第132話 貴族会議 後編




 「マリアンデール様にはパラス・アテネ王国まで赴いてもらいます、兵50人と共に」


貴族会議で出た決議をシスターマリーに伝えるという事で、議事堂まで来たのだが、どうやらシスターマリーに無茶な事をさせようとしているみたいだな。この国の規模を考えると兵士50人というのは圧倒的に少ないと思う、そんな人数でパラス・アテネの救援に向かわせようとしているのか? そんな事したらシスターマリーはモンスターの集団に飲み込まれてしまうじゃないか。一体何を考えているんだ。


周りの貴族連中を見渡すとどいつもこいつも薄ら笑いを浮かべている。


そんな中で、1人の見た事がある人物がいた。


バインダーだ。


バインダーが居た。


バーミンカム王国内にて、サリー王女襲撃事件に関わった首謀者で闇の崇拝者の、あのバインダーだ。


でも確か、奴はマゼランの都の牢屋に入っている筈なのに、何故ここに?


それに、バインダーが立っていて側に控えている感じに見えるのだが、その側で貴族側の椅子に座っている人物は、これまた黒いローブを身に纏い、フードを目深に被っている奴がいる。フードを被っているから顔は良く見えないが、鋭い眼光を俺達に向けている。


なんだ!? バインダーの横に座っている奴から只ならぬオーラを感じる。・・・あいつ、只者じゃないな、何者だ? 闇の崇拝者のバインダーを控えさせているって事は、奴も闇の崇拝者の関係者か、それとも闇の崇拝者そのものか?


いずれにしても、この様な奴等がこの国の貴族達と肩を並べているって事は、この貴族会議ってのも、正常に機能していないんじゃないかな。だからシスターマリーにあんな無茶な命令をするのか。


・・・これは、してやられている感じだな。この貴族会議には闇の崇拝者の意向が反映されている可能性がある。このままではマズイな。


「わたくしとお兄様の両親を謀殺しておきながら! 今またマリアンデールまで亡き者にしようとして! あなた方はそれでもこの国の貴族ですか!」


ジョアンナ様も吼えているが、貴族連中は何とも思っていない様子だ。


「良いではないですか、ジョアンナ様、貴方が戦地に赴かなくて、たかが妾の子が1人減るだけで御座います、これでジョナサン様と安心して過ごせるわけでございますから」


「な!? 何ですって!?」


「その妾の子の存在が次期公爵を脅かしていたのでございましょう」


周りの貴族達は薄ら笑いを浮かべているだけだ。


「ふんっ! お兄様の仰った通りになりましたわね! それがあなた方の本心ですか! マリアンデールと仲たがいしている様に見せかけておいて正解でしたわね! 大方、わたくし達とマリアンデールが次期公爵争いをしている内はマリアンデールに危害が加わらないと、思っていた通りでしたわ!」


「え!? ジョアンナお姉様、それはどういう・・・」


「ごめんなさいね、マリアンデール、今まで貴方に辛く当たってしまって、だけどもう、その必要は無くなりました、こうしてこの貴族等の本心が出てきてしまいましたから」


「お姉様・・・」


議事堂の一番高い所に座っている貴族が喋り始めた。


「宜しいですかな、とにかくマリアンデール様にはパラス・アテネに赴いていただきます」


「そんなの無効よ! わたくしが許可しませんわ!」


「貴方にその決定権はございません」


「だから! さっさとわたくしかお兄様に公爵位を継がせればよいのです!」


「その公爵位を継がせる決定権は我等、貴族会議にありますがね、はっはっは」


「「「 はっはっは・・・ 」」」


なるほど、そういう事か、次期公爵が決まるまで自分達が最高意志決定権を持ち続けたい訳なんだな。そして、その公爵を継がせる決議を取るのがこの貴族会議だと、よく出来てる。


「ホークウッド卿はいかがお考えか」


「そうですな・・・」


バインダーを控えさせているフードを目深に被った貴族が喋り出した、なるほど、あいつがホークウッドか。俺はホークウッドを見据える、奴もこちら、というより俺を見据えている、眼光が鋭い。奴も闇の崇拝者側に決定だな。


「まず、再三にわたるパラス・アテネ側からの要求に応じるために兵を出すというのは賛成です、マリアンデール様が赴く事でセレニア側から公爵家の方が行かれる訳ですから、パラス・アテネには義理は立ちます、兵力に関しては妥当かと」


「まったくもって卿のおっしゃる通りですな」


「では、マリアンデール様、その様に」


「ま!? 待ちなさい! 話はまだ!」


「大体、妾の子が生きていた事自体、我が国にとって恥だというのに、これで戦場で死ぬ様なら実にこの国にとって良き事ですな、公爵家の人間が戦場で命を散らすのは、パラス・アテネにとっても義理立てにはなりますからな」


「・・・っ! 貴方達!?・・・」


なんだか旗色があまりよろしくないな、俺も何か言おうかな。このままじゃ流石にシスターマリーが可哀想だ。


「あの~、発言をしてもよろしいでしょうか」


「ん? 君は誰かね?」


「冒険者のジローと申します」


「冒険者?、冒険者が何故この貴族会議の場にいるのかね」


「マリアンデール様の付き添いです、そんな事よりよろしいのですか、このままたった50人の兵だけで行かせてしまっても」


「どう言う事かね?」


「はい、まず、少ない兵力ではパラス・アテネ側にセレニアに叛旗あり、と見なされる可能性がございますが、・・・」


「素人が口を挟むべきではない、その様な事、とうに分かっておるわ!」


「それに、誰が発言を許可したと言ったのかね!」


「そうだ! 黙っていてもらおうか!」


・・・この有様だ。力になれなくてすまない、シスターマリー。


「まったく、女は聡い頭など無くてよいのじゃ! ジョナサン様さえ生きておればよいのじゃ」


「いやまったく、卿のおっしゃる通りですな、もっとも、そのジョナサン様も病弱ですからな、いつお亡くなりになるかわかったものではありませんがな、はっはっは」


「いや、まったく、はっはっはっは」


・・・・・・こいつ等、何言ってんだ!


ふいに、シスターマリーが前に躍り出た。


「あの、ちょっとよろしいでしょうか」


「ん? 何ですかな、マリアンデール様?」


「私は指揮を執ったことなどありませんが、ましてや戦場なんか行った事もありません、そんな人間をパラス・アテネ王国のピンチの時にお手伝いしに向かわせるだなんて、この国、引いては貴方方貴族様の無能の証明になるのではないのでしょうか」


「・・・、おのれ! 妾の子だと思って優しくしておれば付け上がりおって! 10だ! 10人の兵でパラス・アテネまで行って来い!」


「・・・貴方方は自分たちの事ばかり、この国の事など一つも考えてはいないじゃないですか」


「黙れ! たかが妾の子風情が!」


「隣国が苦しい時に手を差し伸べる事こそが、この国の成すべき事ではないのですか、それすらも出来ないだなんて、貴方方はそれでもこの国の貴族ですか!」


「おのれ! 黙って聞いておれば調子に乗りおって! 5人だ! 5人で行って来い!」


「・・・その5人は人身御供ですか、私の存在による犠牲は・・・そんな考え方しか出来ないなんて、可哀想です、貴方方は」


「なんだと!」


流石にシスターマリーも我慢の限界みたいだな、よし、俺もホークウッドにけん制しとこうかな。


「冒険者のジローです、このままではいずれ、パラス・アテネ王国の二の前になると思いますよ、この国の危機管理能力が低いままでは、モンスターの大進行スタンピードに対処出来ませんよ」


「・・・何の話かね? 少なくともこの国で魔物の大進行スタンピードなど始まってもおらんが?」


「始まってますよとっくに、気付くのが遅すぎた、闇の崇拝者がこの国に入って来ていた時から既に戦いは始まっていたんですよ」


ここまでだな、これ以上ここに居ても時間の無駄だ。黒幕もホークウッドだとわかった事だしな。


「冒険者のジローです、突然ですが、貴方方には愛想が尽きました、自分もマリアンデール公女様と行動を共に致します」


「まったく! なんて言い草だ! 流石冒険者、品性の欠片も感じられんわ!」


「4人共外へ連れて行け!」


その時、突然中央の扉が勢いよく開き、一人の衛兵が息せき切らしながら駆け込んできた。


「で、伝令! 至急伝!!」


「何事だ、騒々しい」


「たった今!、街の西門と東門のすぐ側に!、魔物の大軍が現れたとの報告が!」


「な!? 何だと! 見張りは何をやっておるのだ!」


「そ、それが!突然現れたとしか報告を聞いておりません!」


「ええーい、どうなっておるのだ!」


一瞬にして辺りは騒然となった、どうやらホークウッドがなにやら動いた可能性が出てきたな。さてと、これからがこの国にとって大変な一日になりそうだな。一丁かましますか。




「・・・っだから言っているんだ!! 気付くのが遅すぎたと!!!」





























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