第140話 サロンにて、





 俺とピピ、スカーレットさんで今は食後の休憩がてら歓談室広場のサロンに来ている、他のみんなもサロンで寛いでいるみたいだ、それぞれ談笑したり煙草を吸ったり、パイプをふかしたりしながら話をしている。俺も胸ポケットから煙草を取り出し一本口に咥える、灰皿の近くにある火のついた蝋燭に煙草の火をつけて煙を燻らす。


「ふう~、うまい」


「あら、ジローさんも煙草を吸うの、私も吸おうかしら」


「スカーレットさんも煙草を吸われるのですか」


「ええ、偶にだけどね」


スカーレットさんも煙草に火をつける、いい香りだ、高そうな煙草の葉を使っていそうだな。


「ふう~、ん~・・・いいわね、やっぱり煙草の葉が決め手よね」


「俺の煙草も一応マゼランの都で買ったヤツですけどね」


「あら、そうなの、マゼランは色んなお店があっていいわよね」


「そうですね」


ピピにあまり煙がいかない様に煙草を吸う、うむ、実にうまい、香りもなかなか。この苦味がまたいい、人生と一緒だな、苦味がまた癖になる。


俺達が寛いでいるとサロンにブライガー伯爵とフランクさん、セレニア公国の公爵家のジョナサンさんとジョアンナ様とシスターマリーの面々、フレデリック王子とエミリエルお嬢様とカスミさんと騎士バンガードの面々が入って来た。


「いや~、うまい酒でしたね、王子」


「バンガード、ちょっと飲みすぎじゃないか」


「何言ってんですか、これ位じゃびくともしませんよ、わっはっはっは」


「お前は相変わらずだな」


「ちょっと髭のおっさん、もう少しわきまえてよ、王子まで変な目で見られたじゃない」


「しかしですねお嬢様、そこに酒がある、なら、飲まずにはおれないでしょう、そういう物ですよ」


「はいはい、わかったわよ」


騎士バンガード殿は相変わらず酒好きみたいだな。みんながこちらにやって来た。


「おー、ジロー君も煙草かね、フランク、俺様達も吸おう」


「はい、ご一緒致します」


ブライガー伯爵とフランクさんは葉巻を取り出しナイフで葉巻の先っちょを切って火を付ける、二人とも葉巻がよく似合う。


「ふう~~、食事の後のこの一服、堪らんな、」


「ですね、伯爵」


みんなも食後の休憩をしにサロンに来たようだ、俺達喫煙組が灰皿の周りに集い、煙草を吸わない組が少し離れたところで談笑している。


「そう言えばおっさん、おっさんは何でこの国にいる訳」


「そう言えばそうですね、ジロー殿、何故このセレニア公国に」


「あれ? 言ってませんでしたっけ、シスターマリーを捜してこのセレニア公国に来たのですよ」


「シスターマリー?」


名前を呼ばれて恐る恐るシスターマリーが手を上げた。


「あ、私です、マリーと言うのは・・・」


「ふーん、見つかって良かったじゃない、それで、探し出してどうするの」


「・・・まだ何とも言えませんが、シスターマリー次第でこの国からサラミスの街へ帰るのですが、シスターマリー、どうしますか?」


「はい、折角ジローさん達が探しに来てくれたのは嬉しかったのですが、私は今少しこの国に留まり、ジョナサンお兄様やジョアンナお姉様のお力になりたいと思っています、今この国は混乱の只中にありますから、事が落ち着き次第サラミスに帰ろうと思います」


「なるほど、わかりました、では、その様にシスターマチルダに報告致します」


「我侭を言って申し訳ありません、ジローさん」


「いえ、気にしないで下さい、何事も本人の意思が大事ですからね」


そうか、シスターマリーはまだこの国に残るつもりか、それなら俺はどうしようかな。このままサラミスに帰還するってのもな・・・。


「時にジロー君、きみ、今回のモンスターの襲撃騒ぎ、どう見るね」


ふいにブライガー伯爵が聞いて来た。


「そうですねえ、まず間違いなく闇の崇拝者が絡んでいますよ、」


「ほう、その根拠は」


「はい、まずモンスターの襲撃があったその前に、この国の議事堂で騒ぎがあったんですよ、闇の崇拝者が突如乱入してきてモンスターを召喚、ジョアンナ様やシスターマリー、この国の貴族達を襲ったのです、残念ながら貴族達の大半を守りきる事が出来ませんでしたけどね」


気を落としていると、ジョナサンさんから慰めの言葉を掛けられた。


「ジロー殿の所為ではありませんよ、そう気を落とさず、倒れたのが上級貴族達が殆どで、生き残った貴族はみな逃げ出してこの国を離れました、しかし、まだ下級貴族達が残っていますから、この国の政治はまだ大丈夫ですよ、それに、いい加減公爵位の継承の儀を執り行うつもりでいますから」


「そうなのですか、それは気が楽になります」


「つまり、闇の崇拝者が今回の件に関係していると言いたい訳かね?」


「はい、ブライガー伯爵、そう言えばエミリエルお嬢様、バインダーと言う男の事をご存知ですか?」


「バインダー?、さあ、知らないわ、その男がどうかしたの」


「・・・はい、実はバーミンカム王国のサリー王女を襲った闇の崇拝者で、マゼランの都の牢屋に入れられていた筈なんですけど、どういう訳かこのセレニア公国にいたのです、しかも堂々と議事堂の中にまで入っていて、そこにいたホークウッドという人物と一緒にいました」


「ホークウッド? 何者かねジロー君」


「それについてはジョナサン様の方がお詳しいと考えますが」


ジョナサンさんは一つ咳払いをして、みんなに聞こえる様に話しかけた。


「ホークウッド、・・・そいつはこの国の上級貴族達の間で重宝されていたアドバイザーみたいなものと報告を受けております。」


「アドバイザー?」


「はい、この国で上級貴族達が好き勝手出来る様に、色々と根回しや裏工作など、色々と黒い噂が絶えませんでした」


「・・・ジョナサン殿、その男は闇の崇拝者なのですか?」


「それが、・・・わからないのですよ、フレデリック殿」


「と、言いますと」


「はい、ヤツはまるで尻尾を掴ませないやり手で、こちらが探りを入れている事を気付きながら、それでも尚闇の崇拝者らしき人物との接触があり、追求しても証拠が出てこない有様でして、・・・ホークウッドとはそう言う人物なのですよ」


「なによそれ! そんなの間違い無く怪しいじゃない!」


「エミリエル嬢の言う通りだな、俺様もそう思う」


「はい、そして今回の議事堂での騒ぎ、ヤツはモンスターに襲われていませんでした、バインダー共々、」


「うーむ、怪しいですな、王子、酒が不味くなる話ですな」


「とにかく、そう言う訳で、ホークウッドについては引き続き警戒を怠らない様にしなくてはいけません」


「そうですね、俺もそう思います、そう言えばこの国に来る前に山賊と一戦交えたのですが、その時に山賊の頭目が召喚の宝玉を使って大型モンスターのヒュドラを召喚したのですが、元々その宝玉を持っていたのが行商人で、確かホークウッドなる人物に渡す様頼まれたと言っていました。今回の議事堂襲撃騒ぎの時にホークウッドがヒュドラを召喚していたかと思うとゾッとしますね」


「な!? なんと、その様な事があったのですか、」


「ええ、ブライガー伯爵とフランクさんの魔法のおかげで何とかヒュドラは倒せましたけどね」


「ジロー! その話、もっと詳しく!」


ジョアンナ様はぶれないなあ、俺は山賊達との戦いの冒険話をジョアンナ様に聞かせた。


「ふんすっ、なるほど! ヒュドラを炎の魔法で、凄いですわ!」


「お褒めに預かり恐縮です」


「まあ、俺様達に掛かればヒュドラなど、大した事はない、はっはっは、」


「伯爵、あの時焦っていたじゃないですか」


「ちょっとフランク黙って」


「なるほど、つまりジロー殿達の活躍によって議事堂での戦いは相手の思惑に沿わない形で進んだ訳ですか、さすがジロー殿達です、ホークウッドの計画を未然に防いだ事、見事ですね」


「いえ、大した事では、たまたま、偶然ですよ」


ホント、何が起こるかわからないからね、でも何とかなって良かった、煙草も吸ったし、食後の休憩もしたし、後は・・・・・・そうだ、カスミさんと色々話したい事があるんだけど、どうしようかな。思い切って話しかけてみようかな。




おじさんまだちょっとほろ酔い気分だよ














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