第84話 伯爵様にご挨拶ね




 私とエミリエルお嬢様、それとギャリソンさんが屋敷の広い廊下を一緒に歩いている。


エミリエルのお母様であるミレーヌ伯爵に挨拶に行くらしい。

挨拶するのは当然私の為よね、なんだか緊張してきちゃった。


敬語ってあまり使った事ってないのよね、この歳になるとむしろ私が使われるっていうか。相手は貴族なんだから失礼のないようにしないとね。


少し進むと大きな扉の左右で、メイドさんが控えている。


エミリエルが扉をノックする。


「お母様、エミリエルです」


扉の向こうから女性の声で返事が返ってきた。


「どうぞ、お入りなさい」


とても綺麗な声だった、優しそうな優雅な感じの声だわ。

扉の左右に控えていたメイドさんが大きな扉を開ける。


「失礼します」


エミリエルがゆっくりと部屋に入る、その後でギャリソンさんが続いて入室する。


「カスミ様、わたくしめの後ろに続いて下さいませ」


「あ、はい」


ギャリソンさんが私の入室を促してくれる。


私も部屋に入る。豪華な調度品などが置かれた応接室みたいなお部屋だわ、すごく広い。お部屋の中には女性が一人と男性が三人いるわ、あの女性がミレーヌ伯爵様かしら。


「ただいま戻りました」


「どうだったの、アクシオン家の舞踏会は」


「とても退屈でしたわ」


「まあ、この子ったら、大方壁の花にでもなっていたのではなくて」


「そ、そんな事は・・・」


「まあまあ、この子ってば」


「それよりもお母様、お客様が見えられている様ですが」


「大丈夫よ、もうお話は済んでいるから」


親子のお話はもう済んだみたいね、ここからはこの屋敷に来ているお客様とのお話みたい。


「大きくなられましたな、エミリエルお嬢様」


「あら、ランフォード将軍、お久しぶりですわね、王都の警護はよろしいのですか」


「な~に、私の部下は優秀ですからな」


ランフォード将軍と呼ばれた人は、30代後半って感じの強そうな人だわ、端整な顔立ちね。


「ところでエミリエル、そちらの女性はどちら様なの」


「紹介するわ、私の専属護衛として雇う、カスミよ」


「ええ? 専属護衛?」


ちょっとエミリエルさん、私何も聞いてないんですけど。


「カ、カスミと申します」


「あら、そうなの、宜しくねカスミさん」


「はい、伯爵様」


「硬いわねえ、奥様で結構よ」


「畏まりました、奥様」


「そう言う事なら話が早いわ、実はこの若い二人の殿方ですけど、エミリエル、あなたの護衛として雇う事になった、ランフォード将軍の部下の方よ」


「初めまして、エミリエルお嬢様、私の名はマクレーンと申します、魔法使いをしています」


マクレーンという方は眼鏡をかけているとても知的な殿方だわ。


「お初にお目にかかります、騎士見習いのリッキーと申します、以後宜しくお願い致します」


こちらのリッキー君は見た目が16歳ぐらいの活発な男の子って感じね、元気が良さそうだわ。


ここへきて、エミリエルお嬢様がなんだか辟易とした表情で対応した。


「・・・お母様、護衛にはカスミがいるから大丈夫です」


「いいえ、そうはいきません、あなたももういい年なんだから、殿方に免疫を付けないといけません」


「殿方の免疫ならついていますわ」


「あなたが言っているのは粗野な冒険者や盗賊ギルドの方達でしょう、もっと上品なお知り合いを作りなさい」


「は~い、お母様、でもカスミはいいですわよね」


「そうね~、・・・まあ、いいわ、カスミさん、娘をどうか宜しくお願いするわね」


「はい、奥様、私に出来る範囲で宜しければ」



こうしてマクレーンさんやリッキー君と一緒にエミリエルお嬢様の護衛をする事になったんだけど。


何から守るのかしら?





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