第5章

第92話 サラミスでの日常





 ここは、サラミスの街。俺達が活動拠点にしている街だ。


街としては少し小規模な街だが、それでも人々は活気に満ちていて、田舎っぽい感じがまたかえって安心感がある、そんな街だ。人口は多すぎず少なすぎずといった感じで、産業は主に農業だ、麦や野菜、食肉用の動物などを放牧していて、のんびりした生活スタイルだ。収穫期は忙しいみたいだが、年に一度の収穫祭の様なお祭りがあって、遠くの町や村からも人がやって来てお祭りを楽しむらしい。


商店なども結構あって、職人も色々な人達がいる。そして俺達が所属している冒険者ギルドのサラミス支部もある。サラミスに所属している冒険者の人数はそんなに多くないが、それでも依頼はほぼ毎日張り出されていたりして、冒険者は依頼を確認して仕事に向かう、そんな感じで俺も冒険者として生活している。


小さいながらも女神教会があって、街のみんなは日々感謝の祈りを奉げている。みんな信心深いのだろうな、ファンナなんかは出来る限り毎日欠かさず女神アルナ様の像の前で祈りを奉げていると言っていた。


冒険者生活も慣れてきて、ジローという名前も少しづつ覚えてもらっていたりする。今日もファンナと二人で依頼をこなして冒険者ギルドへ報告に行く所だ。まあ、依頼と言ってもFランクの駆け出し冒険者向けの依頼なのだが。俺もファンナもまだFランクだからな。


「う~ん、疲れましたね~、ジローさん」


ファンナは伸びをしながら言ってきた。


「そうですね、丸一日草むしりでしたからね、それも貴族のお屋敷の庭でしたからね、広いったらなかったですね」


「あはは、そうですね、でも流石は貴族様ですよ。草むしりの報酬が100G。大銅貨1枚ですよ。儲かっちゃいましたね」


「そうですね、一日の稼ぎとしてはいい方ですね。二人で分けて銅貨5枚ですからね」


あ~、腰が、足が、俺ももう40代の初老だからな、明日は筋肉痛だな。ファンナは若くていいなあ。


「汗掻いちゃいましたねジローさん、ギルドに報告の前にお風呂に行きませんか」


「風呂ですか、そうですね、行きましょうか、晩飯はどうしますか、ファンナは実家で食べますか」


「う~ん、お酒を飲みたい気分なので、ギルドで食べます」


「じゃあ、お風呂を出たら冒険者ギルドで合流ってことで」


「はい、いつもの通りですね、・・・あ、公衆浴場に着きましたよ」


「それじゃあ、ファンナ、また後で」


「はい、ジローさん」


俺は男湯に入り、ファンナは女湯にそれぞれ入っていく。番頭さんにお金を払い、脱衣所で鎧などの装備品と服を脱いで浴場へ、まずは体を洗って頭を洗う。汚れを落として湯船に浸かる。・・・あ~~、いい湯だな~。疲れが徐々に癒される。


さすがに夕方頃になると仕事を終えてひとっ風呂浴びにくるお客さんも多く入っているようだ。俺と同じ冒険者仲間の人も何人かいる。その冒険者仲間の一人が声を掛けてきた。


「なんだ、ジローか、お疲れ」


「お疲れ、デニム、今日の稼ぎどうだった」


「まあ、ぼちぼちだな、そっちは」


「こっちもまあまあってとこだな」


「そういやジロー、ギルマスがぼやいてたぞ、何時になったら昇格試験受けるんだって」


「え、ギルドマスターが?」


「いいかジロー、サラミスのギルドには戦士の中級職、ウォーリアを遊ばせておく余裕はないんだぜ、いい加減に試験受けろよな」


「う~ん、そりゃあ何時かは受けるつもりなんだけどなあ」


「早いとこDランクに上がれよ、依頼が溜まってっからよ、Dランクの」


「そうだなあ、ファンナとよく相談してみるか」


「頼むぜホント、うちのギルドで看板しょってんのはルビーさん達を含めて5人しかいねーんだからな」


「わかったよ、考えておくよ」


「じゃあな、ジロー、俺はもう上がるわ」


「ああ、」


ギルドランクの昇格試験か・・・どうしようかなあ。


一応ファンナとよく相談してみようかな、ランクが上がれば報酬のいい依頼を受けられる様になるけど、その分危険度も増すからな。


ゆっくりと湯船に浸かりながら今後の事を考えてみた。


確かに稼ぎが良くなればいい事ではある、しかし、それと同時に責任も付いてまわる。簡単には決められないよな、どうしたもんか。まあいいや、とりあえずファンナと相談だ。


俺は湯船から出てタオルで体を拭き、服と装備を身につけて、公衆浴場を出た。ファンナはまだお風呂に入っているだろうか、冒険者ギルドで合流だから先にギルドへ行ってみよう。


風呂上りに夜風にあたりながら、俺は冒険者ギルドへ向かった。


冒険者ギルドへ着いて中に入るとギルドの中は賑わっていた。酒場と併設しているからな。ファンナはまだ来ていない様だ。っと、そこでルビーさんとサーシャに声を掛けられた。


「ジローさん、お疲れ」


「ジロー、こっちこっち」


「お二人とも、お疲れ様です、先に受付で報告済ませちゃいますね」


俺はギルドの受付に行き、受付のおねえさんに報告する。


「報告します、エタニア邸の草むしりの依頼を完了しました」


「お疲れ様です、ジローさん、・・・はい、確かに、それでは報酬の100Gです。お受け取り下さい」


「ありがとうございます、それでは」


「あ、ジローさん、ギルマスがぼやいてましたよ、ジローさんとファンナさんが何時まで経っても昇格試験を受けてくれないって」


「え、そうなんですか、ここでも言われるんですねえ」


「考えといて下さいね、ジローさん」


「わかりました、善処します」


言われてしまったな、ここでも、まあ後で考えてみるか。とりあえずルビーさん達の所へ行ってみよう。報告を終え、ルビーさんとサーシャが座っているテーブルに行く。二人とも既に酒を嗜んでいるようだ。


「ねえ、ジローさん、一体何時になったらあたい等とパーティーを組んでくれるんだい」


「そうよジロー、今ギルドランクいくつなのよ」


「え~と、・・・Fランクです」


「ええ~~! まだFなの、何やってんのよジロー、早いとこDランクに上げて私達のパーティーに入ってよね」


「すみません」


「ジローさん、実績も経験もそこそこあるんだから、ファンナと二人で昇格試験受けなよ」


「う~ん、そうですね、その辺はファンナとよく相談して決めようかと思っています」


「そのファンナは?」


「まだお風呂だと思います」


「のんびりしてんのね、ジローってば」


「焦りは禁物ですからね、サーシャ」


「皮肉を言ったのよ」


「だけどジローさん、本当に試験受けなよ、何時までもFランクに甘んじていたらダメだよ」


「うーむ、言われてしまいましたね、考えておきます」


昇格試験か・・・とにかくファンナと相談だな。




おじさんの身の丈に合っていると思うんだけど








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