第90話 え? こんな昼間から酒場へ行くの




 私達は、マゼランの街のスラム街まで来ていた。


このスラムのどこかにある、サムソンって言う盗賊ご用達の酒場があるらしいんだけど。

やっぱり怖いわねえ、スラムにいる人達は殆ど地べたに座り込んでいたり、お店の前で門番みたいに立っているかのどっちかだわ。


目を合わさない様にしとこうっと。


こちらの気持ちを気遣ってなのか、マクレーンさんが声を掛けてくれた。


「カスミさん、スラム街は初めてですか?」


「はい、大きな街にはつき物なのはわかっていましたが」


「お嬢様だけじゃなく、カスミさんも護衛した方がよさそうですね」


「すみません、マクレーンさん」


「大丈夫ですよ、王国軍でもこういったことはよくある事ですから」


「しかし、こいつ等なんでこう目つきが鋭いんだ? 冒険者でもやればいいのに」


「リッキー、人には得手不得手がありますよ、無理強いはよくありません」


「マクレーンは真面目だな」


お嬢様も話に加わる。


「まあ、私が言えた事じゃないけど、冒険者って実力が無いとなかなか大成しないって聞くわよ」


「はあ、冒険者ですか・・・」


「あら、カスミ、興味ある?」


「いえ、そう言う訳では」


マンガやアニメ、小説なんかで冒険者ってなんか活躍するお話があるけど、実際は難しいものなのかもしれないわね。


「さあ、着いたわ、ここがサムソンよ」


なんか、普通のお家って感じなんですけど、入り口の所に目つきの鋭い人が立っているけど。

あ、でも看板があるわね、確かにサムソンって書いてあるわ。


「さあ、入るわよ」


「はい」


なんか門番みたいな人に何か言われるかと思ったんだけど、何事もなく素通りした。

もしかして、エミリエルお嬢様って顔パスなのかしら。


お店の中に入ると、意外と綺麗に掃除が行き届いている。

なんだか酒場って感じよ。お客さんも怖そうな人達が多い。目を合わせちゃ駄目よね。

エミリエルお嬢様がお店のマスターに声を掛ける。


「おやっさん、ちょっといい」


「なんだ、誰かと思ったらエミリーじゃねえか、どうした、相談事か」


「ねえおやっさん、エミリエルお嬢様に脅迫文を送りつける様な輩に心当たり無いかしら」


「この街でか、・・・そうさなあ、お嬢様にそんな悪さする奴はちょっとわからねえな、大体この街で伯爵様のお嬢様に手え出すような奴はそういないと思うがね」


「あら、そうなの? 困ったわね、探し様が無いわねこれじゃあ」


「力になれなくて悪いな」


「別にいいわよ、邪魔したわね、これで失礼するわ」


「ああ、また何かあったらよろしくな」


「行きましょう、みんな」


「はい」


情報は手に入らなかったみたいね。まあ、そんなに都合よくいくわけ無いわよね。


そして、お店を出たその時だった。


「みいつけた~、エミリーた~ん」


なに、このぬめっとした声は。

後ろを振り返るとなんとエミリエルお嬢様を羽交い絞めにしている輩がいた。


「ちょっと! 何やってんの! お嬢様、エミリーを放しなさい!」


マクレーンさんも言う。


「なんですか! あなたは! お嬢様を放せ!」


「いやだ。折角見つけたのに放すもんか、エミリエルたんは僕の物だ」


まさか!? こいつなの。脅迫文を送ってきた奴って!

よく見ると結構上等な服を着ている、取り巻きなのか他に二人の男がいる。


「あ、あなたは、アクシオン男爵の息子の・・・」


「ポールだよ、覚えててくれたんだ、嬉しいなあ」


「は、放しなさい! 無礼でしょうが!」


「いやだ、僕の花嫁候補なんだ、放すもんか」


どうしましょう。このままじゃお嬢様がかわいそうよ。なんとかしなきゃ、護衛なんだから。


「お嬢様を放せ!」


リッキー君が前に出た。いいぞ、頑張れ男の子!


「なんだあ、お前は、僕の邪魔をするのか? 僕は男爵家の人間だぞ、おまえら、こいつを黙らせろ」


「へい、ポールさん」


子分が動き出した。マクレーンさんは様子をうかがっている。隙を見て何かするみたい。

私も前に出る。リッキー君の隣よ。


「んん? これは、・・・なんて素敵な女性なんだ、・・・君、名前を言え」


・・・ほんと、なんなのよ。こいつは!


「お嬢様に惚れているのではなくって?」


「エミリエルたんも君も僕の物だ!」


なんて傲慢な奴なの、愛のかけらも感じないわ!


さーて、どうしてくれようか。




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