第8章

第144話 いきなりの修羅場なんですけど





 俺は今、セレニア城の一室にいる。朝目が覚めて、さあ、これからパラス・アテネ王国へ向けていざって時に、「なにやってるの!!」・・・っという大きな声でびっくりして、急いで声のした所へ来たのだが・・・・・・


部屋の入り口にいたのはエミリエルお嬢様とカスミさんだった、この部屋は確かザンジバル王国の王子、フレデリック王子の滞在している部屋だったな。一体何があったっていうんだ?


部屋の中を確かめてみると、なんと、ベットに王子とこの国の公女、ジョアンナ公女が一緒に寝ていた。しかも二人とも裸だった。・・・これはあれだ、弁解の余地無しってやつっぽい。


え~と、確かエミリエルお嬢様とフレデリック王子ってお付き合いしていたんじゃなかったっけ。それなのに王子がやらかしたっぽいな、これは修羅場になってしまうぞ。


お嬢様が口を開く。


「これは一体どう言う事!王子!説明して!」


詰問された王子はちょっと戸惑っている様子だ、無理も無い。ばつが悪そうに王子が答える。


「あ、いや、これには訳が・・・」


王子はしどろもどろしている、どう弁明するつもりなのかな。その時、大人の余裕なのか、ジョアンナ公女がゆったりした口調で語りかけた。


「皆さん、宜しいかしら、これからわたくし着替えたいのですけれど」


ジョアンナ様は優雅にベットから身を乗り出してこちらに視線を向けた、大人の余裕ある態度だ。他の人に裸を見られてもなんら動じる事無く、ゆったりとした動きでベットから起きだした。とても美しいからだのラインをしていらっしゃる。


カスミさんが気を利かせて、エミリエルお嬢様に声を掛ける。


「お嬢様、一旦部屋を出ましょう、」


「・・・・・・わかったわ・・・」


お嬢様とカスミさんは部屋を出て行った、俺も慌てて部屋を出る。扉の横で控えていたメイドさんが扉を閉める。


辺りは静寂に包まれている、気まずい、非常に気まずい。何と声を掛ければ良いのやら・・・


「うええええええーーーーーーーん・・・・・・」


突然、エミリエルお嬢様が泣き出してしまった、びっくりしていたら他の所から何事かとメイドさん達が駆け寄ってきた、カスミさんが慌ててメイドさん達に説明する。


「あ、気にしないで下さい、こちらの事ですので」


「左様でございますか?もし何かございましたら遠慮なくお申し付け下さい」


「はい、ありがとうございます」


メイドさん達はゆっくりとその場を離れていった、こういう時、大人数では逆効果かもしれないな。なんとかしてお嬢様を慰めないと、しかし、俺はあんまりこういう経験が浅いのだが、どうしたらいいのかな。


「ぐす、ひっく、・・・し、信じていたのに・・・・・・王子の事信じてたのに・・・」


「ああ、お嬢様、泣かないで、きっと王子には何か訳があったのでございましょう」


「訳ってなによ! カスミ」


「そ、それは、・・・私にもわかりませんが、例えば夜は寒いから二人で暖めあっていたとか、」


「ぐす、ひっく、・・・裸で?」


「え、ええ~と、お酒が入っていて、気が大きくなっていたとかかも、」


「ぐす、ひっく、・・・ベットの中で?」


「ええ~と、・・・ジローさん、こういう時男の人って何があるのですか?」


おっと、いきなり俺に話を振ってこられても、何も出てきませんよ。カスミさん。俺もあまりこういう経験が無いですから。


「う~ん、そうですねえ、お酒とかが体に入っていると気が大きくなる、ってのはありますけど、二人っきりで酒を飲んでいて、話が盛り上がり、お互い身分の高い関係、かつ二人ともまだ若い。っとくればやはりこれはもう、・・・棒姉妹としか・・・」


「ジローさん!! もういいです! 聞いた私が悪かったです!」


「す、すいません、あまり俺もこういう経験が無くて」


「実は私もなんですけど、・・・お嬢様、そもそもどちらからお付き合いの話が来たのですか?」


「ぐす、ひっく、・・・そ、そうよ! 付き合って欲しいって言ってきたのは王子からだったわ!」


「え!? 王子からお付き合いを申し込まれたって事ですか?」


「ええ、間違いないですよカスミさん、俺もその時、側にいましたから」


そういえばそうか、確か王子の方から結婚を前提に付き合ってほしいって言っていたな。


「それなら尚の事、王子の事を信じましょうよ、王子の方からお誘いがあったって事はお嬢様の事が好きだから告白したのだと思います」


「ぐす、ひっく、・・・でも、王子かっこいいし、女性にモテるみたいだし、私なんかお転婆だし、」


「そんな事ありませんよ、お嬢様はとても魅力的な女性ですよ、自分に自信を持って下さい」


「ぐす、ひっく、・・・だけど、もし飽きられていたら・・・」


「そんな事ありませんよ、きっと大丈夫ですって、」


「ぐす、ひっく、・・・でも・・・」


「お嬢様、女は港です、男は船です、船はいつか港へ帰ってくるものなのです、」


「・・・女は港?」


「そうです、男は船、船はあっちへ行ったりこっちへ行ったりしますが、最後にはちゃーんと港へと帰ってくるものなのです」


「・・・うん、わかった」


「きっと、王子には何か訳があったのでございましょう、信じましょう、王子様の事を」


「・・・そうね、カスミの言う通りだわ、私はどっしりと構えていればいいのよね」


「そうですとも、その意気ですよ、お嬢様」


意外なお嬢様の一面を見られたな、そうだよな、何のかんの言ってもまだ15歳の女の子なんだよな。年相応の女子の一面ってやつなんだよな、これが。


「・・・そうよね、こんなの私らしくないわ、泣いてるなんて見っとも無いわ、ちゃーんと王子に説明してもらうんだから!」


「そうですよ、お嬢様、その意気です」


流石カスミさんだ、エミリエルお嬢様の事を立ち直らせたみたいだ、俺じゃあこうはならないだろうな。その時、丁度部屋の扉が開いて、ジョアンナ公女様が出てきた。


「もうよろしくってよ」


「それじゃあ、行きましょうか、お嬢様」


「ええ」


そして、俺達は王子のいる部屋へと足を踏み入れた、当たり前だが王子も服を着ている。エミリエルお嬢様の事を待っていたようだ、エミリエルお嬢様とカスミさんは部屋の中をづかづかと入っていく。俺はこっそりと後に続いて部屋に入る。


エミリエルお嬢様が部屋の中央に位置しているソファーにどかり、と腰を下ろす。その隣にカスミさんが丁寧に腰を下ろす。俺は部屋の隅っこで待機している。まず先に口を開いたのが王子だった。


「・・・さて、僕の話を聞いてくれるかい、エミリエル・・・」


「・・・きっちり説明して頂戴・・・」


二人の間には何かぎくしゃくした空気みたいなものが漂っている。気まずい空気だ。少しお嬢様の方が落ち着きを取り戻した様に見受けられる。これなら落ち着いて話ができそうだな。


「僕はね、ジョアンナ公女に指一本触れていないよ」


「・・・どうかしら・・・」


「お嬢様、始めからその様な喧嘩腰ではいけませんよ」


「わかっているわ」


「王子の言う事は正しいですわ、エミリエルさん」


「どうしてそう言い切れるのですか、公女様」


「だって、わたくし、何もされてはおりませんもの」


「・・・」


「・・・」


お嬢様と公女様の間で何か火花の様な何かが見える、気がした。あんまりこの場に居たいとは思わない。しかし、見届けないと、王子を援護しないとならないかもしれないからな。


「それを信じろと、随分な物の言い様ですこと」


「あら、自分のいい人を信じられないのですか」


「二人とも裸でベットで寝ていたではありませんか」


「ただ寝ていただけですわ」


「・・・裸で、ですか・・・」


「ええ・・・」


「・・・」


「・・・」


うーむ、そろそろ王子が何か言わなければ、お嬢様と公女様の間の亀裂が深まる事になりそうだぞ。王子、何か言うんだ。俺はさり気なく王子にジェスチャーをする。早く説明して差し上げて。


「二人とも、ちょっといいかい、エミリエルにはきちんと説明したいんだ、ジョアンナ公女、暫くの間、聞いていて貰えるかい」


「ええ、よくってよ」


お、王子がようやく説明を果たす為に、エミリエルお嬢様に話しかけるみたいだぞ。援護の方は任せてくれ、王子。




おじさん、ほんとにこういうの縁が無いよ









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