第141話 もう一人の転移者
俺達は今、サロンにいて、寛いでいるわけなのだが、エミリエルお嬢様の護衛をしているというカスミさんに聞きたい事があるのだが、どうしようかな、話しかけてみようかな。カスミさんはどう見ても俺と同郷っぽい感じがするんだよね。よし、話しかけてみよう。
「あのー、カスミさん、お話があるのですが・・・」
「なにおっさん、カスミに気でもあるの? 駄目よ、カスミは奥手なの、おっさんの思いには答えられないと思うわよ」
「違いますよ、そんなんじゃありません、ただちょっと話があるってだけで、・・・」
「あ、はい、私なら構いませんよ」
「そうですか、それならあちらの隅っこの所でお話しましょう」
「はい、わかりました、それではお嬢様、私はジローさんとお話してきますね」
「変な事されないようにね」
「しませんよ、そんな事」
「それじゃあ行きましょうか」
俺とカスミさんはサロンの隅っこの方に移動して、二人だけになった、これで二人っきりで話ができるな。あまり大きな声を出さないようにしなくては。
「・・・」
「・・・」
「カスミさん、ズバリ聞きますけど、あなたは日本から来ましたか?」
カスミさんは一瞬目を見開き、こちらを見据えている。
「・・・はい、では、ジローさんも?」
「はい、あ、俺の名は田中次郎といいます」
「あ、はい、私の名は森野カスミっていいます、次郎さんもあの喫茶店みたいなお店でここまで来たのですか?」
「ええ、まあ、たぶん、そう言うカスミさんもあの喫茶店でこちらに?」
「はい、そうなんですよ、ひどいですよね、まさかこんな世界に飛ばされるなんて思ってもみませんでしたから」
「ああ、そうですね、確かあのお店は異世界斡旋所とか言っていましたからね、俺の場合ちょっと試すだけとか言ってこっちの世界に飛ばされて来ましたけどね」
「そうだったんですか、私は自分の意思で異世界に行きたいって言っちゃったんですよね、はあ~、今思えば失敗したかもと思っていますよ」
「そんなにこの世界での生活は辛いですか」
「あ、いえ、そう言う訳ではないのですが、今の私はとても充実した毎日を送っていますよ、ところで次郎さん、日本に帰る方法をご存知ですか」
「日本に帰る方法ですか? う~ん、ちょっとわかりません、もしかしたらと思う事はあるのですが」
「何ですか、この際だから何でもいいので教えて下さい」
「う~ん、多分ですけど、女神教会にある3柱の女神像があるんですが、その女神像に帰りたいって祈りをすれば帰れると思うのですが・・・」
「え!? そんな事でですか、もっとこう、この世界でやらなくてはいけない事をして、その後帰還できるっぽい感じがしますけど」
「だけど、この世界って勇者も魔王もいないんですよね、700年前に勇者が魔王を倒したらしいんですよ、だから勇者になって魔王を倒せ、みたいな感じでもなさそうですしね、意外と女神像に祈るだけで帰れると思いますよ」
「そんな簡単に!? だとしたら私女神像に祈ってみようかしら」
「たぶんですけどね、カスミさんはこっちに来て長いのですか」
「いえ、そんなに時間は経っていないです、せいぜい一ヶ月ぐらいでしょうか」
「あ、そうなんですか、この世界に居て、もう嫌になりましたか」
「いえ、そんな事はありません、この世界の人達はとても親切で、あ、そういえば私この世界に初めて来たとき、すっぽんぽんだったんですよ、酷くないですか」
「そ、そうですね、俺の時はいきなり戦いのど真ん中にいましたから、そこらへん不親切な異世界転移ですよね」
「あ、そうそう、私の時もブタさんのモンスターが目の前にいてビックリしましたよ、だけどビンタ一発でぶっ飛ばしちゃったんですけどね」
「び、ビンタ一発ですか、凄いですね、カスミさんの異世界特典はその攻撃力の高さなんでしょうか」
「うーん、それがよくわからないんですよね、あ、私、この世界に来たときはどうやら若返っていたんですよ、本当の年齢は言いたくないんですけど、多分次郎さんと同い年ぐらいだと思います」
「え!? そうなのですか、とてもそうは見えないのですが、10代後半ぐらいに見えますよ」
「そうなんですよ、私もビックリしちゃって、・・・まあ、悪くは無いんですけれどもね」
「そうですか、俺も出来れば若い体でこっちに来たかったなあ・・・まあ、別にいいんですけどね」
そうか、やはりカスミさんも日本からの転移者だったか。どうりで日本人みたいな顔をしていると思ったら、間違いなかったようだ。
「何はともあれ、カスミさんが同郷だと解って、良かったですよ、俺一人なのかな~、なんて思っていましたから・・・」
「私も次郎さんと知り合えて良かったと思っています、なんだか心強い気がします」
「いえいえ、俺なんか大した事ありませんよ、カスミさんが強いみたいでこちらとしても、ほっ、としていますよ」
「とにかく、この出会いに感謝ですね」
「まったくですね、カスミさん、これからもどうか一つ、よろしくお願いします」
「あ、はい、こちらこそよろしくお願い致します」
こうして、俺とカスミさんは知り合いになった。そうか、俺だけじゃないんだな、この世界に来たのは。なんだか心強い気がするよ。同郷の人がいるってだけで勇気が沸いてくる感じだ。
っと、そこへエミリエルお嬢様がやって来た。
「二人とも、何話しているの?」
「あ、これはお嬢様、いえ、大した事ではないのですが、こちらのジローさんはどうやら私の同郷だという事がわかったのですよ」
「あら、そうなの、ふ~ん、おっさんとねえ、」
「ええ、どうやらカスミさんとは仲良く出来そうで、今いろいろ話をしていたところなのですよ」
「ふ~ん、カスミとねえ~」
「な、何ですかお嬢様、変な誤解をしないで下さいね」
「変な誤解って?」
「た、例えば私とジローさんが、その、いい仲になる、とか・・・」
「あら、おっさんとカスミってそういう仲なの」
「いえ、違いますよ、ただの同郷の身です」
「ふーん、そうなの」
「そうなんですよお嬢様、変な勘繰りはやめてくださいね」
「はいはい、わかったわよ、それとカスミ、貴方は一応私の専属護衛なんだから、あまり私から離れないようにしなさいね」
「あ、はい、わかりました、すいませんお嬢様」
「ま、別にいいんだけどね、今は安全だから」
カスミさんと話したい事は話した、今はこんなところでいいか。
「それじゃあカスミさん、また何かあったらお会いしましょう」
「あ、はい、ジローさん、色々と話せて良かったです」
エミリエルお嬢様はまだカスミさんと話をしているみたいだ、俺は静かにその場を離れてみんなの所へと戻る、煙草に火をつけて一服する。
「ふう~~、」
「話というのはもう済んだの、ジローさん」
「ええ、スカーレットさん、今報酬を渡しておきます、・・・」
俺は財布から金貨一枚を取り出して、スカーレットさんに渡した。これまでの冒険に付き合ってくれた報酬だ。
「いいの、今貰っちゃって」
「はい、約束通りシスターマリーも見つかりましたし、シスターマリーが今はまだサラミスの街へと帰らないと言っていましたからね、スカーレットさん、ここまで付き合ってくれてありがとうございます」
「なあに、改まって、報酬はしっかり貰ったわよ、これからは私の判断で行動するから、いいわよ」
よし、スカーレットさんに報酬を渡したし、後はサラミスに帰るか、パラス・アテネ王国に立ち寄るか、どうしようかな。
あ、そう言えば義勇軍の任務でパラス・アテネの女王グラドリエルの事を助けてほしいって言われていたっけ、うーん、どうしようかな、ファンナもパラス・アテネにいるし、立ち寄るだけ立ち寄ってみようかな。
・・・・・・そう言えばまだファンナから伝意の石を通じて連絡が来ていないな、どうしたんだろう。もうお昼はとっくに過ぎたはずなんだけど、何かあったのかな。
おじさん、どうしたもんか・・・
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