第146話 番外編 冒険野郎マグガイバーの冒険 その3




 よう、また会ったな、俺だ、「冒険野郎マグガイバー」さ。


あんたもミッドナイトに誘われて酒を煽りに来たクチかい?、今夜も俺の冒険話を酒の肴にでも聞いていってくれよな。


あれは、そう、サラミスの街に程近い、バルト要塞に食料を届けて欲しいっていう冒険者ギルドの依頼だったな。


いつものように準備万端、いつでも冒険にいけるぜ、って時だった、同じ冒険者仲間の女盗賊シーフのレミも一緒の依頼を受けたみたいだったんだ。


食料は荷馬車に2台分満載して、俺とレミの二人で二台の荷馬車の護衛をする事になったのさ。


サラミスを出発し、バルト要塞まで荷馬車のペースで約1日半、楽な依頼だぜ。天気もいいしな。


「絶好の冒険日和だぜ」


荷馬車に飛び乗り、いざ、バルト要塞まで、長閑な風景が流れているぜ。冒険は順調、大した問題も無く荷馬車は進んでいくぜ。


こう何も無いと欠伸(あくび)の一つも出てくるってもんだぜ。


「ふあ~~あ」


ちょっくら昼寝でもするか、この辺は大したモンスターも出ないしな、そう思った時だった。おっと、早速モンスターのお出ましだぜ、空中をヒラヒラと飛んでいるこいつは、ビックモスだな。デカイ蛾のモンスターさ、出てきたのは一匹だけの様だ。モンスターとしては大した強さじゃないヤツだ。


「レミ、モンスターだぜ」


「見ればわかるわよ」


俺は愛用のダガーを抜き、荷馬車の護衛に専念した。


「ちょっとマグガイバー! あんたも手伝ってよ!」


「ここはお前さんに譲るぜ、よろしくやってくれや」


「もう!」


へ、こんなヤツ、この冒険野郎マグガイバーさまの出る幕じゃないぜ。そんなもんは三流の仕事だぜ。一流の俺は荷馬車の護衛で手一杯だからな。レミ、ガンバンな。


レミはモンスターと戦っている、中々モンスターもやるようじゃねえか。レミがナイフを身構えてビックモスに攻撃している、いい動きだレミ。着実にモンスターにダメージを与えているようだぜ。その意気だぜ。


暫くして、レミがモンスターを倒した、俺はその場で拍手をする。


「やったじゃねえか、レミ」


「まったく、これであんたと同じ報酬だと思うと腹が立ってくるわね」


「おいおい、俺だってちゃーんと荷馬車の護衛をしていたんだぜ、何もしてない訳じゃないさ」


「はいはい、わかったわよ、さ! 先を急ぎましょう」


荷馬車は移動を再開して、一路、バルト要塞へ向けて進みだした。ふーう、やれやれ、これだから冒険はやめられないぜ。


荷馬車は進み、あっという間に夕暮れ時になったのさ、流石に夜の行動は控えた方がいいって事で、その場で野営する事になった訳だ。


野営の準備もお手の物さ、冒険野郎にはこのくらい朝飯前だぜ。あとはどちらから先に寝て見張りをこなすかだ、まあ、俺はどちらでもいいんだが。


「昼間は私がモンスターと戦ったから、お先に寝させてもらうわね、見張りの方、しっかりやんなさいよ」


「はいはい、わかってらい、おやすみ」


俺が夜の見張りをする事になったのさ、こんなの慣れてるぜ。暇つぶしがてら夜食でも食うか、パンとチーズしかないが、何も無いよりは遥かにマシだぜ。


「うん、うまい」


それにしてもパンとチーズの組み合わせは実に美味いな。小腹が減っている時なんかは最高だぜ。


夜食も食って、他にすることもない、仕方ねえな、見張りでもちゃーんとするかと思ったんだが、睡魔ってやつはとんでもなく恐ろしいヤツだぜ。暫く睡魔と格闘していたんだが、とうとう俺もこくり、こくりと船を漕ぎ出したのさ。


暫く経った時だった、がさごそ、がさごそ、っと物音が聞こえた訳だ、俺はその時、不覚にも寝ちまっていたのさ、物音で目を覚ました俺は一瞬目を見開いたぜ。


なんと、そこに居たのは、野うさぎだった。


ん?ちょっと待てよ、こんなモンスターが跋扈(ばっこ)する平原に野うさぎはないだろう、と思った俺はこう考えた。ははーん、さてはコイツ、かわいい外見で人を騙す殺人兎だな。間違いないぜ、他のヤツは騙せてもこの俺、冒険野郎マグガイバーさまは騙せないぜ。


俺は早速、レミを起こした。俺一人ではこの殺人兎には対処出来ないかもしれないからな。


「おい、レミ、起きろ、モンスターだ、殺人兎だ」


しかし、レミは一向に起きる気配がない、これは参ったぜ、レミのやつ、ここへ来て寝たふりをしていやがるぜ。やれやれ、やっぱり女の子だな。怖いのは嫌なんだろう。


仕方が無い、ここは俺も寝たふりをするぜ。


「ぐーぐーぐー」


しかし、あろう事かその殺人兎はなんと、俺のところへとやって来てくんか、くんか、っと匂いを嗅ぎ始めた。


「ひっ」


俺は身じろぎ一つもせず、ただじっと待つ事にした。早いとこ何処かへ行ってほしいところだが、ここは我慢だ。


うさぎの鼻先が擦れてくすぐったいが、我慢だ。殺人兎はまだ俺の事をくんか、くんか、と匂いを嗅いでいる。俺はこのままじっと耐える。させるか、させるものかよ。


暫くして、殺人兎は何処かへとぴょんぴょんと飛び跳ねながら行ってしまった。


よーし、俺の勝ちだ。見事に殺人兎の事をやり過ごしてやったぜ。冒険野郎マグガイバーさまには敵わないって訳だぜ。


こうして一夜を過ごし、朝日が俺を照らしていた。ふっ、太陽の光が黄色に見えるぜ。俺は命ある事に安堵する。長い戦いだったぜ。


この出来事を朝、レミのヤツに報告したら、「はあ?何言ってんの?この辺に殺人兎なんている訳ないじゃない」っと言われた。やれやれ、何も知らない子猫ちゃんだぜ。ま、女を守るのは男の務だからな。まあいいさ。


旅は順調、何の問題も無いぜ。荷馬車も無事だったしな。


お、早速バルト要塞が見えてきたぜ、やれやれ、これで依頼は達成だな。ふーう、中々肝を冷やした冒険だったぜ。


バルト要塞に到着し、荷馬車の荷物を手分けして降ろし、後はサラミスに帰るだけだぜ、そう思った時だった、兵士の一人がこんな事を言ったのさ。


「ご苦労さん、手間かけさせたね、・・・そういやあ野うさぎを知らないかい?夜の食料にと思って捕まえておいたんだけど、逃げられてね、どこかで見かけなかったかい?」


「へ? 野うさぎ?」


「ああ、この近くの森で捕まえたヤツなんだけど」


その時、レミがぷーくすくす、っと笑い出した。


「あ、あんた、確か殺人兎と格闘していたんじゃなかったっけ?」


「し、知らねえなあ、野うさぎなんて・・・」


「そうかい、見かけたら捕まえてくれると助かる」


「・・・ああ、見かけたらな・・・」


なんてこった、じゃああの野うさぎは本当にただの野うさぎだったのか?今となってはわからず仕舞いだが、まあ、命あってのものだねだからな。まあいいさ。


こして俺達はサラミスの街へと無事帰還したのさ。今夜の酒もやけにうまそうだぜ。


どうだい、冒険野郎マグガイバーの冒険は、イカすだろう。今後も様々な冒険を日々邁進していくところさ。おっと、もうこんな時間か、それじゃあな、あばよ。


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