モンスターとの遭遇も無く、辺りは草原の長閑な風景が流れている。
馬を休ませる為と軍の休憩も兼ねて、昼飯にする事になった。行軍途中なので軽い食事になるわけだが、みんなそれぞれ干し肉だったり、チーズやパンなどを持ち寄り、軽めの昼食を取っている。
そんな時だった、突然伝意の石から女性の声が聞こえた。
『・・・・・・あー、あ~~、これでいいのかしら、あ~~、聞こえますか・・・』
突然伝意の石から声が聞こえて、慌てて俺も自分の伝意の石を握りこんだ。
「もしもし、聞こえますよ、ファンナ、無事かい、よかった~、暫く応答が無かったから心配していたんだ、どうしたの」
『あ、その声はジローさんですか? あーよかった、使い方はこれでよかったみたいですね』
相手の声はどうやらファンナではないらしい、一体どういう事だ?
「あの~、そちらは一体どちら様でしょうか、ファンナはどうしたのですか」
『あ、はい、ジローさん、わたくしです、サリーです』
「え!? サリー王女様ですか? 一体これはなにがどういう・・・」
『んんっ、ジローさん、落ち着いて聞いて下さい、貴方はパラス・アテネに来てはいけません、いいですね、ちゃんと伝えましたからね』
「え!? もしもし、サリー様、一体何が、」
どういう事だ? さっぱり訳がわからないよ、俺はパラス・アテネに行ってはダメって聞こえたけど、何がどうなっているんだ。
おじさん、気になるよ
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