第75話 婚姻の儀
今日はザンジバル王国の王都にある城で、結婚式だ。
王族であるローゼンシル姫とその王家に仕えるドコス家の人、ラッセルとの結婚式だ。
王都は大いに賑わっている、そこかしこで酒樽を開けている。みんな酒好きなんだな。すでに酔っ払っている人がそこら中にいる、正にお祭り状態だ。
俺達はそんな結婚式の招待客として城に上がる事になっている。城門の警備は堅牢だ、付け入る隙が見当たらない。王子はどうやって城に入ったのかな。正面から堂々と入ったのかもしれないな、素性を晒して、ランパ達を護衛に付けて。
・・・と、言う事はギア・ドコス伯爵の耳にも王子が生きている事が知られている可能性があるな。まあ、城に入ってしまえばこっちのものだけどな、後は王様か。王様の体が快癒しているといいんんだけどな。
お、そろそろエミリエルお嬢様が城内に入る為に衛兵に話をするところだぞ。
「これはミレーヌ・ルクード伯爵様のご息女、エミリエル様、ようこそザンジバルへ、お話は聞いております、招待状無しでもお通しして構わないという事ですので、どうぞ中へ、あ、お付の方も通って問題ありません、くれぐれも失礼の無きようにお願い致します」
「わかったわ、ギャリソン、みなさん、参りましょう」
「は、お嬢様」
ふう~、何とか城へ入る事ができたようだ、流石伯爵令嬢。
「エミリエルお嬢様のおかげでお城に入る事ができました、ありがとうございます」
「なによ、おじさま、今更その様な事をおっしゃられても何も出ませんわよ」
「あ、そのしゃべり方でいくんですね」
「今の私はエミリエルですからね」
確かに、ギャリソンさんが用意したドレスを着ているから、何処から見てもお嬢様だ。
さて、お城の中は凄い煌びやかな飾りつけやら美術品やらで豪華絢爛な感じだ。さすが王都にある城ともなると、格式の高さが窺える。城に勤めている文官や衛兵、近衛騎士など礼節を重んじる人達ばかりなんだろうな。
俺達はお城の一番大きな広間であろう、大ホールへと案内された。結構な大きさのホールだ、500人ぐらい入れるんじゃないかな。それぞれテーブルが置かれている、俺達の席はゲスト様と書かれた紙の置かれたテーブルだろう。
周りを見るとみな貴族や王族などが席に着いている、俺達も席に座る。さすがに衛兵などが目を光らせている、たぶんドコス家の息のかかった者達だろう。
この結婚式を目の当たりにして、ファンナが溜息を漏らした。
「はあ~~、これが王族の結婚式なんですね、なんだか憧れちゃいます」
ルビーさんもどこか落ち着きがなさげだ。
「そうだねえ、王族の結婚式に出席するなんてまず無いからねえ」
「おいしい食事が出てくるのかな」
「サーシャはぶれないねえ」
「いいじゃない、こうなったらもう食事が楽しみよ」
「食事が出るのはもう少し後だと思いますよ」
「そうですよね、まずは愛の誓いですよね」
「そう言えば何で教会で式を挙げないのかねえ」
「そうですね、おそらくですけど防備の問題じゃないですかね」
「つまり、この結婚に反対している人がいるって事かい、ジローさん」
「おそらく」
エミリエルお嬢様も貴族然とした態度で、流石という感じだ。
「まあ、アレキ・サンドリア伯爵なんかは真っ先に反対しそうよね」
「アレキ伯爵は招待されてないみたいですからね」
すると、ファンファーレの様な楽器演奏が流れてきた。いよいよ始まるのか。
入り口の扉が開かれて一人の男が姿を現した。端整な顔立ち、落ち着いた雰囲気、20代ぐらいのイケメンだ。あれがラッセルだろう。花婿衣装なのか上等な礼服を着こなしている。
会場がしーんと静まり返っている、ラッセルが堂々と中央を歩いて壇上にいる司祭の下まで進んでいく。そして壇上の前に到着して静かに深呼吸している。
そして、入り口の扉が大きく開かれた。それと同時に音楽が流れる。
ローゼンシル姫だ。ローゼンシル姫が現れた。もの凄く美しい、息を呑む美しさとはこの事か。
純白のドレスに身を包んでゆっくりと中央を歩く、しかし本来ならば王様が隣にいるべきなのだが、ローゼンシル姫は一人だ。一人で中央の絨毯をゆっくりと歩いている。
そして、壇上に着いてラッセルの隣に立った。
静(おごそ)かに司祭が結婚式の婚姻の儀を進めていく。
「ではこれより、ローゼンシル・ザンジバルとラッセル・ドコスとの婚姻の儀を執り行う、女神エキナのお膝元で互いを愛する事を誓いますか?」
「はい、誓います」
ラッセルは迷わず宣誓した、姫の方はどうなんだろうか。
「ローゼンシル・ザンジバル、愛を誓いますか?」
「・・・・・・わたくしは・・・・・・」
おや?、なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ。どうしたんだ?
「・・・わたくしは、・・・愛を・・・誓いま」
「「「「 その結婚、ちょっとまったあああ! 」」」」
なんだ!? 突然扉が大きく開かれて数人の男達がホールに入ってきた。
あ! あれはバンガード殿じゃないか。それに他にも数人見知らぬ男達が一往に酒瓶を片手に怒鳴り込んできた。
「ぐび、ぐび、うぃ~、ひっく、いいか!ローゼンシル姫と結婚するのはこの俺だー!」
「ぐび、ぐび、ひっく、何言ってやがる、ローゼンシル姫と結婚すんのは俺だ!」
「いや!この俺だあああ!」
「なに言ってやがる、顔見てからものを言え! この髭ズラ」
「なんだと! もういっぺんいってみやがれ!」
「おまえこそ顔見てからものを言えってんだ!」
「このやろう! もうあたまきた! やってやらああ!」
「おう! やらいでか! こいやああ!」
事態は思わぬ方向へと傾いていた、突然現れた騎士達の乱入によって先が読めなくなってきた。バンガード殿達は暴れだし、どつき合いの喧嘩が始まってしまった。それは、その場にいる人達をも巻き込んで、テーブルの上に置いてある食器などが落ちて割れる音や、同じくこの結婚に反対の貴族達もこの喧嘩に便乗して暴れだす始末。テーブルがひっくり返る音や皿が割れる音、怒号や悲鳴、殴り合う音、衛兵も巻き込んで一大騒動になってしまった。
「どうするんだい! ジローさん!」
「どうにもできませんよ! こんなの! 王子はいない! このままじゃラッセルが玉座に座る事になる! 騎士達が暴れだして衛兵はとっちらかっている! ローゼンシル姫はおろおろしてる! バンガード殿達はむちゃくちゃだ!」
こんなのどうやって収拾つけろっての。
おじさんもう知らない
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