第98話 Eランク昇格試験 4
朝、目が覚めると体中のあちこちが痛い、間違いなく筋肉痛だ。腕を伸ばしたり腰を曲げたりしながら収穫作業をしたからな、普段使っていない筋肉を使ったからなあ。こりゃあ今日は休みたいところだが、そうも言ってられない、Eランク昇格試験は残り2日、それまでに冒険者ギルドにリンゴ一箱を納品しなくちゃな。ピピを起こす。
「ピピ、おはよう、もう朝だよ」
「・・・う~、まだねむい」
「今日も朝からリンゴの収穫作業だよ、さあ、顔を洗いに行こう」
「・・・は~い」
俺とピピは馬小屋の外にある井戸まで行き、顔を洗う。ピピは全身を洗っている。綺麗好きなのか。
「ピピ、はい、朝飯の干し肉とチーズ」
「・・・ん、たべる」
俺とピピは手早く朝食を済ませる。今日は直接農場に集合なので、ファンナやボルボ教官を待たせる訳にはいかない、特にボルボ教官は厳しい人だからな。
「ピピ、食べ終わったら農場に行こう」
「・・・ごちそうさま」
「よ~し、今日もやりますか、ピピ、行こう」
「・・・うん」
俺とピピは朝靄(あさもや)がかかっている馬小屋を後にして、ゆっくり歩いて農場へと向かう。やっぱり筋肉痛だからあまり動きたくない、のんびりやっていけばいいや。
農場へ着くとボルボ教官はもう来ていた。ファンナはまだのようだ、若い子は朝が苦手なのかな。・・・まあ俺も朝は苦手なんだが。
「おはようございます、ボルボ教官殿」
「おはようジロー、早いな、もう支度はいいのか」
「はい、朝食は済ませました、後はファンナが来たら収穫を始めましょう」
「うむ、わしはモンスターの警戒しかやらんがな、ふぉっふぉっふぉ」
「いえ、教官殿は試験官なのであまりご無理は・・・」
「なんじゃジロー、わしゃまだまだ現役じゃぞ、年寄り扱いするでないわい」
「は、はい、教官殿」
やはりボルボ教官は現役の冒険者だったか、失礼のないようにしなくては。
教官と話しているとファンナがやって来た、髪の毛はボサボサだ、寝起きなのかな。
「おはようございます・・・ふあ~、・・・朝早くはどうも苦手でして」
「おはようファンナ、今日も頑張りましょう」
「・・・おはよ、ふぁんな」
「おはようピピちゃん、ボルボ教官殿」
「うむ、おはよう、二人とも揃ったな、では今日も試験開始じゃ」
「「 はい、ボルボ教官殿 」」
しばらくして、農家のお爺さんもやって来た。他に何人かいるみたいだ、みな収穫のお手伝いをしにやってきたのかもしれない。
「おはようございますじゃ、今日で収穫を終わらせる予定ですじゃ、その為手伝いをしに来てくれた他の者もおりますのでの、それから昨日は急な事でしたので準備しとりませんでしたが、今日は昼飯を用意しとりますのでおのおの休憩を取って下され、それでは収穫をお願いいたしますじゃ」
「「「「 よろしくお願いします 」」」」
「よろしくお願いします」
「これで早く収穫が終わりますね、ジローさん」
「そうですね、ファンナ」
これだけ人がいれば午前中には収穫作業を終わらせられるんじゃないかな、よーし、いっちょやるか。ピピには辺りの警戒をしてもらって、ファンナと俺はそれぞれ別のところから収穫作業を始めた。
やる事は昨日と同じだ、リンゴを収穫して木箱に入れ、木箱がいっぱいになったら荷車に載せて、農場の入り口近くに一箇所に集めて、また作業に戻る。筋肉痛だからな、無理せずやっていこう。
いつの間にか昼になっていて、みんなが昼飯を食べていたので俺とピピ、ファンナとボルボ教官も一緒に混ぜてもらって一緒に昼飯を食べる。心地よい疲労感と空腹で飯はうまかった。農家の人達は談笑しながら今年の出来は上々だとかどこどこの誰々が結婚したとか他の農家の出来はどうだとか色々話しながら昼飯を食べている。のんびりした時間が過ぎていく。
「そういえば冒険者さんは何で収穫の手伝いに?、収穫期は忙しくて助かりますが」
「実は冒険者ギルドのランクアップの昇格試験なんですよ、どうしてもリンゴ一箱が必要でして」
「ほ~う、そうだったのですか、冒険者ってのも大変なんですねえ」
「いえいえ、こうしてお手伝いして報酬で一箱貰えるだけで十分ですよ」
「収穫が終われば後はメンデル子爵様のところに3箱置いてきて、あとは商業ギルドに置いてくればよいですからの、その時に報酬として一箱差し上げますじゃ」
「ありがとうございます、助かります」
「さあて、昼飯も食ったことじゃし、そろそろ最後のもう一働きをしますかのう」
昼飯後は順調に収穫作業をこなしていく、人数が多いと収穫もはかどるな、もう少しで終わらせられそうだぞ。
っと、そこでピピが何か騒ぎ出した。
「・・・ジロー!、なにかいるよ!」
「何!ホントかピピ、何処だ」
「・・・あそこ!」
ピピの指差した方向にデカイ蛾のモンスターがリンゴの木に止まっていた。
あれはビックモスだ。デカイ蛾の昆虫型モンスターだ。空を飛ぶから厄介だな。木に止まっている状態で攻撃した方がいいよな、周りにはリンゴの木があるから火魔法は使えない。物理攻撃でなんとかするしかない。
「ピピ、下がって」
「・・・うん」
俺はハンドアックスに持ち替えてビックモスに狙いを定めて投擲する。
「それ!」
ハンドアックスがビックモスに見事に命中、一撃でビックモスを倒した。
「ふう~、やれやれ、一匹だけでよかったな」
「何をやっておるか! ジロー!」
ふいにボルボ教官が駆けつけてきた、なにか怒っているみたいだ。
「これは教官殿、たった今モンスターを・・・」
「ばかもの! なぜ勝手に一人で行動した! お主は何故ファンナを呼ばなかったのじゃ!」
「そ、それは・・・」
「よいかジロー、冒険者は常に最悪の事態を考慮に入れねばならんのじゃ、もし毒を持つポイズンモスじゃったらどうするつもりだったのじゃ」
「も、申し訳ありません、教官殿」
「ジローよ、少し人より戦えるからと言って油断してはならんぞ、何の為にファンナとパーティーを組んでおるのか考えよ」
「は、、はい、ボルボ教官殿」
教官の言う通りだ、もしポイズンモスだったらこの程度では済まない。毒攻撃を受けていたかもしれなかったからな。今は解毒薬を持ってない、一人で行動するべきじゃなかった。俺はファンナとパーティーを組んでいるんだった。
・・・慢心・・・していたのかな・・・いけない、俺はそんなに強くないんだ、仲間を信頼すべきだった。
おじさん、気を引き締めないと
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