第116話 伝意の石




 俺とピピとスカーレットさんは、馬に乗りサラミスの街まで駆けている。俺は馬に乗れないのでスカーレットさんに二人乗りをしてもらっている、ピピは俺の服のポケットの中にいる。さすがに馬は速い、朝マゼランの都を立ってもう半分近くまで来た。馬を休ませる為、昼飯にする事にした。


「ジローさん」


「何ですか、スカーレットさん」


「馬で二人乗りしている時、私の体にもっと密着して、手ももっと上に上げた所で掴んでいいのよ」


「・・・それだとスカーレットさんが馬の手綱を握る時、邪魔になりませんか」


「・・・もっと密着していいって事よ」


「・・・そ、そうですか」


俺達はそんな会話をしながら昼飯を取っていた、ピピが耳を引っ張る、何もしてませんよ、俺。そんな時だった、伝意の石から何か声のような音が聞こえてきた。


『あー、あ~、ジローさん、聞こえますか、ジローさん』


伝意の石からファンナの声が聞こえた、俺は咄嗟に伝意の石を掴む。


「もしもし、ファンナ? 聞こえるよ、どうしたの」


『あ~、よかった、使い方間違ってなくて、ジローさん言ったじゃないですか、一日一回昼頃に連絡取り合おうって』


「あ、そうだったね、」


『それにしても凄いですね、このマジックアイテムは、本当にジローさんの声が聞こえますよ』


「こっちもファンナの声が聞こえるよ、それでファンナ、今どの辺りなの」


『はい、私は今、王都に向けて移動中です、今は馬を休ませているところです』


「あ、そうなんだ、こっちも今馬を休ませているところだよ」


『そうなんですね、私の方は王都まではまだ距離があります、バーミンカムに着くのは明日の昼頃だと思います』


「わかった、こっちは今日にもサラミスへ到着する予定だよ、他に何かあるかい」


『いえ、こちらは静かなものです、モンスターとの遭遇もありません。まあ、街道をただ道なりに移動しているだけなんですけどね』


「そうか、それじゃあファンナ、また明日の昼頃に」


『はい、それではこれで』


伝意の石から声が聞こえなくなった、どうやら一日一回の制限らしい、それでも遠く離れた相手とこうして会話が出来るってのはやはり便利だ、ホント、トランシーバーみたいだな。


「どう? 伝意の石、便利でしょ」


「はい、これは凄く便利ですよ、まさかこれを使って盗賊ギルドは情報のやり取りを?」


「まあね、手に入れた情報は早い方がいいのよ、まあ、今の私は盗賊ギルドから足を洗ったから、単純にこのマジックアイテムは私の私物になっているけどね」


「・・・つかぬ事をお聞きしますが、スカーレットさんってクラスは何ですか?」


「あら?そう言えばまだ言ってなかったわね、こう見えてマスターシーフよ」


マスターシーフ、シーフの上級職か、さすがに盗賊ギルドのお頭なんてやっていただけあって、只者ではないという事か。


「さあ、昼食も食べ終わった事ですし、そろそろ移動しましょ」


「そうですね、馬の方、またよろしくです」


「わかってるわ、さあ、今日中にサラミスまで行くわよ」


俺達は馬に跨りサラミスへ向けて馬を走らせた、予定通りならば今日の夕方頃にサラミスの街に到着する予定だ。


「ジローさん」


「何ですか、」


「もっと上に手を持って来て」


「・・・こう、ですか」


「もっと」


「え? もっと?」


「もっと上」


「・・・それだとスカーレットさんの胸に手がいってしまいますが」


「・・・うふふ、いいのよ、それで」


「・・・や、やめておきます、後が怖そうだ」


「あら、私はそんな女じゃないわよ」


「・・・ピピですよ」


「あらあら、尻に敷かれているのね、うふふ」


何と言うか、スカーレットさんは大人の色気ムンムンなんだよな、あまり密着しないようにしなくては。


そうして、俺達を乗せた馬は予定通り夕方にサラミスへ到着した。門衛にギルドカードを見せて街の中に入って、馬を馬屋の厩舎へと持っていき、まずは冒険者ギルドへ行く事にした。


冒険者ギルドの中へ入ってテーブル席に座る、ようやくひとごこち付いて夕食を注文する。


「すいませ~ん、Aセット2つとさくらんぼ2つ下さい」


「あ、私は蜂蜜酒ミードね」


「は~い、ただいま~」


水を飲みながらスカーレットさんと今後どう動くか相談する事にした。目的地はセレニア公国だけど、どの道パラス・アテネ王国方面に向かわなきゃならない。この街の西門から出ていく訳だが、さて、どうしたものか。


「スカーレットさん、取り合えず俺達の目的はセレニア公国へ行く事になります」


「それじゃあ、どちらにしてもパラス・アテネ王国方面に向かわないとね、どのルートで行くの」


「このまま街道沿いに馬で行くってのはどうでしょうか」


「ええ~? かなり大回りする事になるわよ、それよりもネモ山を越えるルートなら3日もあれば徒歩でパラス・アテネの領内に入るわよ」


「徒歩でネモ山を越えるルートですか、ちなみに街道沿いを馬で行った場合、どの程度の時間が掛かりますか」


「そうねえ、どんなに急いでも10日は掛かるかもしれないわよ、ネモ山を大きく迂回する訳だからね」


「そうですか、シスターマリーが連れて行かれて4日経ちました、明日で5日です、少し急いだ方がいいかもしれませんね」


「そうね、じゃあ徒歩でネモ山ルートを通るって事でいいわね、3日でパラス・アテネ領内に入る訳だし、ただねえ、」


「何ですか」


「山賊がねえ、いるだろうし、それだけよね、問題って」


「うーむ、山賊ですか、厄介そうですね」


山道を通る訳だから、当然山賊と出くわす可能性はあるよな。


「まあ、必ず出会うわけじゃないけどね」


「そうなんですか、出会わなければいいですね」


「ホントね~」


その後、俺達は晩飯を食べて、冒険者ギルドの宿屋で部屋をとって休んだ。二人部屋だったが何の問題も無く眠った。明日は徒歩でネモ山を越える道を行く予定だ、しっかり休んでおかないとな。




おじさんは何もしないよ







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