第142話 セレニア公国の夜明け
翌日、セレニア城の一室で目を覚ました俺は、伝意の石に向かって話しかけた。
「もしもし、ファンナ、聞こえていたら返事をしてくれ」
『・・・・・・』
やはり応答がない、昨日からファンナと連絡がつかない。一体どうしたって言うんだ、ファンナ、心配だな。パラス・アテネで何かあったと見るべきか、それともただ単純にファンナが伝意の石を落としたとか、・・・まさかな、ファンナはしっかりした子だ、イージーミスはありえない。
「これは、俺もパラス・アテネに行かなくてはならないかもしれないな・・・」
ファンナが心配だ、俺もパラス・アテネ王国に行った方がいいのかな。ここで色々考えていても始まらない、・・・よし、俺もパラス・アテネに行ってみるか。
そう決心したとき、部屋にメイドさんが入ってきて朝食の用意が出来たと伝えに来た、俺はベッドから起きて身だしなみを整えて、貴族用の二階にある食堂へ行く事にした。
食堂に着くと公爵家の方々やブライガー伯爵やエミリエルお嬢様、カスミさんにフレデリック王子などの主要なメンバーが既に席に着いて朝食を取っていた。とりあえず朝の挨拶から。
「おはようございます、みなさん」
「おはよう、ジロー君」
「おはよう」
「おはようございます、ジローさん」
「ジロー殿、朝は苦手ですか?」
「いえ、まあ、その~、はい」
「温かい内にお召し上がり下さい」
「はい、ジョナサンさん」
俺はスカーレットさんの隣の席に座る、ピピにさくらんぼを用意して食べさせる。ピピはさくらんぼに齧り付いて美味そうに頬張っている、俺もパンを手に取り、食べ始める。うん、うまい、出来立てのパンはやはりうまいな。このコーンスープも温かくておいしい。ハムエッグも塩が適度に振られていていい味が出ている、サラダも新鮮でシャキシャキしている、・・・これは、まさか・・・プリンか、なんとプリンが食卓上にあった。流石公爵家の朝食だけの事はある、どれも高級な感じのする食事だ。
「ふう~、美味しかったです、ごちそうさまでした」
「まあ、昨日の今日ですからね、シェフが腕によりをかけて作った朝食みたいです、気に入って貰えてなによりです」
「うむ、流石は公爵家の朝食であるな、見事な料理であった、俺様の専属シェフにしたいぐらいだよ」
「お褒めに預かり嬉しく思います、ブライガー伯、家の料理人も喜びます」
みんなが朝食を食べ終わって、ご馳走様をし終わった時、ブライガー伯爵が話し掛けてきた。
「時にジロー君、これからの予定はあるのかね」
「あ、はい、一応パラス・アテネ王国に向かう準備をしようと思いまして」
「おや、そうなのかね、我々の軍はパラス・アテネに向かい、一足先に到着する事になりそうだよ、もしよかったらジロー君達と一緒に行こうと思っていたのだがね」
「折角誘って頂いて申し訳ありませんが、まだこの国でやる事がありまして」
「そうか、残念だな、・・・それではフランク、我々は一足先にパラス・アテネへ向けて出発しようかね」
「はい、伯爵」
「え? もうご出立されるのですか」
「うむ、パラス・アテネに恩を売るチャンスであるからな、急ぎ向かい、パラス・アテネを助けに行こうと思っておる、我が200名の精鋭がパラス・アテネを窮地から救うのだ、っという訳で我々は早速行かせて貰うよ」
「ブライガー伯、道中お気をつけて、我等セレニアの軍も近いうちに行動しますゆえ」
「うむ、ジョナサン殿も達者でな」
その時、エミリエルお嬢様もブライガー伯爵に声を掛けた。
「ブライガー伯爵、私達の分も残しておいてよね」
「はっはっは、エミリエル嬢は豪気であるな、あいわかった、残しておくとしよう、わっはっはっは」
ブライガー伯爵は席を立ち、そのままフランクさんと共に外へと行ってしまった。まあ、あのブライガー伯爵軍なら平気だろう、見た目が怖いからな、滅多な事はなさそうだ。
「ジローさん、この国でやりたい事って?」
「あ、はい、まず闇の崇拝者の残党が気になります、そういった連中の見張りなど、行動や情報を事前に察知して防ぐ事、あとは、さきほどいいましたパラス・アテネに向かう為の準備とかです」
「何だかやる事が多そうね」
「はい、実はスカーレットさんにはお願いしたい事がありまして・・・」
「うふふ、解っているわよ、事が落ち着くまでマリアンデール公女を影から守ってほしいんでしょ」
「流石はスカーレットさん、敵いませんね、そんな訳で一つ、頼めますか」
「それって仕事?」
「いえ、ただのお願いです」
「お願いか・・・しょうがないわね~、聞いてあげるわよ、そのお願い」
「すいません、ありがとうございます、スカーレットさん」
「そう言う事なら、スカーレット嬢のお部屋など、この城に滞在出来る様、手配いたします、マリアンデールの事、宜しくお願い致します、スカーレット殿」
「はい、わかりました、ジョナサン様、出来る限りお側に控えさせて頂きます、宜しいでしょうかマリアンデール様」
「あ、はい、よろしくお願い致します、スカーレットさん」
よし、これでシスターマリーの身の安全は確保できたな、スカーレットさんなら大丈夫だろう。
「ジローさん、この国に潜伏しているかもしれない闇の崇拝者の残党の件は、私とこの国にいる盗賊ギルドのメンバーとで事にあたるから、心配しなさんな、それと伝意の石は暫くジローさん達に預けておくわ」
「すみません、何から何まで、スカーレットさんには頼りっぱなしですね」
「そんな事ないわよ、シスターマリーの件では私、何もしていないからね、それで金貨一枚の報酬ってのは流石に貰い過ぎだと思うから、ここまでしているのよ、だから心配しなさんなジローさん」
「はい、よろしくです、スカーレットさん」
よし、それじゃあ俺はパラス・アテネへ向けて準備でもしとこうかな、色々買出しとかしないとな。そう考えていた時、ふとエミリエルお嬢様が話し掛けてきた。
「ねえ、おっさん、よかったら一緒にパラス・アテネに行きましょう。どうせ私達の軍も今日一日休んで明日の朝出発する予定だから」
「あ、それはいいですね、我等ザンジバル軍もエミリエル達と行動を共にする予定ですし、ジロー殿、よければご一緒しませんか」
うーむ、お嬢様達と王子の軍と一緒に行動か、旅の道中の身が安全ではあるな、うん、お言葉に甘えよう。
「うーん、そうですね、ご一緒致しましょうか、出立は明日の朝ですか」
「ええ、その予定です、そうだよねエミリエル」
「ええ、そうよ、だからおっさん、一緒に行きましょう」
「はい、よろしくお願いします」
うむ、行動方針も決まった、後は今日一日休んで寛ぐか、あ、でも準備の為に色々買い物しなくちゃな。それにブライガー伯爵軍のお見送りもしないとな。
俺とスカーレットさんとピピはセレニア城を出て、ブライガー伯爵軍がテントを張っていて、今は片付けている所へと来た。みんなスキンヘッドかモヒカンの連中ばかりで流石に怖い。撤収作業も終わり、みんなブライガー伯爵の指示で移動を始めた。
「よいか! 皆の者! これからパラス・アテネへ向けて行軍する! 女王をお救いするのだ! 気合を入れろよ!」
「「「「「「 へい! 伯爵様! いつでも行けますぜ! 」」」」」」
「よーーし! 出ぱあああつ!」
ブライガー伯爵軍が行軍を開始した。目的地はパラス・アテネだ。俺はブライガー伯爵とフランクさんに手を振りながら話しかけた。
「ブライガー伯爵、フランクさん、道中お気をつけて」
「おお、ジロー君達! お見送りかね、感謝する」
「ジロー殿、スカーレット嬢、ピピ殿、それでは行って参ります」
「フランクさんもお気をつけて」
こうして、ブライガー伯爵軍は街の東門から出ていった。一足先にパラス・アテネ王国に到着するはずだ。
「俺達も後から追っ付け駆けつけますから、あまりご無理はなさらないで下さいね」
「はっはっは、わかっておるよ、それでは先に行って待っておるぞ、ジロー君、では!」
ブライガー伯爵達は行ってしまった。まあ、伯爵軍の事なら大丈夫かな。みんな強そうだし、ブライガー伯爵とフランクさんはとても強い。きっとパラス・アテネ王国に到着したら大活躍するんだろうな。
ブライガー伯爵軍を見送って、その後俺は自分がパラス・アテネに向かう準備の為、買い物をする事にした。
色々なお店を巡り、必要な物を買っていく、食糧に回復薬、いざという時の為に魔力回復薬も2本買った。解毒薬はまだ3本ほどあるから買わなくてもいいか。
この国のお店も結構色んなお店があって活気に満ち溢れている。そりゃあそうか、昨日のモンスターの襲撃騒ぎから一転して戦勝ムードになったからな、酒蔵も開放されたみたいで、街のいたる所で酒を飲んで騒いでいる人達がそこかしこにいる。まだまだお祭りムードは終わりそうにないな。みんなはしゃいでいる。
そうか、守ったんだよな、俺達、この国を、なんか実感が沸かないな。
街の人達からは「義勇軍のおっちゃん」と呼ばれるようになった。今もまた指を指されてそう呼ばれている。・・・まあ、いいか。
買い物も終わり、俺達はセレニア城へ帰ってきた。明日はいよいよパラス・アテネ王国へ向けて出立する予定だ。早いとこ寝るか。
しかし・・・・・・事件が起きたのは翌朝だった。
なんと、フレデリック王子とジョアンナ公女が一つのベッドで、裸の状態で一緒に寝ていたところをエミリエルお嬢様とカスミさんが目撃してしまったそうな。
「これは一体どういう事! 王子!」
「あ、いや、これには訳が・・・」
どうやら王子がやらかしたみたいだな、よーし、ここは俺がウィットにとんだジョークをかまして場を和ませるか、王子に助け舟を出さないと。
「まあまあ、お嬢様、ここは一つ同じ棒姉妹になったということで穏便に・・・」
「ジローさん!!」
カスミさんに怒られた。なんでだ?
「おっさんぶっ飛ばすわよ、ちょっと黙ってて」
「はい・・・すいません・・・」
しまった、火に油を注いでしまったか、なんてこった、修羅場だ、修羅場に遭遇しちまった。
どうなる、この三角関係。
おじさん、まったく興味無いけどね
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