第89話 準備できました
私とマクレーンさん、リッキー君はお屋敷の外でお嬢様を待っていた。
これからスラム街に行く事になってしまったのだけれど、エミリエルお嬢様も一緒に行くと言って聞かないのよ。あぶないのにね。
まあ、私達がその為の護衛なんでしょうけど、無理に危険に飛び込まなくてもいいのにね。
待っている間、マクレーンさんが話し掛けてきた。
「カスミさん、お嬢様を護衛する立ち位置なのですが、私は魔法使いなので後ろに控えます、後方を守ります」
「あ、はい、私はどうしましょうか」
「オークを素手で倒せるんだから、俺と一緒に前衛だよ、カスミさん」
「リッキー君と前方を守ればいいんですね」
「そう言う事だ、よろしく、カスミさん」
「よろしくね、リッキー君」
ここで暫くの間待っていると元気な声が聞こえてきた。
「待たせたわね、さあ、行くわよ」
「え? お嬢様ですか」
エミリエルお嬢様の格好はお屋敷にいた服装とはまるで別物だった。
髪をツインテールにして、革の胸当ての様なへそだしルックにホットパンツ、ニーソックスを着用していて、別人の様だった。どこから見てもお嬢様には見えない。どちらかと言うと盗賊スタイルっぽい格好よね。
「お嬢様、その格好で行かれるのですか?」
「そうよ、それとね、みんなにお願いがあるの」
「何でしょうか」
「この姿の時の私はエミリエルではなく、エミリーと呼んで頂戴、いいわね」
「はあ、エミリー様・・・ですか」
なんと言うか、行動的なファッションよね、これって。
「お願いね、それじゃあ、早速出かけましょうか」
「わかりました、エミリー様」
「ところで、どちらまで行かれるのでしょうか、スラム街といってもこの街のスラムは広いですからね」
「任せなさい、マクレーン、こういう時に行く場所ってのがあるの」
「行く場所?」
「酒場よ」
「酒場? そこで何を」
「情報を買うのよ」
「なるほど、情報屋ですか、確かにこの手の情報は意外と集まっているかもしれません」
「でしょ、行くわよ、みんな」
「はい、エミリー様」
お嬢様は張り切っているみたいだわ、随分行動的な性格をしていらっしゃるのね。
「大丈夫かな、なんか慣れている感じなんだけどエミリー様って」
「今更言っても始まらないって、カスミさん、ほら、俺達も行こう」
「そうね、行きましょうか、リッキー君」
こうして私達は貴族街を出て、一般街へとやってきた。
その街角の一角に酒場が数軒、軒をつらねている内の一軒のお店に入った。
「いらっしゃい、おや、エミリーさんじゃねえか、ようやっと呑みに来てくれたのかい」
酒場のマスターはエミリー様の事を知っているみたいね。よく来るのかしら。
お嬢様は元気よく、酒場のマスターに対応した。やっぱり慣れている感じだわ。
「マスター、聞きたい事があるの、エミリエルお嬢様に脅迫文を送って来る様な奴知らない?」
「おいおい、勘弁してくれ、物騒な話だな、ここはまっとうな酒場だってのに」
マクレーンさんが酒場のマスターに尋ねた。
「どうなんですか?」
「そうさな~、ここ一般街の連中にお嬢様に悪さする様な輩はいねえと思いたいが、どうだかなあ」
「なによ、歯切れが悪いわねえ、はっきり言いなさいよ」
「そうは言ってもよ、心当たりがねえからなあ、むしろそういった悪巧みは盗賊ギルドの領分なんじゃねえか」
「盗賊ギルドですか」
なんか盗賊って聞くと悪者ってイメージがあるのよね。それに怖そうだわ。
「わかったわ、盗賊ギルドを当たってみるわ」
「あまり無茶するなよエミリー」
「わかってるわよ、じゃあねマスター」
「今度は呑みに来てくれよ」
「そのうちね、それじゃあ行きましょうか」
「行くって、まさかその盗賊なんとかって所ですか、あぶないですよエミリー様、お止めになった方が」
「大丈夫よ、初めてじゃないから」
初めてじゃないって、この子相当なお転婆だわ。
どうしましょう、盗賊なんて怖そうな人にあまり会いたくないわ。
「カスミさん、大丈夫? 顔色が良くないみたいだけど」
「ねえ、リッキー君、盗賊ってやっぱり犯罪者なのかしら、私怖いわ」
「へ? 何の言ってんのカスミさん、盗賊は犯罪者集団って訳じゃないよ」
「え? そうなの」
「ああ、冒険者の中には盗賊のクラスなんてごろごろいるって、心配しすぎだよ、カスミさん」
あ、そうなんだ。てっきり怖い人達の集まりかと思っちゃった。
「さて、お次はスラム街の酒場、サムソンね、行くわよみんな」
「はい、エミリー様」
次の目的はスラム街らしいわねえ。治安が悪いかもしれない所に行くなんてやっぱり怖い。
けど、いかにも犯人が居そうな感じよね。
みんなで協力して事に当たらないとね。
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