第138話 凱旋

 


 俺達は今、セレニア公国の市街地にある大広場にいる、西門と東門には兵士をある程度残して、モンスターの襲撃がないか警戒している、しばらく様子見をして大丈夫そうだったので、俺達はそれぞれ戦場から離れた


戦いに参加した兵士や冒険者、救援に駆けつけたそれぞれの陣営の兵士達、それと俺達はこれからセレニアで凱旋パレードに参加する事になってしまった。俺はとくに何もしていないんだが、何故か義勇軍の旗を背中に掲げたままパレードに参加してほしいと言われた。


避難していた市民達も、戦いが終わって安全になったと聞いて、みんな無事に家路についたようだ。沿道にはパレードを見ようと人が沢山出てきていた、街の広場からセレニア城までのコースを練り歩くみたいだ、俺は義勇軍の旗を掲げ続けたままでいるので、とても目立つ、とても恥ずかしい。子供達に指を挿されて「あ、義勇軍だ!」などと言われ、注目を集めてしまっている、早く終わらないかな、ホントこういうの苦手だ。


パレードの隊列の順番が決まったと知らせが届いた。


「まず、一番先頭は義勇軍の旗を掲げているジロー様のパーティーといたします」


「ちょ、ちょっと待って下さい、なぜ俺?」


「何を言われますか、聞きましたぞ、西門での戦闘において、オークロードを単身で倒したと聞き及んでおります、ここは是非ジロー様に先頭をいっていただかないと」


「いや、しかし、俺の活躍なんて大した事ないですよ」


「はっはっは、ご謙遜を、ではその様に、後は我がセレニア軍の兵士、衛兵と続き、ブライガー伯爵の軍ときて、ザンジバル軍、マゼランの勇士たち、殿(しんがり)はこの国の冒険者達で隊列を組みます、よろしいでしょうか」


「うむ、俺様は問題ない」


「私の方も異存はありません」


「それで結構よ」


「ちょっと待って下さい、みなさん活躍したじゃありませんか、なんで俺が先頭なんですか」


「あら、いいじゃないおっさん、目立つわよ」


「目立ちたくないんですよ」


「まあまあ、よいではないかジロー君、折角の機会だ、思う存分義勇軍をアピールしたまえ」


「ブライガー伯爵様、そんな適当な事言わないで下さい、俺、注目されるのは苦手なんですよ」


「しかしな、ジロー君、きみオークロードを一人で倒してしまったではないか、もうあっちこっちで噂になっとるよ」


「そ、そうなんですか、困ったなあ、目立ちたくないのに」


「腹くくりなさいよおっさん、こんなところで駄々こねてないでさっさと行くわよ」


「ジロー殿、これも運命さだめだと思えば気が楽になりますよ」


「フレデリック王子、・・・わかりました、先頭を勤めさせていただきます」


「歩くスピードはゆっくりでお願いしますよ」


「わ、わかりました」


・・・こうして、戦勝の凱旋パレードが始まったのだが、やはりと言うべきか、目立ってしょうがない、しかも俺が義勇軍の旗を背中に掲げているせいで、まるでこの軍隊が義勇軍なんじゃないかみたいな事になっていたりする。違いますから。


ふいにスカーレットさんが話し掛けてきた。


「ジローさん」


「何ですか、」


「かっこいいわよ」


「・・・やめてくださいよ、そういうの慣れていないんで・・・」


「でも、オークロードをやっつけたんでしょ、凄いと思うわ」


「たまたま、偶然ですよ」


「うふふ、謙遜しちゃって、立派だと思うわ」


「・・・そうでしょうか・・・」


「ねえ、ジローさん、・・・」


「なんですか」


「・・・お疲れ様・・・」


「・・・・・・はい、スカーレットさんもお疲れ様です」


「・・・あたしもがんばったよ、じろー」


「そうだな、ピピもお疲れ」


「・・・じろーもね」


沿道には沢山の人達で賑わっている、みんな花を投げたり「ありがとー義勇軍!」とかの声が聞こえたり拍手してくれたり、それぞれ感謝の気持ちを表している。・・・なんだか照れくさい。俺が先頭で本当によかったのかな。なんだか申し訳ない、俺だけじゃなく、みんなで勝ち取った平和なのにな。


やはり一番人気はスカーレットさんだ、男の視線を釘付けにしている、そりゃそうか、美人だもんなスカーレットさんは、中には「結婚してくれ!」とかいう声も聞こえてくる、モテモテだなスカーレットさん。その彼女はというと余裕をもって笑顔で手を振る、愛想よく振りまいている、さすがだ。


ピピにも人気があるみたいだ、小さなお子様から「妖精さん、こっち向いて」などと声を掛けられている。ピピは元気よく飛び回る、その度に歓声が上がる。


俺にはただ「よくやった」とか「さすが義勇軍」とか「え?あのおっさん誰?」みたいな声しか聞こえない。まあいいけどね、とにかく目立ちたくない。しかし先頭を歩いている以上、目立ってしょうがない。ゆっくり歩いてただ通り過ぎるだけだ。


後ろの方でえらく歓声が上がっていると思えば、その辺りはフレデリック王子がいる所だ、さすがイケメン、黄色い声がそこかしこから聞こえてくる。王子もそれに答えて手を振りながら笑顔なんだろう。面白くないのはエミリエルお嬢様だろう、一応お嬢様と王子はお付き合いをしているみたいだからな、・・・と、思ったらエミリエルお嬢様にも歓声が上がっているみたいだ、地元の若い男達が「俺と付き合ってくれ!」みたいな声が聞こえてくる。意外とモテるのかな、エミリエルお嬢様は。


そしてブライガー伯爵の軍のところはというと、市民のみなさんはとても静かにしている様だ。まあ無理もない、モヒカンにスキンヘッドの軍団だからな、怖いのだろう、俺も怖い。だがそれでも感謝の言葉は聞こえてくる。もしかしたら一番の功労者はブライガー伯爵軍なのかもしれない。


さて、パレードもいよいよ終わろうとしている、もうじきセレニア城が見えてくる頃だ。パレードはセレニア城までと決まっているからな、そこまで歩いてパレードを終わろうとしている。貴族街を通り過ぎ、そのままセレニア城の元まで歩いて来たところで、ジョアンナ様と騎士ヨムンさんと、もう一人イケメンの若い男がセレニア城の玄関のところで待っていた。もしかしてあのイケメンがジョナサンさんなのかな。


騎士ヨムンさんが声を掛けてきた。


「皆様、凱旋パレードお疲れ様でした。我がセレニア軍の者達は隊長格の者を残してそのまま兵舎へと行くように、それ以外の皆様には我がセレニア城内にある大ホールにお集まりいただき、ささやかではございますが宴の準備などさせていただいております、そこで我が公爵家の方より労いと感謝の挨拶をいたします。皆様、まずはお疲れ様でした」


騎士ヨムンさんがみんなに挨拶をしてそのままセレニア城の中にある大ホールへと案内された、ホールの中は凄く広く、戦いに参加した人達全員を入れる事が出来そうだ。食事やお酒などはもう用意されていた。立食形式のパーティー会場みたいだ、うまそうな匂いが漂ってきている。そういえばもう直ぐお昼の時間か、何故だかとても腹が減っている、よーし、食うぞ。


っと、その前に、まずはセレニア公国の代表でもある公爵家の人からご挨拶があるんだったか。全員が大ホールに入りきるにはいま少し時間がかかるみたいだ。まあ、ざっと400人の兵士達だからな、時間は掛かるか。


しばらくして、戦いに参加した人達全員が大ホールに入りきったところで、公爵家の方であろうジョナサンさんが壇上に上がり、みんなに挨拶しだした。


「・・・皆様、本日は我がセレニア公国の窮地をお救い下さり、誠に有難う御座います、被害も最小限に収められた事はひとえに、皆様がお力をお貸しくださったことと存じ上げております、まずは、この国の為にご尽力して下さった事、このジョナサン、深く感謝しております、さて、あまり長々とするのは失礼になると思いますので、このあたりで感謝の気持ちに変えて宴など楽しんで頂ければ嬉しく思います、それでは皆様、よい歓談を・・・」


ジョナサンさんは一礼し、壇上を後にする、病弱と聞いていたが、立派に振舞っている。ジョアンナ様もどこか、ほっとしている様な顔をしている、騎士ヨムンさんはジョナサンさんを護衛するように動いている。いよいよ宴がはじまる。さーて、何から食べようかな。おっと、ピピにはちゃんとさくらんぼを用意していますよ、だからあまり飛び回らないでね。




おじさん、あまり目立ちたくなかったよ












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