第118話 山道での遭遇
朝、目が覚めて辺りを見回す、ここはゴタール村の宿屋だ。その一室を借りて寝ている。ピピはまだ寝ているが、スカーレットさんは起きている様だ。早いな、っと言っても今日は山歩きだから早めに起きたのかもしれないけど、まずは朝の挨拶からだ。
「おはようございます、スカーレットさん」
「あら、おはようジローさん、早いわねえ、もう起きたの」
「今日から山越えですからね、早く起きて準備しとかないと」
「でも、準備って言っても既にしてあるわよ、後は朝食を済ませて山を登るだけよ」
「う~ん、そうなんですけどね、山歩きは大変そうだな~っと思いまして」
「大丈夫よ、ゆっくり行きましょ」
「はい、そうしましょう、ピピ、起きて、もう朝だよ」
「・・・う~、ねむい」
「顔を洗ってこよう」
「・・・は~い」
俺達はゴタール村の酒場兼宿屋の裏手にある井戸で顔を洗う、やっぱり井戸水は冷たい、一気に目が覚める。顔を洗った後酒場のへ行き、朝ご飯を注文する。店主さんはもう起きていた。店主さんに声を掛ける。
「おはようございます、朝食は取られますか」
「ああ、おはようさん、朝飯なら昨日の残り物しかないけど、どうするね、一応温めておいたけど、まあ昨日の残り物だしタダでいいよ」
「それじゃあ、それで構わないので下さい、あ、それとさくらんぼってありますか」
「さくらんぼ? ああ、あるよ、そう言えばその妖精さんがさくらんぼをおいしそうに齧り付いていたっけな、ちょっと待ってな、たしか在庫のさくらんぼが大量にあったはずだ、持って来るから10Gで買ってくれないか」
「10Gでですか、いいですよ」
「・・・やったね、さくらんぼ」
「ピピは嬉しそうね、そんなにさくらんぼっておいしいの?」
「・・・うーんとね、あまずっぱくてたべごたえがあっておいしい」
「あら、そうなの、私も一つ貰おうかしら」
「・・・いいよ、ひとつだけなら」
「ありがと、ピピちゃん」
店の奥から麻袋を一袋取り出してきた店主が俺の前に麻袋を置いた。これ全部さくらんぼか。結構な量だぞ、そんなにさくらんぼって余っているのか。
「こいつだ、一袋銅貨1枚でいいよ」
「い、いえ、銅貨1枚は安すぎます、せめて銅貨5枚をお支払い致します」
「お、そうか、何だか悪いね、押し付けたみたいになって」
「いえ、こんなに沢山のさくらんぼはどうしたんですか」
「ああ、これか、前の客が宿代代わりに置いていった物さ、大丈夫、古いやつじゃないから、ウチにはさくらんぼを食べる者がいなくてね、どうしようかと思っていた所だったよ」
「そうだったんですね、それじゃあ・・・はい、銅貨5枚です」
俺はカウンターの上に銅貨5枚を置いた。
「ありがとうよ、現金収入は助かるよ、・・・ちょっと待ってな、背負いやすい様にロープを縛り付けるから」
「どうも」
こうして朝飯を食べて、さくらんぼの入った麻袋を背負い、俺達はネモ山へ向けて歩き出した。ネモ山の道は舗装されている訳じゃないけど、石の階段などもあり整備されていて、この道が峠を越える山道であることを物語っている。まさに獣道といったものからギリギリ二人分の道幅の箇所まであって、結構険しい。俺は山歩きは慣れてないんだけどなあ。まあ、スカーレットさんもゆっくり行こうと言ってくれたし、急がず慌てず、ゆっくり行こう。
山道は自然豊かな緑の匂いがする、麓の方は森になっていてそこかしこから鳥の鳴き声なんかが聞こえる。木々が生い茂っていて誰かが隠れていても気付かないだ。
少しづつ山道の勾配がきつくなってきたころ、山道を塞ぐ様に2人の人影が見えた、それに相対するようにさらにもう2人の人影も見えてきた。何事だろうか、まさか山賊か。・・・どうやら先客がいる様だ。
「いいから! 早く金目の物を置いていけってんだ!」
「だから何度も言っておるではないか、金は無いと」
「へっ! そんな上等な服を着ていて金がねえなんて通用するとでも思ったのかよ!」
「そんな事言われてもなあ」
「じゃあいいや、お前ら死ね」
「まあ待ちたまえ、直ぐに暴力に出るのは関心せんな、まずは話合おうではないか」
どうやら2人の山賊に旅人風の2人の男が追い剥ぎにあっているらしい、しかし、山賊達はイラついている様だが、旅人風の2人は臆する事も無く平気で話し合っている。
旅人風の男の一人は身長2メートルを超える大柄な男だ、高そうな上等な服を着ていて背中に大剣のバスタードソードを背負っている。もう一方は吟遊詩人みたいな派手な格好をしている、こちらも身長180センチ位の大男で腰に刺突剣のエストックを下げている。
「なあ、フランク、こいつら何怒っているんだ」
「うまくいかないからイラついているのですよ、伯爵」
「何をごちゃごちゃと!、俺達バレリントン兄弟を前にして無事でいられると思うなよ!」
なんと、山賊達は武器を構えた。話から察すると噂の指名手配犯のバレリントン兄弟が相手らしい。まいったな、ここは助けるべきか。
「おいおい、直ぐに暴力に出るのはいかんと言ったばかりではないか、もう忘れたのか」
「うるせー! このバトルアックスの錆にしてやるぜ! いくぜバレ!」
「わかったぜ! リントンの兄貴!」
山賊達は伯爵と呼ばれていた身長2メートルの大柄な男の人に、挟み撃ちするべく位置取りをした。
「やれやれ、暴力は関心せんな、しかも俺様一人に対して二人掛りとは」
「へへへ、俺達バレリントン兄弟に敵はいねえぜ、バレ! あの手で行くぜ!」
「わかったぜ兄貴!」
あのバレリントン兄弟は何かやるつもりの様だ。このまま見ている訳にはいかないだろう。
「あのー! ちょっとすいません!」
「ん? なんだテメーは、こいつらの仲間か!」
「いえ、違います、ただの通りすがりです」
「見たところ冒険者っぽいな、何だ、俺達の首に付いている賞金でも狙いに来たのか?」
「いえ、その様な事はないです」
「だったら大人しくしていろ!」
どうしよう、困ったな、このまま見過ごすって訳にはいかないのだが、そう思っていた時だった。身長180センチぐらいの吟遊詩人みたいな男性が、穏やかな声で話し掛けてきた。
「冒険者の方、ここは伯爵に任せても大丈夫ですよ」
「いや、しかし」
「まあ、見てて下さい」
何だ? この男の人も随分と落ち着いているな。今、正に山賊たちにやられそうになっているって言うのに。・・・ほんとに大丈夫なのかな。
おじさんハラハラするよ
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