第79話 ラッセルの最後




 今、大ホールはざわついている、それもその筈、この場には国王陛下と暗殺されたとされていたフレデリック王子が同時に現れたからだ。王様だって体調が優れないと言われていたらしいからな。


王様は調子が良さそうだ。顔色がいい、歩みもしっかりとしている。今まで病に臥せっていたのが嘘みたいに生き生きしている。病人には見えない。よかったよかった。


「さて、ラッセル・ドコスよ、予のおらぬうちに色々と策謀を企てていたようだが、フレデリックから色々と聞かされた、極刑は覚悟せよ! それとギア・ドコス、そちはこれまでの企みの事を鑑みて爵位剥奪とする、異論は無いな!」


「そ、そんな・・・しかし・・・いや、わかりました・・・陛下・・・」


ギア・ドコス伯爵は潔い返事をした。やはり自分でも思うところがあったのだろう。


ラッセルはうつむいたままだ。


それにしても今回の事態は腑に落ちない事がある、王への毒盛り、王子の暗殺計画、そして国の乗っ取り計画、軍部の掌握、これらを本当に一人で思いついたのだろうか。俺には他に黒幕がいるんじゃないかって思うのだが。一人でこんな大それた事はできないと思うのだが。どうなんだろう。聞いてみるか。


「ラッセル、一つ聞きたい、黒幕は誰だ?」


「な、何の事だ」


「伯爵家の人間とはいえ、ここまでの策謀は一人では実行できまい、おまえの後ろには誰がいるんだ」


「何の事かさっぱりわからん」


「例えば、そうだな、闇の崇拝者、とか・・・」


「・・・・・・」


図星か・・・今回の件に闇の崇拝者が絡んでいたのならば納得できる。


「な!? なんじゃと! 闇の崇拝者だと! ラッセル、お前!」


「父上、あまり大きな声を出さないで下さい、疲れているのです」


「ラッセル、お前と言うヤツは・・・」


それにしても、今回の騒動は話が大きかった。闇の崇拝者が一枚噛んでいたとなればこれで二度目になる、一度目はバーミンカムのサリー王女の危機、そして今回のザンジバル王国の政変。


・・・闇の崇拝者って何なんだろうな。


「とにかく、此度の件で我が娘ローゼンシルとの結婚は破談じゃ、よいな二人とも」


「はい、父上」


「・・・は、陛下・・・」


まあ、当然の結果だろうな、こんな状態では結婚式なんて出来ないだろうし。


そこで、エミリエルお嬢様がこんな提案をした。


「しかし、ここまで王侯貴族諸侯がお集まりいただいていますからね、折角ですから国王陛下の快気祝いなどいかがでしょうか、陛下」


「ん? おお、そうであるな、フレデリックも無事であったし、祝いへと移行するかの」


王様の一言で、騎士バンガード殿が素早く反応した。


「お! 酒か!」


「バンガード殿、反応が早いですね」


「あたぼうよ、祝いの酒だろ、いい事じゃねえか」


「まあ、そうなんですが」


その時だった、事態は急変する。


「ぎゃあああーーー! あついいいいーーー! 何故私がああーー! 何故ですかあ! ホークウッド様あああーーー・・・・・・」


突然ラッセルの体から黒い炎が出て、ラッセルを包み込んだ。


黒い炎だと!?


「みんな下がれ! ラッセルに近づくな! 絶対に黒い炎には触れるな!」


「ど、どうしたってんだい!ジローさん、なんだいこれ!」


「ルビーさん! 離れて! 皆さんも!」


一瞬でラッセルの体は黒い炎に包まれ、すぐに跡形も無く燃え尽きてしまった。辺りは静寂に包まれた。何が起こったのか把握出来ていない人が殆どだろう。


王様が事態を把握しようと、近くにいた俺に聞いて来た。


「な!? 何が起こったのだ!」


「わかりません、・・・ただ、一つだけ言える事は、・・・ラッセルが死んだと言う事です・・・」


「ラッセルが・・・一体・・・何だと言うのだ・・・」


辺りを見回す、特に変わった様子は無い。ラッセルだけが狙い打ちされたみたいな事だろうか?


・・・口封じ・・・なのか・・・。


しばらく様子を見ても、それ以上の事は何も起こらなかった。


一体なんだったんだ。ゲーム、「ラングサーガ」だと黒い炎はダークブレイズという暗黒魔法なのだが。


あまりよろしくない感じだな、みんな警戒しているが、これ以上は何も起こらなかった。


ここで騎士バンガード殿が辺りを警戒しながら、一言言った。


「ふう~、一体なんだったんだ、何も起こらないが、ラッセルは何かやったのか」


「わかりませんが、恐らくこれ以上は何も起こらないでしょうね」


「まったく、祝いの酒だってのに、なんなんだ」


「どうしますか、大事を取って皆さんを解散させますか、陛下」


「いや、その必要はなかろう、予定どおり快気祝いをいたそう、みなを不安にさせずともよかろう」


「そうですか、わかりました」


不安はあるだろうが、今はどうにもならない。それよりも不安を払拭させる為に国王陛下の快気祝いをする方がよっぽど建設的なんだろう。


まあ、闇の崇拝者が絡んでいたんだ、これ位の事でいちいち騒がない方がいいと言う事なんだろうな。


では、俺たちもお酒のご相伴に与(あずか)りますか。祝いの酒だ、飲もう。


こうして謎は謎のまま、ザンジバル王国国王陛下の快気祝いが始まった。


王子も無事に実家に帰れたしな。




おじさん、腑に落ちないけどなんとかなったみたいだ








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