第119話 疾風、ブライガー伯爵




 俺たちは山道油断無く登っていたが、前を歩いていた旅人風の男2人がどうやら噂の山賊、バレリントン兄弟に追い剥ぎにあっているようだった。その内の一人で、大柄な身長2メートルくらいのバスタードソードを背中に負っている伯爵と呼ばれている人が、これまた二人組みの山賊に挟み撃ちにされていた。助けなくて大丈夫かな。伯爵と呼ばれていた人の仲間の人で、吟遊詩人風の男の人も、ただ見ていればいいと言っていたけど・・・。


「なんだ? 俺様相手に二人掛りか、随分と余裕なのだな」


「へっ、その面、今にも泣き出しそうだな、その余裕、今剥いでやっからよ、なあバレ」


「へっへっへ、リントンの兄貴の言う通りだぜ、さっさと金目の物を出してりゃ良かったのになあ」


「くっちゃべってないで来るなら来い、来ないなら武器を仕舞って話し合おうではないか」


「な~に言ってやがる、この状況見てわかんねーのか、俺達バレリントン兄弟が獲物を抜いてお前を挟み撃ちしてるんだぜ、お前はもう終わりだよ」


「なんだ、やるのか、ならば掛かって来い、返り討ちにしてやるから文句を言うでないぞ」


「やれるもんなら!」


「やってみやがれ!」


山賊達が動いた、バレリントン兄弟は伯爵と呼ばれている人に対して前後から挟み撃ちする様に同時に襲い掛かった、バトルアックスを持った方が横薙ぎに武器を振るう、もう一方の鉄の剣を持った山賊も剣を構えて伯爵の背後から接近し、剣を突き出す。


山賊にしては見事な連携攻撃だ、伯爵があぶない!


っと思ったら伯爵は体を横にずらし、背後からの攻撃を見事にかわす。そして前からのバトルアックスの横薙ぎ攻撃をその場でしゃがみこんでこれも見事にかわす。


伯爵の動きは素早かった。剣を突いて来た男の背後に回りこみ、そのまま山賊の背中を押す。剣を持っていた山賊は剣の切っ先を前に出していたので、そのままの勢いでバトルアックスを持っていた山賊を刺し貫いた。バトルアックスを持っていた山賊も横薙ぎに斧を振るっていたのでそのまま剣を持っていた山賊を両断した。


・・・なんて事だ、山賊達は自分達の武器で互いに攻撃し合って、自滅した形になってしまった。


「え? え? ジローさん、今何が起きたの? 私、動きが早すぎて見えなかったんだけど」


ああ、そうか、俺は「ハイスピード」のスキルがあるから動体視力が追いついて来ていたのか。スカーレットさんは今の動きは見えなかったらしい。


「あの伯爵と呼ばれていた人が山賊達の攻撃を利用して、相撃ちにさせました」


「え? そうなの、よく見えなかったわ、ジローさんよく見えたわね」


「確かに今の伯爵の動きは素早かったですからね、まばたきしていたら見えなかったでしょうし」


今の伯爵と呼ばれていた人の動きの素早さは、まさに疾風、人間離れした動きだった。吟遊詩人風の男の人が話し掛けてきた。


「ほ~う、冒険者さんは今の伯爵の動きが見えていたのですか」


「ええ、まあ、なんとか」


「それはなかなか、目が良いですね」


「どうも」


吟遊詩人風の人に声を掛けられて相づちをうつ。


伯爵と呼ばれていた人がどうやら何とかして山賊たちはたおされた。


「ふう、終わったか、俺様相手に二人掛りで立てた策が挟み撃ちとはな、単純な策だったな、意外と、・・・お~いフランク~、もう終わったぞ~」


「おや、もう片がついたのですか、さすが伯爵ですね」


「よせよせ、この程度で、・・・おや? そちらの冒険者風の二人組みは何かな」


「あ、申し送れました、私は冒険者のジローと申します」


「私は旅人のスカーレットよ」


「・・・ピピ」


「ほー、妖精連れとは珍しいな、俺様はブライガー、ブライガー・フェルナンドだ、一応伯爵だよ」


「これは申し送れました、私の名はフランク、伯爵の護衛兼お目付け役をやらせて頂いております」


身長2メートルぐらいの大柄な男がブライガー伯爵で身長180センチぐらいの男がフランクと言うのか。二人ともカイゼル髭が様になっている、特にブライガー伯爵は強そうだ。あまり係わり合いにならない方がいいかもしれない。


「そうですか、それでは我々はこれで・・・」


「ちょちょちょ、待ちたまえ、そんな、うわっ面倒そうな人達に会っちゃったな~みたいな感じで立ち去らないで頂こうか、袖擦り合うも他生の縁と言うではないか、一緒にこのネモ山を越えようではないか、な、いいだろう」


「別にその様な事は思ってはいないのですが」


「ジロー殿、こうして出会ったのも何かのえにし、ご一緒しませんか」


「う~ん、そうですね、わかりました、私共で良ければご一緒しましょう」


「おお、そうこなくてはな、それでは共に参ろうか、山賊のアジトへ」


「・・・・・・へ? 今何と?」


今、山賊のアジトへと聞こえたが、そこでフランクさんが補足してきた。


「おや? 知らないのですか、この先に山賊のアジトがあるんですよ」


「いえ、それは知っています、そうじゃなくて、なぜ山賊のアジトに行くんですか、このネモ山を越えるだけでよかったのですが」


「おや、冒険者だからてっきり山賊討伐に来たのかと思ったけどな、俺様も付き合ってあげようと思っていた所なのだよ」


「いえ、冒険者ではありますが、別に山賊討伐をしに来た訳ではありません、ただネモ山を越えたいだけですよ」


「なんだ、そうだったのか、しかしどちらにしてもこの山道を行くとなれば、必然的に山賊のアジトを通らなければならないよ、後顧の憂いを絶つためにもここはアジトを強襲しようではないか、なあ」


「そ、そうですねえ、どうしますスカーレットさん」


「あら、私は別に構わないわよ、急いで行ってもどうせ山賊のアジトの横を通る訳だから、手間は同じよね」


スカーレットさんは意外と男気が溢れていた。やる気のようだ。


「そ、そうですね、わかりました、ブライガー伯爵様、我々も一緒に行きます」


「おお、そうか、これから宜しくな、ジロー君、スカーレット君、ピピ君」


「はい、道中よろしくお願い致します」


こうして俺達はブライガー伯とフランクさんの二人と行動を共にする事になった。強そうな人だから安心な感じではあるが、何だろうか、ただネモ山を越えたいだけなのだが、いつの間にか山賊退治をする事になってしまった。大丈夫かなあ。




おじさん流されてるよ







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