第80話 王様の快気祝い
なんとかザンジバル王国の事変を解決した俺達は、今はそれぞれ休憩している。
そこへ一人の男が大ホールへと入って来た。かなり慌てている様子だ。
「た、大変です! 旦那様! 一大事でございます!」
どうやらギア・ドコス伯爵家の使用人の様だ。ギア伯爵の側まで慌てて走って来た。
「・・・一体なんだ、騒々しい、わしは今息子を亡くして混乱しておるのだ」
「な、なんと! もうお知りになられていましたか」
「ん? どういう事だ」
駆け込んできた男は、息咳き切らしながらギア伯爵に説明を始めた。
「ラッセルおぼっちゃまが、屋敷の自室のクローゼットの中で、変わり果てた姿で発見されたのでございます」
「何を言っておるのだ? 息子ならば今しがた亡くなったところだが」
「いえ! 違います、死後だいぶ経っておりました」
「な、なんだと! どういう事だそれは、息子のラッセルならばこの場で黒い炎にまかれて死んだのだぞ!」
「間違いございません、幼少期の頃に剣術の稽古で負った傷跡がありました、屋敷の自室でお亡くなりになっていたのがラッセルおぼっちゃまでございます」
「そ、そんな事があるものか! そんな・・・」
「旦那様、気をしっかりお持ちください」
なんだ? どういう事だ?・・・ラッセルは既に亡くなっていたって事なのか?
一連の話を聞いて、ルビーさんが考え込みながら俺に聞いて来た。
「どう言う事だろうねえジローさん、屋敷でなくなっていたのが本物って事かい?」
「さあ? わかりません、どうなっているんでしょうか」
更にサーシャが質問してくる。
「ちょっと待ってよ! それじゃあ私達と戦ったラッセルは一体何者なのよ」
「それもわかりません、ホント、どうなっているんでしょうね」
ラッセルが偽者で、本物と入れ替わっていたって事なのだろうか?
それに、偽者かもしれんが、ラッセルが最後に言った言葉のホークウッド様とかいう人物名も気になるが・・・
わからん、どうなっているんだ。
ただ、一つ確かな事は、いずれにしてもラッセルは亡くなったという事だ。ギア・ドコス伯爵にとっては、つらい現実だろうな。
「ギア・ドコスよ、爵位剥奪の件はしばらく待つ事とする、真実が明るみになるまで、しばしの間喪に服しておれ、もし偽者が今回の件に全て関係しているのならば、ラッセルの偽者の責任なのでな」
「・・・は! 陛下・・・それでは私はこれで失礼いたします」
「うむ、気をしっかりな、ドコスよ」
「・・・は、」
ギア・ドコス伯爵は大ホールを退室した、と、思ったら俺達の所で足を止めた。
「・・・冒険者達よ、息子の偽者を叩きのめしてくれて感謝する」
「・・・いえ、ご愁傷様です、伯爵様」
「・・・ああ、ありがとう、ではな、わしはこれで・・・」
ギア・ドコス伯爵は大ホールを出て行った。思えばあの人が一番の被害者なのかもしれないな。
「伝令! 来てくれ」
「は! 陛下!」
「布令を出す、闇の崇拝者に特に気を付けよ、とな」
「は! 直ちに!」
国王陛下に呼ばれた伝令はすぐに動いた。闇の崇拝者はまだ国内にいるだろうか。微妙な所だな。だが、何もしないよりはマシだろうな、この国はこれからが大変だろうし。
「さあ! 皆の者! 今日はわしの快気祝いじゃ! 大いに飲んで食ってくれ!」
王様の一声で場は大いに盛り上がった。会場にいる貴族達は王様の元気な姿を見て安心しているようだ。
酒や美味しそうな料理が次々と運ばれてくる、俺達の座っているテーブルにもうまそうな料理とお酒が大量に置かれていく。
「「「「「 いただきます! 」」」」」
まずはワインを一口、う~む、いい味だ。スープを一口、これもうまい。肉料理もうまそうだ。肉を食べる。うん。うまい。かかっているソースがいい味出している。おいしい食事だ。酒もおいしい。
「サーシャ、あんたちょっと食いすぎじゃないかい」
「そう言うルビーこそ、食べながらしゃべってるし」
「おいしいですね、ジローさん」
「そうですね、ファンナ」
「お嬢様、こういう時こそテーブルマナーですよ」
「わかっていますわ、ギャリソン、あら、このお酒おいしい」
「ちょいとお嬢ちゃん、酒はまだ早いよ、もう少し大人になってからにしな」
「そうよ~、エミリー、お酒は大人になってからよ~」
「なによ、自分達ばっかり・・・私だって活躍しましたわよ」
「そうですね、さすがエミリエルお嬢様です、あのハイキックはお見事でした」
「でしょ」
「お~う、ジロ~、呑んでるか~」
「バンガード殿、もう出来上がっているんですか」
「あたぼうよ~、うまい酒にうまい飯、実にめでてえじゃねえか~」
「そ、そうですね」
「ん~、なんだジロ~、おめ~浮かない顔してんな~、大方ラッセルの事でも考えてやがんな~」
「そうでもないのですが」
「いいか~、ジロ~、わかんねえ事はいくら考えてもわかんねえもんだ、俺達はな~、目の前の問題を一つずつ片付けていくしかねえもんさ~、わかったか~ジロ~」
「・・・そうですね、バンガード殿のおっしゃる通りです、飲みますよ、俺も」
「がっはっはっは、そ~だ、それでいいんだ~」
「まったく、髭のおじさまも酔っ払いですわね・・・って、あああーーーーーーーーーー!!」
「いかがされましたか、お嬢様」
「私今日15歳の誕生日だったわ!」
「え、成人したのですか、それはおめでとうございます」
「おめでとう、お嬢ちゃん」
「おめでとう、エミリー」
「おめでとうございます、エミリエルさん」
「おめでとうございます、お嬢様」
「ありがとう、みなさん。・・・って、言ってる場合じゃないわ! どーすんのよ! きっとお母様が誕生パーティーを用意しているわ! どうしましょう! 今から帰ってもとても間に合わないわ!」
「ああ、それでしたらいい物がありますよ、・・・これです、リターンの
「でかしたわ! おっさん、これを使って急いで帰るわよ!」
「馬車はどうするんだい、お嬢ちゃん」
「そんなの後で使用人に取りにこさせればいいのよ、さあ、急いで!」
そこへフレデリック王子がやって来た。
「おや、皆さんもうお帰りですか?」
「これは王子、わざわざご足労恐縮です」
「皆さんにはお世話になりました、ここまで連れて来てくださりありがとうございます」
「実家に帰れてよかったですね、殿下」
「このお礼は必ず致します、それと、エミリエルさん」
「何かしら、殿下、私ちょっと忙しくて」
「私と・・・結婚を前提に・・・お付き合い頂ければ・・・」
「ええええーーーー!!きゅきゅきゅ、急にそんな事言われても、こ、こ、こ、困ってしまいますわ」
「いいじゃないかお嬢ちゃん、成人したんだろう、いいチャンスじゃないかい」
ルビーさんのアシストらしい事で場は盛り上がる。
「わ、わ、わ、わかりましたわ、・・・そのお話、謹んでお受けいたしますわ」
「よかった、断られたらどうしようと思っていましたよ」
「手紙を書きますわ、それでは、わたくし共はこれで失礼いたします、殿下」
「はい、・・・ジローさん、皆さん、本当にありがとうございました」
「こちらこそ、いい冒険でしたよ、いや~、若者はいい!
さて、名残惜しいがそろそろ行かないと。
「では、これで・・・リターン発動!」
一瞬の浮遊感がして俺達はリターンのスクロールを使って転移した。
「・・・なんとも慌しい連中でしたな、殿下」
「そうだな、彼らは自分達の事を冒険者と言っていたが、私にとってはよき友人であったよ」
「はあ、そんなもんですか」
「そういう物さ」
俺達の目の前にはマゼランの都の城門があった。どうやら戻ってきたみたいだ。
「ギャリソン、急いで帰るわよ」
「はい、お嬢様、それでは皆様、これで私どもは失礼いたします」
「エミリエルさん、ギャリソンさん、これまで付き合ってくれてありがとうございました」
「私も楽しかったわ、また冒険に誘ってね、それじゃあ」
エミリエルお嬢様とギャリソンさんは自分達の屋敷へと帰っていった。
「俺達は冒険者ギルドへと帰りましょうか」
「そうだね、流石に疲れたよ」
「あ~お風呂入りたい」
「あ、私もです」
「・・・さくらんぼ」
こうして、俺達は今回の冒険を終えて帰還した。
しかし、ここに来て意外な人物と冒険者ギルドで出会う。
「待っていましたよ、ジローさん」
「これは、サリー王女様、それに騎士グレンさん、奇遇ですね、こんなところで」
「ジロー殿、すまんがお前さんを逮捕せにゃならん、大人しくしてもらうぞい」
「・・・え?」
え? なんで?
「え、じゃありませんよ! 何ですか街道管理局って! ありもしない部署をでっち上げないで下さい!」
「・・・あ!」
「あ、じゃありませんよまったく、お父様の耳に入っていたら大変な事になっていたのですよ!」
「す、すみません」
「まったく、ミレーヌ伯爵の所で情報は止めてありますけど、ミレーヌ伯爵はかんかんでしたよ」
「申し訳ありません」
「とにかく、他の者にも示しがつきません、2日間の牢屋行き、いいですね、ジローさん」
「はい」
っと、言う訳で、あれよあれよという間に牢屋へと入れられてしまった。
「よう、新入り、・・・ん? 誰かと思ったら俺を捕まえた冒険者のおっさんじゃねえか」
「あ、あなたは確かミレーヌ伯爵から蒼水晶の指輪を盗んだ盗賊じゃないですか」
「まさか、俺を捕まえたやつが捕まるとはな、皮肉なもんだな、なんだよ、一体何やらかしたんだよ」
「・・・そうですねえ、国を一つ救ったんじゃないんですか」
「はあ~? なんだそりゃ、ははーん、さてはお前さんほら吹きだな、大方モテようと思って酒場でほら吹きまくってたんだろ、それで衛兵に目を付けられたって訳だな、はっはっはっは」
まあ、そんなようなものだな。
おじさん、嘘は付いてな・・・いや、そうでもないか。まあいいや、寝よ
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