第143話 番外編 冒険野郎マグガイバーの冒険 その2
俺の名はマグガイバー、人は俺の事をこう呼ぶ。「冒険野郎マグガイバー」と。
今日はそんな俺のある場所での激しい戦いを繰り広げたモンスターとの戦闘の話を聞いてもらうぜ。
そう、あれはサラミスの街の北東に位置する森、北東の森での冒険だった。
いつもの様に準備万端で冒険に繰り出した俺は、冒険者ギルドで出ていた薬草採取の依頼をこなそうと、サラミスの街を出て行った。
天気は快晴、絶好の冒険日和だ。俺は愛用のダガーを手の中でくるくると回しながら、意気揚々と草原を歩いていた。
「今日もいい天気だぜ」
天気がいいと気分も軽やかな気持ちになってくる、不思議だぜ。今日の冒険は一味違う気がしてくるな。
草原を歩いていると、おっと、早速モンスターが出てきたぜ。目の前に出てきたモンスターはスライムだ、こいつはモンスターの中じゃ一番の最弱モンスターに分類されるやつだ。へっ、こんなやつ、この俺がわざわざ相手しなくても他の誰かがなんとかするさ。
俺はスライムを無視して先を急いだ、冒険野郎にはこんな最弱モンスターに構っている暇は俺にはねえからな。先を急がせてもらうぜ。
「あばよ、スライム」
さあ、目的地の北東の森はもうすぐ到着する予定だぜ。そこでは一体何が俺を待っているのやら。期待に胸を膨らませながら、俺は歩き続ける。
かれこれ30分程歩いた時、ようやく目的地の北東の森に到着した。早速冒険だ、っと言いたい所だが、目的地に着いて直ぐに行動に移すヤツは三流の冒険者だぜ。一流はこういう時慌てないものさ。
まずは腹ごしらえからだ、サラミスの街で買ってきたパンと干し肉、チーズにリンゴ、野菜は無いが、まあこんなもんだろう。水筒に入っている水を飲み、干し肉に齧り付く、うむ、いい歯ごたえだ、ワイルドな俺にぴったりな食事だぜ。チーズもうまい、この癖のある味がなんとも堪らない、パンと良く合う。
「ふう~、食った食った、腹八分目だな」
そう。腹八分目。一流の冒険者は腹いっぱい食ってはいけないのだ。ここで腹いっぱい食うと今後の活動に支障をきたすんだぜ。何故なら腹いっぱいに飯を食うといざって時に身動きが取り辛くなるんだ。そんな物は三流のやらかす事だぜ。
「さて、飯も食った事だし、昼寝でもするか」
そうさ、飯を食ったらちゃーんと食休みを取る事が肝心なんだぜ。じゃないと後で腹が痛くなるからな、食後はよく休む、これ基本。周りにはモンスターの陰も形も無い、昼寝にはもってこいだぜ。
俺は早速昼寝する、しかし、そう簡単に気を緩めちゃだめだぜ。なんせここは森の入り口、何時モンスターが這い出てくるかわかったもんじゃないからな。油断せず昼寝するぜ。
「ぐ~ぐ~ぐ~」
しかし、俺はその時、油断しちまった、なんとリンゴを食べるのを忘れていた。
ガサゴソ、ガサゴソ、・・・・・・
妙な物音で目を覚ました俺は、一瞬目を見開いた。
「!?」
なんと、そこに居たのは、子犬だった。子犬が俺のリンゴを貪るように食っていた。
俺は一瞬、その子犬を見てかわいいなあ、とは思わなかった、俺は一流の冒険野郎だ、ちょっと考えればすぐに察しが付く、こんなモンスターが跋扈(ばっこ)する森の近くで子犬はないだろうと。
そうさ、こいつは子犬の姿をした野獣だ、しかもただの野獣じゃねえ、かわいい見た目で人を騙す殺人犬だ、間違いねえ。俺は確信したね。こいつは危険だと。
子犬の姿をしたモンスターは、今はリンゴを食べているが、それが無くなったら次は俺かもしれない。だが、俺は怯まない。なぜなら俺は冒険野郎マグガイバーだからだ。
子犬に気付かれないように、そっとダガーに手を伸ばす。よし、気付かれていない。チャンスだぜ。
しかし、子犬の姿をしたモンスターはリンゴを瞬く間に平らげると、そのまま俺の顔をぺろぺろと舐め始めた。
「ひ!?」
俺は一瞬焦ったが、別に齧る様子ではない。助かったか、子犬のモンスターはぺろぺろと俺の顔を舐めている。
俺は一瞬、考えた、本当にこいつは子犬なんじゃないかと、だが、俺はさらに深く洞察した。そもそもこんな森の近くに子犬がいて、モンスターに食べられないものかと、そうだ、こいつは子犬なんかじゃない。子犬の姿をした殺人犬だ。間違いないぜ。この俺を騙そうったってそうは問屋が下ろさないぜ。
耐えろ、耐えるんだ俺、今はへたに動かない方がいい。子犬のモンスターはまだ俺の顔をぺろぺろと舐めまわしている。くっ、だめだ、堪えろ、くすぐったいが堪えるんだ。
「ワンッワンッ」
子犬モンスターが吼えた、びっくりして一瞬身動きしてしまった、だが子犬モンスターには気付かれていないようだ。助かった。
子犬モンスターが俺の顔を一頻り舐め回した後、唐突に何処かへと行ってしまった。
「・・・・・・ふう~、やれやれ、何とかこの場は凌いだみたいだな」
俺は助かった、あの殺人犬をこちらが騙くらかしてやったぜ。死んだふりも案外使えるな。
激しい攻防だったぜ、だが俺の方が一枚上手だったようだな、見事に殺人犬を騙してやったぜ。
「今日はもういいか、このへんで冒険は終了だな、何事も無理はよくない、よし、帰ろう」
こうして俺は命ある事に安堵し、無事にサラミスの街へと帰還を果たしたのだった。
「いや~、マスター、あの時はホント、もう駄目かと思ったぜ、だが最後に勝ったのはこの俺、冒険野郎マグガイバー様ってわけよ」
「へ~え、殺人犬ねえ、そんなモンスターこの辺じゃ見かけないけどなあ、」
「間違いねえって、あれは確かに殺人犬だって」
「はいはい、わかったよ、・・・そういやあ女神教会で飼っている子犬がどこかにいったってシスターマチルダが言っていたな、もしかしたらその子犬だったんじゃないのかい」
「そんな訳ねえ、あれは恐ろしい殺人犬だって」
「ふ~ん、そんなもんかねえ、もしその子犬がシスターマチルダが捜していた子犬だったら何かお礼されてたかもな、冒険者ギルドの依頼にもあったぐらいだし」
「へ? そうなのか」
「ああ、確かシスターマチルダがギルドに依頼を出していたはずだよ」
「・・・・・・そうか、」
「ま、何にしても無事で良かったじゃないか」
「ああ、そうだな・・・」
何てこった、もしあの子犬が本当に子犬だったら、俺は今まで何やってたんだか。まあいいか、命があってのものだねだからな。今夜の酒はやけにうまそうだぜ。
どうだい、冒険野郎マグガイバーの冒険は、しびれるだろ、俺も更なる冒険を目指して日々邁進していくつもりだぜ。じゃあな、あばよ。
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