第117話 ゴタール村でのひととき




 朝、サラミスの街の冒険者ギルドの宿で目を覚ました。ピピとスカーレットさんを起こして、顔を洗いに裏庭へ行き、井戸水で顔を洗う、やっぱり井戸水は冷たい、一気に目が覚める。


ギルドホールにやって来て、朝食を注文する、サンドイッチだ、お茶も合わせて注文する。スカーレットさんと朝の挨拶をして何でもない会話をし、ウエイトレスのおねえさんが運んできた朝飯がテーブルの上に置かれた。


「「「 いただきます 」」」


ピピにはさくらんぼだ、相変わらずさくらんぼに齧り付いている、慣れた感じだ。


今日から徒歩でネモ山を越えるルートを行く訳なので、俺達は早めにサラミスを出発する事にした。まずは歩いて西門まで行く。


「ジローさんは山歩きは慣れている方?」


「いえ、そう言う訳ではありません」


「あら、そうなの、じゃああまり急がず、ゆっくり山を登りましょうね」


「はい」


俺達は西門に到着して、門衛の人に挨拶をする。


「おはようございます」


「ああ、おはよう、ジローにそれからピピか、ん? そちらの美人は誰だい」


「マゼランの都から一緒に旅をしている人で、スカーレットと言う人です」


「よろしくね」


「こちらこそ、おいジロー、こんな美人とどこ行くんだ」


「ちょっとセレニア公国まで」


「・・・何! セレニアまで行くのか、馬はどうした」


「あ、いえ、徒歩でネモ山を越えようと思いまして」


「ああ、そうか、ネモ山か、あそこは山賊が出るって聞くぞ、まあジローならば大丈夫だろうが、無理だけはするなよ、道中気を付けろよ」


「はい、それでは」


俺達は西門を抜けてそのまま農場を通り過ぎる、まだ道は整備されているので街道をひたすら西へ向けて歩く。


街道は静かなものだ、モンスターとの遭遇もない、左右に草原地帯が広がっている。道も整備されているので歩き易い。


しばらくして、もうお昼頃になったのでファンナに連絡を取るため、伝意の石を使う。


「あ~、もしもし、ファンナ、聞こえますか」


『あ、はい、聞こえますよジローさん、今丁度ジローさんに連絡しようと思っていたところです』


「あ、そうなんだ、そっちの様子はどうだい」


『はい、今は王都バーミンカムに到着したばかりです、これから街門の中へ入ろうとしている所です』


「王都に到着したんだね、流石に馬は速いね、こっちはサラミスを出て、徒歩でネモ山を越えるルートで西を目指しているところだよ」


『え、ジローさん、ネモ山を越える道を行くんですか』


「ああ、そうだよ、シスターマリーが連れて行かれて5日経つからね、急いだ方がいいかもと思って」


『・・・わかりました、山賊には気を付けて下さいね、それではこれで』


伝意の石から声が聞こえなくなった、一日一回の使用制限なので次の連絡はまた明日だ。ファンナに伝えたい事は伝えた。ファンナも王都バーミンカムに着いたようだ。今のところ順調だな。


俺達は昼飯を食べて、少し休憩してから、再び歩き始めた。のどかな風景がつづいている。


そのまま歩き続けて夕方頃になったころ、一つの村が見えてきた。


「ジローさん、今日はあのゴタール村で休みましょう」


「ゴタール村と言うんですね、はい、わかりました」


「・・・つかれた」


「・・・ピピ、俺の肩に座っていただけじゃないか」


「・・・つかれた」


「はいはい、あの村で今日は泊まるよ」


俺達はゴタール村と呼ばれている村までやって来て、村の中へ入る。静かな落ち着いた感じの村だ。宿屋はあるかな。俺は村人に声を掛ける。


「こんばんは、旅の者ですが、この村に宿ってありますか」


「ん? ああ、ありますよ、ゴタール村へようこそ、酒場と一緒になっとりますがね、ほら、あそこの看板が出てる店ですよ」


「どうも、早速行ってみます」


「旅の方、面倒は起こさんようにね、この村は小さな村なんで」


「はい、泊まるだけです、それではこれで」


俺達はゴタール村の宿屋へ行き扉を開けた、村人達が酒を飲んでいる様だ。店の店主が声を掛けてきた。


「いらっしゃい、この村に客とは珍しいな、ご注文は何ですか」


俺はブレイブリングを見せながら店主に言った。


「すいません、部屋は空いていますか」


「おや、義勇軍の方でしたか、もちろんありますよ、この村に泊まりに来るお客さんなんて行商人以外滅多にいないですからね、はっはっは」


「それから、夕飯もありますか」


「ええ、ありますよ、パンとスープだけの簡単な料理しか出せませんが、銅貨1枚ですが、どうします」


「えっと、じゃあ二人分下さい」


「私は蜂蜜酒ミードでいいわ」


「ミードなら銅貨2枚だよ」


俺はカウンターの上に銅貨4枚を置いた、店主がそれをしまうとまずは蜂蜜酒が先に出てきた。スカーレットさんは蜂蜜酒を一口飲んで店主に質問した。


「ねえ、この先のネモ山を越えたいんだけど、何か噂ってないかしら」


「え!? あんた方、ネモ山を越えなさるおつもりですか、やめた方がいいですよ、あそこにはとんでもねえ極悪人がいますから」


「極悪人?」


すると、他の常連客っぽい村人も会話に入ってきて、こう言った。


「ああ、ネモ山には山賊の砦があってな、そこにいるバレリントン兄弟ってのがいてな、そりゃあひでえ奴らなんだよ、平気で人を殺して金品や女をさらっていくんですよ、ありゃあ鬼ですよ鬼」


「ああ、この村は衛兵がたまに来るからまだましですけど、他の村がどうなっているかはわかっちゃいないんですよ」


「ふ~ん、山賊の砦にバレリントン兄弟ね、・・・」


スカーレットさんは酒を飲みながらでも、ちゃんと情報を収集している、流石だ。


それにしても、やっぱりいるんだな、山賊ってのは。話を聞くととんでもない悪人の様だが、このままネモ山を越えるルートを歩いていって大丈夫かな、ちょっと不安になってきた。


夕ご飯を食べながら明日の事を考えていた。この村から西へ行くとネモ山に入る道へと続く、南へ行くとネモ山を大きく迂回する街道沿いの道へと通じている。ネモ山は3日で抜けられるようだが、南の街道沿いの道はパラス・アテネまで10日以上掛かるらしい、いずれにしても、パラス・アテネ王国方面へ向かう事になる、その隣りにセレニア公国があるからだ。・・・やっぱりネモ山を越えるルートなんだろうか。


晩飯を食べ終わり、一頻り話をして、俺達は眠りに就いた。明日は山越えだ。しっかり寝よう。




おじさん早く寝るよ









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